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12月28日

 28日の午前。光は鉄に乗り込み、隕石破壊のシミュレーターに取り組んでいた。今回やる事は単純、鉄を所定の位置にまで移動させ、そこで天照システムを起動。腕を変形させて砲と成し、そこから最高の一発を放つだけ。細かい狙いなどは鉄搭載AIであるノワールがやる。正直に言えば、光のやる事は天照システムによって起動し放つことが出来る砲撃のトリガーを引くだけである。


『総理、シミュレーション中とは思いますが失礼します』


 シミュレーターによる動きの確認を行っている光の所へ、疲れ果てた声の如月司令から通信が入った。


『昨日から今まであらゆる手段を模索しました。異世界の皆様の助力や長門、大和の能力ももちろん考慮に入れて計算しております。しかし、結果として破砕率は1%の壁を破れませんでした。転移が間に合うまでの時間稼ぎすら3%前後という絶望的な数字です……鉄による天照システムを起動して放つ攻撃が失敗すれば、地球は99%宇宙の塵と化すことになります』


 如月司令から容赦ない現実が突き付けられる。しかし、現実を今ここに来て誤魔化すような真似をするわけにもいかない。光は如月司令の報告をただ黙って聞いていた。


『総理、鉄に乗って出撃して頂くのは30日の午後7時55分と決まりました。シミュレーションによる当日に行う動きの確認が出来ましたら、出撃前までコックピットの外で十分な休息を取ってください。もう事前にこちらのやれる事はありません、後は時が来たら出撃して頂くだけです』


 出撃時間を告げてきた如月司令に対し、光は一言「そうか……解った」と呟くように返答を返した。いよいよ地球の運命を左右する出撃の日時が決まった訳だが、光の心の中は静かであった。覚悟を決めたからなのか。はたまた逃げようがない事への開き直りか。それとも……


『それから、例の3万人の選別は先ほど終了いたしました。当人には今日中に通知を行い、明日の午前には転送を開始。明日中に3万人全員を送る事がぎりぎり可能だそうです。これで、何とか地球人、そして日本人の全滅だけは辛うじて回避できます。我々が失敗した時は、彼らや彼女たちに未来を託すしかありません……重荷を背負わせることになってしまうのは心苦しいのですが、全滅してしまっては助けに来てくれた異世界の皆様が何も得る物が無くなってしまいますから』


 元々は日本人の遺伝子を取り入れ、濃くなりすぎた血を薄めて種としての死滅を防ぐのが目的だった異世界側。せめてその目的だけは果たさせなければ、ここまで助けてもらった恩義が返せない。それに3万人だけとはいえ日本人を生き延びさせてもらえるのであれば、日本人の魂は消えずに済む。


「そうだな、本来の目的はそこだった。だからこそ3万人の日本人を送り込むのだ……助けに来てくれた異世界の人々への礼と、我々が失敗したときの後を託せる一粒の希望の種として。だがそれ以前に、だ。如月司令、私は今回の隕石相手にも負けるつもりはさらさらないぞ? 日本を預かる総理大臣として最悪を考えねばならない立場ではあるが、最良の結果を呼び込むための行動は積極的にやるぞ」


 たとえ成功確率が低かろうと、最悪に備えたのであれば、最良の結果を得るために動く。それが今やらなければならない事である。


『ええ、そうですね。まだ負けておりません。我々はまだ戦えるのですから。向こうに先に送った3万人と笑顔で再会できるようにしなければなりませんな』


 如月司令の出す声に覇気が戻りつつあった。そんな如月司令に対して光は「その意気だ、如月司令。根性論ですべてが片付くわけではないが、根性の欠片もないようでは困難を前にして歩く事は難しい。心で負けたら終わりだ、心・技・体の言葉通り、心が一番重要なのだからな」との言葉を返す。


『そうですな、私はいつの間にか絶望的な数字の前に心で負けていたのかもしれません。もう一度気を入れなおし、最後まで戦い抜く心で難題に挑みます。それでは、失礼します』


 如月司令からの通信が終わってからしばし後、シミュレーターを終えた光がコックピットから降りると、そこには鉄の整備士だけではなく初代神威のパイロットでもある西村の姿があった。


「総理、お疲れ様です! 一足先に私は向こうの世界へ渡る様にとのご指示でしたので、挨拶に参りました!」


 敬礼をしながら光に向かって、生き生きとした声でここに来た理由を告げる西村。そんな西村に、光は微笑みながら話しかける。


「そうか、君も先発隊の一人に任命されたか。良いか? 先に行くことで色々と戸惑う事も多いだろう。しかし、栄えある日本国の一員として、己の心や後から行く我々に恥をかかせるような事さえしないでくれればそれでよい。欲を言えば、我々日本人とはこういう人間なのだという顔になってくれればありがたい」


 敬礼を崩さぬまま光の言葉を聞いた西村は、敬礼を止めた後に「はっ、この身に変えましても後から来る皆に恥をかかせるような真似は致しません!」と宣言する。その宣言に、光はゆっくりと頷いた。


「頼むぞ、若者よ。お前のような若者が多いほど、国という物は富むものだ。今回の事は、その先の繁栄を得るために必要な試練だと考えてくれてもいい。難しい事だが、それでも成してくれると信じている」


 光の言葉を聞いた西村は一歩後ろに下がり、再び敬礼。そして「総理の期待に必ずやお応えします!」とと言い残し、足早に去っていった。そんな彼を見送った整備士の一人がつぶやく。


「良いな、若い奴は。生きること自体がドラマになる。俺達とは違って、あいつらには掴み取れる未来がある。だからこそ、そんな明るい未来を託せるからこそ、俺達も絶望せずにいられるな」


 その言葉は、ここにいる皆の総意だったのかもしれない。そんな大して大きくなかったはずのつぶやきに呼応して「そうだな、俺達のバトンは確かに渡った」とか「俺たちの分までしっかりやるんだぜ……」なんて呟きも聞こえるのだから。だが、そんなつぶやきを光は止めた。


「おいおい、気が早すぎるぞ。まだこっちだって決着はついてないんだ。勝手に若者だけに重荷を背負わせるな。私は隕石に勝ってあちらに行くつもり満々だぞ? 君たちは違うのか?」


 そんな光の言葉を聞いた整備士達。しばし沈黙したが、やがて徐々に「そう、ですな。総理の言う通りだ」「ああ、まだ終わっちゃいなかった。諦めるには早すぎたな」という声が上がる。これはまさに、真っ先に前に出て戦ってきた光が言ったからこその効果だったのだろう。肝心な時に後ろに隠れていてガタガタ震えているだけの人間が同じ言葉を口にしても、周囲から反発されるだけで終わっただろう。


「出撃は30日の午後7時55分と決まった。それまでに万全の整備を頼むぞ……まあ、君たちの腕は知っている。いつも通りに仕上げてくれればいい」


 出撃の日、時刻を伝えた時、整備士たちは真剣な表情になる。その後全員が親指を立てる。


「ええ、確かに任されましたよ。最高の仕事ができるようにバッチリ仕上げておきます!」「総理の晴れ舞台に愛機が整備不良で動けないなんて情けねえ真似はしませんよ!」「その期待に150%の成果でお返ししますよ。心置きなくその日に向けて準備をしていてください!」


 そんな整備士たちの言葉に、光も親指を立てて「世界最高の整備士に仕上げてもらうのだから、こちらも期待以上の仕事をしなければならないな!」と返答を返し、皆で笑い声をあげる。ここにいる整備士たちも厳しい現状を知っている。しかし、その心は絶望に塗りつぶされてはいない。こうして笑えるのだから。



「──強いですね」「ああ、強いな」


 そんな彼らの様子を遠くから見ているのはフルーレを始めとした異世界チーム。明日のピストン転移を行う準備を行いつつ、日本の様子を素知らぬ顔で伺っているのだが……絶望的な状況にあってもなお諦めず、己のやるべき事をこなし、やけを起こして暴動に発展するような事がない日本人達の姿を見て、強いと感じていた。美しいと感じていた。その心の在り様に。


「我々は血だけではなく、大きな心も手に入れることになるでしょう。どのような結末がこの後に待っていたとしても……」


 フルーレの言葉を否定する者はいない。このような状況にあってもなお、腐らず前に進める者がどれだけいるか。投げ出さぬ者がどれだけいるか。そんな心を持つ得難き友が、今ここにいる。


「惜しい、実に惜しい。全員を連れていける確率が低い事がここまで歯がゆいとは……」


 そんなつぶやきも誰かの口から漏れるほどに、ここで多くの日本人が助からずに死んでいく事が惜しい。惜しすぎる。


「なあに、大丈夫だ。光の大将が出向くんだ。きっとまた信じられねえ素晴らしい結果をたたき出してくれるさ。あの大将ならやってくれる」


 一方でガレムはそんな事を言う。そのガレムの発言に他のメンツは彼を一斉に見るが、ガレムはその意見を取り消すつもりはないという意思を宿した瞳を皆に向けていた。


「そうですね、今まで彼は様々な事をやってきた。先陣を切り、この国を盛り立て、ここまで皆を引っ張ってきた。そんな彼なら、たとえ成功率が低い難題であったとしても、やってくれるかもしれません」


 そんな会話を後に、異世界チームはこの場を後にする。彼らの願いはかなうのだろうか──。 

さて、ここからもっと気合い入れて書かなきゃ。

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