12月27日
そして27日を迎え、午前の10時を少々回った所。大臣や異世界の代表者たちは今全員が暗い顔をしていた。無理もない、数分前に如月司令の腹心が調べた隕石の情報が更新され、前日に来年の12日に来ると予想されていた隕石が再加速したという情報が入り、この加速がこのまま続くと仮定した場合、地球到達時間が『今年』の31日午後11時58分になるとの予測がされてしまったのだ。
「どうしてだ、どうしてこんな邪魔が入る! やっと、やっとここまで来たというのに! 日本が新しい未来を掴めるまたとないチャンスを掴んだはずだったのだ! それが、こんな形で……こんな形で……」
池田法務大臣の絶叫に近い言葉が会議室の中に響く。だが、それを非難する者はいない。皆、同じ気持ちだからだ。嗚咽を抑えている者も多数いる。
「──最悪を想定しよう。フルーレ、日本全体を転移するのではなく人のみに絞って転移した場合、どれだけの人数をそちらの世界へと避難させられる? 一切のごまかしのない数字を言ってくれ、頼む」
光の言葉が重い空気が支配する会議室の中に響く。ややあって、フルーレが口を開く。
「幸い時間をかけてゆっくりと満たしてきた魔力が日本の皆様にもなじんでおりますので、私達が使ってきた小規模転移でなら事故の心配などなく送る事が可能です……ですが、こちらは大人数での使用が想定されておりません。ですので──正直に申し上げます。数回に分けて使用し、限界ぎりぎりまで酷使しても3万人前後、3万人前後が限界です」
フルーレの無慈悲な現実を告げる言葉に、皆が打ちのめされる。たった3万人しか生き残れない……選考する時間もろくになく、選ばれた選ばれなかったで間違いなく争いが起きる。それでも選ばねばならないという現実が重くのしかかる。全滅だけはしてはいけないからだ。全滅してしまったら、異世界からきてくれたフルーレ達の目的である新しい遺伝子を得て異世界を立て直すという目的が果たせないからだ。
「年も性別も関係ない。純粋なランダムで8000万人から生き残る3万人を選ぶしかないか……無念だが、仕方あるまい。如月司令、検討していた対抗策は軒並み駄目になってしまったのだろう?」
話を振られた如月司令は、ためらいがちに口を開く。
「はい……隕石は今なお成長と言いますか、周囲のあらゆる宇宙に存在する鉱石などを取り込み巨大化しつつ地球へと一直線に迫ってきています。しかも巨大化しているというのに速度は落ちるどころか増す一方であるという報告が上がっており、わたしも確認を取りましたが間違いありません。これが前提となりますが……この巨大化する時に取り込んだ各種鉱石が厄介なのです。この名もついていない鉱石がこちらの立てていた各種破砕計画、遅延計画を妨げています。レーザーなどの長射程を可能とする攻撃が弾かれてしまうのです」
先日、如月司令が言っていた破壊成功率5.9%は同じ方法だと成功率が0.0041%まで急激に低下。もう一方の遅延作戦も7.9%から0.24%まで急落した事も報告を受けている。成功率が1%を切っている以上、有効な手段であるとはとても思えない為、如月司令ももはや手の打ちようがないという本音をこの場にいる者にだけは打ち明けていた。
「成功率は低いですが、それでも隕石への抵抗作戦は予定通りに行います。退けられる可能性は文字通り万に一つも知れませんが、ただ黙ってやられるわけにはいきません。最後の最後まで抵抗する、それが我々の魂の在り方ではありませんか」
如月司令の言葉に、日本側の人間は皆頷く。そう、可能性が低かったとしてもただ座してやられるだけの道を選ぶつもりはない。可能性が1%に満たないとしても、ゼロでないというのであれば最後までその心、魂の中に一本の刀を構え、困難に対して振り下ろす意志を無くす事だけは駄目だ。
「よし、わずかな時間ではあるがやれる事を各人がこなし、成すべき事を成そう。3万人の異世界行き日本人を今から選抜してくれ。完全にランダムで抽選しろ、若返ることが出来るから歳なども考慮しなくていい。通知は一足先に異世界に行って、交流を図る先発隊という体を取れ。フルーレ達は済まないが、彼らが隕石到達前にそちらの世界へと移動できる手はずを全力で整えてくれ!」
光の言葉に、大臣達と異世界側の代表者からほぼ同時に「はっ!」という声が上がる。
「総理、3万人のうち一定数の技術者だけは選抜させてください。向こうで神威・弍式が作れなければ、隕石と戦えませんから」
池田法務大臣の言葉に、光も「そうだったな、よし、神威・弍式の製作できる技術者たちの枠はとれ。彼らを消すわけにはいかない。池田大臣、その指摘に感謝する」と返答を返してから技術者枠を作る許可を出す。そうしてこのような状況下でもやるべき事を定め、会議は動き出した。3万人の選抜も今日中に終わらせることも確認し、会議が終わりそうになった時──その通信は入った。
『皆さま、会議の途中であることは重々承知しておりますが、少々お時間を頂けないでしょうか?』
皆がその通信先に顔を上げる。そこに映っていたのは、無人のコックピットシートであった。その映像に皆が首を傾げる。いや、2人は声の主を理解していたから傾げていない。この声の主は、光の専用機である鉄のAI、ノワールの物だった。
『今まで集まったデータを、私は個別に解析し、対策を秘かに練ってきました。そして、如月司令が気が付いていない点を指摘することを願うべく、こうして通信をさせていただいております。どうか、許可を頂けないでしょうか?』
気が付いていない点がある? ノワールの発言に、会議場や如月司令の周囲が少し騒がしくなる。その騒がしくなった場は光が手を上げて制することで収まる。その収まった事を確認してから光はゆっくりと口を開いた。
「まだこちらが知らない事があるとするならそれは非常に大事な事だ。ノワール、発言を許可する。遠慮はいらない、こちらが気が付いていないことを何でもいいから指摘してほしい」
許可が下りたことで、ノワールは話を始める。そう、それはノワールがこの場に通信を入れてきた事を誰もが納得せざるを得ないほどのとんでもない内容だった。
『許可に感謝します。ではまず地球に迫ってきている隕石についてです。これは自然現象ではない、と私は結論付けました。出現から今までの動き、そして不可思議な加速を見せる……そう、これは攻撃なのです! フルーレさん達が過ごしている世界からの攻撃なのです!』
ノワールの発言に場が再び騒がしくなる。無理もない、今までこの地球に迫る隕石を「攻撃行為」として捉えている人物は誰一人いなかったからだ。
『この攻撃の主は、おそらくフルーレさん達の星に隕石を落としている存在でしょう。おそらくですが、フルーレさん達の移動技術を何らかの方法で盗み見して、地球の存在を知ったのでしょう。そして、こちらの技術を脅威に思った。だから攻撃を仕掛けてきたと私は予測を立てました。しかし、その存在でも大量の隕石を送り込んでくることは困難だった。だから一つだけ融通の利く隕石をこちらの世界へと送り込み、その隕石を育てて地球を割るという作戦を立てた』
ノワールの言葉に、皆が耳を傾けている。次に何を言うのかと……
『だからこそ、この隕石の成長と加速という結果になるのです。すべては脅威を消すために仕掛けてきた攻撃です。そして、この攻撃ですが1点だけ脆い点があります。こちらの転移を阻止するために送り込んで育てた隕石ですが。ぎりぎりのタイミングになった事です。もう隕石は直進する以外の行動をとった場合、こちらの転移が先に発動しますので寄り道は出来ない。ここにわずかながら勝機が生まれました』
勝機が生まれた、のノワールの言葉に誰かがつばを飲み込んだ。諦めなければならないと思っていた所に光明が見えるのかもしれないのだから。
『マスターである光様にも申し上げておりませんでしたが、私の本体である鉄にはあるシステムと簡易変形能力が搭載されました。天照システム……私の最大最強の攻撃手段を発動できるシステムです。これをもって地球に攻撃を仕掛けるべく接近してくる隕石に対して反撃を行います。破砕成功率は4%弱、遅延成功率は8.2%というのが私の計算結果ですが……この手段を提案します。私の計算ではこれが現時点で最も成功率が高い手段です!』
ノワールの言葉に、如月司令が『そうか、天照システム! まだ切れる札があった事を忘れていた!!』と膝を叩きながら声を上げ、すぐさま『先ほどのノワールの立てた作戦による成功率を計算しろ! 今すぐだ!』と腹心の部下に指示を飛ばす。その後如月司令からは『先ほどの案、こちらで再計算します! また後程!』という言葉と共に通信が切れる。
「ノワール、良い情報だ! 感謝するぞ」
そんな光の感謝の言葉に対し、ノワールはなぜか返答を返さない。不審に思った光がノワール、どうした? と話しかけると、ノワールがこう発言してきた。
『マスター、一つだけ問題があります。天照システムによる攻撃はあまりにも過剰と設計時には思われた為、発射時にはマスターの許可が必要なのです。つまり、コックピットに乗っていただき、発射するためのトリガーを引いていただかねばならないのです。これは、絶対に変更できません。つまり、マスターには死地に来ていただくことになります』
──と。だが、それで怯むような光ではない。地球における最終決戦となる隕石との戦いは……たった一人の人間とその愛機によって行われることがほぼ決まった瞬間であった。
いよいよ最終決戦(地球側)です。




