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12月26日

私の不手際のせいで、ネット環境が死んでおり復旧してもらっている最中です。

更新が遅れた事、不手際によりお待たせした事を心よりお詫び申し上げます。

 翌26日の午前。わずかに残っている政務をのんびりと片付けていた光の元へ通信が入る。通信相手は──如月司令。すぐさま光は政務の手を止め、通信を開く。


「──司令から通信が入ったという事は、隕石に何らかの変化があったのか?」


 通信先の如月司令の表情は険しいままだ。その表情を一切崩さず、如月司令は報告を始める……


『残念ながらその通りです。例の隕石ですが、地球に向けて加速している事が判明いたしました。再計算を行ったデータによると、地球に衝突する時間は……来年1月の12日前後というデータが出ています』


 この如月司令の報告に、光は無意識のうちに椅子を蹴り、立ち上がっていた。


「確認する、それは間違いなく事実なのか!?」


 一昨日の24日の時点では、隕石が地球に到達するのは来年1月の26日と言われていた。それが一気に14日も縮まってしまったことになる。光が焦るのも無理はなかった。この勢いで加速するのであれば、隕石がやってくるのは来年ではなく今年中になる可能性が……つまり転移で退避できるから日本は関係ないなどと言っていられなくなるからだ。


『こちらとしても間違いだと言えればよかったのですがね……残念ながらこれは事実です。こちらでも24時間体制でこの隕石の様子を観察しておりますが、さらなる加速による到達時刻の変更は有りうると考えてください。なお、部下には緘口令を敷き、一般の人々には知られぬように行動しております。総理には急ぎ緊急会議を開き、この隕石に対する情報の共有化をお願いしたいのです』


 この如月司令の言葉を聞いた光は、すぐさま各大臣と異世界側の代表を緊急招集した。もちろん、出来る限り静かにだ。ここで大きな動きがある様子を知られる事になった場合は、その行動理由が簡単に国民に予想されてしまい、パニックを呼ぶことになる事だろう。今この地球に起きている大きな問題は、地球に極大隕石が迫っている事以外ないのだから。



「よし、集まったな。緊急招集した理由だが、如月司令からのデータを見てもらった方が早いだろう」


 如月司令は通信越しという形で参加する緊急会議。如月司令から渡された各種データをみて、皆の表情が曇る。


「どうしてこう、物事とはスムーズにいかぬ物なのか」「現時点ではまだ余裕はあるとはいえ、この余裕が本当に転移するまで持つかどうか怪しくなってきましたな」「この情報は、国民に知らせるわけにはいきませんな……他の国のようにパニックや暴動が起きかねない」


「くそっ、こっちでも隕石か……とことん邪魔ばかりを」「転移が間に合えばよいのですが……」「転移前にやるべきことは全て終わったと思っていたのに、こんな形で邪魔が入るか」


 各大臣や異世界側の代表各自の感想が出尽くした後は、会議場に重い空気が漂う。大臣の一人が言ったように、今世界全体はパニックの渦中にあった。隕石によって来年の1月に地球が消えてなくなるという情報が流れた事と、その理由までもが広まった今日、あちこちで略奪やら怪しげな宗教の蔓延──なんてのは可愛い方で、どうせ死ぬのだからとやけを起こした見苦しい行動をとる人間は増える一方だった。


 滅亡が近いのに冷静になれ、というのも酷な話なのだが……もはや各国の政府はほとんど機能せず、どの国も内情は混沌としている。警察も軍隊も暴走し、守るべき存在を殺し、そこから僅かな物資を奪って自分の腹を満たす様になっていた。その様は国と国が戦うのではなく、一定の団体と団体が戦い、奪い、生き延びるという戦争が生み出されていると言ってもいい状況であった。事実この争い方が拡大し、真の第三次世界大戦が勃発することになるわけなのだが。


「とにかくこの先、この隕石がどのような動きを見せるか分からん。毎日このような会議を開き、状況を報告することになると思う。済まないが、この件が転移前に何とか終わらせておかなければならない最後の仕事だろう。心身に負担をかけることになるとは思うが、後ひと踏ん張り頼む」


 そんな光の言葉で会議は終わる。各大臣や異世界側の代表者たちは皆難しい表情を浮かべつつ会議室を後にした。会議場に最後に残った光は机の上に両手の肘を載せ、手を組み合わせてから目を閉じて深くため息をついた。


「悪い冗談であって欲しいとこれほど願うのは何時ぶりだろうか」


 そんな光の一言に、通信を維持していた如月司令が同意する。


『まったくもってその通りですな。私としても腹心から上がってきたデータを見た時に天を仰ぎましたよ。なぜここまで次から次へと試練を与えなさるのかと、少々恨みがましい事もつぶやいてしまいました」


 如月司令の言葉に、無理もないと光は同意した。なぜここまですんなり行かせてくれないのか。もうこれだけ頑張ったのだから素直に送り出してくれても良いだろうにと。だが、現実は厳しいものらしい。そんな事など知った事かとばかりに、次から次へと難題を押し付けてくる。


「とにかく、出来る事だけはしておこう。如月司令、例の隕石を破壊できる、もしくは何とか足止めできる方法はないかを探ってもらえないだろうか。0.1%の可能性でもいい、日本の未来を繋ぐことが出来れば……非情な手段でも取る事にする」


 光の覚悟を決めた言葉に、如月司令はすぐに反応した。


『実はすでに様々なシミュレートを行い、何とかする方法を模索中です。とにかく少しでも日本が転移し異世界で新しい旗揚げが出来るようにする成功確率を上げるために、対策を練っているところです。無駄になって欲しいと願うばかりですが、今の状況では残念ながら無駄になる可能性は……低いでしょうな』


 すでに如月司令は動いていたようだ。話をより詳しく光が聞くと、隕石の接近が確認された後にはこうなる可能性を考えの中に入れていたとの事。そこから取れる手段の模索を始めていたと如月司令は語る。


「率直に聞く。如月司令、今の段階で取れる手段の中で一番隕石の撃退か時間稼ぎに成功する可能性の高い方法の成功確率はいくつだ?」


 この光の質問に、如月司令はしばし沈黙。そして躊躇いがちに口を開いた。


『現時点で破壊成功率では5.3%。遅延させる方でも7.9%しかありません。かの隕石があまりに巨大すぎる事が原因で、成功率を大きく下げられているというのが正直なところです。なお、世界の動きに期待すると言った人任せの案は完全却下しております。総理もすでに知っておられるとは思いますが、今世界はごく一部の国を除いて国が国としての体を成しておりません。この状況下では一致団結など望むべくもありません……』


 ──確かに今、混迷の最中にある世界が隕石の破壊、もしくは隕石の方向を変えるといった目的を達成するために団結する可能性はないだろう。もはや世界のほとんどがどうしようもない事、定めの時が来たなどと言って諦め、そして一時の快楽を求めて暴走している。そんな世界の何に何を期待するのだ。


「そうか、厳しいな。だが可能性があるという点は明るい話だ。残された時間でできる限り最善の手段を模索してほしい。頼んだぞ」『ええ、分かっています。ではこれにて』


 通信が終了し、光だけが残った会議室に沈黙の帳が下りる。そんな場所で光は一人、闘志を燃やす。


(こんな事で負けてたまるか。やっと、やっと明日を掴める場所の一歩手前まで我々は到達したのだ。その最後の最後に隕石ですべてが台無し、ご破算などと言った結末など迎えてたまるか。私は総理大臣だ、国民の皆を幸せにする義務がある! その義務を妨げるのであれば、たとえ巨大隕石であろうと跳ねのけて見せる)


 時計の砂は滑り落ち続ける。その先にある物は、喜びか絶望か……その答えはまだ、誰にもわからない。

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