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12月25日

 翌日25日、快勝と言っていい結果に日本中が沸いた。たった一日の戦闘でほとんどの敵軍船を壊滅させるという戦果を叩き出した上にこちらの戦死者はゼロという出来すぎた結果に、浮かれるなというのは無理だったろう。長い年月、世代を重ねた我慢と重圧に苦しみ続けてきた反動という一面もある。


 直接戦った自衛隊や異世界の戦士達はまさに英雄扱いで、感謝の言葉だけでなく転移するまでの間はあらゆる飲食店で食事をしてもお代は頂かないという事を宣言。日本全国のあちこちで戦った戦士達に対するもてなしと感謝の宴が行われた。朝からどんちゃん騒ぎが多々起きた訳だが、今回ばかりは仕方ないという感じで文句を言う人は居なかった。


 それから、隕石が地球に接近している事も放送された。サイズを聞いて皆一様に肝を冷やしたが、隕石が地球に到達するのは来年20日以降という事が発表されたために混乱は起きなかった。一部、秘かに世界の略奪する雰囲気に逆らって自分達を護ってくれた国に対する申し訳なさを感じる者達もいたが、どうしようもない為にその内心を表に表す事はしなかった。



 そんな日本とは対照的だったのが世界側である。言い訳のしようもないぼろ負け、しかもそれを放送してしまっていた(負ける可能性など微塵も考えていなかったので、日本が負ける所を大々的に広めるつもりだった)為、世界の人々は愕然とした。そんな世界の大半の反応に対して、ごく一部の日本と協力していた5ヶ国では日本の勝利に胸をなでおろしていた。


 そんな世界に対し、平等の絶望が迫ってきている。そう、先の隕石接近の一報である。来年20日以降に巨大隕石の接近が確認されたこと、その隕石は地球直撃ルートを辿っている事などを鑑みて、各国の首脳たちのみに情報が共有された。国民に知られたら、どんなことになるか予想もつかない為であった。


 何としても地球に迫ってきている巨大隕石からどうにか地球を守る手段を考えるため、25日のグリニッジ標準時午前9時より各国首脳の通信による緊急会議が行われていた。が、現時点ではこれと言った打開策が出ておらず、揉めに揉めていた。こんな非常時にあってなお、人は一つになれないのか。打開策は出ない上に各国ともに自国から物は出したくないという事が見え見えの会議は、まだまだ終わりそうになかった。



「まあ、今日ぐらいはどんちゃん騒ぎをやってもいいだろう。むしろやるなという方が酷だしな」


 国民の様子を確認した光は、そうつぶやきながら緑茶を口に運んだ。時間は午後の2時を少し回った所、先日まであった慌ただしい空気はここにはなかった。むろん、他の場所では戦後処理などで忙しいのだが、皆一丸となって『総理は休んでください、ここで倒れられる方が困ります!』との意見に押されたため、そう言った業務からは切り離されていた。


「あとは、異世界の各国に戦勝の報告か。今の時間は空いている事だし、さっさとやってしまおう」


 独り言をつぶやいた後、光は異世界の各国の象徴達との回線を開く。すると、向こうも今か今かと待っていたようですぐにつながった。そして光が戦勝の報告をすると──


『よくぞ勝ってくれたな婿殿! 活躍はこちらでも見させてもらったぞ! いやあ、あの単純な物資運搬ぐらいしかできぬはずのゴーレムがああも機敏に動き、相手をなぎ倒すとはのう! 見ているこちらもつい熱くなってしまったぞ。尤も熱くなったのはわらわだけでなく国民もじゃがな。新しい同胞の力を歓迎し、早く来い早く来いと合唱が起きるほどじゃった』


 そんな言葉が、通信先の沙耶・龍・フリージスティから聞こえてきた。彼女はその機嫌の良さを隠そうとせず、満面の笑みで告げてくる。秘かに婿殿という言い方はやめてほしいと内心では思っている光であったが、それを口にすればたちまち機嫌を悪くしそうだという事も分かるのであえて黙っている。


『おいおい、沙耶の所だけじゃねえだろ。こっちだってもう盛り上がったぜ? こんな戦士が次は星々の試練に立ち向かってくれる同胞となるんだってもう大騒ぎよ。おかげで城下町に消そうとしても消せなかった絶望という名の病気がかなり収まったぜ。そういう点でも今回のほぼ一方的な快勝はありがてえの一言よ。これで、こちらもまだまだ頑張れるってもんだ』


 こんどはガリウス・ド・マルファーレンス27世からそんな言葉が飛んできた。2年後に首都が隕石の攻撃にさらされるマルファーレンス帝国としては、今回の日本の快勝は大きく希望が持てる最良の結果であったと言って良い。もともと大きく期待を掛けられていた神威だったが、今回の戦闘でどういった能力を持ち、どのような戦い方が出来るのかを大きく異世界の人々にアピールすることに成功した形と言えよう。


『なんにせよ、長く苦しみ、なにも出来ずにただ被害を受けるだけだった試練に対抗できるというだけで活力が生まれるという物です。毎回試練がやってくると告げられるとどこにやってくるのか、自分達の所ではありませんようにと浅ましい願いをかけてしまう歴史からやっと抜け出せる時が来たのでしょう』


 フェルミア・リィン・フォースハイムもそう発言する。しかし、隕石が落ちると聞いて自分の所に落ちないでほしいと願うのは無理のない事だろう。空から高速で降り注いで来る恐ろしい存在に来ないでくれと願うのは、決して浅ましい事ではない。少々、フェルミアは求める理想が高いのかもしれない。


「なんにせよ、こちらでできる事は全てやりました。後は、何事もなく無事に転移を終えてそちらに到着できることを願うのみです。そちらに到着しましたら出来るだけ早く各国に神威・弍式と零式を向かわせ、実際に動いているところを各国の国民の皆様の前で直接お目にかけることが出来るように手配もしております。あとわずかの間ですので、ご辛抱いただければ」


 光の言葉に、通信先の三人は共に大きく頷く。さらに通信が映し出さない場所で異世界各国の要人たちがガッツポーズをとっているのだが、さすがにそれを光が知る事は無い。


『ところで婿殿、話が変わるがの……今、そちらにも隕石が接近していると聞いた。そちらは大事無いのかの?』


 そんな風に沙耶から切り出されたので、今ハッキリしている事を光は伝えることにした。


「ええ、それは事実ですが地球に最接近するのは来年でして……あまり今の日本とはもう関係のない事になりつつあるんですよね」


 そう言いながらも各種データを出して、状況を説明した。話を聞いていた異世界組はその隕石の規模に驚きつつも、やってくるのが転移後となる事を知って胸をなでおろしていた。


『まあ、地球に残っているそっちの人間には災難だがよ……散々日本を長々と嬲ってきた業の重さが一気にやってきたんだろ。同情は出来ねえな』


 と、ガリウスの発言に他の二人も首を縦に動かす。日本の歴史を知ってしまった以上、災難だなーとは思うが、そこ止まりになるらしい。光も大半の国に対してはそういった感情に近い。だが、秘かに日本の支援をしてくれた5カ国にだけは申し訳ない気持ちがあるのもまた事実だった。せっかく送った例の防御装置も、地球が木っ端みじんになってしまったら無駄になりそうな気もしていた。


『なんにせよ、日本に被害が出ないというのでしたら良しといたしましょう。ガリウス様がおっしゃったように、長年己の業を積み重ねてきたが故の反動でしょうから』


 この点に関しては、フェルミアも容赦がない。異世界側から見れば、同胞となる国を長年苦しめてきた世界など虫以下でしかないとみていると言っていいだろう。


「まあそういう訳ですので、懸念材料は転移がうまくいくかどうかだけです。もっとも、こちらにやってきた皆さんの能力の高さは信頼しています。失敗するなんて欠片も思っていませんがね」


 話が暗くなってきていたので、光は少しおどけてそんな言葉を口にした。


『ああ、そこは信用してくれていいぞ婿殿。そちらに送ったのは各国の選りすぐりの猛者しか送っておらん。転移の失敗率などゼロじゃて』『沙耶の言う通りだ、どーんど構えていりゃいい。転移は始まっちまえば一瞬だからよ、心配する暇すらねえ』『お二方のおっしゃる通りです。後はのんびりと構えてください。心配させるような事などありませんから』


 そして帰ってくる各国からの返答。気負った所など全くなく、軽い散歩をするぐらいの気持ちの様である。ここまで言い切られれば、こちらとしても安心できるという物だ。その後は転移後の話を大まかに話して回線を切る。


(なんにせよ、大きな山は越えた。後は隕石の動向次第だが、まあこれも大丈夫だろう。ようやく一息つけるというものだな)


 椅子に深く腰を落とし、大きく息を吐き出した光はいつの間にか眠っていた。今まで張りつめていた物があらかた終わったからこそ、本当の意味で穏やかな心で眠りにつくことが出来たのだ。そしてその後やってきたフルーレが密かに風邪をひかぬようにそっと暖かい毛布を掛けてあげたりして行ったおかげで、夜の8時あたりまで休むことが出来たのである。


 なお、光が目を覚ました後は30分ぐらい間を置いたのちに戦勝パーティに参加させられていたのだが。こうして25日は光にとっては穏やかに過ぎていった。

ちょっと用事があって、更新が少し止まります。

理由は近況の方で。

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