12月24日 その3
各地で戦端が開かれ、戦いが始まっている最中……光の駆る鉄は関東地方から見て東側の太平洋の上にて多数の敵軍船と戦っていた。神威・弐式では抜けない敵軍の防御フィールドであったが、鉄の力を防ぎきることは出来ずにすでに10隻以上が海の中へと沈んでいる。遠距離から放たれるマギ・ランチャーでフィールドの耐久力の7割が消し飛び、そこから追撃の胸部ガトリングガンやマギ・カノンガンが飛んでくれば儚く破損した。そこからは射撃によって大穴を空けられて沈んだり、鉄専用の大太刀である影正に斬り捨てられて真っ二つになるなどの最後を世界側の軍船は迎えていた。
最前線に立ち、鉄の力で暴れまわっている光の下に如月司令からの直接通信が入る。
『総理、戦況報告です。現状、こちらがやや有利です。被害状況ですが、数機の神威・弍式が敵船の攻撃を受けて回避しきれずに脚部や腕部を失うなどの被害が出ていますが、現時点におけるパイロットの死者数はゼロです。しかし、敵のフィールドの防御力は、神威・弍式の兵装では破るのに時間がかかりますので、神威・零式部隊による質量弾による援護を開始させます』
神威・弐式の攻撃が敵の軍船にあまり被害を与えられていない事は光も現場で見ていた為、如月司令の言葉に頷く。
『ああ、やってくれ。質量弾の数は十分に用意しておいたから、遠慮せず敵船にぶち込んでやれ。もちろん神威・弐式が射線を塞ぐことの無いよう一時高所に退避させることも忘れるな』
如月司令がそんな事を忘れるはずがないとは思っているが、こういった非日常の状況下ではくどいぐらいに注意喚起するぐらいが丁度いいのだ。
『ええ、心得ております。ではこれより零式部隊による攻撃を指示しますので、総理も一時高所に退避を』
その言葉と共に如月司令からの直接通信が切れ、司令部専用の通信チャンネルが新たに開く。
『神威・弐式部隊に告ぐ、これより神威・零式部隊による質量弾の超長距離射撃による支援を始める。こちらの指示があるまで前線にいる神威・弐式は高高度に一度退避せよ。エネルギー残量が半分を切っているのであれば一時後退して補給を受けろ。繰り返す、高高度に退避せよ、神威・零式部隊による質量弾の超長距離射撃を行う!』
如月司令の言葉に従い、高度を取る神威弐式と鉄。ややあって、再び通信が入る。
『神威弐式の高度を確認。誤射の可能性の消失と射線の確保が確認できたため、これより神威零式の質量弾による攻撃を始める!』
その通信が入った直後、世界側の軍船を護っていた防護フィールドシステムが一斉に悲鳴を上げた──
『総員射撃体勢を取れ! ついに我々の出番だぞ!』
その指揮官の言葉に従い、日本全国の海岸付近に陣取っていた神威・零式&点在する形で各地に配置されていた神威のバリエーション機(異世界組が乗っている試作機)が全機射撃体勢を取る。
『各機、敵船に狙いを付けろ。慌てなくていい、訓練の時のように落ち着いてやればいい! そして、訓練とは違って最初の数発は感覚を掴むぐらいの気持ちでやっていい! 弾丸は豊富に用意してある、多少外した所で何も問題はないぞ!』
多少外しても構わない、という言葉で少し安堵するような空気が生まれる。でも、システムアシストありのセミオート射撃である以上、出来る限り外したくはないという感情も同時に生まれるのは、VR空間で競い合ってきた彼らだからだろうか? 様々な感情を己の心に秘めた零式に搭乗しているパイロット達は、敵船に狙いを定める。
『撃て!!!!』
指揮官の声の声とほぼ同時に轟音が響き渡った。零式の構えている質量弾を撃ち出すために調整された無数のマギ・アンチマテリアルライフルが火を噴いたからだ。高速で撃ち出された圧縮質量弾は一瞬のうちに世界連合の軍船が展開していたフィールドを食い破るべく突撃する。破られてたまるかと応戦する世界連合側のフィールドとの押し合いが始まるが……放たれた弾丸は一発ではないのだ。次々とフィールドを食い破るべく飛んでくる質量弾の前に、悲鳴を上げながら世界連合軍船のフィールドが次々と霧散、消失した。
『フィールドの消失を確認! 前衛を務めていたと思われる敵船から黒煙や火災の発生を確認っ!』『射撃の有効性を確認! フィールドをはぎ取られた船は後退する模様!』
この結果に、零式に乗っているパイロットたちから「よし!」とか「ざまあみろ!」や「まずは一手目が刺さったか!」などの言葉が行き交った。
『後退する船には構うな、奴らは弍式に任せていい! フィールドを失った軍船など、弍式の機動力の前には動かない的となるだけだ! 我々は当初の予定通りに敵軍船のフィールドを破壊することに専念すればいい! 各自、リロードは済んでいるな? 次弾射撃発射準備! 構えろ!』
手応えを感じて浮き立ち始めたパイロット達であったが、この指示で再び気を引き締め直し、前に出てきた敵軍船に狙いを定める。
『さっきと同じ感じでやればいい、きちんと相手を狙って引き金を引くだけだ! 各自、撃て!』
そして再び轟音が鳴り響く。そしてまたいくつもの軍船のフィールドがシャボン玉のようにかき消される──だけでは済まず、数隻の船の船体に穴が空いた。更に穴を空けられた軍船の中の一隻は……バイタルパートなどと呼ばれる船の心臓部分を撃ち抜かれた。そんな場所を撃ち抜かれた船の運命は──爆発して炎上。そのまま沈没し始める運命をたどらされた。
『いいぞ、その調子で相手の戦力と余裕を削り取る! 相手のフィールドを破る事で、今まで我々を苦しめてきた連中を震え上がらせろ!』
指揮官に言われるまでもないと敵軍船に狙いを定め、指示が出れば即座に敵船を撃ち抜く神威・零式。その姿は、今まで耐えに耐えた事で蓄積した様々な感情を叩きつけるかのようであった。
(──なんて恐ろしい、そしてなんて素晴らしい力なんだ。我々はかけがえのない同胞を手に入れたぞ!)
そんな神威・零式と共に神威のバリエーション機に乗って敵軍船を撃っている異世界組の戦士はそんな事を思っていた。魔法でもこの威力を出す事は可能だ。しかし、この速度で打ち出すのは至難の業だし、撃てば撃つほど当然ながら多大な魔力を消費することになる。しかし、この神威という機体に乗り込めばそう言った問題がほとんど解決する。弾丸こそ用意しておかなければならないが、魔力の消費は遥かに少ないから戦闘継続時間を大幅に伸ばせる。
それだけではない。この神威の巨大な体躯から撃ち出される弾丸はその姿に見合った大きさで、目の前に立ちふさがる船を容易く打ち砕く。この力があれば、星の海からやってくる星々の落下から祖国を護り、人を護り、次代に受け継がせる可能性が大きくなった事は間違いない。この巨砲で星を撃ち砕ければ、未来が見える!
「おい、おい! 大丈夫か? 聞こえているのか!?」
と、そこに自前の(つまり異世界組専用の)通信機から通信が入る。
「あ、ああ、大丈夫だ。これと言った問題はない。少し目の前の敵に集中し過ぎただけだ」
そんな風に彼は返答を返す。
「魔力の消費による疲労などは大丈夫か? 僅かでも苦しくなったらすぐに変われと日本側からも言われているからな、無茶はするんじゃないぞ。控えはちゃんといるんだ、お前一人で最初から最後までやる必要は無いんだからな?」
通信を受けた側は、その受けた声から異常を感じ取れなかった。しかし念のためにそんな言葉を投げかける。
「ああ、本当に大丈夫だ。しかしこうして戦っていてもなお信じられんよ。上位魔法に近い攻撃を短時間で何度も放つと言う今までの常識の外にある行為をしているというのに、こちらが消費する魔力は非常に少ないのだ。むろん神威・弐式と呼ばれる機体と違って、一か所に留まった状態で射撃に専念できているからこその消費の少なさなのかも知れないが──それを考えても破格の性能だと評価するぞ。見ているそっちも今はっきりと感じてるんだろ? この神威というゴーレム、そして日本人と協力することで開かれる未来って奴を」
そんな彼の言葉に、通信は「ああ、その通りだ」との言葉を返す。
「そうだ、まさにその通りだ。今我々は希望というタイトルの未来を見ている。我々だけじゃない、本国にいてこの映像を見ている仲間達も同じ意見だ。だから何が何でも、新しい同胞である日本人を守り抜かねばならない。実際に本国からも『日本人を護れ、出来る事は全部やれ、責任ならいくらでもこちらで取るから気にするな』という感じの指示がちょくちょく来てる状態だ。この一戦に色々な未来が懸かっているって事だな」
やっぱりな、と射撃を行いながら彼は思う。──マルファーレンスの首都に神々の試練がやってくる事を魔術師たちが予言したのが五年前。その時は大騒ぎどころでは済まない事態となった。絶望する者、嘆き悲しむ者、やけになる者、思い入れのある首都と運命を共にすることを宣言する者──様々な動きがあったが、結局のところどうしようもないという諦めと理不尽さを嘆くばかりであったのだ。
(だが、ここに来て状況は大きく変わった。日本という国との接触によって生み出された技術が生み出す可能性という名の希望。俺達はその希望を今、こうして、身をもって感じ取っている)
何もできない、どうしようもない、稀代の大魔導士ですらその命を燃やし尽くして一つの街を護る事しかできなかった神々の試練という名の絶望──に抗える剣が、杖が、銃が、今ここにある。今自分が動かしているこの神威こそが、希望の象徴。
(力が入るぜ、今までやられっぱなしで一方的に嘆くばかりだった俺達が、正面から抵抗することが出来るようになるんだからな。見てろよ神々よ、俺たちの出会いがお前たちの仕掛けてくる試練を打ち砕くその日を目に焼き付けるがいいさ!)
彼は再び狙いをつけて、銃を撃つ。その姿は、目に映る軍船を打ち砕きたい神々の試練と称した隕石に見立てて攻撃するかのようだった。
24日はもうちょっと続きます。ごめんなさい。




