12月24日 その2
「大和、分かっていますね? 私達はまだ生まれたて……節約しながら戦わないと、持ちませんわよ?」「分かってるってーの。この戦に勝つ、死者は出さない、そして私達も生き残る。それが勝利条件だって言うんだろ」
──この二隻には、秘密があった。それは、この新しい姿を得て生まれてからまだ間もない事による魔力の少なさ。そのため、調子に乗ってバカスカ威力最大の主砲を撃とうものならあっという間にガス欠に陥る。いや、ガス欠するだけならいい。最悪自分の体を維持する事が出来なくなって消滅する危険性すらあった。
しかし、彼女達二隻はそれを理解しながらも誰にも伝えなかった。変に気を使われてこちらの支援を行うがために必要な個所の戦力の低下が起きたら困るし、さらにこちらを護ろうとするばかりに盾になったりする様な無茶をする人間が出てくる可能性を考えたからだ。
「幸いこの体に物理的な攻撃はあまり効かないようですからね。主砲やミサイルをほどほどに撃っている限りは魔力不足に陥る事は無いでしょうけど。欲を言えばあと一年、あと一年目覚めるのが早ければ体がもっと頑丈かつ、魔力を蓄えることが出来たのですが」
現時点では四国の南にいる長門が、主砲を敵船に向けながらぼやく。その長門のぼやきに現時点で東北の西側にいる大和が返答する。
「一年は無理だろ……ヒカルの言う話じゃ、例の人物が来たのが今年二月なんだろ? そこから魔力が来たとしても一年行ってねえんだぞ。そしてこっちに魔力が流れてきて影響が出てくるまでにさらに時間がかかってるし……ない物ねだりはやめようぜ? そもそもうちらがこうして復活し、己の意思をもって再び国の為に戦うってこと自体が夢物語その物だろ? この夢がもっと続くように今は出来る事をやるしかねえ、そうだろ?」
大和の方も敵船に向けて主砲を向ける。
「そうですわね、今は出来る事をできるようにやるだけですわね。それに戦いはこれで終わりではないのでしょう? ここで勝ったら次は星々の海で戦う運命が待っているとヒカル様は仰っていましたからね。これはその慣らしと言う所でしょうか」
長門の主砲に魔力エネルギーが蓄積してゆく。そのエネルギーが外にも見え始め、砲身の先が緑色に発光し始める。
「まあ、そういう事だろうな。この戦いで慣らして、本番に備えておこうぜ。んじゃ、そろそろ行きますか」
大和の主砲にもエネルギーが集まり、先端が赤く染まり始める。
「まずは小手調べです、4割の力で9門斉射!」「こちらも4割9門斉射!」
9つの緑の流星が太平洋に、9つの赤の流星が日本海の上を飛んだ。その流星の到着点に選ばれてしまった軍船は──フィールド出力を全開にすることで耐えきった。しかし、着弾した時の衝撃とその後に発生した爆発によって海は大きく揺れ、当然その付近にいた軍船も大きく揺さぶられた。
「あら、耐えましたか」「こちらも撃沈は出来ず、だな。でも、無傷では無いようだぜ」「そうですわね、防御に使ったと思われる装置のあちこちから紫電が走っていたり煙を噴いていたりしてますわね。大慌てで後ろに下がっているようですからそれなりの被害は出せているとみていいでしょう」
彼女たちの見立ては間違っていない。狙われた世界連合側の軍船は急遽改造された強化フィールドシステムをフルパワーで稼働させることでその身を護った。しかし、その代償として数日は何とか持つと言われていたはずだったフィールド発生装置の実に8割が、先ほど長門や大和が放った一発の攻撃を受け止めただけでお釈迦にされていた。残り2割もオーバーヒート寸前であり、冷却時間が必要だった。つまりもう一発撃たれたら、もうなす術なく撃沈されることになる。彼女たちの放つ主砲からの攻撃は弾速もあるため、軍船の速度での回避は絶望的だ。
「これなら、ずっと4割攻撃でいいんじゃねえか? 4割攻撃なら魔力の消費もそう大きくはねえし、そこそこの速度で次弾が撃てるぜ?」「そうですわね、貴女の言う通り4割でよい気がします。相応の被害を与えることは出来るようですし、それに何より今回の戦の主役は私達ではなく今を生きている人ですもの。その主役の出番を奪ってしまっては、出来る女とは言えませんもの」「ああ、出来る女は主役を立ててなんぼだろ。出しゃばりすぎれば嫌われちまうぜ」
男女平等の世の中では彼女たちの考えは男尊女卑に当たると言われるかもしれない。しかし、彼女たちは別に自分を卑下しているわけではない。自分達は脇役なのだから、主役が活躍できるように御膳立てをすればいいと言っているだけだ。ただ、昭和時代の考えが入っているため言い回しが先ほどのような言葉となるだけの話である。
「それに、先ほどの1射で相手からは私達が無視できない存在であるとよーくわかっていただけたでしょう。このまま私達は威圧牽制しつつ、主役の皆様が動きやすいように立ち回るとしましょう」「ああ、こっちもそういう感じで動くぜ。後は転送装置も起動させたから、ここから一時撤退したくなった仲間を副砲で支援しつつ動くぜ」
二隻は敵船に向かって進撃を始める。砲の威力を見せられた世界連合側の包囲陣が、長門や大和が前進するだけでいびつに歪むようになるまでそう時間は必要としなかった。その理由は──
「強化したフィールドシステムが、たった一撃を受け止めただけでそこまで損傷したというのかっ!?」
その一方で、先の長門、大和の砲の威力を知った世界連合側の司令部はさらなる混乱に叩き落されていた。数日しか持たないと技術者たちから言われていたが、その数日もあれば日本一国との戦いに十分勝てるものと踏んでいた世界側からしてみれば想定外にも程があった。
「ほ、他の攻撃を受け止めている船の様子はどうだ!?」
同時刻、海上では神威・弐式による軍船への攻撃が行われていた。しかし、そちらの方は現在の所すべての攻撃を無力化することに成功しているとの報告が入る。しかし、神威・弐式の機動力の前に、砲を向けてもすぐに射線上から逃げられてしまいこちらも反撃が難しいという状態であった。
「そ、そうか。そうでなくては困る。となればあのナガトとヤマト、この二隻を沈めれば敵に傾きつつある流れを変えられるやもしれん。通達せよ、ナガトとヤマトに砲撃を仕掛けろ! あの二隻を沈めて敵軍の戦力を削ぎ落せ!」
この通達に従い、ナガトとヤマトを射線に収めることが出来る多くの軍船がその主砲を向ける。
「「「「目標確認、主砲、てーっ!!!!」」」」
そして、長門と大和に向かって無数の砲弾が飛ぶ。弾の内容も貫通を重視した物、炎上させることを重視した物、爆発を重視した物、空気抵抗を受けないように改良がなされた光化学兵器と様々な種類の砲弾(&レーザー)が次々と長門と大和の船体に突き刺さってゆく。当然巻き起こる爆発と炎、そして水しぶきと黒い大量黒煙。そんな斉射が1分間ほど続いた。
「これでもう終わりだろ、いくらフィールドがあったってこれだけの攻撃を食らえばもう跡形も残らねえよ」
各軍船が次弾装填中の最中、誰かがそうつぶやいた。その考えは間違いではない……普通ならここまでの一斉斉射を食らえば撃沈どころかその時点で海の藻屑だ。ハッキリ言ってオーバーキル、過剰攻撃もいい所である。そう、相手が『普通の存在』ならば、だ。黒煙が徐々に晴れ、そこに彼らが見たものは。
「う、嘘だ」「そ、そんな事があってたまるか!」「あれは本当にこの世の物なのか!?」「あり得ない、あり得ない、あり得ない!!」「これは夢ではないのか? 我々はまだ12月24日の早朝の夢の中ではないのか!?」「悪夢だ……悪夢だっ!」
そう、見たものは威風堂々とした長門と大和の姿だった。しかも、どこにも損傷が見られないどころか汚れすら確認できない。そんな姿を見せられれば、誰だってわかる。あれだけの一斉斉射を受けておいて、敵はそれを無力化できるだけの防御能力を会得しているのだという事が!
「わ、我々は何を相手にしているのだ! 本当に相手は人間なのか! あの空を飛ぶ巨大なメカも、そして目の前にいる一斉斉射を食らって無傷な船の存在も理解できん! 我々は何に戦いを挑んだのだ? 我々は……」
じわり、じわりと。想定外の兵器との戦う事でゆっくりと世界連合の中に染み出していくモノがある。人はそれにこう名前を付けている──『恐怖』と。
ね、眠い。睡眠時間は8時間以上取っているのになぜ眠いの。




