12月24日 その1
いよいよ直接のぶつかり合いです。
ついにこの日が来た。12月24日、世界は日本を取り囲むように軍船をつけ、逃げ場を完全に封じた。各空母に搭載された戦闘機も発艦準備は整い、後は始まりを待つだけ──尤も、日本側もそれは同じだ。ただし起動しているのは神威・弐式、零式と言った鋼鉄の巨人であるが。時間は午前8時24分を少し回った所。何かのきっかけがあれば、そこから全面戦闘が始まる。
「よくもまあ、これだけの船を集めてきたものだ。的には困りそうにないな」
鉄のコックピット内で、そう光はつぶやいた。こんな軍備を整える労力をもう少し他の所に回せば、日本人が居なくなった所でここまで困る事は無かったろうにとも光は思ったが。なんにせよ、日本人が地球で行う最後の戦争は大量の血が流れることになるだろう。
『私も同じ感想です。もっとも、数がいてもこちらの主力である神威・弐式を止められるとは思えませんね。戦闘機もかき集めてきたようですが……そちらの方は気にするレベルではありませんね。問題は各軍船に備え付けられている砲による攻撃でしょう。出力最重視のほぼ使い捨てにするような調整が見られます。鉄はともかく、神威・弐式や零式のフィールドは破られる可能性があります』
そこに、鉄専用AIのノワールから簡単な分析結果が光に伝えられる。
「そうか、いざと言う時は鉄が盾になる必要もあるな。まあ、弍式に乗っている自衛隊の皆は訓練を積み重ねてきてきた猛者であると私は信じている。そんな彼らが易々と直撃弾を貰う事は無いだろうが。そして零式は基本的に遠方からの射撃支援に専念してもらうから、こちらも直撃を貰ってやられるという心配はまずないだろう」
そんな光の言葉を、ノワールは嗜める。
『そうですね、確かに確率としては低いでしょう。ですが、ゼロでない限りそれは起こりえる事なのです。戦争は最初から最後まで予定通りに進んだことなどまずありません。慢心はいけませんよ』
そのノワールの言葉に、光も「そうだな、その通りだ。慢心や楽観は良くないな。気を引き締めなおすとしよう」と返答を返した後、心の中でもう一度気合を入れなおす。その時だ、オープン回線で世界側から日本側に声がかけられたのは。
『あーあー、ゴホン。こちらは国際連合。日本に対し、最終通告を行う。繰り返す、これは最終通告である。日本側は今すぐすべての武装の解除、並びに防御システムをただちに停止し、無条件降伏を受け入れよ。そうすれば命は保証する。繰り返す、全ての武装解除、および防御システムを停止して無条件降伏せよ。そうすれば命の保証は──』
と、国際連合の代表が言い切る前にそれを遮る声が。その声の主はもちろん──総理である光だ。
「お前たちの言う命の保証など当てになるものか。そもそも、今までの日本人が置かれてきた状況から考えれば、そちらの言う命の保証という言葉など一考する価値など初めからないという物だ。無条件降伏? それこそ寝言を言うな。第二次世界大戦の時とは構図が違う。それとだな。今まで日本国民には言ったことがあったが、そちらには言い忘れていたことが一つあったのでね、今ここで言わせて頂こうか」
ここで一度言葉を区切り、深呼吸をした後に光はこう世界に向かって吠えた。
「そんなに日本が嫌いだと世界が言うからよ、俺達は日本ごと地球から出ていく事にしたんだよ! 今年いっぱいで日本という国は地球上から消え失せる! それを止めるというなら掛かってくるがいい、こちらのも相応の力をもって──貴様らを消す」
光の宣言から一拍間を置いた後に日本中から立ち上がる鬨の声。このオープン回線は全日本国民皆に聞こえるようにされていたのだ。そして、こんな条件を突き付けて再び日本人達を奴隷として酷使しようとしている世界に徹底的に戦うという意思の再確認が、光の宣言によって日本人の間で言葉を用いずに行われた形となる。
また異世界からきていた戦士達も、こんな条件を一方的に突き付けてくる世界のやり方に腹を立てていた。こちらの話など全く聞かず、ただただ降伏して奴隷になれと言ってくる。そんな者達にこの国を好きにさせてなるかという考えで意志の統一がなされていた。
『ぐっ、その言葉を後で後悔するがいい! 日本人を扇動した罪は重いぞ、ヒカル・トウドウ!! お前だけは必ず極刑に処す!』
その言葉を残して、オープン回線は相手側から一方的に断ち切られた。それとほぼ同時に世界側の軍船が次々と防御フィールドやバリアの展開を始め、戦闘機が次々と空に飛び立ち始めた。いよいよ、開戦だ。
「細かい指示は各部隊長の判断で行え! 私からの指示は一つだけ、『全員皆で生きて皆で新しい日本の未来を見る』、これだけだ! 全員の武運を祈る!」
光の声が日本&異世界連合軍に飛ぶ。そしてさらに。
「皆、この戦いはあくまで通過点に過ぎぬ。共に新しき未来を掴むために一丸となって戦おうぞ!」
天皇陛下からのお言葉も飛ぶ。士気を上げた日本&異世界連合軍は、次々と各自の戦い方に合わせた行動の準備を整える。
『ここから総合指揮は、私が受け持ちます。神威・弐式は各自発進し敵戦闘機の迎撃を。鉄と初代神威は状況に応じた遊撃をお願いします。神威・零式並びに神威カスタムは各自長距離射撃の用意を!』
如月司令が指揮を飛ばし、各自それに従って行動を始める。一応言っておくと、神威カスタムとは異世界人が乗っている神威の事である。高速戦闘は無理だが足を止めての射撃戦は可能なため、データ取りを兼ねての出撃となっている。
『まずは日本に接近している戦闘機を殲滅して向こうの戦力を削ります! 各部隊はある程度まとまって行動を! 戦闘によって消耗率が三割を超えたらすぐに離脱し、補給を受けてください! 今日一日戦い続けることになります、弍式の消耗率が上がりすぎると修理の時間がかかるようになって手薄となる場所が生まれるため、早め早めの補充をお願いします!』
破損した箇所の修繕も、弾薬の補充も、ゲームのように十秒ぐらいでさっさと終わる物ではない。それに腕部や脚部が大きく破損して交換しなければならなくなった場合、修理にかかる時間がさらに伸びてしまう。また、早めの帰還はパイロットの休息も考えた上での話だ。疲労が溜まればそれだけ総合的な戦闘力も落ちてしまう。数で圧倒的に負けている以上、そう言った理由による戦闘力の低下は避けねばならないという考えがあった。
次々に飛びあがって戦闘を仕掛けに行く神威・弍式。その姿と戦闘力を真っ先に確認することになった、世界連合軍の戦闘機に乗っているパイロット達には早々に混乱が起き始めていた。
各自衛隊員が駆る神威・弍式が空に浮かび上がる。その姿を見て、戦闘機乗りパイロットは皆驚愕に包まれた。その数、二百以上。明らかに空を飛べる様な姿をしていないはずのない人型兵器が、悠々と空に浮かんで接近してくるのだから。そして、戦闘機に乗っていたある世界連合軍のパイロットは──
「き、聞こえますか!? に、日本から巨大ロボットと表現するしかない存在が飛び立っています! その数、十や二十ではありません! しかも早い! あれだけの質量がなぜあんな速度で──こ、こっちに来るぞ! 全員回──」
そこで通信は途切れる。神威・弍式の基本ウェポンであるマギ・マシンガンによって防御フィールドごと貫かれ、爆散したからだ。それと同じような通信が次々と世界連合側に届き、そして途切れる状況が続く。そう言った事実を確認した各軍船の中には、じわりじわりと冷たく重い空気が漂ってくる。
「ば、ばかなっ!? あ、あんな兵器を一機二機ではなくあれだけの数を日本は秘かに用意していたというのか!? こちらの最新鋭兵器を搭載した戦闘機の攻撃が全く通じていないぞ!?」
「そしてこちらの戦闘機のフィールドはまるで紙のように貫かれている、これではどうしようもない! 戦いにすらならない!」
「機動力もおかしいぞ! あんな動きで中のパイロットは無事なのか!? 前後左右、自由自在に飛び回れるなんて……あんな存在が相手では、戦闘機だけではどうしようもない! 各戦闘機も連中に向かって新型のミサイルも撃っているがまるで相手に通じていない! 大半が回避されている様だし、当たった僅かなミサイルもフィールドで悠々と防御されている、そのうえ中にはバカでかい剣でミサイルを切り払っている存在さえいる! 総督、航空戦力を下げてください! このままでは無駄死にさせるだけです! 相手の戦力を僅かに削る事すら出来ていません!」
悲鳴が混じる報告ばかりが次々と各軍船から上がり、各種情報を得た世界連合上層部は歯ぎしりをする。
「そう容易く勝てるなどとは思ってはいなかった、だが、これは明らかに想定外だ……早々に使い捨てを覚悟した砲を使わねばならんとは……っ! おのれ日本、おのれヒカル・トウドウ! 一体あの国に何があった! 何をどうやったらあんな兵器があの国で作り上げられるというのだ!」
一人の男の叫びは、皆の心を如実に表していた。苦戦するかもしれないが、ある程度航空機による攻撃で日本の戦力を削れるという予想の下に話が動いていた。しかし、神威・弍式の存在がそれをすべて崩してしまった。巨体が空を飛び、その姿に見合わぬ機動力を見せて容易く戦闘機を次々と撃破していく姿を見せるなんてことは、計算外もいい所だったのだ。
「各船に通達しろ! 各自の判断で砲の使用を許可すると! あの空飛ぶ連中を叩き落せ!」
だから世界側も切り札の一つを切る。元々この戦争は長続きする要素はない……世界側には物資がない。残り少ない物資を用いて作られたために補給が利かない。だから短期決戦しかないと初めから分かっていたことだった。ゆえに出し惜しみをする余裕はない。その姿は、まるで第二次世界大戦において日本が追い込まれた状況によく似ていた。だが、日本側のカードはまだ全部切られてはいない。その一つが──
「ほ、報告します! 日本側の軍船、ナガトとヤマトと呼ばれていた二隻が本格的に動き出しましたっ!」「なんだとっ!?」
そう、かつて航空機によって沈められた船、大和。大戦を戦い抜いたが最後は原爆実験の的にされた船、長門。彼女達も動き始める。
12月24日の戦闘は数回にわたって続きます。




