12月13日
『そうか、分かった。今の所は仕方があるまい……』
自衛隊と異世界側の戦士達が交流を深めながら士気を上げている一方で、異世界側の上層部は落胆を隠せなかった。理由は言うまでもなく神威・弐式の各国の色を出したアッパーバージョンの機体達の生産、転送が今の状況下では望めないという報告が入ったことに他ならない。
『フォースハイムの気持ちもわかる。こちらとて同じような落胆はした。しかしだ、今の日本が置かれている状況を考えればこれ以上の生産が難しいという意見も分かるのではないか。それに、こちらに来た後なら生産してもらえるという話も出たのだろう?』
報告をしているフルーレに対してそう確認を取るフリージスティの上層部。
「はい、日本側の意見をより詳しく報告させていただくと、機体その物……つまりゴーレムそのものは数を作る事は研究が進んだため素材さえあればそう難しい事ではないそうです。ですが、そのゴーレムの脳を作る作業が難航しているため、現時点ではこれ以上の生産を行うよりもその脳の改良が必要であると」
フルーレの言葉に、今度はマルファーレンスの方から声が上がる。
『ううむ、そもそも我らにはゴーレム自体に考えたりこちらの動作を補佐する脳をつけるという発想がなかったからな。そういう点では全くの無力だ……その点は完全に日本の技術に頼るほかないし、日本からしてみれば魔法に触れ始めてからまだ1年すら経っていない。そこを考慮すれば仕方がないことだとは分かる、分かるのだがな』
もちろんこれはマルファーレンスだけではなく他の二国の上層部も痛いほどに理解している。そもそもゴーレムに頭脳をつけるとは何ぞや? という時点でどういう物を作ればいいのか、どのようにすれば鈍重にしか動かないゴーレムをああして空を飛び、地を駆け、武器を持って戦える戦士へと変えることが出来るのかの道筋が全く見いだせていない。異世界側からすれば、神威・弍式という完成形を見てもなお、どうやって作るのかというとっかかりすら掴めていない。
だが──過去に一つの街を災厄から守った大魔法使いが死ぬ前に言い残した『こちらも星々の世界に行ければ……』の話が実現したのだ。もちろん異世界側からしてみれば日本に接触を図った理由は遺伝子という観点からの物であり、常識外れのゴーレムを作るだけの力を持った国である事は知る由もなかった。
しかし、一度でも知ってしまった以上は知らなかった時のような考えに戻る事は絶対に出来ない。ましてや国家存亡の危機、諦めるしかないような絶望を切り捨てる可能性を持つ存在が居ると知ればなおさらだ。星々の世界に乗り込み、落ちてくる隕石を落ちる前に蹴散らす。まさに夢物語の話が一気に現実となった──その瞬間『これが欲しい、絶対に何としてでも欲しい!』という感情を持つのはおかしい事でもなんでもない。
『歯がゆさは隠そうとしても隠せませんな。あと約2年後に迫ってしまったマルファーレンス帝国の首都に落ちる災厄……その悲惨な結末をひっくり返す可能性を秘めた唯一の存在を、たとえ数機と言えどこちらに先行して送ってもらえばこちらとしても士気を高め、希望を持たせる広告塔としても使えますし。そして何より、やはり映像だけではなく現物を見るという事は代えがたい説得力がある。夢ではない、幻想ではない。間違いなくこれは現実に存在する希望なのだという説得力が』
異世界側が数機でもいいから送ってほしいと懇願に近い要請をしたのはこれが一番の理由となるだろう。画像では本当に存在するのか? こういう物があればいいなという夢物語ではないのか? という意見がどうしても出てくる。しかし、現物がそこにあればどうだ? 画像、言葉なんかとは比較にならない説得力がそこに生まれる。そして、その説得力が可能性と希望の灯を国に住む国民の心に灯すのだ。
「こちらとしても強く要請したのですが……現状でもある程度の格闘戦や射撃は行えますが、日本の戦士達が操る神威・弍式、零式と呼ばれるゴーレムの動きには遠く及びません。そんな状態で国民に見せればかえって希望が萎んでしまう可能性も否定できません。日本側も、それを考慮した故に譲れないという決断を下した可能性は高いと私は見ています」
フルーレの見方も正しい。希望となる存在だからこそ、最初の押出というか見せ方は非常に重要だ。頼れる戦士と思っていたら、転倒したりまともに歩けなかったりしたらこんなので本当に戦えるのか? という不安からやっぱり駄目なんだという諦めと絶望が国民の間に広がってゆく。こういった絶望が広がる速度はすさまじく速いのが恐ろしい所だ。
『──そうか、それもまた正しい見方だな。ううむ、ならば日本皇国にこちらに転移してある程度落ち着いたら神威・弐式や零式に出向いてもらい、ある程度の模擬戦などを日本の戦士達にやってもらうか。そしてその光景を国民に見てもらう。そして、その模擬戦の後に国民に触ってもらう事で、現実に存在する戦士なのだという方向で調整すべきか』
この意見に、様々な方向から『それしかないか』とか『それが一番現実的でしょう』という意見が出てきた事で話がまとまり始める。最終的に話は日本皇国が転移を終えて落ち着いた後に出来るだけ早く各国に神威・弐式、零式を派遣してもらい、国民の前にその姿を見せてもらう事をフルーレに伝えてもらう事で終わった。
「では、今回の話し合いの結果をさっそくトウドウ総理にお伝えします」『頼む、次回は転移直前に行う予定だ』「そしてそれが最後ですね。無事に迎えられるように奮戦してきます」『ああ、こちらの分まで派手にやってくれ』
そんな短いやり取りの後に通信を終えるフルーレ。ちらりと時間を確認すると午後の3時半頃。まだ総理は執務を行っているはずだ、と考えたフルーレはさっそく光の執務室へと足を向けた。
「という話になったのですが、こちらの要望は叶いますでしょうか?」
本日の執務を終え、渋い緑茶を飲みながら一服していた光の所にフルーレがやってきて、各国への発表と話し合いの内容と結果。それに応じて発生した要請を伝え終えた後にフルーレが放った一言だ。
「ふむ、まあ問題はないだろう。転移が無事に終わった後に少し休みは貰うが、その後なら各国に自衛隊を派遣し、そちらが用意した場所で神威の模擬戦を見せる事は可能だ。やはりこういった物はそちらの上層部が言ったように直に見てもらった方が早いからな」
スケジュールの確認をしばし行った後に発せられた光の言葉を聞いたフルーレは、ほっとした表情を浮かべた。断られると辛かった話なだけに安堵する表情が隠せなかった。
「その転移を無事に終えるためにも、この年末はこちらもだがそちらにも頑張って貰いたい。まあ、言うまでもなく現場にいる者は全員の士気が高いという報告は入っているし、共に戦う仲間として双方の交流も問題なくできているからな。後は攻め込んできた連中を押しのけ、勝つだけの話だ」
勝つだけの話、と言い切った光であったがその表情が和らぐ事は無い。
「どんな勝負でも決着がつくまではどうなるかは分からない、ですね?」
その表情から光の考えを読み取ったフルーレの言葉に、光はまさにその通りだと首を振った。
「どんな優秀な人材がいても、どんなに優秀な武具があっても、使う当人が油断を一切していなかったとしても──勝負は結果が出るまではどうなるかは分からない。歴史を振り返れば、劣勢側が様々な要因があったとはいえ逆転して勝ったという事柄はたびたび見受けられる。だからこそ完全に決着がつくまでは何があってもおかしくないという考えのもとに動かなければな」
光の言葉に、今度はフルーレが同意の意を示す。彼女も戦士なので、こういった話には縁がある。模擬戦でも一対一の決闘でも、不利とみられていた方が勝つことは珍しい事ではない。だからこそこの光の考え方は好ましい物であると考えるのだ。
「ええ、ここで万が一にも負けてしまってはその後の話も何もあったものではありませんからね。この話の続きは勝った後にいたしましょう。この国に侵攻しようという者達には、永久の眠りか何時までも消えない恐怖のどちらかを全員にプレゼントしなければなりませんから」
最後はお互いに頷く。それと同時に、時計が午後の5時を伝えてきた。
「よし、今日はこれと言った政務は残っていないから上がりだな。フルーレ、君はどうだ?」「そうですね、私の方もこれと言った任務は入っていませんからこちらも仕事は終わりで問題ないかと」「なら、お互いに上がろうか。またな」「ええ、また」
本日も無事終了、戦いの準備に問題なし──が、数日後。危惧していたフライングが発生するのである。
自壊更新からは保証できません、申し訳ねえ……
 




