12月8日
異世界のメンツに事情を話し、しぶしぶではあるが現状ではこれ以上の数を用意できない事を納得してもらってから数日後、世界ではこんな声明が出されていた。
『世界の人々よ、いま世界は窮地を迎えている。理由は言うまでもない、日本が反乱を起こし我々のライフラインを停止、あるいは破壊した事で止めてしまったからだ!』
日本側は破壊などしていないのだが……そう言った方が都合が良いのだろう。
『このことに対し、我々は日本に反乱をやめるよう何度も対話による解決を目指すべく水面下で動いてきた! 無用な血を流したくないがゆえに! しかし日本はこちらの言葉に一切耳を貸さず、ただひたすらに自分達の都合のみを優先する事しか頭にない事を我々に示し続けてきた!』
実際はそんな対話の申し入れなど一回も行われていないし、自分達の都合ばかり考えているのは今の世界の方である。
『よって、我々はやむなく最終手段である宣戦布告を日本に対して正式に行う事にした! 日本は世界に対して生命の脅威を与えた事に対する責任を取る事となるだろう!』
初めからそのつもりだったくせに、と内情を知る者ならば言うだろう。そう、初めから穏やかな解決法など探ってはいないのだから。
『12月24日、世界の意志によって正義の鉄槌が日本に下る。日本よ、考えを改めるのなら今の内だ! 我々の慈悲はいつまでも続かないぞ!』
ぶつん、と回線が切れる。そしてドン! と握り拳を机に叩きつける人物がいた。池田法務大臣、その人である。
「何が正義の鉄槌だ! 何が対話による解決だ! 無用な血を流したくないだ! 今までさんざん日本人の血をすすり、財産を奪い、魂すら齧ってきた屑どもの集まりである世界が我らに対して言える事かっ!」
池田法務大臣が珍しくむき出しの感情を表に出していた。だがそんな彼を非難する人物はこの場にいない。総理大臣の光を始めとした他の大臣たちも池田総務大臣と意見は完全に一緒だったからだ。
「一つだけ、皆に確認しておきたい。世界からの対話による問題の解決を図る接触は私の所に来ていないが……他の誰でもいい、一回でもそういう話が来たことはあるか? どんな事でも良い」
激高しすぎて荒い息を吐いている池田法務大臣の事をひとまず横において、光は確認を取った。
「ありません、こちらにはそんな接触は」「こちらもです、降伏しろという脅しはありましたが」「こちらを罵る通信なら何度か。相手にする価値はありませんでした」「知りませんな」「奴らの脳みそは話し合いと言う言葉の意味を忘れているのでは?」「あり得ますな、こちらへの一方的な降伏要求を話し合いと思っているのかもしれませんぞ」「どのみち、無血を望んでいる感じの話し合いの要求は一つもないかと」
各大臣から出てきた言葉はこんな感じである。少なくとも声明に出てきた『無用な血を流したくないがため』の『対話による解決』意思のある話は間違いなく一度も振られていない事は間違いないようだ。
「そうか、それならばいい。それにしても正義の鉄槌が12月24日に下ると来たな。完全に世界のすべての人に公布したのだから奴らはその日に侵攻してくるんだろう……フライングする奴らも居そうだが。各隊の配備は進んでいるな?」
光の確認に「はい、各神威・弐式、及び零式はすでに日本の各地に配備が進んでいます! また大和は日本海の守りに参加、長門は太平洋側の守りに参加してもらう事となっています。各地で最終チェックが次々と行われていますが、大きな問題が発生したという報告はこの会議の開始前まで入っておりません」との報告が上がる。
「そうか、順調なのは結構な事だ。初めての異世界の戦士達との共闘作戦だ、これを完璧に近い形で成功させよう。正義は自分達にあると思いあがり、こちらにやってくる軍隊たちにはその生贄となってもらう」
この光の言葉に、大臣たちが頷く。
「この後、国民に対して会見を行う事とする。むろんこの世界の声明に対して我々のとる行動を知ってもらう必要があるからな。何か異論があればこの場で挙手を願いたい」
この言葉に挙手する大臣は現れなかった。なのである程度話す事を光はまとめ上げ、この日の午後6時にあらゆる放送媒体を使って国民に説明することにした。
「皆様お聞きいただけましたでしょうか? すでにご存じだった方もいらしたかもしれませんが、これが日本時間の午前に世界から出された声明の全文であります」
そして6時。世界から出された全声明をノーカットで放送した。当然国民からも怒りの感情が立ち上る。今までさんざん搾取してきた側にこんな言葉を投げつけられる謂れはないからだ。
「ですが、こんな言葉を我々は飲みません。本来よろしくない事ではありますが今だけはあえて汚い言葉を使いましょう、ふざけるんじゃねえぞこの屑どもが! と」
この光の発言に眉を顰める国民は居らず、むしろもっと言ってくれ総理! と言う声が多数上がる。
「念のために補足いたしますが、無血を望んだ対話の要請など一度も我が政府には来ておりません。むしろこちらを罵り、一方的な降伏要求などを始めとした日本人にとっての無血解決に程遠い物はそれなりに来ましたが」
これを聞いて国民からは「そんなもんでしょ」「あーやっぱりなー」「予想通り過ぎて感想らしい感想すら出ねえ」「ふざけた奴らじゃ、この状態になっても何も変わっとらん」などの声がでてくる。散々酷使されてきた国民達も、世界の一方的な言い分にイラつきを隠さない。
「そして皆様にもお聞きいただいたように、世界は12月24日に正義の鉄槌を下すと宣言してきました。ですが、その鉄槌が落ちるのは日本ではありません。日本に攻め込んでくる世界に落ちるのです!」
そうだそうだ! ここまで俺達を苦しめた奴らにこそ正義の鉄槌が落ちるべきだ! と言った感じの声がますます日本中から沸き起こる。
「こちらも攻めてくる世界の軍隊に対して、戦闘配備を日本各地で行っています。そのため国民の皆様にはしばし狭苦しい思いをさせてしまう事となりますが、どうかご理解のほどをよろしくお願いします」
そして、最後に光はこう締めくくる。
「新しい故郷となる世界への旅立ちも一月を切っています。もうあと少しで日本人の祖先が耐えに耐え、堪えながら次の世代に希望を託して渡してきた文字通り血塗れとなってしまった苦難のバトン。これを我々の世代がゴールへと導き、今度は輝かしい未来につなぐための新しいバトンと交換しようではありませんか。今の日本に生きている我々全員で協力し、この地球における最後の障害を乗り越えましょう!」
こうして時間にすれば大して長くない光の会見は終わった。もっともその後に生まれた熱はとてつもなく熱かったが。政府、自衛隊、国民、そして異世界からやってきた戦士達。もしかしたらまだ残っていたかもしれない壁はすでに熱によって完全に溶かされ、共に歩く友となる。同じ時代を共に生きて苦難を共に乗り越えたというつながりができたが故に。
後に、地球に残された歴史の本にはこの時の事が記されている。公民一丸となって戦う意志を固めていた日本と、勝った後の日本が持つ様々な物資の分配で秘かにもめていた世界。どちらがいざと言う時の団結力と底力を発揮するのか考えるまでもなかったと。そして世界は、日本がたった一国で戦う事に目を囚われたが故に油断をする愚か者に堕していた、と。
そして何より、世界は日本があれだけの兵器を秘かに開発、そして実戦配備を恐るべき速度で間に合わせたことを知らなかったことが敗因であったと。この第三次世界大戦の本番は、世界のほとんどの人々が予想しない方向に進んでいく事になる──そう書かれることとなる。だが、その歴史はずっと未来に書かれたもの。今を生きる人々にとっては、まだ知らぬ近くてあまりにも遠い未来の事である。
年末が迫ってきました。皆様もお体に気を付けて。
自分は見つかった虫歯が12月を迎える前に治療できてほっとしています。
こっちの更新は、12月に入ると厳しいかもです。




