12月3日
えっさ、ほいさ・・・
「総理、申し訳ないが無理です」
翌日如月司令に事の次第を伝えて増産できないかを聞いてみた光に対して帰ってきた返答がその一言だった。
「やはり無理か……リペア用の予備パーツなども作っている以上予想は出来たのだが、ああも懇願されてしまうとな……」
光の言葉に如月司令も「ええ、こちらの方にももっと機体を作って欲しいという懇願が上がってるんですよね……」との言葉が零れ落ちる。
「正直に言ってしまえば、ガワだけは作れるんです。あの機体達は神威・弐式のアッパーバージョンなので、やろうと思えば現在の状態でも10機ぐらいであればなんとかなります。
ですが問題はOSの方なんですよ。様々な技術提供を受けて基本体系が出来たと思っていたマギ・サイエンスですが、ここに来てその未成熟な点が露呈してしまいました。やはりまだまだ穴があります」
OSの問題か、と光も腕組みをして唸る。魔法の使い方などはちょくちょく指導を受けているが、まだまだ日本人側の魔法に対する知識が不足している……無理もない、何せこの知識を得てからまだ一年すら経過していない。
「現在稼働している機体達のOSも、バージョンアップとエラー修正の作業が忙しくて技術部が目を回していますよ。
総理のおかげで最初の第一歩を踏み出せたことで動かせるようになったわけですが、まだまだ修正すべき点やデータが足りていない点が多く見受けられていまして、正直年末の戦いでも後方からの銃撃、砲撃と言う運用がなんとかできるレベルでしかありません」
この如月司令の言葉に光は首をひねる。確か格闘による模擬戦が出来るようになっていた機体もあったのではないだろうか? その点も聞いてみたが──
「ええ、私達もそれに期待していたんですが、一定レベルになるとOSのアップデートが付いていけなくなってしまったのです。そのついていけなくなった時点での能力は、神威・零式の半分よりわずかに上回るレベルでして……正直現状では前線に出すには無理があるかと。
OSのアップデートが追い付かなくなった原因も探ってはいるのですが、なにぶんどこも忙しい状態でして。今回の戦いでは以前作った異世界の戦士が使える機体用の剣はお蔵入りとなりそうです」
神威・弐式の型落ちで組んだ零式の能力の半分しか引き出せないというのでは確かに厳しいか、と光は如月司令の下した判断に納得する。確かにそのレベルの運動量しか保てないのであれば、後方から銃撃をしてもらった方がいいだろう。
「彼らの機体は神威・弐式のアッパーバージョンだったはずだな? その機体で零式の半分が精いっぱいとなれば確かに前線には出せんな。
多少の被弾は問題にならないだろうが、さすがに被弾し続けた場合はどうなるか分からん……戦場に死はついて回るものだが、だからと言ってむやみやたらと死なせてもいいという訳ではない。
「そう言う状態では仕方がないか……異世界側にとっては、こういう機体……ゴーレムの一種と認識している様だが、そのゴーレムに頭脳を乗っけるという発想自体がない。その頭脳であるOS関連はこちらがなんとかするしかない分野だからな……」
光の言葉を聞いた如月司令は「ええ、その通りです。今でも異世界側の技術者からよく聞かれますよ『こういう発想がどこから出てくるのだ』と」などと言いながら光の言葉に同意しながら現場の言葉を伝える。
「さすがにOSの改善など一朝一夕でできる物では無いな……申し訳ないが断らせてもらうしかないか。現状使っているOSをコピーすれば数だけは揃えられるかもしれんが……技術者としてそんなのはしたくない、そうだろう?」
光の言葉に「ええ、そんな事はしたくないですね。十全に動くというのであればそれもまた良しですが……不完全な物をコピーして使うなど、万が一の事態を引き起こす危険性を増やすようなものです。とてもじゃないがやれませんね」と如月司令は返す。
「こちらとしても心苦しい面はありますよ。あちら側の戦士の皆さんからももっと欲しい。この戦士と共に戦えば今まで手も足も出ずに、堪えるか逃げるか死ぬかしかなかったあまりにも勝ち目のない星々と真っ向から戦える。
指を咥えて首都が蹂躙され、守ってきた都市が崩れていくのを見ている事しかできないと思っていた未来が覆る。と熱気と涙混じりの声で話すのですから」
如月司令は司令で、実際に乗り込む戦士達から強い要望を受けていた。如月司令は涙交じりと言ったが、実際は涙交じりどころか涙を隠さずに絶叫に近い言葉で戦士達は訴えていたのである。
無理もない、今まで長い間どうしようもなかった星の海からやってくる破壊者、殺戮者に対抗できるという希望は、多くの異世界側の人々に今までとは違って、直接戦う事で悲劇を退けられるという明日を見せたのだ。
その大きなボディ。そのボディにふさわしい武器を振るえるだけではなく星の海にすらこちらから出向いて戦える。これは過去にある大魔法使いが言い残した『星の海に出ることが出来れば……』の言葉を実現する物であった。
だからこの新しい搭乗できるゴーレムという認識を受けているこの機体は、その存在を知る異世界の人々が期待を寄せるのは自然な流れと言える。その大きな武器で落ちてくる前の星を断ち、その大きな銃口から出る弾丸で星を穿てるのだから。
「何とかしたい所だがな。ちなみに現状の神威・弍式と同じように動かせるOSのプロトタイプを構築するのにはどれぐらいの開発時間がかかるのか、大まかに教えてもらえるか?」
光の問いかけに、如月司令はしばし考えて……口を開く。
「そう、ですね。近距離での格闘や例の剣を用いた攻撃を弍式レベルに引き上げるとなると……色々無茶を重ねて一年半ぐらい後でしょうか。現OSの問題点の洗い出しと、日本人側が魔法と言う存在そのものへの理解をより深めるという事だけでもかなりの時間がかかります。ですが、二年後にやってくる災害に立ち向かうために、なんとか一年半以内に新しいOSを形にしてみせましょう、と言う感じでしょうか?」
一年半か、と光はため息をつく。もちろん分かっている、一年半と言う時間はこういった分野の開発に掛ける時間としては短すぎる事ぐらい。
しかし戦いの舞台が二年後に迫っているという現実がある以上、無理を押してでも何とかしてもらうしかなかった。技術班には多大な負担を押し付ける事になってしまうが、やってもらうだけの意味と価値がある。
「そうか、どのみち今すぐどうにかするのは無理だな……もう一つ確認だが、魔法の云々を完全に無視した弍式に向こうの戦士を乗せてみたか?」
光の質問に、如月司令は「そちらもやってみました」との返答。
「ただ、やはり魔法が完全に封じられてしまう弍式の座り心地はよろしくないようです。ある程度は動かせるのですが、どうにも感覚的な部分で違和感を感じるという意見が多かったです。シミュレーターの方も体験してもらいましたが、魔法と言うか魔力ですか? それが全く通らなくて気持ち悪いんだそうです。そしてその具合の悪さが動きに出てしまい、動きがもっと悪くなってしまうようでして」
彼らにとっては存在することが当たり前のことが出来ないというのは調子が狂うのも仕方がないか、と光は顎に手を当てながら考える。冷静に考えるまでもなく、技術班の連中の仕事は素晴らしいのだ。
ただ絶対的に時間が、あとは知識が足りない。こればっかりはどうしようもないだろう。魔法何てファンタジーな存在が実は実在の技術ですよと言われたところで、すぐさま使いこなせるようになるものじゃない。
「ううむ、やはり調整した機体でないと駄目だという事だな。やはり年末は後方にいてもらって射撃戦をメインに動いてもらうしかないな。司令、そちらの機体は鉛玉だけでなく魔法も砲撃として射ち出せるのか?」
この問いかけには如月司令が自信をもって返答を返す。
「ええ、そちらは何とか形になりましたよ。これは特にフォースハイムから来ていただいている魔法専門家の皆さんの協力が大きかったですね。向こうから運んできてもらった金属と特殊木材をかけ合わせまして、銃の形をした杖と言う扱いにすることに成功しています。
これで中に乗っているパイロットの魔力消費はいつも通りでより強力な魔法を砲弾として射ち出す事が可能となりました。フォースハイム出身のパイロットにはデータ取りもかねて年末にはその兵装で出てもらう事になっています」
如月司令の報告に、光も笑顔でそうかと返答する。成果が出ている部分もある。ならばそう言った面を押し出して時間を貰う方向にもって行けるからだ。無理な所は無理だと言う他ないが、こちらはこちらで開発を進めているのだと異世界側に言う事がここまでの話でできることも分かった。
「分かった、異世界側の戦士には申し訳ないがこちらから今回は無理だと伝えておこう。その代わり開発や研究は確実に進んでいることも伝えておこう。今回の情報は全て出しても構わないな?」「ええ、構いません。総理、よろしくお願いします」
そのやり取りを最後に如月司令との通話を閉じる。さて、どういう風に話そうか? 光は椅子に深く座りなおして再び思考を巡らせた──。
今週は何とか無事に書き上げることが出来ました。ただ年末がどうなるか。
 




