表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/219

12月2日

「先日、作ってもらった防衛装置は日本を秘かに支援してくれていた5ヶ国にすべて渡し終えた。これで、我々が地球を離れる前に成功させなければならない案件はあと二つとなった」


 その日の大臣と異世界側の代表者を交えた会議で、光はそう口にした。


「一つは年末にやってくるだろう各国の軍隊に対する戦闘で勝つこと。もう一つは日本の転移を安定した状態で迎える事だ。もっとも転移の安定に関しては我らに出来ることはほとんどない。こればかりは申し訳ないがそちらの力を頼らせていただく」


 光の言葉に、異世界側の代表者たちが頷く。


「なので、やるべきことは世界各国がクリスマスプレゼント作戦などと言いながらこちらを攻撃してくる戦争に勝つことだけだ。この戦争が地球から離れるまでにやらなければならない最後の大仕事だ、言うまでもないとは思うが各自気を引き締めて事に当たってもらいたい」


 光の言う通りなのだが、念のためと言う奴である。


「まあ、奴らにクリスマスプレゼントはくれてやりましょう。美味しい飯に着心地のいい服などではなく魔法と科学の融合した弾丸をですがね」


 会議に出席している大臣の一人から出たその言葉に、皆が頷く。


「ここまでさんざん日本人を酷使し、いたぶってきた返礼と言うには少なすぎるが何もしないよりはいいだろう。むろん向こうが刃や銃口を向けなければこちらも何もしないが……」


 光のこの言葉にあちこちから「まあ、望めないでしょうな」「向こうは考えを改めるつもりは全くないようだ」「どう転んでも戦いが起きない可能性はない、な」と言った声が次々と上がる。世界は相も変わらず日本に対するネガティブキャンペーンを堂々と発信しており、日本人を(奴隷として)働かせる事こそ世界にとって正しい事であると言い放っている。


「そう言う事だ。幸い神威・弐式、零式の生産台数も大詰めを迎えているという報告も上がっているし、使われる弾丸の生産も順調だ。決戦を迎えるまでに全ての準備を終えることが出来る計算になっている。後はそれらを使って攻め込んできた連中を叩き潰し、堂々と地球を立ち去るだけとなるだろう。むろん我々が居なくなることで相当の混乱が起こるだろうが、それはもう我らの知ったことではない」


 この光の言葉を受けて、この場にいる全員が頷く。しかしその後、異世界側の代表の一人が口を開く。


「しかし、自分の国民に入れる農作物の管理をすべて日本に押し付けるという行為がいまだに良く解りませんな。今回のような事になればたちまち困窮する事になるなどと子供でも分かる事ではないですか」


 この発言に、光は苦笑いを浮かべながら返答した。


「仰る通り、食料の生産、管理を怠ればその国は困窮しますな。しかし、長らく日本人に辛い仕事を押し付け、兵器開発以外をやらせ続けてきたという歴史が、そんな子供でも分かる事に対する危機感を忘れさせてしまったのですよ。日本人に押し付けるのが当たり前、日本人が作るのが当たり前、日本人が管理して提出するのが当たり前。その愚かで傲慢な慣れが今の現状を生み出した、それだけです」


 おそらく今までの世界各国に何人も農作業などを日本人に任せっきりでは危険だという意見を持った人間は生まれていただろう。


 だが、それは少数に留まったのだろう。だからこそ日本人は奴隷として使う物、自分達はそんな奴隷から搾取する特権階級。そんな考えのもとに世界は動いていたのだから。そしてそれがいつまでも続くと盲信していた節もある。


 事実、異世界からの援軍が来なければそれはあながち間違った考えではなかった。反乱を起こそうにも日本人を世界に散らす事で纏まれないようにし、家族などを分けることで人質とした。ほかにもいくつもの方法で雁字搦めに固める事で世界は反抗の芽を摘んでいたのだ。


 誤算があるとすれば、異世界からやってくる存在が居たという事と日本人が苦難に耐えていつか来る可能性に賭ける性質を何世代もの刻を経ても失わなかったことだ。


 そして耐えてきた分、切っ掛けを得れば刃は一斉に抜き放たれる。秘かに一発逆転の要素を作り続けていた光陵重化学が本来であれば刃の役を務めるはずだったが、異世界からの客人がそれを変えた。各地に散っていた日本人は救い出され、一丸となってこの機会を掴むために働くことが出来るようになった。そして世界を奴隷と言う形ではあったが支えていた日本人が消えたことで世界全体が沈み始めた。


 どんな優秀な道具でも、使い方が分からぬのでは何の意味もない。事実それらの機材や器具がストップした世界の混乱は広がる一方で、略奪を始めとした犯罪行為の増加に(日本を秘かに支援していた五ヵ国を除いて)歯止めがかからない。


 それを落ち着かせる意味も込めて、日本に攻め込み日本人を再び奴隷とすることで平穏を取り戻そうという考えが今の世界の共通認識となっているのである。


「慣れというものは、それだけ恐ろしい物なのですよ。ちょっと考えればあからさまな異常事態であるという事すら感じ取れない様になってしまうのです」


 日本側の言葉に、異世界側も「尤もですな。我々も気を付けねばなりません」との反応を返す。その後さまざまな確認事項を出し合い、問題ないことを双方の間で認識する。


「最後に、何かしらの問題や要望があれば発言を許可する。何かあるという者は挙手をした後に発言して構わない……どうぞ」


 光が言い終える前に、異世界側の代表の一人である男性から手が上がったので光が発言の許可を出す。


「ええ、最後にすいません。先日作っていただいたこちらの人間に合わせて作っていただいた中に乗り込んで戦うことが出来るようになる巨大ゴーレム、ありますよね?」


 これはこの場にいる全員が知っているので、皆が頷く。その様子を確認した彼は話を続ける。


「一機作るだけのコストはいかほどなのでしょうか? 現場から上がってくる声なのですが……もっと数を作って欲しいという声が日増しに強くなっているのです。二年後にやってくる災厄に対抗できる切り札が目の前にある。乗り込むことで星々の世界に旅立ち、迎え撃てる大きな期待を背負った巨大なゴーレム。まさにあれがこちらの本国の首脳陣からも希望の光となっているのです」


 彼はマルファーレンス帝国の出身だったな、と光は再確認する。確かに首都に落ちる事が確定しているマルファーレンス帝国の人間なら、もっと欲しいと願うのは不思議な事ではない。


「ふむ、それは転移が無事に済んだ後に製作しようとこちらは考えていたのだが……今は生産してもらった機体で模擬戦などをしてもらい、もっと魔力や機体のデータを重ねてから質の高い量産に移ろうと考えていた。それではまずいのか?」


 光と如月司令の考えはそうなっていたのだが、マルファーレンス帝国出身の彼は首を振る。


「実は、もう乗り込んで動かしたいと言う応募が積み重なりすぎて抽選をしてもさばききれない状態なのです。何度も如月司令殿にも連絡を密に取り合って、動かした結果やこちらの希望は逐一お伝えしているのですが……やはり数がもっと欲しいという要望が全体的に高まる一方で……尤も、この点はフォースハイムやフリージスティ側もこちらほどではないにしろ似たような状況になっているようです」


 この言葉に、フォースハイム連合国やフリージスティ王国からきているメンツが隠すことなく頷く事で肯定した。


「さらに素晴らしいのは、格闘戦も剣や槍を持った接近戦。銃を持った射撃戦など幅広く運用できる点が挙げられます。散々聞いたかもしれませんが、こちらの今までの知識としてゴーレムとは荷物の運搬をさせるぐらいしか使い道がないという感じでした。


 それがあれだけきびきびと動き、人と同じように武具を扱う事すらできる。そんな姿を見たら、誰もが自分でも動かしたい、戦えるようになりたいとの熱が高まる一方なのです。それと本国からも何とか数機、先んじてこっちに持ってこれないかと言う話すら上がり始めていまして」


 予想以上に神威シリーズと、各国が動かしやすいように調整を続けている神威シリーズの調整版の評価が良いようだ。それはありがたいが、ここに来て数を増やせるかどうかは怪しい所だと光は頭の中で考える。


「むろん、今は弾薬などの生産が最優先なのは分かります。それでも10機とは言いません。5機、いや3機でもいいのです。何とか都合をつけていただけないでしょうか?」


 要望と言うよりは縋るような感じの声で発言を続けていた彼は話を終える。どうも向こうでは、こちらの予想以上に期待をかけられている様だが……ここに来て増産の要請を入れられるかどうか。ひとまず如月司令と連絡を取って話を詰めてみるという光の言葉でこの会議は終わった。

ついに作品が12月にはいりました、しかし、ここからが長くなりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ