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11月26日

一か月近く開いてしまいました、申し訳ないです。

 某国、トップの私室にて



「──年末に日本に対する侵攻、か。日本側はいろいろとやっている様だが、どう考えても世界とたった一国との戦いでは結果など最初から見えている。あのバリアのようなもので一定期間の攻撃を防ぐことは可能かもしれんが……それにも限界があるだろう。支援をしてやりたいのはやまやまだが、それをすれば間違いなく今度はこちらが世界の敵となる……そうなれば国民が一番の被害を受けることになる、か」


 密かに日本人がせめて自国の中だけでも過労によって死なぬように出来るぎりぎりの範囲内で守ってきた某国だが、さすがにこの世界が日本に攻め込む行為に異議を唱えることは出来なかった。彼としては恩のある日本に対して銃口を向けるようなことなどやりたくはない、がここで反論を唱えれば間違いなく次の標的とされてしまう。世界を相手取れば一国では勝ち目などないし、負けた後に日本にやらせてきた事をそのままこちらに強いてくることは間違いない。


(それに日本側と共に働くことで、彼らの作った器具の扱いも我が国の労働者は理解できている。だから多くの国が直面している衣食住の問題がこちらではほぼ起きていない……だからこそ目を付けられ始めてもいる。しかし今こちらに構う事がないのは、日本人を再び捕らえて働かせればそれらの問題は全て解決する、と言う思考が世界全体にあるからだ)


 言い換えれば、その思考が消えれば間違いなく狙われるという事になるが。そしてその対象になるのはこの国を含めて五か国。どの国も秘かに日本人を世界にばれない範疇で守ってきた国だ。


(すまん、日本よ。恩があるにも関わらず、肝心なところで助けになってやれぬ。そしてもし後の世に歴史が伝わるのであれば、我らの国は恩を忘れた外道と書かれるのだろう。いや、そんな歴史すら世界が握りつぶし、我々こそが正義、日本は悪党だという形を維持していくのか。日本に何も言わせぬままに、真実を歪めたまま)


 そんな思考を彼が巡らせていると──突如声が聞こえてきた。


『お忙しい所、申し訳ない。少しだけ、お時間を頂けませんか?』


 その声に咄嗟に彼は身構えた。扉の開く音も足音もなく突然聞こえてきたその声に、警戒するのは当然と言えよう。思考の海から這い上がって前を見るとそこには外套で身を隠した人物が一人。そしてその人物が手に持っているのは……小型のスクリーン映像。映像に映っているのは、先ほどまで考えを巡らせていた国の現総理である藤堂の姿があった。どうやってここまで来たのか、その方法が彼には予想が出来なかった。途中にあるすべての警戒網をどうくぐって来たのか……?


 しかし、そんな彼の考えをよそにスクリーンに映る藤堂は話を続ける。


『大変失礼な方法であるとは理解しております。しかし、電話を始めとした方法では他国に傍受される危険性が高く、そちらにご迷惑をかける可能性が高い。それ故このような方法を取らせていただきました。どうしても一つだけ、戦いが始まる前にお話しておきたい事があったからです』


 藤堂がこうして話しかけてきた以上、少なくとも今すぐ暗殺されるような事態にはならないと判断した彼は、藤堂との話し合いに応じることにした。少なくとも今の状況下でどうしてこういう行動に出たのか、その理由だけでも掴んでおきたかったからだ。


「いえ、その考えは理解できます。そして心苦しいのですが、我々が日本側につくことは出来ません。日本には過去に何度も世話になった恩があるのは事実です。しかし、ここで世界に反旗を翻せば、守るべき国民を守れなくなります。恩を仇で返す事になってしまうのは大変不本意なのですが──」


 その彼の言葉を、スクリーンに映る藤堂が止める。


『ええ、良く解っております。どんな同盟を結ぼうが、国のトップが第一に考えなければならないのは自国の国益、そして国民の事です。それを気に病まれることはありません、貴方の出した答えはまっとうな物であり、国家の元首として正しい判断です。こちらとしても、その判断を曲げるような話をしたい訳ではないのです』


 てっきり何とかしてこちらについて欲しい、もしくは兵を差し向けないで欲しいという話を振られると思っていた彼は首をひねる。では、何のために日本の総理である藤堂はここに声を届けに来たのか?


『むしろ、礼を言わねばならぬのはこちらの方です。あなた方のような考えの方々がいたからこそ日本人は滅びずに今まで耐え抜く事が出来ました。今回こうして失礼をさせていただいた理由ですが、ある物を貴国に設置することの許可を頂きたいがためなのです』


 ますます話が分からなくなってゆく彼を前に、藤堂の話は続く。日本が本当に異世界へ姿を消す事や、目の前にいる人物がその異世界から来た存在である事。そして日本が消えた後に標的にされるであろう国に、500年は持つ特殊障壁を張っていきたいという要望に混乱の渦に沈みそうになるが、そこは国家元首。何とか堪える。


「なぜ、そこまでしていくのです? ここまで長きにわたり苦しめられてきた、やられたお返しに滅ぼそう、破壊してやろうというのならまだ分かるのですが……」


 そんな彼の質問に対して、藤堂が返した答えは……


『破壊なら、日本に攻めてきた連中相手にやっていきますよ。ですが貴国には日本人を護ってもらった恩がある。そんな貴国に対して破壊行為を行う様な恥知らずな真似は出来ません。むしろ我々が居なくなった後、狙われる事になる可能性が高い以上何かしらのお返しをしていきたかったのです。そうですね、こちらの心の安寧のためにやっていくのだと考えて頂ければ』


 長き時を経ても、そしてあんなに長い苦難の道を歩んでも、日本人は日本人だったのだという事を彼は理解した。サムライなど遠い過去の話、今の日本人には存在していないものなどとうそぶく連中はいるが、こういった行動にその魂は受け継がれて残っているのだという事を理屈云々ではなく心で感じ取った。


「分かりました、藤堂総理の読みは間違ってはいません。今日本が消えれば、物資を多く持つ我が国から奪い取ろうと手を伸ばす者達は数えきれないほどに出てくるでしょう。その障壁の設置をこちらからお願いしたい」


 了解を得られたことで光は設置を指示し、準備態勢に入っていた作業班が設置を短時間で片づける。最後に発動する為に使用するキーがこの国の元首である彼に残された。


『扱い方は単純です。あなたの判断で発動しなければ国が亡ぶと感じた時にキーを刺して回せばそれで起動します。説明もしましたが、障壁は融通が利きません。出来る限り国民を自国内に、そして敵となる存在は外に出すようにしておくことを強くお勧めします。一度起動すれば、太陽光などの一部を除いて核爆発によって発生する各種有毒物質すら通しませんので。それでは、そろそろ失礼いたします。貴国に幸多からんことを願って』


「貴国の異世界での発展を願って」


 最後に画像越しではあったがお互いの発展を祈った乾杯が行われ、最後の会話は終わった。それをスクリーンを持っていた人物は確認すると彼に一礼し、姿を消した。その姿の消しっぷりに驚いた彼だったが、やがて笑みを浮かべた。


(そうか、日本は新しい地に向かう切符を本当に手に入れていたのか……目の前の彼が姿を一瞬で消すことが出来ると言う行動を見て、それが嘘偽りない事実であると実感できたな。日本よ、向こうでは地球の時のような歴史を繰り返すんじゃないぞ……)


 彼がその日の夜に秘かに一人で飲んだ酒は、不思議と美味かった。

今回の遺産相続で……


「普段なにも働かない奴こそ、金の話になると声がデカくなって要求が他者より高くなる」


という事を学んだ気がします。

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