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11月14日

台風が来る前に更新。

 それから数日後。光の下にガレム隊長が渋い顔でやってきた。光はとりあえず出迎え、わざわざここまでやってきた理由を聞いてみると……


「光の大将、申し訳ねえ……せっかく作ってもらったあのすげえゴーレムなんですがね……」


 ガレム隊長曰く、まともに動かせないとの話だ。とはいえ、出来上がって実際に動かす操縦訓練を異世界側のチームが始めてまだたった数日だ。それは当然な話なのではないかと光は思ったが──ガレム隊長の話からして、こちらの予想するまともに動かせないというレベルではないようだ。


「大将、もし時間があるなら来てもらえねえですかい? 直接見てもらいてえんで……それに、画像で見ると絶対にイラついて来ると思うんでさ」


 ガレム隊長の言葉に、光は今後の予定を確認する──今日はここを離れても問題ないことを確認した後、連絡を取ってからさっそく訓練の現場へと向かう。そして訓練場で見たものは、歩くことすらまともにできず横転したり蹲る機体たちの姿だった。


「──いったい何がどうなっている? 何か不具合でも起きているのか?」


 光はつぶやいた後、周囲を見渡すと如月司令の姿を発見する。光はさっそくこの状況に陥った理由を聞こうとするために、如月司令の近くへと歩み寄った。


「如月司令、これは一体どういうことなのだ? ガレム隊長と共に少し遠くから眺めていたが、あれでは戦うどころの話ではないぞ?」「こ、これは藤堂総理! ええ、こちらとしてもなぜこうなるのかその理由が全く分からんのです。機体のバランサーや操縦補助AIなどの支援装備は正常に動いているのです。それは間違いないのですが……現実はこうなっておりまして」


 予定外の光による訪問に、さしもの如月司令も焦り気味である。どうやら如月司令としてもこの展開は予想外であったようだ。操作はズブの素人が扱っても問題がないように、各種バランサーや補助AIによるバックアップは当然機体にしっかりと組み込まれている。しかし現実は戦うどころか歩く事すら四苦八苦する機体達の姿を見せつけられ、倒れることで現場の地面も揺れる。


「ふうむ、機体制作の経験が豊富な如月司令の下で働くメカニックたちがお粗末な仕事をする何て事は欠片も思ってはいないが……司令、ちょっと私が乗ってみよう。もしかしたら原因が分かるかもしれん」「そ、総理がですか!? いや、しかし、鉄のパイロットでもある総理が乗れば……確認いたしますが、総理はある程度の魔法が使えるんでしたか?」


 異世界チームのメンバーが乗ることが前提となっているため、様々な行動に魔力を使う事で燃料の消費を抑え、なおかつ高出力を出す事を前提として作られている点が神威とは根本的に異なる点だ。そのため、現時点では魔力の力が弱い日本側の人間では機体性能を一切引き出せないという一面がある。


「ああ、ある程度の魔法に関する指導を受けているからな。魔法が使える証拠として、これでどうだ?」


 光は手の内側を上に向けてから水魔法で作ったバスケットボールぐらいの大きさを持つ球を作り出す事で、如月司令に魔法が使えるという証明とする。それを見た如月司令も「なるほど、これならば行けるかもしれませんな」と理解し、格納庫にある機体へ光を案内した。格納庫内には何度も倒れたと思われる汚れが付いた機体が数機、メンテナンスを受けていた。


「済まんが、メンテナンスが一番早く終わる機体はどれかね?」「これは如月司令──と、藤堂総理!? は、はい。それならばこの一つ後ろにある機体があと数分で終わる予定となっております!」


 この作業員の言葉に他の作業員達の視線が集まり、一斉に脱帽したのちに礼をする。光はその作業員達に「急に来たのはこちら側だ、私に気にせず君達の作業に戻りなさい」と一声かける。その言葉を聞いた作業員達はもう一度礼をすると作業に全員が戻ってゆく。


「如月司令、ちなみにこの機体の移動や出し入れはどうしているのかね?」「ここまで運ぶのは空輸で、ここでは神威・弍式が二機で運搬しています。あのように、担架のような形を取るんですな」


 と、さっそく外からメンテナンスのために運ばれてくる機体。これも転倒を繰り返したようで、あちこちに汚れが付着していた。その機体を運んでいた神威・弍式二機のパイロットに、如月司令が指示を飛ばしてメンテナンスが終わったばっかりの機体を外に運び出してゆく。機体の外装からして、銃の扱いに長けたフリージスティ王国の兵士用だろう。


「では総理、お願いします」「ああ、やってみよう」


 膝立ち状態にしてもらってから、簡易パイロット用のスーツに着替えヘルメットを装着した光は機体へと乗り込んだ。臨時パイロットとして機体に認証してもらった後にゆっくりと立ち上がらせる。システムはすべてオールグリーン、メンテナンスはきちんと行き届いている。


(さてと、まずは歩行から行くか。まともに歩けている機体が一機もなかったからな、私が動かせばその理由も見えてくるかもしれん)


 そう考え、光は機体に前進させるために操作を慎重に行う……とその時、頭のどこかにすっと何かが僅かに抜けるような違和感を一瞬だけ感じる。だがその後特に何もなかったのでひとまず後回しにして歩行を続ける……そう、光の動かす機体は問題なく歩行動作が出来ていた。メインカメラで周囲を見渡すと、周囲の目線がこの歩行している機体に集まっていることも感じ取れた。


『総理、聞こえますか? どうぞ』


 ここで如月司令からの通信が入った。なので光は『音声良好、問題なし。どうぞ』と返答する。それからややあって──


『総理、そのまま歩行動作を数分間続けていただけますか? 今のうちになぜ総理の動かす機体が歩行できているのかのデータを取りますので』


 と如月司令から要請が入ったので、光はそれに応えてそのまま数分間歩行による移動を行った。前進だけでなく後退、左右への移動も交えている。機体の感覚も分かってきたので、少し他の機体達と距離を開けてから軽いランニングをさせるような感じでこの機体を少し走らせてみた。走らせるときにまた少し何かが抜けるような──いや、おそらく魔力が抜けていったのだろうと光は当たりをつける。しかし、その違和感もすぐに消え、機体は問題なく走り続けることが出来ている。


『総理、良いデータが取れています! そして原因も見えてきました。もうしばし総理の好きに機体を動かしてください!』


 という事なので、跳躍や簡単な格闘の真似なども光は乗っている機体にやらせてみた。これらも問題なく動かせる。その様子をうかがっていた神威・弍式が威力を抑えた訓練用の銃を持ってきたため、試射可能な場所へと移動して射撃が問題なく可能かを確認する。ハンドガンタイプに始まり、ライフル、ガトリング、バズーカ、グレネードなども発砲してみたが、異常は一切発生しなかった。試射を終えて銃を片付けていると──


『総理、一度お戻りください。原因が分かりました』


 という如月司令の通信が入ったので最初の格納庫付近まで機体を戻す。機体を止め、下に降りて光は如月司令からの報告を聞く。


「総理に乗っていただき、動かしていただいた結果理由が判明しました。一言で言うと、パイロットの魔力による強化反応が過敏過ぎたのです」


 つまり、10の力で十分な所に30の力で動くような状況に陥ってしまっていたらしい。特に初めてこんな機体を動かすことになった異世界側の兵士の人々はそこら辺の加減が不慣れなためにうまく調整できず、魔力を機体に流しすぎて過剰な出力を出してしまった結果、バランスを崩して機体が横転するなどの問題が出ていたという事である様だ。


「しかし、総理に乗っていただけたおかげで適切なバランスのデータが集まりました。頂いたデータを元に機体のOSをアップデートしています。総理が先ほどまで乗っていたあの機体に蓄積したデータを反映させる形ですな。そこのフリージスティ王国の方、先ほどまで総理が乗っていた機体に乗ってみてください。今度はうまく動かせるはずですよ、総理が調整をしてくださいましたから」


 如月司令の言葉に頷いたフリージスティの兵士は頷いた後にもう一度機体に乗り込み、起動させる──そして、今度は横転することもなく、機体が動く。


『藤堂総理、如月司令、先ほどまでとは動かしやすさが段違いです! こちらのイメージに近い感じで動かせるようになりました! これならば!』


 そんな言葉が、如月司令の所に届く。OSのアップデートを終えた機体が次々と外に運び出され、マルファーレンスやフォースハイムからやってきている兵士たちも乗り込んでさっそく動かし始め……こちらももう転倒などおこさずに歩行動作を行う事に成功。そして走らせたり腕や足などに緩衝材を巻いてからの格闘戦なども徐々にこなせるようになった。


「AIの方にもデータがなさ過ぎて、適切な調整というバックアップが難しかったのだろうな」


 あっという間に動きが良くなっていく機体達を眺めながら、光はそうつぶやいた。最初の一歩が難しかったわけだが、そこを乗り越えれば豊富な訓練を積んだ人々だ。戦いのカンは染みついているはずなので、このように動かせるようになればもう問題はない。


「総理、出向いていただきありがとうございました。これだけ動けるようになれば、年末の戦いまでには武器の扱いもできるようになるでしょう」


 如月司令の言葉に光は頷く。


「いや~、やっぱり大将だ。こんなに早く問題をやっつけちまうなんて。これからも頼りにさせてもらいますぜ!」


 そう言いながら右手で作った握り拳を近づけてきたガレム隊長に対して、光も右手で握り拳を作ってトンと軽く合わせて「任せろ!」という意思表明をする。この後、機体を動かせるようになった異世界組のパイロットたちと酒場に繰り出し、交流を図った光であった。少々飲みすぎて、翌日軽い二日酔いに悩む羽目になったが……。

なんで24号とか来るんですかねえ?

しかもものすごく強い奴が。

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