11月2日
一年以上待たせてしまったのに、多くの人が待っていてくれた。
そんな読者の皆様に対して、自分ができることはこれだけです。
どうか、受け取ってください。
暦もついに11月に入り、様々な意味で日本中が慌ただしくなってきた。そんな中、光は如月司令から緊急の呼び出しを受けていた。
「如月司令、緊急事態とは何だ? 何か見落としが発覚したのか?」
如月司令からは光自らが必ずこちらまで直接来て欲しいとの一文があったため、光は如月司令の戦場である指令室にすぐさま急行して顔を合わせていた。
「はい、総理……まずはこちらの情報を見て下さい」
如月司令の言葉に従い、極秘と冒頭に記された一連のデータを閲覧する光。読み進めるうちに、光の表情が曇ってゆく。
「如月司令。念のために確認するが、これは本当なのか? 技術の革新とは、基本的に時間と金をかけてじりじりと進めるものではないのか? こんな短期間で、ここに書いてあることを成し遂げることが出来るのか?」
光が読んでいたデータ……そこに書いてあったのは、地球連合の防御フィールドの防御力がかつて西村の駆るKAMUI(当時の表記に合わせさせていただく)と戦った時の7倍以上になっている可能性がかなり高いという事が書かれていたのだ。
「はい、基本的には総理のおっしゃる通りであり、短期間でこんな大幅すぎる強化などは不可能です。基本的に次世代機は前の1割以上のスペックアップが図れれば大きな前進です。ですが今回は、ちょっと方向が違いまして……こちらの画像を合わせて説明をさせていただきます」
如月司令の手による指示で、次々と地球連合側のフィールド関連の画像が出てくる。この画像は日本側と異世界側の共同作戦で手に入れたものであるとの説明が出たので、光はそれに頷いていた。
「この通り、技術そのものは極端な進歩を成し遂げたというわけではありません。ですが各種武装を短期間で使いつぶす事を覚悟して、無理やり出力を上げる方法で防御能力を向上させています。このシステムではおそらく2日、持っても3日しか維持できません。ですが、向こうは数が多い。その3日持たせることが出来ればこちらの勢いを潰せるとみているのでしょうな……その考えは間違ってはいません。数はこちらが圧倒的に少ないのですから」
よく戦いにおいて語られる量と質。だが特殊なゲームでもない限り基本的には量で勝敗が分かれる。エースパイロットが敵機を100機落とせるとしても、他の戦場が数で殲滅されてしまえばその程度の戦果は意味がない。
だから戦いは数、量であるという見方が一般的となる。今回もまさにそれで、日本1国で世界を相手取るのだ。数の優位は当然向こうにあるのが当たり前だ。その不利を、日本側は何としてでも質でひっくり返さなければならない。
「こんな無茶をあちら側がしたのも、以前西村によって突然艦隊が全滅した出来事が理由でしょうな。あの全滅によって今までの防御能力では足らぬと判断したとみるべきでしょう」
KAMUIのデータはなくとも、あの艦隊を短時間で殲滅できる存在がいるという情報だけはごまかしようがない。だからこんな手段に出たのか……と光は心の中で考えをまとめる。
「如月司令、貴方の事だ。すでにこの状態の連中と戦った場合はどうなるかのシミュレートは出来ているのだろう?」
光の言葉に、如月司令は頷いた後にあるシミュレーションを展開する。
「総理のご想像通り、この防御力が7倍となったバターンから10倍になったパターンまでをシミュレートしてみました。その結果は、ご想像通り芳しくありません。試験機体として様々な強化を最優先で入れている初代神威と、総理が駆る鉄以外の機体による撃破が非常に難しい。異世界側の皆さんが駆る事になる機体の方はまだ魔法に関連した情報が不足していることもあり、ここでは計算から除外しています」
シミュレートでは初代神威と鉄が敵船や敵機を撃破しているところが映し出されているが、ほかの神威・弐式、並びに零式の攻撃はほぼ通じていない。そして弐式や零式が敵側の攻撃によって消耗し、徐々に数を減らしていく結果が映し出されている。
「──何の対策も打たねば、このシミュレート通りになるだろうな……しかし、ここに来てこんなことに対応できる時間など……先日の陛下のお言葉で士気が上がっているというのに、こんなことになれば気持ちで押されかねない。そうなったら、どこから何らかの切っ掛けでこちらの戦線が崩壊するか分かったものではないぞ」
両手を組みながら、シミュレーションを睨みつけるように見る光。その顔にはじっとりと汗が浮かんでいた……むろん、いい汗であろうはずがない。だが、如月司令の話はここで終わりではなかった。
「はい、このまま何もしなければ総理のご想像通りの展開になることはこちらも理解しています。そして、技術班と対策を話し合った結果、こちらの銃と剣の試作品が上がってきました」
シミュレートが中断され、新しく上がってきた画像。そこには西暦2000年の人が見たらアンチ・マテリアルライフルと呼ぶであろう外見の銃と、いくつもの光のラインが刻まれている日本刀の外見を持った剣が映し出されていた。
「まずは銃の方から説明します。こちらは先端についた超質量弾を打ち出す銃です。目的はフィールドに短時間に強大な負荷をかけて、オーバーヒートを引き起こすことを狙ったものです。弾頭である超質量弾は異世界側からもたらされた重力魔法を用い、数トンのデブリを無理やりあの弾の形に押しつぶした物です。そのため、シミュレート上ではありますがフィールドに対して多大な負荷を強いることが可能との結果が上がっています」
数トンの重さがあっても、重力操作をすれば問題はない。まさに魔法の使用を前提とした超質量弾を発射する銃である。
「もう一つの刀型の剣も魔法の力を組み込んだ試作品です。こちらは刀の特性通り、ただひたすらに斬り裂くことに特化していますが、使用時には刀に走っているラインをすべて起動させて複数属性の魔法の力を束ねてから振らねばならないため、現時点の魔法に対して深い知識を持っていない我々には扱えません。こちらの刀は、異世界側の皆様に使って頂く予定となっています」
複数属性の組み合わせによっては、特殊な状況を引き起こせるという異世界側の知識と技術提供によって成立した機体が振るえる大型の刀である。もちろん異世界側でも複数の属性を同時に使うのは高難易度の技なのだが、その問題は日本の技術者の協力によって、限定的ながら斬り裂くことに対して特化した魔法刀が生まれる事になった。
「なるほど、この武器の有用性はわかった。だが如月司令、戦いの刻はすぐそこなのだ……実戦に耐えうるだけの数を用意できるのか?」
どんなに強い武器であったとしても、戦場だと1つ2つでは当然足りない。せめて銃の方は全体の3分の2に行き渡るぐらいの量は最低でも欲しい。さらに欲を言えば、故障したときのスペアも一定数あればなおよしなのだが……
「できる出来ないではありません。やります。そろえて見せます。戦いに出る戦士に適切な装備を渡せないなど、指揮官としてあってはならないことです。もちろん状況によっては叶わぬこともありましょう。しかし、それを状況のせいにして司令部は悪くないなどと言ってしまっては、指揮者として失格のはずです。陛下も戦う。多くの国民も戦う。ならば我々にできることは戦う者に勝てるだけの装備を渡し、勝利して無事に帰ってくる可能性を上げることではありませんか」
言い切った。何の迷いも無く光の言葉に如月司令はそう言い切った。
「現場もフル回転です。技術者の意地にかけて、戦いが始まるその時までに配備できるよう全力でやって見せると向こうも胸を叩いていました。総理が切り開き、続いた者が広げ、陛下が確固たるものとしたこの道を潰させてなるものか。そういう意気込みで連日生産を急いでいます。無茶をさせていますが、今はその無茶をするだけの価値がある時です。新しい歴史が生まれる時に立ち会っているのですから」
ここにも熱い魂の熱があったか、と光は思った。ならばこの熱を冷やすような真似をするべきではない。そう、こういう時には一言いえば良い。
「分かった、その言葉と行動を信じる。その言葉と行動に、こちらは勝利、そして新しい日本の夜明けという形で報いよう」
光の言葉に、如月司令や周囲にいた人々は一斉に敬礼。その敬礼に、光も敬礼で返す。この期待を裏切ってなるものか──光の心に秘めた熱は、より一層燃え上がる。
一話書くだけで体に熱がこもって大変です。




