10月30日
更新が久しぶりすぎて、もう見てる人はいなさそう(汗
陛下、自らご出陣!? その日の新聞やニュースはその言葉一色に染まった。天皇陛下が自ら戦場に立たれる事が発表された直後、日本が揺れるかのような衝撃が起こった。異世界側の人々も、陛下を軽く見ている者は誰一人としていなかったのでこちら側にもかなりの衝撃を与えていた。
そして当然、なぜ陛下が自ら戦場にお立ちになられるのか? という疑問が総理大臣である光に向けられる事となるのは予想できるため、総理大臣による緊急会見を開くことも併せて伝えられた。そして午前の11時、光は各メディアを通じて国民に発表を始める。
「では、時間になりましたので、総理大臣藤堂光による緊急会見を行います」
司会役の男性の声とともに、それは始まった。
「皆様、こんにちは。総理大臣の藤堂光です。さて、皆さまもすでにお聞きになっていらっしゃるでしょうが、今年の末にあると思われる戦いにおいて、天皇陛下が、自ら戦いにお出になられる事となりました」
光の言葉を受けて、デマなどではなく本当に天皇陛下が自らお立ちになられるという事を日本国民が理解したと同時に、何故そのような事になった、陛下を思いとどまらせるべきではないのか? という疑問が当然ながら湧いてくる──という事は、当然光の方も理解しているために話を続ける。
「この発表を聞いた国民の皆様はおそらくこうお考えになられたはずです、『陛下のご出陣を、お止めするすべきではないのか?』と。はい、それが普通ですし、私もお考え直していただくように申し上げました。しかし、陛下のご意志はとても固く、万が一にも戦死なされた後のことまで全て整えていらっしゃいました。それだけではなく──」
光の発表に聞き入っているためか、この時の日本全体が不気味な静けさに包まれていたと当時を知る人は後に語っている。
「VRによる軍事訓練を、陛下は行っていらっしゃいました。また、私は陛下と近衛の皆様が戦う姿も拝見させていただきました。その結果、陛下と近衛の皆様の腕前は他者に後れを取らぬ所か、かなりの技術をお持ちになられておりました。こういったこともあり、反論するだけの材料を私は失ってしまいました。ですので、陛下のご意志を尊重するという話となりました」
光の言葉に、沈黙から騒めきへと国民全体の反応が変わってゆく。まさか陛下がご出陣なさっても、後方に待機する形となるだろうという考えが完全に否定され、実際に戦闘を行うのだという事がはっきりしたためだ。
「そして、これから陛下のお言葉を頂戴することになっております。陛下、よろしくお願いいたします」
更にまさかの天皇陛下が自らお話をなされるという事態に、再び日本全体が静まり返る。そんな中、陛下がその姿を国民の前に現した。なんと、異世界側のフルーレの国が使用している戦闘装備姿で、だ。そしてマイクの前に立ち、お話を始められた。
「日本国民の皆様、こんにちは。突然のお話で混乱を招いたことをまずはお詫びいたします」
そういった後に、陛下は深々と頭を下げられた。そして頭を10秒ほど下げた後に頭を元に戻された後に再び口を開かれた。
「しかし、今回の戦いはまさに我らの祖国が生き延びられるかどうか。そして未来に生まれてくる子供たちの明日を守れるかの境目となります。そのような時に、国の象徴たる天皇が奥に引きこもって震えているようでは話にならぬ。そう考えたが故に、私はあちこちに無理を言い、神威・零式を駆る訓練ができるVRの機材を用意して頂いたり戦闘用の装備を整えていただいたりして、戦いに備えてきました」
陛下の本気を知ったことで、熱が生まれ始める。物理的な熱ではなく、心の熱。時に人の心がきっかけを得て同じ目的の下に集まれば、天を揺るがすこともあるという。まさに今の日本には、そういった『熱』がこれまで以上に高まる機運を見せていた。
「しかし、肝心なのはそこではありません。この日本の明日を、もう一度立ち上がる可能性を生み出したのは今までの苦境に耐えてきた国民の皆様の辛抱があったからこそ。そして、その辛抱に応えてきっかけを持ってきた藤堂総理。国民の皆様と彼が居なければ可能性すら見ることが叶わなかったでしょう。そうです、今の日本が失ってはいけないのは私ではありません。長い苦境を耐えた国民の皆様と、藤堂総理、その人なのです!」
天皇陛下の言葉に、国民も頷く。今年の2月から大きく変わってきた日本。そのきっかけが現総理大臣である藤堂であることを否定する者はいない。藤堂が旗を振らなければ、こんな転機が訪れることはなかっただろう。
「その国民と、藤堂総理が戦場に出る。私から言わせてもらうのであれば、この機運を運んできてくれた藤堂総理こそ後方で待機していただき、今後の日本を導くために戦死する可能性を零にして欲しいぐらいだと考えています。しかし、彼は戦場に立つ。ならば私もそこに立ちたいと考えました。天皇という存在だからではなく、一人の漢としてこの国を護るために!」
陛下の熱を帯びた言葉に、握り拳を作る国民が大勢いた。
「国民の皆様も、一人一人ができることで国を支えていただきたい。直接戦場に出なくとも、一人一人ができることをする事こそがこの国を護る事につながるのです。不当な扱いに耐えねばならぬのもあとわずかの期間、そこにたどり着くために進む我らには天皇や国民といった壁はありません。国に住まうすべての人が一致団結して明日をつかみ取る友、それだけです! そして多くの友が戦うというのです、ならばその友と共に戦える力を持つ私が同じ場所に立つ事はなんらおかしいことではないでしょう」
光は目に熱いものを感じていたが、必死でこらえていた。友、という言葉にこれだけの熱を感じたのはいつだっただろうか、などとも考えてしまっていたが。
「それが、私が戦場に立つ理由となります。国民の皆様、共に明日を勝ち取りましょう」
その言葉を締めとして、天皇陛下はマイクからお離れになられた。そして再び、光がマイクの前に立つ。
「最初は手紙を、との予定でしたが……陛下が自ら話をなさりたいとの事でしたのでこのような形と相成りました。ご理解のほど、よろしくお願いいたします。そしてこの苦境も残すところ2か月と少々と言う所まで来ました。陛下からいただいたお言葉通り、一致団結して未来の子供たちに輝かしい明日を残すため、皆さまと共にこの状況を乗り越えましょう!」
光の言葉に多くの拍手が日本の各地から沸き起こった。その拍手の中、緊急会見は無事に終了した。
「結果を見れば、より国の結束が固まったという事になりますね」
フルーレの言葉に光は頷く、が。
「いつ陛下にあの鎧を献上していたのかを聞きたいんだがね?」
少々非難を込めた視線を送りながら放った光の言葉に、フルーレは笑顔を崩さぬまま返答を返す。
「漢が欲しいというのです。戦う覚悟を決めた戦士が欲するのです。渡さない理由がありません。時期としては二か月より前、ぐらいでしょうか」
そういえば、フルーレの国は戦士の国だったなと光は思い出す。あそこの王様……フルーレの父親だが、そういう考えのもとに動いてもおかしくはない。
「陛下のお覚悟は確かに見せていただいたよ。まさかそちらの警護に回っていた者を相手に訓練までなさっていたとは思わなかったが」
あの鎧を着た今の陛下は、ちょっとした相手ぐらいは鼻歌交じりで倒せる。それがフルーレからの報告であった。
「私達の国に欲しいぐらいの漢ですね、あの御方は。面倒事が終わったら、ぜひ我が国に国賓として招かせて頂きたいです。もちろんその時は光様も一緒に、ですが」
まあ、国賓として3カ国を回ることはほぼ確定しているから問題はないが……
「その時は、今回のような不意打ちはやめてくれよ? 陛下のあの御姿を見た時は必死で叫ぶのをこらえたのだからな……」
この光の言葉に、フルーレは「ええ、今回限りですよ」との返答を返す。なんにせよ、陛下のおかげでより国民の結束が高まったのは歓迎すべきことだ。そう、光は割り切ることにした。
更新頻度を上げるのは、申し訳ないですがもっと先になりそうです。




