表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/219

10月27日

「──こちらの映像も見せていただきました。少々アクロバティックすぎるとは思いますが、それを差し引いてもすさまじい性能ですね」


 先日行われた試合の様子を収めた映像を、異世界側にも提供した光。映像が終了した後にやや時間をおいてからそう呟くような感じで言葉を発したのはフェルミア。そのエルフのような美しさも、今は驚きと戸惑いの表情を浮かべている。


「いや、特に最後の勝負はすごいな。俺の所の闘技場でも、ここまでの一戦はそうそうお目にかかれねえ。そう言う意味では最高の物を見せて貰ったぜ」


 これはガリウス。戦士でもあるガリウスからすれば、剣を扱った神威・弍式が勝利を収めた瞬間は何か熱い物を感じた可能性が高いだろう、と光は見ている。


「ぬぬう、この巨大な砲を扱う戦士も一流じゃが、まさかあんな形で剣を使う者が反撃してくるとはの……あの瞬間、砲を用いている戦士が勝ったと思ったのじゃが」


 そして沙耶。彼女の国は銃などが戦う者の装備ゆえに、まるでガリウスの国に負けたような気分になってしまったのかも知れない。


「このように、量産タイプのさらに一歩劣る神威・零式ではありますが、最初にロールアウトした神威に劣らぬ優秀な機体である事はご理解頂けていると思います。そして今回パイロットとして戦いに参加する彼らは、後方のバックアップや少数によるピンポイントな戦場で活躍してもらう予定です」


 異世界側における三か国の象徴である三名の感想を聞いた後に、光はそう話す。その理由だが、彼らを最前線に出すのはあまり良くないとの考えがあるからだ。別に一般市民上がりだから何とかという訳ではなく、集団行動であればすでに何度も訓練を積んでいる自衛隊が動かす神威・弍式部隊の方が優秀であり、彼らを前線に出す方が連携の混乱による戦線の混乱が起きる心配は少ない。しかし、いつの世も予想外の奇襲や作戦と言う物は存在する。それに『忍』からの情報にもあった「偶然や悪意のない機械ならば入り込める危険性がある」と言った魔法陣の穴を突かれる可能性もある。そう言った自衛隊の手が届きにくい所への対処に、アクロバティックな行動を可能とする神威・零式のパイロット達に動いてもらうつもりなのだ、と光は説明した。


「なるほどな、確かに戦ってのは一か所二か所だけでやる訳じゃねえ。斥候や別動隊同士の戦いって物もある。そしてその別動隊が勝った方が敵の本体に不意打ちを仕掛けて最終的な勝利を掴むってのも良くあることだ。そう言う連中は、むしろ行儀よくやるよりもさっきの様な行動が取れるやつらの方が良いかも知れねえな」


 光の説明を受けてすぐに反応したのはガリウス。やはりこの人は、そう言った戦いにおいての反応が他の二人よりも敏感だなと光は再認識する。生粋の戦士であるのだろうと。


「しかし、これはばーちゃるりありてぃ、でしたか? 機械で生み出される仮想現実で行われた戦いであるとの事でしたが、実際にできる動きなのですよね……たった一機で、ここまでの戦闘能力と運動性を両立する……世界が変わればここまでの変化が有る物なのですね。こういった戦いの技術だけではなく、食べ物でもそうでしたが」


 フェルミアの言葉に、頷くガリウスと沙耶。これは上層部だけではなく、一般市民クラスでもそう言った認識になりつつあると言う意味である。その認識を変えるきっかけは言うまでも無く日本から提供された各種食料なのだが……そして日本側は知る由もない異世界側で進行中の変化が存在する場所がある。それは食べ物を提供する食事処や酒場と言った場所だ。日本の料理を食べた市民たちからは、どうにかしてあの日食べたカレーに近い物を口にする事が出来ないかとの動きがある。


 脱線にもほどがあるので細かい話は大幅に省くが、今までの料理をそのまま出し続けていては日本がやってきた後に一気に駆逐される恐怖を味わった各種食事処や酒場は、ある意味大忙しで新しい味を模索しているのだ。ある店では日本の味に近い物を目指し、ある店では今までの技術をベースに新しい味を模索すると言った感じで。まだ日本が異世界にやって来ていないにも関わらず、すでに日本という存在によって確実に新しい流れが異世界側にも出来上がりつつあるのだ。それは長年使われていなかった錆びだらけの歯車達が潤滑油を与えられ、錆を吹き飛ばしながら回転を始めたかの様に。


「とにかく、頼もしいの。負けはしたが、この砲撃使いの女子は是非我が国に来て欲しいものじゃ。あの様な巨大な砲を用いる運用は実に見事じゃ。あのような砲をいくつも揃えれば、きっと神々の試練も吹き飛ばす希望の一つとなるじゃろう。無論剣士の方も見事じゃ、あの者なら、神々の試練すらあの巨剣で一刀両断してしまいそうじゃ……久しいのう、こうも日が過ぎるのが遅く感じられると言うのは。わらわは早くこのような画面越しではなく直接触れ合える距離でこのような勇士達に会いたいものじゃ」


 そんな沙耶の言葉に、光は苦笑する。まあこういう反応は決して悪い気はしない所ではあるが、とも光は内心で思う。


「何にせよ、日本国の戦闘準備も着々と進行していると言う事は良く解った。後はそちらでの最後の戦で快勝してくれれば、こちらに来た時に箔がつくだろう。戦なんてものは出来る限りするもんじゃないが、それでもやらなきゃいけない時もある。ましてや今回は自分達の国を守る為の防衛が目的なのだから、遠慮せずに叩き潰してしまえばいい。血は流れるだろうが、これは必要な事だ。慈悲など掛けるなよ、ヒカル殿。情けをかければつけあがる一方なんて奴は山ほどいるぜ」


 ガリウスからのアドバイスに、光は一度だけだがしっかりと無言で頷く。もう無血での解決はあり得ない。ならば自国側にはできるだけ血を流させず、敵国には無数の出血を強いるようにする必要がある。その決断も覚悟も光の中ではすでに済んでいる。その事を察したガリウスも、それ以上の言葉を重ねる事は無かった。


「あくまで、地球最後の戦争は前座に過ぎません。本命は神々の試練に打ち勝ち、たくさんの子孫が笑顔で生きる事が出来る世界を作る事です。こんな所で立ち止まってはいられません」


 光の言葉に、頷く三人の国家の象徴。結局はそこに集約されるのだ。その為に異世界側は日本と接触し、協力体制を敷いている。光の言った通り、立ち止まれる時はとっくに過ぎ去っている。後はもう最後の戦いに勝ち、異世界に転移する。その道を突っ走るしかない。もっとも、光だけではなく日本国民や陛下と言った上下全ての日本人の血を引いている人すべてが突っ走る事を止める気持ちは欠片も無い。この異世界からの接触は、地獄に垂れ下がって来たクモの糸のような物なのだから。そして、その糸を切らさぬ様に登り切らなくてはいけない。物語以上に凄惨な方法を用いても、だ。


 こうして、異世界側に対する神威・零式と新しい戦士たちのお披露目は無事に終了した。地球における最終戦争はもう二か月後に迫ってきている。世界に走る緊張感は、じわりじわりと嫌な空気を生み出してきている。

忘れられた時にこっそり投稿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ