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10月25日

こっちの更新はお久しぶりですね。

「皆様お待たせしました、これより各地方から勝ち上がってきた三十二名の戦士の登場です!」


 数日後、東京のある場所にて一般市民からの神威・零式パイロット選抜戦は最後の舞台を迎えていた。勝ち残った三十二名の男女は、この決戦場で優勝者を決める事になる。しかし、これはシミュレーターこそ用いているが、いざ戦闘が始まれば本物の神威・零式に乗ってその手を紅に染める覚悟が出来ている者たちの集まりでもある。故に、彼らは戦士と言っても問題はないだろう。念を押して、この舞台に上がる数日前にそう言った事が記された念書もここに集った三十二名に配られたが、全員その覚悟はあると血判状で返してきた。朱肉などではなく、己の血で印を押した所からも覚悟が伺える。


「この場に集った三十二名はすでに全員が神威・零式に乗ることは決定しておりますが、やはりナンバーワンを決めずに終わると言うのは締まらないお話です! なので、この場にて一千万人以上が応募して全国で行われてきた激しい戦いの王者を決定したいと思います!」


 観客席から歓声が沸く。この日の為に仕事を早めに終わらせてきて休日を取って来た人はかなりの数に上り、この決戦の舞台は熱く燃え上がっていた。一つの場所でこれだけの歓声が上がると言った事自体、今の日本にとってはあまりない事だ。だからこそ、その反動もあってかますます会場はヒートアップしていく。


「早速抽選なのですが、今回は特殊なトーナメント方式にさせていただきます。まずは一回普通にくじを引いてもらいます。そうして勝ち残った十六名にはまたくじを引いて頂きます。こうすることで決勝戦以外は誰と戦う事になるかが分からない形となります。それでは早速、ベスト十六を決める為のくじを引いて頂きましょう!」


 次々とくじが引かれ、組み合わせが埋まって行く。決まればすぐにシミュレーション筐体に入って出撃してゆく三十二名。ルールは制限時間十分のワンセット・マッチ。自機体を大破させられたら負け、時間切れの時には機体耐久力……ではなく、防衛拠点の消耗率が高い方が負けである。防衛拠点が落とされても即座に負けになる訳ではないが、落とされてしまうと機体の性能がかなり落ちる。防衛拠点をある程度護りつつ、相手を落とさなければならないルールとなっている。


 そして試合は進み、早い所では三分、遅くとも八分前後で決着がついてゆく。タイムアップが発生した試合はゼロ。負けた戦士は即座に舞台から去り、勝ち残った戦士は再びくじを引く。そうして十六、八、四と戦士は数を減らしてゆく。ちなみに彼らの神威・零式についているオプションパーツは射撃重視の形が多かったが、格闘重視もそれなりに居た。戦い方も三機をワンチームとする自衛隊の駆る神威・弍式とは全く違う。動いてチャンスやわざと隙を晒したと見せかけて反撃するブラフ等の様な読み合いを見せ合いつつ相手を潰す形だ。これは単独戦闘とチーム戦闘というそもそもの前提が違う為に当然の事なのだが。まあ、視聴者が見ていて楽しいのは、激しい動きが多くなる一般から勝ち上がってきた戦士たちの方だろう。


「いよいよ、残り二人となりました。決勝を始める前に、ここまで戦い抜いてきた戦士の紹介をさせていただきたいと思います! まずは近接戦を重視する神威を駆り、素晴らしい回避技術とピンポイントでの防御を駆使して相手を斬り伏せてきた大剣使い、後藤英司さんです! 射撃は主にビット系を用いる事で両手に大剣を持つことに専念させています! ビット系は他の射撃武器に比べると出力にかなり劣りがありますが、これは完全にあくまで射撃攻撃は牽制に使えれば良いと考えているのだと思われます。これまでの決着は全てその手に握られた大剣が全ての勝負を決めてきました!!」


 紹介を受けた後藤英司は、観客席からの歓声に手を振って応える。


「そしてもう一人は~なんとなんと、後藤英司さんの幼馴染でもあり、ライバルでもあると言う佐藤恭子さんです! こちらは後藤さんとは違って遠距離戦を得意とする神威を用いています! 機体の装甲を出来る限り削り、機動力を最大限に上げているそうで、オプションパーツも銃弾を積み込む系統が主! 後は近接戦闘用のマギ・タクティカルナイフをいくつか機体のあちこちに仕込ませている事と、緊急時にはパージできる大型のマギ・キャノン砲を備え付け、レーダーの性能を大きく上げている以外は基本装備のみ! それなりの重装甲&ブースターパーツを追加している後藤さんとはかなりの違いがありますね!」


 再び起こる歓声に、佐藤恭子も手を振って応えた。


「泣いても笑ってもこれが最後の戦いです! ではお二方、戦闘準備に入ってください! さーて、いよいよ頂点が決まります! 最高の神威・零式はどちらなのか? 戦士として戦い抜くのはどちらなのか! いよいよ決勝戦が始まります!」


 徐々に会場が静まり返っていく。その妙な静けさの中、二人の決勝戦進出者である後藤の機体と佐藤の機体がフィールドに降り立った。降り立つと同時にすぐさま行動を開始する両者。当然ながら後藤はガンガン前方にでる。もちろん遮蔽物の間を縫うようにして、だ。一方の佐藤はそんな後藤から一定の距離を保ちつつ、基本装備のマギ・ビームライフルを構えて何時でも射てる体勢を保っていた。


「両者の距離が詰まりません! 後藤選手の動きを完全に見切っているかのように佐藤選手が動く! 機動力を重視していると言うだけあって、後藤選手との一定の距離を保って射撃攻撃を仕掛けています! 袋小路に詰められることも無く、優雅さすら見せるような動きで後藤選手の大剣が振るえるチャンスを与えません! これは射撃攻撃がビット系と頭部にあるバルカンだけの後藤選手にとっては辛い展開です! ブースターパーツの出力を上げて一気に距離を詰めなければ、このまま一方的にむしられるだけとなりそうです!」


 序盤は佐藤が後藤を手玉に取るような動きで圧倒する。的確なライフルによる射撃ダメージは、いくら装甲を上げていても確実に機体耐久をむしり取って行く。もちろん後藤もビットやバルカンで反撃をするが、ビットは避けられ、バルカンだけではいくら装甲が薄いといっても効果的なダメージは稼げない。このまま射撃によって装甲を削られ、動きが鈍った所に佐藤が備え付けている巨大キャノンの一撃が刺さるのか。観客側のそんな予想が飛び交い始めたころに、突如佐藤の機体の動きが僅かにだが鈍った。


「あーっと、今のは危ない! 佐藤選手、疲れて集中力が一瞬切れたのでしょうか? 今の後藤選手の振るった大剣に当たりそうでした! 装甲の薄い分、あの大太刀の一撃を受ければ最悪一発で戦闘不能になりかねません! 佐藤選手の誘いという訳ではないようですね、反撃が出来ていませ……いや、佐藤選手ライフルを撃った! しかしその方向は自分の防衛拠点がある方向だ!? なぜ自分の拠点を撃ったー!?」


 実況者や観客達は、その数秒後に佐藤の行動を理解した。佐藤が撃った射線の先には、後藤がひそかに一機だけ飛ばしておいたビットが、佐藤の拠点をちまちまと攻撃していたのである。当然ながら佐藤の放ったライフルの弾はビットを一撃で打ち抜き、爆発させる。ビットの補充は戦闘中は行われない。その為一機破壊されたことで射撃戦と言う面ではより苦しい状況になった後藤ではあるが、ビットを一機犠牲にしても拠点に攻撃を仕掛けさせ、佐藤の機体のステータスダウンを狙ったのである。その結果が、自分の大剣がぎりぎりで届きそうな状況を作り上げた。


「何と後藤選手、ビットを一機佐藤選手の拠点に攻撃に向かわせていたー! 大したダメージではありませんが、佐藤選手の機動力がわずかに鈍ったのは大きいです! ビットは五機なので残り四機となってしまいましたが、それだけの価値はあると判断して行ったのでしょう! おっと、今度は佐藤選手のライフルの銃口が後藤選手の拠点に向いているぞー!」


 やられた分のダメージを拠点に与えればイーブンになる。そう判断してライフルを数発放った佐藤であったが、これは予想通りとばかりに機体を射線上に滑り込ませ、シールドを展開させた後藤の機体によって阻まれる。防いだ後はすぐさま前進してくる後藤の機体に対して、佐藤は拠点攻撃を諦めるしかなくなった。ぎりぎりでも回避できることには違いないと割り切った佐藤は、チャージをゆっくりと行わせていた巨大なマギ・キャノンの射撃を行うタイミングを計ることに集中力を傾け始める。


「拠点への攻撃は出来ませんでしたが、それでも佐藤選手の回避技術は素晴らしい物があります! 襲い来る大剣は全て回避するだけではなく、何と相手の土俵である近接戦で反撃を仕掛けています! 手や足に仕込まれたマギ・タクティカルナイフが後藤選手の機体に傷跡を増やしていくー!!」


 アウトレンジでの攻撃が得意ならば、インファイトは苦手……という大方の予想は大きく外れた。まるで柳の様にしなやかに、しかし折れずに大剣の周囲にまとわりつき、反撃を加えていく佐藤の駆る神威・零式。その姿に多くの観客は見とれた。


「後藤選手、これはかなり苦しい! 大剣の間合いよりも近寄られてしまい、かえってその大きさが仇になっているー! ここまで勝利を呼び込んでくれた大剣が一転して足かせに……なんと後藤選手、ここで大剣を投げ捨てたー! そして繰り出された佐藤選手の神威・零式のパンチを掴んでからのー……なんと一本背負いだぁ!?」


 この後藤のの戦法の変化に会場の観客は驚きの声を上げる。武器を放棄する決断力、そこから投げ技という予想しずらい攻撃を繰り出し見事に決めた事で、彼もまたここまで戦い抜いてきた猛者であると言う事を会場に居る観客は思い出す。


「これは効いている! 佐藤選手の駆る零式の背面部にかなりのダメージ! 更なる追撃を後藤選手が繰り出しましたが~佐藤選手、それは転がって回避した! そして、佐藤選手の巨大キャノンが強く発光し始めたぞー!? まさか、後藤選手に悟られない様にゆっくりと時間をかけて密かにチャージして来たのかー!?」


 至近距離のキャノンから繰り出されるビームの威力は、零式に基本搭載されているシールドでは防げない。防御を重視したチューンについてくるシールドがあれば別だが。しかし、後藤の機体は近接戦闘重視のチューン。盾などあろうはずもない。


「これは後藤選手、回避は絶望的だーっ!! そして容赦なく、巨大キャノンからビームが放たれたー!」


 実況者の絶叫に近い声と共に、放たれたビームが後藤の神威・零式に迫り、後ろ向きになって逃げようとしていたその姿を覆い隠していった。これで佐藤の勝利で決着がついた──と、この場に居る後藤以外の人間はそう思った。そう、後藤以外は。佐藤の神威・零式がキャノンからビームを撃ち終え、そこには後藤の神威・零式の姿が無くなった事を確認したその直後。上空から一本のボロボロになった大剣が佐藤の神威・零式を貫いたのだ。一転して静まり返る会場。そして、続いて表示された後藤の勝利画面に、誰もが顔を見合わせた。一体何が起きたのだ、と。


「す、すみません! 先程の後藤選手の動きをスローをかけたリプレイを出してください!」


 実況者の言葉に応える様にリプレイ画面が表示された。そしてそこに映っていた後藤の動きに観客達は驚愕した。あのビームを撃たれかかった瞬間。後藤はここまで全く使っていなかったブースターの完全解放を使用。その勢いで投げ捨てた大剣の元に走り寄っていた。そして大剣を拾うと同時に、振り返りつつ大剣を盾にしながら上方にジャンプ。ビームに押し流される形となったが、盾にしていた大剣が一種のサーフボードの様な働きをしたお蔭である程度ではあるがビームの威力を受け流すことに成功すると同時に、上空に勢いよく投げ出された。この時に盾にしていた大剣には大きなダメージが入り、ボロボロになっている。


 これらの要素が組み合わさった事で上空に投げ出される形となった後藤の神威・零式だったが、ブースターの出力で無理やり方向だけは修正し、そこからジャベリンの様に大剣を佐藤に向けて投げつけていたのだ。その大剣が、キャノンを発射して動けなくなっていた佐藤の機体に突き刺さった、という結末らしい。


「な、何という事でしょうか。あの状況で諦めずに反撃を後藤選手は行っていたようです!!」


 この実況者の言葉の直後に、怒号の様な歓声が会場を支配した。手を叩く者、腕を振り上げる者、後藤コールをする者等いろいろである。その声は、この戦いを行った二人が、シミュレーション筐体から姿を現した時にもう一度大きく盛り上がった。その直後に万来の拍手が降り注ぐ。こうして一千人以上が参加した、パイロット希望者の頂点には後藤英司が到達する事となった。そしてこの後の表彰にて、サプライズを仕込んでいた光が会場に現れ、後藤に賞状と記念品を贈ったのだが……この時の後藤は突然の総理の登場にカチコチになっていた事をつけ加えておく。

今回だけは光はちょい役。

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