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10月19日

 会議の二日後。神威・弍式に搭乗することになっている自衛隊隊員たちのシミュレーションが開始されていた。いつも通り、三機を一つのチームとした編成による戦闘訓練。ゲーム的に表現するならば最後まで生存したチームが勝ちとみなされるデスマッチ式。今回参加している予備員を含めた総勢百二名が広いマップ上のあちこちで銃弾を撃ちあっていた。各自自分に合ったオプションパーツも神威・弍式に装備しており、ガトリングやホーミングミサイル、小型迫撃砲によるエリア攻撃なども展開されている。


「GOGOGO!」


 ある小隊が攻撃に手ごたえを感じ、より攻めようとした。それを見ていた他の隊が漁夫の利を狙おうと動く。そんな駆け引きがあちこちで見られていたが……生存している神威・弍式の搭乗員全員に、突然の緊急事態を告げるアラートが届けられた。


『緊急事態発生、緊急事態発生! 現作戦領域に強大なエネルギー反応を持つ存在が接近中! 各自自衛隊隊員は一時戦闘を中止し、この近づいてくるエネルギー反応を持つ存在を共闘して撃破せよ! 繰り返す、共闘して撃破せよ! 共闘せずに他者の機体に対して攻撃を加えた者には多大なペナルティーを与える!』


 僅かに「これはどういう事だ!?」といった声が聞こえたものの、すぐにお互いの戦闘を中止して共闘に備える各自衛隊隊員。回線もすべてオープンし、情報のやり取りができる様に変更も済ませた。そして、オプションパーツで特に情報や観測能力と言った、スポッター向きの能力を重視した弍式搭乗員から情報がもたらされた。


「各自、戦闘態勢を取ってください。四時方向からかなりのスピードで高エネルギー体が接近中! 数は一! 後二分後にはこちらの有効射程範囲内に入ります!」


 方向も分かった事で、一斉にスナイパーライフルやアンチマテリアルライフル、マギ・レーザーカノン等の遠距離射撃向き武器の銃口が同じ向きに向けられる。そして、それは来た。


「撃て!」


 誰かの号令と共に、銃口から弾が次々と放たれる。しかし、その放たれた銃弾全てが回避されるか、向かってくるエネルギー体の発する防御フィールドによって無効化されてしまった。だがその様子を見ても自衛隊員たちは怯みもしないし慌てもしない。一度で効かねば二度三度攻撃すればいい。いくら強大なフィールドと言えど、攻撃を当て続けてエネルギーを消費させればその効力はいつかは消える。そう考えて攻撃を続けた自衛隊隊員たちであったが、高エネルギー体が目視できる範囲にまでやって来るとさすがに高エネルギー体の正体を知って驚いた。


「あれは、総理の搭乗機体である鉄ではないか!?」


 さすがに攻撃を躊躇し、上にシミュレーションとはいえ本当に戦ってよいのかを問い合わせる隊員も出た。その答えは『シミュレーション上故に問題なし、万が一鉄が暴走した場合などを考慮しての戦いである』との通達を受けたために、戦闘はそのまま続行された。


「ガトリング弾、全て無力化されています!」「マギカノンの射撃は回避されています、ホーミングミサイルも強力なECMの妨害を受けているためか効果を発揮できません!」「被弾しました! 障害物を無視して攻撃できる武器を鉄は備えている模様!」


 だが、戦闘が続くにつれて状況は自衛隊側にとって悪化する一方だった。殆どの実弾武器は鉄のフィールドに阻まれ、フィールドを突破することが出来る可能性の高いマギカノンと言った高火力ビーム系は回避されている。その上、鉄からも時折射撃攻撃による反撃が行われる。更には鉄からは攻撃できるはずがない方向からの爆発物による特殊な攻撃まで襲い掛かり、じりじりと損害が増えつつあった。全体損耗率はすでに七%を超えている。


「各自散開し、攻撃を続けろ! 絶対に固まるな! 長く動きを止めるな! 見えない角度からも何かしらの攻撃が飛んできているぞ!」


 鉄の防御力を抜けず、攻撃力で数を減らされる。シミュレーションであると言う事などすでに忘れ、自衛隊隊員たちの背中には嫌な冷や汗が流れ始めていた。



「ふむ、なかなか粘るな。鉄のスペックは神威二式より圧倒的に上なのだが……それでも連携をとり、各自チューンアップしたオプション兵装も使ってこれだけ戦えるか。頼もしい限りだな」


 そして、そんな自衛隊隊員たちが必死で鉄に応戦する姿を見て、鉄に乗った状態で乱入した光は自衛隊隊員たちに頼もしさを感じていた。無論光としても、スペックが上とは言え数は圧倒的に自衛隊隊員たちの乗る神威・弍式の方が上なのだから、そんなに余裕がある訳でもない。特に、火力を重視したマギカノン系の攻撃を受けるとフィールドが大幅に削られる。その為鉄の大きな体躯からは予想できない回避運動をメインに行っている。これも重力系魔法のバックアップがあるからできる事である。


『訓練の様子は、私も見ていました。皆精力的に訓練を行っていましたので、この練度の高さは想定内です。しかし、さすがにスレイブ・ボムズに反応できる者は少ないようですね。スレイブ・ボムズで崩し、後は各自射撃攻撃による破壊が有効的に過ぎる状態です。このままではマスターの訓練にあまりなりません。ある程度の数は減りましたので、ここからは接近戦も交えて戦って頂きます』


 と、鉄搭載AIであるノワールからそんな課題を出されてしまう光。が、確かにこのまま回避を重視してスレイブ・ボムズに頼りきりではよろしくないかと光も考えを改める。何より、このまま一方的に蹂躙してしまっては、自衛隊隊員たちの訓練にもならない。頭のスイッチを切り替え、手ごろな一機に向かって前進を始めた。


「フィールドの展開は頼むぞ」『出来る限り回避してください』「前進している分回避に割ける余裕が減るのだが」『それでも回避してください、そうしなければ訓練になりません』「厳しいな、正論ではあるが」


 光はそんな会話をノワールとかわしつつも、距離を詰める。さすがに距離が詰まっている上に前進することによる回避運動の減少は、自衛隊隊員たちの乗る神威・弍式からの攻撃を完全に回避することは出来なくなっている。威力よりも速度を重視したマギカノンも数発フィールドに当たっているし、ガトリングなどの連射能力の高い射撃攻撃は言わずもがな。しかし、それらは鉄の暴力的な装甲を抜くには足りない。光の操る鉄は、狙いを定めた一機の神威・弍式をタックルで吹き飛ばし、さらに胸部ガトリングガンを展開して弾をばら撒く。その場に居る神威・弍式が行動不能に陥ったら、また別の場所へと向かう事を繰り返した。


 この胸部ガトリングガンに対して、自衛隊側はシールドを重視したオプションパーツを装着している機体を前に出す事で凌ぐ事を可能とした機体が対処する事を行った部隊も存在した。神威・弍式のオプションは常に増え続けており、特化すればその分野においては鉄と同等か、それ以上の性能を発揮するようになりつつある。特にマギカノンにおいては、特化した攻撃力重視の機体の一撃をまともに食らえば、鉄の装甲と言えど無視できないダメージを被るレベルである。ただどうしても特化することによってその見分けや対処もしやすくなってしまう部分はあり、例えばマギカノンの発射色が他と違ったり、ビームが他よりも太いと言った感じだ。更には射撃する時のエネルギーの流れが膨大になる為に発射するタイミングがばれやすいと言った問題も出て来る。光が絶対回避しなければならないマギカノン攻撃は、その出力が高い方向をサーチする事で見分けがつく。


 特化する者、柔軟性を持たせる者と、神威・弍式という母体は変わらずとも、その攻撃内容は色々と変化を見せていた。そして何よりオプションパーツなので、パイロットが変わる時はパーツの付け替えをするだけで良い。なので、各隊員の要望が比較的通りやすいと言う点もオプションパーツがより多様化した一因である。このオプションの多様性を見て、異世界側も刺激を受けていたりする事も光の元に報告が入っている。


「それにしても、鉄の射撃を協力し合う事でここまで弾くか。この場に集結していた防御重視機体が持っているのは実に頼もしい盾だな。開発も順調なようで何よりと言った所か」『ですね、今後に控えている戦いでも活躍する事でしょう。ですが、今回はそんな盾であったとしても、真正面から叩き潰させていただきますが』


 盾を持つ機体が多い時のために、と実は前もって射撃チャージしておいたマギ・ランチャーを背部より前面に向けて展開し、容赦なく複数の盾を展開する機体とその後ろに控えている機体目がけてぶっ放す。十分なチャージが行われていたため、さすがに盾に特化していても守り切れずに盾を展開していた機体たちがビームの中に消える。事前に胸部ガトリングガンから味方を護るために盾で受け続けた結果、防御エネルギーを削られていたと言う事もここで防ぎきれずに撃ち抜かれた原因の一つである。


 そのマギ・ランチャーを放っている時に、数体の神威が鉄の背部に回っていた。マギ・ランチャー発射中の為、動きが止まっている鉄に攻撃できる絶好のチャンスと踏んだのだ。そして銃のトリガーを引く寸前、突如構えていた銃が爆発した。その爆発による煙が晴れると、そこには鉄の拳が目一杯に映し出されていた。殴られた一機が軽く吹き飛び、後ろにいた数機を巻き込んで将棋倒しとなる。だが、殴られた機体以外はすぐさま立ち上がり、予備として仕込んでおいたと思われる椀部グレネードや肩部ミサイルなどで鉄に反撃を仕掛ける。


「展開が早いな、マギ・ランチャー射撃中に背後に回るか。そして防御重視機体が集まっていたのも、彼らの背後から攻撃するチャンスを生み出す為だったか?」『スレイブ・ボムズがなければ、間違いなく背部に射撃攻撃を受けていましたね。さすが自衛隊の皆さんです、どんな状況に陥っても最善を目指す心があります』


 背後に回った機体の銃を破壊したのは、もちろん思念兵器であるスレイブ・ボムズの爆弾攻撃である。これ以外の対応法が無かったと言う事もあり、ノワールも自衛隊員をさらに高く評価した。すでにマギ・ランチャーの射出も終わって背部の方に戻しているため、回避運動は問題なく行える。そのまま鉄の手持ち銃であるマギ・カノンガン二丁をメインにした射撃攻撃を繰り返して神威・弍式の集団を行動不能に追いやる。これで自衛隊員側の戦闘可能な神威残存数は残り四割ほどになっていた。


『そこまで! 戦闘終了!』


 と、ここで突如戦闘終了との通信が入った。更に通信は──


『藤堂総理、本日はお忙しい中、こちら側の要望を聞いて頂きありがとうございました。ですが、そろそろ政務に戻って頂かなくてはならないお時間であるとの事ですので……』


 その言葉に、光が時計を見てみると、すでに二時間が経過していた。予想以上に長く戦っていたなというのが光の感想だ。体感的には三十分も経っていないような感じなのだが。


「了解した、では引きあげよう。自衛隊の皆の練度を見れた事もあって、こちらとしても良い時間を過ごせた。これから年末にかけて辛い戦いが待っているが、今日の戦いを通じて希望も見えた事は実に頼もしい。これからも期待している」


 光はそう言い残し、シミュレーションの世界から引き上げる。この日が切っ掛けとなり、自衛隊の訓練に鉄がたまに乱入するようになるのだが、それはちょっぴり先の話である。

神威二式のバリエーションの一部を紹介した感じに。

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