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10月17日

 先日の発表が行われて二日が経過した。各地に出向いている異世界側の人間との交流もあったおかげで、大きな混乱は発生していない。そして今、日本の国民は老若男女問わず活気にあふれていた。何せ異世界に渡れば例外なしで皆が若返るのである。若返って、異世界の男女とお付き合いして結婚をする……青臭い言葉で言えば、自分達が一生経験することがないと思われていた『青春』が転移後にやって来る事が確約された訳であり……色欲がある程度混ざっている事は否定できないが、とにかく日本国民の士気はこれまで以上に高まった。特に歳を重ねた人ほど「もう一花、いやもっと多くの花を咲かせるんじゃ!」と意気込んでいる。


「との報告です。やはり若返ることができると言うインパクトは絶大でしたね。それと同時に、意図的に総理の発表を盗み出すことに成功させ、今回の発表を耳にした世界の首脳は激高しているそうですよ。『ふざけるな、なんでそんな事が起こり得るのだ! そのような恩恵はこちらこそが受けるべきではないか!』と。実にいい気味です」


 会議にて報告をする田中外務大臣の表情と声は、実に晴れやかであった。周囲がちょっぴり引くぐらいに。


「そ、そうか。まあ海外の反応も含めて良い報告だな。激高するのも無理はないだろう、何時の時代でも若返りは夢の一つだからな。夢は夢のままであればよかったが、今回はこちらで実現してしまう事が確定となったからな。そうなれば嫉妬心の一つも湧いて当然だろう……まあ、田中外務大臣ではなくても、スッとした感情が湧くのは私も同じだ」


 この冗談めかした光の言葉に、あちこちから「そうですな」とか「私もその気持ちは分かりますよ」なんて言葉が飛び交う。


「それから、より細かい説明は各地で行動してくださっている異世界側の部隊の皆さんが積極的に行ってくださっています。ついでに、すでに転移したら結婚しようか? なんて話もちらほらと持ち上がっているようで……あちら側も、予想より早い春を迎えるいい機会だとばかりに精力的になっている様ですね。お蔭さまで、総理官邸や公式HPに寄せられる質問の総量が減り、こちらに余裕が生まれました」


 と言う報告も上がって来る。ちなみにここでは未だあずかり知らぬことではあるが、この会議の真っ最中に結婚を前提としたお付き合いをすっ飛ばして婚約を行った日本と異世界側のカップル第一号が生まれていたりする。当然ながら夜にはそれなりの将来を見据えた行為も行われ……結果として、このカップルが最初の日本人と異世界側の血を受け継ぐ最初の赤ちゃんをもたらし、転移後の世界で祝福を受ける事になるのはもう少し先の話。


「それと総理、例の神威・弍式のパイロット一般公募選抜の件ですが、勝ち抜き戦を続けまして先日遂にベスト三十二が出そろいました。つきましては、このベスト三十二が戦う試合を公式放送で流そうと考えているのですが如何でしょうか? 一種の娯楽の提供ともなりますし、今後の神威・弍式のパイロットを目指す者達へのいい刺激にもなると思うのですが……総理の判断を伺いたいのです」


 この報告を受けた光は、即断で許可を与える。タイミング的にもちょうどいいと考えたからだ。国民の士気や未来を自分達の意思で切り開く意思の高まりは報告を受けずとも肌で感じていたし、そこに神威・弍式の戦いを仮想空間と言う場所ではあるものの、実際に見せる事は良い刺激になると光は判断した。


「ありがとうございます。残った三十二名も、これでよりやる気を出すでしょう」


 その報告をしてきた官僚に、光はこう付け足す。


「ああ待て。優勝者には直接私が祝福の言葉を掛けたい。表彰式には私も出席できるようにスペースを用意してくれると助かる」


 これはただのシミュレーションではなく、日本の明日を背負う人材の発掘でもある。参加の意思を示してここまで勝ち上がってきたのであれば、それはもう戦士と言って差し支えないだろう──と光は考えたのだ。そして、勝ちあがった戦士にはそれなりの祝福があってしかるべきだ、とも。


「それは前もっての発表を行うという事で?」「いやサプライズの方で頼む」


 確認を取る官僚に光がそう返す。何もドッキリを狙う事を目的としたわけではない。単にそこに普段いない存在が居ると、それだけで調子が狂うと言う者もいるだろうと言う判断からだ。そんな事で調子を狂わせる者が役に立つのか? と言った疑問の声が上がるかもしれないが、ここまで勝ち上がってきた技量を持っている以上、実力が上位に属するのは間違いない。だからこそ、その素晴らしい技量を持つ者達が自分の登場で調子を狂わせて詰まらぬ戦いになってしまっては興醒めである。そんな事態は回避しなければならないと光は判断した。


「了解いたしました、出場者にはばれない様にセッテイング致します」「手間をかけるが、頼むぞ。異世界側に対しても良いアピールの場となるだろうからな」


 ちなみに、その肝心の試合は十日後に控えている。光もスケジュールを組み直すが、今の無理のない状況下であれば難しい事ではなかった。どの様な試合が展開されるのか予想がつかないので、光も内心いい楽しみが出来たと喜ぶ。


「他に、何か報告すべき事を残している者はいないか?」


 いくつかのこまごまとした議題と確認も終わり、光が最終確認を行う。すると、この会議に出席している防衛大臣の様子が少しおかしい。言いたい事はあるが、言おうか言うまいか悩んでいる。そんな様子を見せている。が、表情から察するに、緊急の内容という訳でもないようで──


「防衛大臣、何やらそわそわしているようだが本当に言いたいことは無いのか? 表情からして何かしらの緊急事態という訳ではない様だが、何もないと言う感じでもないぞ? 言いたい事があるなら発言しなさい」


 しかし、そんな様子を見てしまった光は声をかける。この光からの言葉に押されて、防衛大臣はゆっくりと口を開いた。


「それでは申し上げます……総理、大変お忙しい中恐縮なのですが、一つお願いがありまして──」


 防衛大臣の話はこうだ。光が時々行っている専用機を用いたシミュレーション訓練。仮想敵として様々な物を出して戦っている訳なのだが、その中には実際の自衛隊員からのデータを流用した物も含まれている。そして自衛隊側にも、光が行った行動などをシミュレートした仮想敵を出し、訓練に使っている。厄介な敵、強い敵とシミュレートすることでより神威二式や鉄のデータを更新し、AIを始めとした各種アップデートを行うためのデータ収集に当てている訳なのだが。


「なるほど、一度シミュレートではなく一戦交えてみたいという事か。いくらシミュレートしてもそれは仮想の存在。それだけでは物足りなくなってきたという所か?」


 ニヤリ、と言う擬音が似合うように笑みを作った光に、防衛大臣の汗の量が一気に増える。


「は、はい。平たく言えばそのような事でして──もちろん自衛隊隊員同士での戦いも行わせているのですが、一度複数人数で襲い掛かっても勝ち目が薄い強大な相手とも戦ってみたいと言う雰囲気が漂っている事は否定できません。先日の総理の発表にあった、隕石と対峙すると言う未来が待ち受けていると言う事もありまして、そのような困難を打開するためにも様々な経験をシミュレーション上で積みたいと言う面もございまして」


 なるほど、これは確かに言い辛いと光は納得する。国を専守防衛するのが自衛隊である。なのに、その国のトップである総理と一戦交えたいと言うのはよろしくない。もちろんシミュレーション上ではあるが、銃口をその国のトップに向けると言うのは、クーデターを連想させる。もちろん自衛隊側にそんな意思は一切ないが、周囲がどう見るかはまた別の問題なのだ。


「なら、そちらもサプライズを仕掛けよう。次の自衛隊員が通常訓練ではなく、神威・弍式のシミュレーション訓練を行う予定はいつごろだ?」


 光の言葉で、意図を理解した防衛大臣は「二日後、午前九時よりを予定しています」と返答を返した。


「そうか、二日後の午前九時……これと言った仕事は入っていないな。よし、防衛大臣はその日にシミュレーション上で一対多数の訓練を行うと自衛隊幹部のみに伝えておいてほしい。もちろんその仮想敵は鉄だ。が、その鉄は仮想ではなく実際に私が動かすのだがな……それで良いかな?」


 この光の言葉に「総理もお人が悪い」「確かに其れならばサプライズですな」などとの言葉のやり取りが行われる。話を切り出した防衛大臣も苦笑している。


「お忙しい中、お話を聞いて下さりありがとうございます」


 この防衛大臣とのやり取りを最後に、この日の会議は終了した。そしてその会議後に総理の執務室にて──


「総理、先ほどはありがとうございました。内容が内容故に、言い出しにくかった一件だったのですが……了承していただき、ホッとしております」


 防衛大臣が、光に深々と頭を下げていた。


「いや、向上心の現れとも見れるから構わぬよ。その代わりと言っては何だが、セッティングだけはよろしく頼むぞ。せっかく乗り込んだのに空振りに終わりました、では格好もつかぬからな」


 光の言葉に防衛大臣も「その点は抜かりなく。叩き潰す勢いでやってください」と笑顔で返答し、職務へと戻って行く。残りわずかとなった地球での生活ではあるが、そんな事を感じる暇はあまりないのかも知れない──。

次回、ぼっこぼこにされる自衛隊員神威二式搭乗メンバー!?


お楽しみに?????

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