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10月15日

「総理、かなり顔色が良くなったようですね」


 無理やり休息をとらされることになった日から数日、光の体調は大きく回復していた。顔色が良くなり、食欲も増した。酒だけは大事を取って飲んではいないが、医者からも問題ないでしょうとの太鼓判を押されている。それを、周囲に居る者達も感じ取っていた。


「ああ、おかげさまでな。気の抜けない日々は続くが、それでも私を支えてくれる人がたくさんいる事を再確認してからはよく眠れるようになった。なので、今日予定されている重大報告は予定通りに行う」


 重大発表とは、転移先の異世界の事だ。どういう問題を抱えていて、どういった対策を取るのか。そのより具体的な事をTVやネット(と言っても国内に限定された物であるが)を通じて国民に伝えるつもりでいた。なにせ、転移先では降って来る隕石を相手取らねばならない。銃口を向ける相手が人ではないといえ、戦いであることには変わりない。転移しても、それでおしまいという訳には行かないのである。


「そうですね、いい加減情報を公開せざるを得ないでしょう。どれも大切な事です……いくつもの交流が図られている今なら、大きな反発も無いでしょうし。そして向こうには向こうの都合がありますが、今の日本にここまではっきりとした救いの手を差し伸べてくれたことに変わりはありません。政治や外交は冷徹な思考で行わなければならない面は多々ありますが、だからと言って完全に恩義や義理を切り捨ててしまうのはいささか薄情でしょう」


 先の見えない今の日本に、明日という光をともしてくれたことは事実。やってきた理由である遺伝子の劣化による絶滅の未来を避ける為という面を考慮しても、日本が助かる事になるのであればそれぐらいの条件は大した問題にならない。奴隷になって子孫を繁殖するための苗床に成れという訳ではないのだから。そんな展開にならずに済んでよかったと、密かに日本側が思っているのは異世界組には知られたくない事の一つでもある。


「とにかく、今日の発表で『一定期間限定で一夫多妻や、多夫一妻の認定』や、『転移後の流星に対する自衛隊の立ち位置と対処』、『魔力による寿命延長』を全国民に知らせる。反発も出るだろうが、転移させてもらう条件の一つが異世界側の遺伝子異常の修正による子孫繁栄のためだからな、これは理解してもらうしかない。そして今後の自衛隊の立ち位置も、今日ではっきりさせる。人に銃口を向ける必要はほぼなくなるだろうが、銃が永遠に眠りにつく日はまだまだ先となるだろうな」



 そしてこの日の正午、光は国民に異世界側の抱える問題、そしてその解決のために異世界からの使者が日本までやってきた事。そして転移後の日本の立場などを隠さずに発表。やはり発表内容が内容だったのでそれなりの反響が多く出たが、あくまで一夫多妻や多夫一妻は望んだ人のみに限定されて強制ではない事、転移先の土地も一回も隕石が落ちた事がない場所にされている事などから反感を持つ、という所まではいかなかった。そして何より──


「このままこっちに居たら食いつぶされるんだし、ある程度のリスクはしょーがねえよ」「それに、対策だって練るんだろ? あの機体で迎撃戦とかやるんだろ? やられっぱなしじゃねえみたいだしよ」「よし、俺は向こう行ったらエルフと結婚するわ。絶滅とかさせるもんかって」「お前の場合はただの色欲じゃねーか?」「寿命が延びるのか、そこは興味があるな」「つーか、向こうの人は百歳ちょっとでも二十代前後の若さなんだな。寿命だけじゃなく、若さも伸びるってことなんだろーな」


 と言った感じのやり取りが各地で行われ、『まあリスクはあるのは仕方ない、このまま地球に居るよりははるかにマシだ』と言った感じに受け止められる。この結果に『忍』や異世界側の隠密系部隊がホッとした事は言うまでもない。この発表を不服に思って人が集まり、暴動が起きれば当然けが人は出る。さらに反対意見が強ければこれから先の交流にひびが入ってぎくしゃくしてしまい、それが戦争の火種になる可能性もあるからだ。異世界側にとっては、戦争をしている暇など全くない。


 ともかく、国民はやや興奮気味ではあるが、暴動や反対運動などが起きる心配はないとの報告を総理に届ける事となり、光もホッとした表情を浮かべた。これ以上情報を隠し続けて発表する機会を逃し、転移後に発表するなんて事になってしまったら大問題だったからだ。そんな事なら、地球に残って居たかったと言う意見も出てこないとは断言できないからである。今の日本と取り巻く状況や受けてきた扱いからその意見はまず出ないとは思うが、零であるとも言い切れない。ここが難しい所である。


 なので念のために、日本を出て地球に残りたい人は順次受け付けるの一文が公式HPにてはっきりと大きく書かれている。そこに名前を始めとした個人情報を入れれば、転移当日に望んだ国に飛ばされて地球に残り続ける事が可能となる様にした。希望者が出るかどうかは分からないが、選択肢を完全に奪い去るよりははるかに良いだろうと言う判断でもある。


 また、この発表に対して多数の質問などが寄せられた。その質問の対応に多数の職員が忙しく対応することになる。一夫多妻は日本人同士でもいいのか、とか。隕石に対して戦うのは自衛隊でなければいけないのか、とか。寿命が延びると若い期間も伸びるのか、とか。その為、その日の午後五時ごろにもう一度光が公式な発表することになった。


「えー皆さん。本日二度目のお邪魔をさせていただくことになりました藤堂 光です。さて、本日の正午に行った発表内容について、非常に多数の質問をいただきました。それらの答えは公式HPに順次掲載しておりますが、特に私の口から答えたい事が数点ありましたので、こうしてお邪魔させていただくことになった次第であります。まず、一夫多妻や多夫一妻ですが、これは異世界の人を相手にした場合のみでございます。繰り返しますが、今回異世界から私達の国である日本にやってきた最大の理由が子孫の繁栄ですので、一夫多妻や多夫一妻はその様にさせていただきます」


 この発表を聞いて、いろんな場所で「あーやっぱりかー」とか「まあそりゃそうだろ」などのやり取りが日本各地で行われる。


「続きまして、隕石対策関連ですね。特に多かったのが『隕石の実情とそれに対する行動は? そして対応できる作戦があるのなら隕石の迎撃作戦に加わりたいが、その為には自衛隊に入らなければいけないのか?』というご質問でした。この点を詳しく説明いたします。まず、異世界の隕石は五十年から二百年ぐらいの間隔で落ちて来るそうです。そして今回、一番近い隕石落下は二年後に落ちてくると予想される所であり、場所は異世界にある三つの国の中の一つ、マルファーレンス帝国の……首都です」


 この瞬間、日本全体が『ざわっ』という感じの空気に包まれた。マルファーレンス出身の人達は有効な手を自力で打てない事に苛立ちを覚えたのが、奥歯を強く噛む者もいる。


「そして、この為転移して一年後に、日本は避難してくるマルファーレンス帝国の国民を受け入れる事になっております。しかし、我々はそれだけではなく、宇宙空間に出て落ちてくる前の隕石を破壊する作戦と、宇宙担当攻撃部隊が捌ききれなかった隕石を最終的に食い止める地上担当攻撃部隊をマルファーレンス帝国首都に派遣し、隕石に対しての徹底抗戦を行う作戦が上がっております。そして、この作戦には自衛隊だけではなく、マルファーレンス帝国の戦士も参加してもらう可能性があります」


 この時点で、仕事中や運転中と言ったその場から離れられない人を除いてほぼ全ての人が光の行う発表に釘付けとなっている。


「前に私が発表した神威も、更なる強化が施された上で量産できる態勢はすでに整っております。その為、転移した後にはなりますが……迎撃作戦に参加する人を公式に募集する事も予定されております。そしてこの募集は立候補のみに限らせていただきます。参加する人は、基本的に神威に乗って貰う事になりますので、その点もご了承ください。これについては、時期が近づいてきましたら改めて報告させていただきます」


 そこで一息ついて、飲み物を口に運ぶ光。息を軽く吐き出してから本日最後の発表に移る。


「そして最後の寿命の延びについてですが……まず、始めに言っておかなければいけない事として、異世界の皆様は私達の世界にはない魔力と言う物に触れております。そしてこの魔力と言う物が寿命を延ばし、若さを長く保つことを可能としていると言うのが現段階で分かっている事です。そして、今の日本にも濃度は低いのですが魔力を流れ込ませております」


 この発表で、えっ!? そうなのか!? と言った驚きに日本が包まれる。


「ですが、その魔力と言う物は今の我々には異質な物でありまして……今、我々はその魔力と言う物に対し、体を慣らしている真っ最中という事になります。もし一切この魔力に体を慣らさずに転移を行いますと、大勢の人が一種の高山病の様な物を発症してしまう可能性があるのです。そのような事態を引き起こさないために、濃度の薄い魔力を現時点で日本に流しているという事をご理解ください。さて、前置きと言って良いかは微妙な所ですが、肝心の若さですね。まず、こちらをご覧ください」


 そうして浮かび上がる一枚の写真。それは今年一月に撮影された光のものであった。


「さて、こちらに浮かび上がっていますのはもちろん私です。これが撮影されたのは今年の一月の半ばですね。そして、今の私の顔とよく見比べてください。どうですか?」


 間違い探しかなにかなのか? そんな感じで大勢の人が今と昔の光を見比べるのだが……主に女性が気がついた。しわ等が明らかに減っている、と。


「いくつか、こちらの方に確認するかのようなメールが入ってきていますね。はい、正解です。この以前の私と比べまして、今の私は若返っております。具体的には四歳ほどですね、これは医者の診断も受けており、間違いないそうです。私は異世界の人と近くで接する機会が多く、そのため魔力も濃度が高い物を浴びていたと推測されます。そのため、ここまではっきりとした影響が出ているのでは……との事です。つまり、ある程度の若返りまで発生しております。この事から、魔力による寿命の延長に伴い、若い時間も相応に伸びるだけではなく、年老いている人は若返っていくものであると思われます」


 この情報に歓喜したのは主に女性。女性はいつまでも美しくありたいと思うもの。その夢が転移することであっさりと叶うのである……喜ばない訳がなかった。そして男性も、老いていても異世界に渡ればもう一旗揚げるチャンスが巡って来る可能性は十分にあると考え、悲観することを完全にやめた。事実、転移した後は悲観なんかしている暇など無くなる事になるのだが。


「なお、この若返り現象は、その人が一番肉体的に充実している時期で止まるそうです。異世界側の人も、若さが一番持続するのは一番肉体的に充実している時期である事が共通しております。ですので、若返りすぎて赤子にまで戻ってしまうようなことはありません、ご安心ください」


 若返りすぎて死んだ、という事はさすがに異世界でもない。光は色々な資料を閲覧することで詳しく確認したが、基本的に十六才前後までは地球と大差ない成長をする様だ。ただ、そこからとても成長がゆっくりになるようだが。なので、中には二百歳を迎えているのに身長百五十前後の人も稀にいるとかなんとか。一部の人に受けがよさそうである。この発表を受けて、日本の各地では色々な討論や、異世界からやってきている人に質問が行われるなど……慌ただしい日となった。

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