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9月27日

(こちらは長きにわたる奴隷化による苦しみを、あちらは神々による試練に加えて出生率低下と言う命のつながりに危機を。双方ともにその苦境を切り開き未来を見る事が出来るための協力者を欲していた、と言う事になるのか)


 異世界にはメテオによる脅威があるという新しい情報が告白された翌日。光は異世界の3か国の象徴と国家元首を交えた緊急会談を行っていた。言うまでもないが、これは国家の象徴とされているガリウス、フェルミナ、沙耶だけではなく、実際に政治のかじ取りを行っている最高責任者である国家元首との初会談でもある。


「──という事で、昨日の事ではありますがそちらの状況を伺いました。詳しい話や対策を話し合うのは、こうして話し合いができる以上一刻も早く行うべきと考えまして、本日はお願いをさせていただきました」


 光はそう言葉を発し、頭を下げる。その光の言葉にいち早く反応したのがフリージスティ王国国家元首の男性。


「いえ、本来であればもっと早くお伝えすべき事を話がまとまらずにお伝えしなかったことはこちら側の落ち度であります。誠に申し訳ない。また、フルーレ将軍からお話を聞いたという事は、日本皇国の転移予定地は神々の試練にて降り注ぐメテオが一度も落ちた記録が無く、いざと言う時は避難所として各国の避難民を一時預ける場所として頼らせてほしいと言う話も伝わっておりますか?」


 この言葉に、今度は光が頷く。とりあえず危険な場所に転移させるような真似をする訳ではないという事が変に曲解されず無事に伝わっていることを確認した異世界側の各国の国家元首はホッとした表情を一瞬浮かべていた。そして次に口を開いたのはマルファーレンス帝国の国家元首だ。


「そしてさらに、日本皇国は神々の試練と戦う事が出来る可能性を持つと報告を受けています。本当に、あの星々の世界に飛び立てるのでしょうか? ある程度の情報はこちらも入手しているのですが……」


 この質問が出て来ることを予想していた光は、突貫工事で神威、ならびに神威・弍式の性能を実際に動画で説明することが出来るようにしていた。技術者たちには少々無理をさせてしまったが、言葉よりも実際に行った戦闘風景や機動時の動画を交えて話をした方が早いからだ。


「それについては、まずはこちらをご覧ください」


 そして、最初に西村大尉が乗った神威一機が多数の軍船を相手どって一方的に薙ぎ払うあの動画を元に説明をする光。


「この鉄の巨人……神威と我々は名づけていますが、この機体を駆り、神々の試練に立ち向かうために星々の世界へ直接出向くことを考えています」


 戦闘風景の合間合間で動画にストップをかけ、細かい説明に移る光。


「このように、手は人間と変わらぬ5本指です。故に物をつかむ、道具を扱うと言った行動が可能となっています。そしてこの巨体ならば──」


 次々と神威が銃を乱射し、薙ぎ払っていく光景を見せた後に光は言葉を続ける。


「このように、体躯に合わせた巨大な武器も軽々と扱えます。つまり、人のみでは扱う事が不可能な武器を用い、星々の世界にてメテオに直接魔法に頼らない大火力の銃撃を浴びせる事により、特殊なコーティングがされているという隕石を砕き切ることが可能であると考えています。フルーレ将軍からも直接伺っておりますが、このコーティングのせいで、魔法の効果は大幅に落ちるそうですね。逆にいえば、魔法と摩擦熱『以外』であればほぼ無防備なのではないか? と我々は考えました」


 燃えずに落ちるという事は、摩擦熱に対する抵抗は高いとみるべき。それは当然日本の技術者から上がってきた意見だ。破壊するためには熱以外の方法で行う必要がある。そういったことを踏まえて行われた光の説明であったが、各国の国家元首は神威の姿に圧倒されたらしく……


「も、申し訳ない。もう一度始めから通しで先程の画像を見せてほしい!」


 と頼まれていた。そして動画が再生されると、食い入るように見つめている様子が簡単に窺えるほどに見入っている。


「これは……ゴーレムの一種……と表現するべきなのでしょうか?」


 数回にわたって神威の戦闘シーンを見ていたフォースハイム連合国の国家元首が口を開く。確かに異世界から見れば一番近いのは製作して動かす点でゴーレムという事になるだろう。


「実は……この機体にはあまりゴーレムの技術は使用されておりません」


 光の発言に、どよめく異世界の国家元首。


「この機体に使用されているのは主に重力制御系統の魔法ぐらいですね。そちらの皆様からゴーレム技術を提供していただき、量産が行われているのはこちらの神威・弍式、そして零式となります」


 更なる動画を、光は異世界側の国家元首達に提供する。そこに映っている神威・弍式と零式は間違いなく異世界の技術と日本の技術の組み合わさった結晶である。


「弍式は最高のパーツのみを用い、零式はそれに見合わなかったとはいえ、十分実戦使用に耐えうるパーツを組み合わせて作った機体です」


 光の補足を聞いた沙耶が、ここで次の質問を投げかけてきた。


「光殿。先ほど量産とおっしゃっていたが、どのぐらいの数ができるのかのう? 大体30体位かの? これだけの巨体じゃ、こちらか提供した資材を用いても数を作るのは大変ではないかのう?」


 この質問に、光は沙耶を始めとした異世界の人々にとっては予想以上の答えを返すことになった。


「いえ、当初は30機ぐらいの予定でしたが、皆様から資材の支援が大幅にあったおかげで今は神威・弍式を100機近く、零式はそれ以上作られる予定になっております」


 当初は30機が限界だったのは間違いない事実だ。しかし、異世界からの資材提供により作れる数が跳ね上がった。何せゴーレム1体を生み出す資材で、神威が数機ぐらい作れるほどの量だったのだ。


 言い方は悪くなるので異世界側に光が言う事は絶対にないが、ゴーレムはその質量がそのまま耐久力になっていた一面があったのでぶっちゃけると非常に無駄な部分が多かったのだ。そんな無駄を削り、有効活用するのは資源が少なく苦しめられてきた歴史を持つ日本人ならば真っ先にメスを入れ、改善を図る部分である。そのため、神威の生産できる数が最初の予定から一気に跳ね上がることになったのだ。


「100機だと!? この鉄の騎士が100機以上生まれ、そして神々の試練に真っ向から立ち向かうのか! フッ、フフッ……ガーッハッハッハッハッ! こんな騎士が生まれることなど神でも読めまい! 読めるはずもない! まさかこれだけの強大な騎士が我々とは全く違う世界で生まれ、神の試練に立ち向う事になるなどとは! 実に、実に愉快だ!」


 そんな豪快な笑い声を上げるガリウス。そのガリウスの笑い声につられるかのように、異世界側の国家元首たちの表情にも変化が現れる。その表情にタイトルをつけるとするならば『希望』だろうか。特に国家の象徴であるガリウスがメテオが降ってきてもその場にとどまると宣言しているマルファーレンス帝国の国家元首は、より明確にその表情を変化させていた。


「光様、これらの機体は私達が自然災害などで困った時にも手助けして頂けるのですよね?」


 ひとしきりガリウスが笑い終えた後、静かな声でフォースハイム連合国の象徴であるフェルミアがそう光に質問を投げかけた。


「もちろんです。あくまで神威は日本皇国や皆様の国にやってきた困難に立ち向かう力であり、自ら望んで殺戮を行うような愚かしいことに使うつもりはありません。そして土砂崩れや地震などの災害が発生した時には現場に急行し、物資の運搬、人命救助などを行う事は視野に当然入れております。手先が器用であるが故に、災害救助の一つとしてできる事も多いですからね」


 そうフェルミアに返す光。戦闘にしか使えない物では悲劇しか呼ばない可能性が高い。だが、人助けにも使えるのであれば……それは人の笑顔を生み出せる。悲劇を回避できる。ここで再び口を開いたのは沙耶である。


「光殿、今だからこそ正直に言ってしまうがのう……これを作ると聞いた当初は、これほどまでの物が出来るとは夢にも思えんかった。比べるための材料が鈍重なゴーレムという事もあったがの、あくまで予定は予定で、完成すれば性能はかなり落ちる、あくまで乗り込む事で即死せずに戦える程度と考えておった。ところがじゃ、蓋を開ければとてつもない鋼鉄の騎士が生まれおった。そして最初の予定通りにあらゆる場所での戦闘を可能にしてくるとはの……」


 沙耶を始めとした異世界組から考えれば当然の意見だろう。異世界側で人型の動く存在と言えばゴーレムであり、そのゴーレムを基準として考えるのは自然な事。だが、実際に日本側から正式に戦闘する姿を見せられ、その上で当初の予定通りの性能を発揮できるとなれば驚くのは当然だ。


 あくまで設計図や話の上でこういう予定になっていますと言われても、それはあくまで『予定』でしかなく、期待をするには説得力がない。その後から色々と事情が入った結果、スペックダウンさせることはよくある話だ。


 だが、日本が作った神威・弍式は、予定されていたスペック通りに設計された上に宇宙空間での戦闘も可能とした。それがはっきりと国のトップから宣言されたことは非常に大きい。異世界側の淡い期待が、本日の光の発言によって大きな期待に変化したのも無理はないだろう。


「そちらに伺えば、私達もその世界の住人となります。だからこそ、我々の力で協力できる部分は最大限に努めさせて頂く。その覚悟を言葉ではなく、行動を以って証明するための神威・弍式と零式です」


 光の言葉に拍手が沸き起こる。守られるだけでは居られないとした光の決断、下地を作り上げていた光陵重化学の努力。この二つが異世界側に大きな希望をもたらすことになったのである。

かなり一話一話を作るのに時間がかかるようになってきました。仕方ないんですけどね・・・。

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