9月26日(後半)
後半部分です。
いったん静かになる会議場。そんな中、光は再び口を開く。
「ふむ、もう少し突っ込んだ話を聞きたい所だな。君、神威に関する話でさらに報告するところはあるかな?」
光がそう神威生産責任者に問いかけると、責任者は「あとは細かいパーツやオプション武器も生産が進んでいるといった程度ですね」と返答する。その言葉にうなずいた光は再びフルーレに視線を向ける。
「メテオ……まあ隕石だな。そんなものが地表に降り注げば被害が大きいという事はこちら側でも理解できる。だからこそ落ちてくる隕石の大きさや規模、そして落ちてきた回数やその歴史などを教えてはもらえないだろうか? 話はやや先になるとはいえ、やってくることが確定している事なら対策を話し合うことは無駄にはなるまい」
光の言葉に、ざわめく異世界側の部隊隊長達。
「ひ、光の大将。本気で……本気であっしらを苦しめてきたあのくそったれなメテオと、本気でやりあうおつもりなんですかい!? 恥ずかしい話ですがね、あのメテオはあっしらが数千年にわたって対策を考え、そして生み出した防御魔法でやっとある程度軽減するのが精一杯だったんですがね……因みに、落ちてきた回数は記録がある約3000年間で68回ほどで、一回ごとに数十個ほどがやって来やすぜ……不運な時は数百個だったと言う記録もありやす。後、なぜか地表に落ちた隕石は人を殺し物を壊すことはしても、大地や自然を大きく壊すことは何故かしやせん」
異世界側の意見を代表して、2番部隊長のガレムが光に疑い半分、期待半分の視線を向けながら言う。
「成程、それは厄介だな。しかし、どうにかできる可能性があるのなら、戦うべきだろう。だからこそ話を詳しく聞きたいのだ」
そんなガレムの視線を、光はあっさりと受け流しつつ答える。この光の発言に再び異世界側からざわめきが起こるが、ここでフルーレが再び口を開いた。
「分かりました、お話し致します。私達は定期的にやってくるメテオの群を〝神々からの試練〝と、半ば恐れを込めて言っております……」
フルーレからの話を大まかに纏めると、こうなる。
──かつて、フルーレ達の世界は血で血を洗う戦国時代があった。すべての大地を我が物にし、統一しようとたくらむ国家が戦争を引き起こし、倒した国家の領土を吸収し……他の国家も負けじと戦争を引き起こして国土を広げ、対抗できるようにしていった。そして最終的に残ったのが、マルファーレンス帝国とフォースハイム連合国、フリージスティ王国の3つだった。
ここからはさらに面倒な巴戦に突入する。どこかを攻めればどこかに攻められる。戦闘方法も得意とする技術も全く違うこの3国に共通していたのは、当時の各国がもうこの辺でいい加減に手打ちにして、戦争の日々を終わらせようという思考を一切持っていなかった事だろう。隙あらば他の国を潰し、我らがこの世界の覇者になると言う夢を捨てる事がなかった。
同盟、そして裏切りが幾度となく繰り返され、どこかの国が滅びることなく睨み合いと戦争は続いた。そんな状況を数百年続けてなお戦いをやめぬ3つの国に突如、天より隕石が降り注ぐ。その隕石は当時戦争が行われていた場所に直撃するように落ち、その場にいた兵士や指揮官を一人残らず殲滅した。変な偶然もあるものだ、とその時は考えられていたのだが──。
その後、幾度となく隕石は大体30年から50年の周期で降り注いだ。それは戦場だけでなく、3つの国のあらゆる箇所に。当然どの国も大きな被害を被ることになり、戦争によって減った国力を回復することができなくなっていった。
これにより、3国は初めてとなる停戦協定を結ぶことになる。当初は国力が回復次第すぐにでも協定を捨てて戦争を再開しようとどの国も目論んでいたらしいが、その後も定期的にやってくる隕石によりそれどころではなくなる。
結局この停戦協定が、そのまま終戦協定になり、そして和平協定になっていった。それでめでたしめでたし、となればよかったのだが……隕石が一定周期で降る現象は終わらなかった。
戦争が終わったのに、なぜ天は、神は我々を許さないのだ? その疑問はやがて、今まで戦争を繰り返して来た事による罪であり、この隕石をすべての国家が協力して乗り越えよということではないだろうか? と言う意見に変わっていったらしい。
和平を結んだとは言え、長い戦いによる疑いや恨みの感情はどの国にもあったが、だからと言って手を取り合って協力せねば隕石で滅びてもおかしくはない。最初はいやいやながらも生き延びるために手を取り合った。
それが永い時間の流れにより、素直に協力できる間柄へと変わってゆき、隕石に対してある程度の対策も取れるようになっていった……が、あくまである程度止まりであり、メテオが落ちる場所が地表だった場合は大きな被害が出る事を食い止める事があまり出来なかった。
それでも諦めることなく新しい方法を模索していたが……いよいよ手詰まりになり始め、この神々からの試練にはどうしようもないのかと言う空気が漂い始める。そんな状況下で更なる問題が発生していることが確認される。その問題と言うのが……3国すべてに出生率の低下が起き始めていた事だった。
解決策を探った結果、新しい血(この場合は遺伝子)を取り入れなくてはならないという結論が出たために、異世界に救いの可能性があると信じて探し始め、そして時間がかなりかかったがようやく発見した。そこが……
「そうして見つかったのが地球であり、日本皇国であったという訳です……」
永い話を終えたフルーレが、お茶を口にして一息ついた後に続ける。
「そしてメテオの大きさですが、一つ一つの大きさは直径が15メートル程なのですが……妙なコーティングがされているらしく、星を覆う空気の層に突っ込んでも燃えず、朽ちず、そのままの大きさで落ちて来るのです。また、そのコーティングの影響で魔法の効きがかなり悪くなっています」
15メートル程度の大きさなら、普通は大気圏内で燃え尽きそうだが……そうならないように変な事がされているという事か。厄介だな……と日本側の代表者たちは考える。
「すみません、質問です。その隕石……メテオに対して、直接攻撃を仕掛けたことはあるのですか?」
そんな質問が日本側から飛ぶ。その質問に対し、男性の部隊長がすぐさま返答する。
「はい、幾度となく挑戦したという記録が残っています。そして……ほぼすべてが失敗に終わったと。数少ない成功例……とは言えないのですが、ある時代における稀代の天才魔法使いが、自分の魔力だけでなく命まですべてを振り絞ってある街に落ちてくるメテオの迎撃を試み、多少ではあるが迎撃に成功したという事実自体はございます」
異世界側の人達にとっては有名な話らしく、誰もが頷いたりしている。
「その結果ですが、落ちてきたメテオをある程度消し飛ばし、住民が避難していた都市部中央だけは守り抜いた様です。これは事実なのですが半ば伝説として、その都市では命を振り絞って住民の命を救った魔法使いは英雄扱いをされています。魔法使い本人は、その魔法を撃った数分後に息を引き取っており……その魔法は”ガーディアン・オブ・ライフ”と言う名の自己犠牲魔法として名が残されています」
そこで一度話を区切った男性部隊長は、一呼吸おいてから話をさらに続けた。
「その魔法使いの最後の言葉ですが『あの、あの星と同じ場所で戦えれば……落ちる勢いがつく前の星に攻撃できれば……きっとこんな悲劇は防げるのにのう……神は我々にどこまで試練を課すのじゃ』と言い残したとされています。その方法はそれからずっと実現に向けて長い間研究されてきましたが……我々の力では今まで実現することが出来ませんでした」
だからこそ、貴方がたが言う宇宙……この星の外にある星々の世界でも戦えるといった日本皇国の発言に驚き、希望を持ったのですと男性は話を締めくくった。
「成程、貴方達もそんな背景があったわけか……念のために確認するが、宇宙空間での戦闘も神威・弍式限定とはいえ可能という事は間違いないんだな?」
念を入れて光は神威生産の責任者に確認を取る。
「はい、もう一度申し上げます。神威・弍式に限ってですが宇宙戦闘は可能です。また、西村大尉が駆る初代神威や総理が乗る黒も宇宙戦闘が可能です。私の命にかけて、それは事実であると宣言させていただきます」
この発言に沸く異世界組。彼らにとっては〝神々からの試練〝に打ち勝てる可能性が出てきたのだからこそ無理もない話だろう。また、西村少年は大尉として扱われるようになっていた。ある程度の箔付けもないと、いろいろと面倒事が起こるからそうなったのだが。
こうして、異世界側に〝神々からの試練〝に立ち向かえる可能性がある力がこちら側で生まれたという事が報告され、日本皇国に対する期待と、転移してくる日を楽しみにする人がさらに増える事になった。あの試練に立ち向かう事が出来る力とはどんなものなのかを話し合う人が急増し、日本人が全く知らないところで、日本皇国の地位がより高まった瞬間であった。
軽い異世界側の歴史説明回でした。




