8月25日
今年最後のそんなに~更新です。
「さて、そろそろこちらが提出した食料によりどうなったのか、その結果を伺いましょうか……と申し上げたかったのですが。ガリウス陛下、その酷くボロボロになっているお顔は一体なにがあったのでしょうか? なぜ治療なさらないのですか?」
日本が異世界の3ヶ国に対して食料を提供してから2日が経過した。ちなみに提供した物はレトルトのカレーと、カップラーメン。カップラーメンもお湯を注げばいいだけの一番シンプルな物を送った。その結果を聞こうと、ガリウス、フェルミア、沙耶の3人と同時に魔法の回線を開き会談を行う事にしたのだが……ガリウス陛下の顔がボッコボコ&多数の引っかき傷という何ともまぁ、痛々しい顔を晒していた。
「トウドウ殿。女は、怖いな……」
そのガリウスの発言にどういうことだ? と首をひねる光だったが、ふんっ! と声を出しながら不機嫌な顔を隠そうとしない沙耶と、苦笑いをしながらもニコニコと微笑んでいるフェルミアの様子で大体の状況を察した。
「これだけの迷惑を日本皇国におかけしてしまったんじゃ! おぬしの顔ぐらい派手に引っかかねばこちらの気が済まぬわ!」
ここで、光の思考が一瞬止まった。引っかいたのが沙耶と言うことは……? もしかしてガリウスをぼこぼこにしたのは。
「久々に私の拳を直接振るってしまいました。ガリウス様には申し訳ございませんが、しっかりと反省をしてくださらないと」
と、満面の笑みを浮かべながらフェルミアがなんでもない事のようにさらっと言ってきた。そのフェルミアの笑顔とは対照的に、光の背中には冷たい汗が流れた。どう見てもガリウスは筋骨隆々の武人。その一方でフェルミアは仮想の世界に居るエルフのように細身の体。そのフェルミアが、ガリウスをぼこぼこにしたと言うのだ。あの細腕のどこに、それだけの力を眠らせているのか……。
そんな風にフェルミアに対してかなりの恐怖を覚えた光だが、ポーカーフェイスは政治に身をおく者としての基本的な技として習得しており、それを表情に出す事をはなかった。そう、今はそんな事を聞くことが目的ではない……。
「とりあえずガリウス殿の顔の事は理解しました。それでは、改めてこちらが送った食料に対しての反応を伺いましょう」
そう仕切り直した光。魔法があるのにガリウスの顔がぼこぼこにされたままなのは、おそらく魔法治療がフェルミアと沙耶によって禁止されているのだろう。そういう罰ゲームみたいな物だと光は考えた。あまり深く突っ込む必要もないだろう。
「ではわらわから報告させてもらう事にするかの」
そう言い出したのは沙耶。幾つかの資料と思われる紙を沙耶は見ながら報告を始めた。
「現時点で、日本皇国より提供していただいた食糧の配布率は全体の50%を超えておる。カレーに、カップラーメンはどちらも好評じゃ。それに運ぶための運搬のし易さに、食べる時の手間の少なさも受けておる。お陰で民の不満はかなり下がってくれたと言っていいじゃろう」
ちなみに最終的に用意された食料は、カレー120万食分、醤油味のカップラーメンを90万食分。3国に対して綺麗に分けきれるように数を多少増やし、その上でガリウス、フェルミア、沙耶が以前日本に来た時に口にしていないカップラーメンも追加した。そのカップラーメンを追加した事による効果がはっきりとでたことが、次のフェルミアからの発表にて明らかになった。
「さらに、日本皇国から追加で頂いたカップラーメンなるものは、私達は一切口にしていない食べ物であると言う事が伝わり、より国民の皆様の不満を和らげる事になりました。光様のすばらしい判断に感謝いたします」
食い物の恨みが大きいと言うのであれば、食べさせていない食べ物を食させればいいと光は考えたのだ。その読みが今回は無事に当たったことになる。
「ともかく、光殿のお陰で暴動が起きる可能性はほぼ無くなりましたぞ。今回の食糧支援に心から感謝しますぞ……いったたたた……」
どうやらガリウスは口を開くだけでもそれなりに痛みが走る様子である。フェルミアと沙耶にこちらから見えないところも手ひどくやられたのかもしれない。それはとりあえず横に置いておくにしても、とりあえず何とか無事に事態は収束したと言う事で間違いがないようだ。
「収まったと言うのであれば何よりです。ですが、これは今回限りと考えていただきたい。こちらの情勢は日々きな臭くなる一方ですからな……次回は無事にそちらの世界へと我々が到着してから……になるとお考え下さい」
光はそう釘を指す。少し前にもいざこざがあったし、そろそろ日本人が皆居なくなってからも動いていたであろう食糧生産プラントの幾つかがそろそろ動きを止める頃だろう。止まる理由は単純で、生産するための資源を使い果たすからである。種がなければ芽が出ないように、保存しておいた食糧生産用の種などがそろそろ尽きる頃ですと報告を受けている。
もちろんその種を補充していたのであればその限りではないが、そんな簡単なことすらも日本人任せにしてきた連中が気が付くとは思えない。もちろんそのことに気が付いて種をあわてて補充しても、芽吹いて大きくなり食用として使えるまでには当然時間が掛かる。その上プラントの運用には燃料も当然ながら必要になる。その燃料も残りは少なくなって来ているはずだ。食料争奪戦が世界中で始まるのはそう遠いことではない……本格化するのは日本が異世界に消えてからになるだろうが。
「判っておる……今回は本当にすまなんだな。日本皇国がこちらに来た時には、わが国総力を挙げて協力をすることを国の名に誓わせてもらうぞ」
沙耶の言葉に、ガリウス、フェルミアも同意する。食べ物に釣られた面が強いのは否めないが、これだけの手配をしてくれた国に不義理な真似は出来ないと思ったのも3カ国の心情である。
「それで、そちらの様子はどうなっておりますか? 一応こちらから派遣した部隊からも報告を受けておりますが、全体的に怒っていることをうかがわせる報告ばかりでして……」
フェルミアの申し出に、今の日本の状況を話せる部分だけかいつまんで説明する光。特に3名が怒るのも当然であると同意していたのは、先日のサルベージから始まった英霊の墓を騒がす世界の行為である。
「実に許しがたい。光殿がお怒りになるのも尤もだ。武人としても許せぬ」
腫れ上がった顔から来る痛みすら忘れたようで、ガリウスは怒りの表情を見せる。異世界の3ヶ国にも、靖国神社のような神殿が存在する。そこでは国籍など関係なく死した人の鎮魂を祈る神聖な場所であり、その神殿における教義の1つに『死した者を汚すなかれ、騒がすなかれ』とあり、特に武人としての礼節を重視するガリウスの国マルファーレンス帝国では、ことさら死者に対しての冒涜は恥であるとみなされている。
「そのような状況下で、このような頼み事をしてしまい真に申し訳ありませんでした」
フェルミアが光に対してゆっくりと頭を下げる。
「のう、ガリウス殿、フェルミア殿。お互い日本皇国にもっと協力をせぬか? ひとまず日本皇国救援作戦をするための部隊を各国2部隊ずつ追加し、資源も提供しようではないか。日本皇国が置かれている環境はかなり厳しい。わらわたちはより手厚い支援をすべきだと思うのだが、どうじゃ?」
この沙耶の呼びかけに、ガリウス、フェルミア両者はすぐさま賛成した。
「それはいい! 即座に行おうではないか! 日本皇国を失ってしまうわけには行かぬ! いざと言う時にはこちらから討って出て敵をなぎ倒せるだけのわが国の誇る猛者を送ろうではないか!」
ガリウスが戦士を中心に送ろうと言い出す。
「では私の国からは強力な魔法使いを出しましょう。日本皇国の料理を食べられる事を報酬としてあげれば、すぐに集まりましょう」
こちらはフェルミア。
「ならばわらわの国は弓術、銃術に優れた者を出そう。そうすればバランスもよいじゃろう。鋼鉄を軽々と穿つ弓術、雨のように弾ををばら撒く銃術の使い手が恥知らず達の侵攻から日本皇国を防ぐ様に手配せねば」
沙耶がそう締める。日本の食糧支援によって、各国の中でも超一流の武人達が数日後に集うことになった。その彼らもまた、日本の食事にはまり、自分の好みの味の追求に明け暮れることになる……。
来年は更新を多く出来るといいなぁ。




