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8月9日

久々の投稿です。

『こちら長門、異常ありません』


『こちらは大和だ! 敵さんは今のところ居ないぞ!』


「了解した、何かしら問題が発生した時はこちらに通信を送ってほしい」


『了解しましたわ』


『ああ、分かってるぜ!』


 復活した長門と大和は、あっという間に日本のシンボルとしての立場を取り戻したどころか、アイドルのような扱いを受けていた。祖国の危機に過去の英霊が蘇り再び立ち上がるという話は好まれることが多いが、それを自分達が直接目で見ることになったためか、日本国内の盛り上がり具合がものすごいことになっていた。一部では『擬人化はまだか!?』などと叫ばれているらしい……。基本的に船は女性的イメージを持たれることが多く、そういった部分も入っているのかもしれないが……。


 そもそも突然の英霊の復活、そして長門と大和が今こうして現実に存在している理由は、神威を作り上げるのに協力してくれた異世界の技術者が仮説を立ててくれていた。その話は今から数日前に遡る。


 ────────────────────────


 8月3日 午後 光陵重化学内


「うーん、総理、おそらくという言葉がつきますが……私達の世界で言う【ソウル・ガーディアン】という存在に限りなく近いと進言させていただきます」


 ゴーレム研究者を兼ねている彼は、かつて冒険者としてあちらの世界の遺跡に出入りしていた経験もある、と前置きをしてから話を始めた。


「ソウル・ガーディアンとは、死亡した人や動物、モンスターなどが死に切れないほどの無念を残していたりするとまれに魔力と結びつき発生することがある現象です。ガーディアンと言われるのは、発生してから特定のものを守ることが多いからです。わかり易い例なら、財宝や子供等が挙げられます」


 アクセスペンを右手に持って絵を加えながら、アクセス・ボードに色々と情報を書いていくゴーレム研究者。アクセスペンはチョーク、アクセス・ボードは黒板みたいなものと言えばご理解いただけるだろうか?


「そして、ソウル・ガーディアンはその守るものが消滅するまで基本的に消えることがありません。財宝なら持ち去られるとか、長い時間をかけて風化するか。子供なら、成長して巣立つ、もしくは……死ぬか」


 拝聴している光を始めとした地球側の人間は、一つ一つ記録を取りながら話を聞く。今回はどうしてこうなったのかの判断がさっぱりできないために、こうして仮説だけでも出来る人物の意見は非常にありがたかった。


「先程も申し上げましたが、ソウル・ガーディアンに必要なのは死ぬ前に残したものすごく強烈な想い、無念という想いが一番ソウル・ガーディアンを発生させやすい想いですね。それに魔力がうまく噛み合うことです。ですのであの長門、そして大和と皆様が呼ぶ船の復活を成した原因が……永い時を経ても消えなかった強い想いと、総理が直接魔力を流しこんだことが偶然かつ完全に噛み合った結果、突然と言ってもいい状況で復活したのだと思われます」


 そう、ゴーレム研究者は締めくくった。ここで光が手を挙げる。


「はい、総理。何か質問がございますか?」


「基本的に消えない、と貴方はおっしゃられたが、力尽くで排除をされたという記録はないのですか?」


「質問にお応えいたします。答えは『有ります』。ですが……ソウル・ガーディアンとなった想いは凄まじく強いのです」


 再びアクセスペンを振るって、ゴーレム研究者は色々と絵を加えつつ説明に入る。


「物理攻撃を95%、魔法攻撃ですら75%を無力化します。完全に無力化出来ないのは、『そこに存在しているという事実までは曲げることが出来ない』からではないだろうか? と研究者の間では言われております。また体が大ききければ大きいほどに頑丈かつタフです。具体的に倒された記録では……ありました、2Mの大男の姿をしたソウル・ガーディアンを一流の戦士と魔法使いが半々づつ合計500人で、半日戦い続けてやっと倒したという記録があります」


 言うまでもないが長門は当然、超弩級戦艦の中でも殊更でかい船体を持つ大和は2Mなんて可愛いサイズではない。あの子たちはどうでしょう? と大臣の一人が質問をしたが、研究者は考えるのも馬鹿馬鹿しいですと言い切った。


「そして、会話ができないのが普通なのですが。総理、鉄を通じてなら、長門さんと大和さんの声をちゃんと聞くことができるのですね?」


「間違いなく、普通に会話することが出来た。日本の現状も二隻に細かく説明済みだ」


「我々の世界で生まれた個体とはどうやっても会話することは出来ませんでしたが、そういった部分でのソウル・ガーディアンの研究に、新しい説がこちらの世界で生まれることになりました」


 長門と大和が会話できるのは、何故か光が鉄に乗った状態で話しかける状況に限定されるが。いちいち鉄を起動しなくても……と、鉄と全く同じシステムを構築して試したが、そちらの結果は失敗に終わっている。逆に光が鉄に搭乗していれば、鉄の通信を中継することで他の人とも長門と大和との直接会話は成立することが確認されているので、光の妄想や想像ではないことも証明されている。


「ともかく、我々でも予想できる範囲ではこれが限界です。今の所はものすごい味方が仲間になってくれたと単純に考えて問題はないと考えてよろしいかと。なにしろ長門さんと大和さんの護衛目標は、この国なのですから」


 ────────────────────────


 と、そんなやりとりが以前にあった。それ以来長門と大和は日本の周りを積極的に巡回している。なにせ人ではない上に疲労という物も一切ないらしく、24時間不眠不休で日本の護衛を進んで受け持っている。その巨体の影響は凄まじく、他の国からはやれ侵略をするのか、世界の平和に挑戦するのかなどとがなりたてる国がいくつかあった。それに対する光の答えはたった一つ。


「それがどうかしたのか? お前たちが平和という言葉を使う資格があるとでも?」


 で一蹴していた。今のところそんな対応をしていても、世界は日本に対して攻めてくる様子はない。半透明といえど、超大型の砲門を兼ね備えた長門、大和の姿は圧倒的である。過去大和が沈んだ理由は制空権を一切得ることが出来ず、味方も非常に少ない状況で袋叩きにされたからなのだが……今はそんな方法は通じない。


 長門、大和の二隻はともに復活した時、対空ミサイルランチャーなどの新しい武装が追加されている上に、神威シリーズが脇を固める事が出来る今の日本の戦力ならば、空中の敵は神威達が順次なぎ払うことで対応し、空母などの大型の敵に対しては大和自慢の46サンチ砲が火を噴けば一撃必殺となりうる。それだけにとどまらず、ソウル・ガーディアンとしての防御能力で、物理攻撃の95%をカット出来てしまうのだ。当然魔法という選択肢を世界が取ることは出来ないので、もう日本に対して攻撃を仕掛けるだけ無駄という長門、大和の二隻は頼もしすぎる日本の守護者になっていたのだ。


 当然ながら世界はそんな事実を一切知らない。知らないからこそ未だに日本に対して喧嘩腰の文句と要請をガンガン送ってくるのだが。一応光は全てのメールなどを確認しているのだが……内容が似通ったものばかりなので、半ば流れ作業のように開いて、流し読みして、ポイと処分するというパターンに固定されつつある。日本の戦力はもう整いつつある。予備の戦力も確実に追加されてきている。後は神威達のパイロット育成がVRで毎日行われているので、それが済めば日本側の準備は完了である。そして予定外の援軍として、長門と大和まで参加してくれたのだ……これでもう、日本に今張られているバリアが無くなってしまったとしても、世界に手を出させない下地はほぼ完成した。


(世界は実に幸運だな。日本人以外が今までの歴史の屈辱を受けた上でこんな力を持ったら、今までの復讐として今頃は各国の殲滅を始めているぞ……)


 そんなことを光は執務室で考える。特におとなりのプライトが非常に高い国などは間違いなくやっただろうな……と。


(後4ヶ月少々か。早く時間が経って欲しいと願うのは本当に久しぶりだ。できる限り血で地球を汚していく最後は迎えたくない。だが今までが今までだ。そう言ってはいられない事が嫌でも分かってしまう今までの歴史は本当に腐っている)


 今までの日本を奴隷にすることで発展と平和を成してきた世界。だがその日本人がすべての国から消えて数ヶ月。あちこちで混乱が発生し、社会情勢はぼろぼろに崩れ落ちる寸前だ。そして社会情勢を辛うじて崩れることを防いでいる事柄が、日本侵攻再奴隷化計画らしい。今は耐えて軍備を整え、世界が連携して反逆行為に及んだ日本を叩き潰し、奴隷にすれば全てが戻るという妄想に限りなく近い話が、社会情勢崩壊を水際で阻止していると忍から報告が入っている。


(今まで甘い汁を吸ってきたことで、自らの成長を無意識に止めてきた報いだな。密かに日本に協力してくれた数カ国以外、後がどうなろうと知ったことか)


 日本に協力してくれた数カ国のために、バリアシステムの製作も進められている。日本が消えた後に真っ先に狙われる可能性は十分にあるからだ。日本が苦しい時に偽の報告書を世界に提出し、日本の負担を軽減するといった行動をしてくれた国にだけは、守りの技術を残していくつもりなのである。きな臭い臭いが充満していく世界、対象的に平和な空気が流れる日本、その反比例は今後ますます進むことになる。

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