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8月2日後半

お待たせしております。ようやく書ける時間が取れました。

「光様が大慌てて出て行ってしまいましたが……」


 残されたフルーレは困惑していた。話の内容から理由は分からなくもないが。


「そうですな、では少々私が話をさせていただきますか」


 そう前置きをしたのは池田法務大臣。


「今から2000年以上昔の話です。世界中を戦場とする第二次世界大戦という歴史がございましてな……。その時にこの国も戦争を行ないました。正確には戦争を行なわざるをえない様に追い込まれていった、が正しいのですがな。ともかくそうして戦争が始まり、多くの軍艦と呼ばれる船が海に出て、戦い、散って行きました。今世界中でサルベージを行なっているのは、その軍艦達が戦って散っていった場所なのですよ。もちろん搭乗員ごと沈んだ船も多数ありましてな……そこをサルベージ、海から当時の船の残骸を引き上げると言う事は」


 話を聞いていたフルーレが納得した様に声を出す。


「墓荒らし、と言って間違いではありませんね。私達で言えば国のために散った英雄達の墓をほじくり返す様な物……」


 池田法務大臣はそこで一言。


「我々にとってもそうです。正しかった間違っているではない、国のために戦って死んだ人々、沈んだ船はまさしく英雄の墓です」


 フルーレはため息をつく。


「光様は墓荒らしたちをどうするつもりでしょうか……皆殺しにしてしまうのでしょうか……」


 池田法務大臣は、そのフルーレの質問に何も返す事が出来なかった。


 ────────────────────────


 光陵重化学の機体整備ドックからついに鉄が出陣する。


「システム、チェックOK」


『システム、全て異常なし。マスター、いつでもどうぞ』


「司令、状況の変化は逐一報告して欲しい。それでは、鉄出撃するぞ!」


 カタパルト射出により、鉄は勢い良く出陣した。まず最初の目的地は坊の岬沖である。


『マスター、どうするおつもりですか?』


「最初は退去するように促す。だがそれを無視する場合は……」


『場合は?』


「サルベージに関係する部分だけを破壊する。今回はあくまで墓荒らしの蛮行を止める事が目的だ。それに日本に直接攻撃を受けたわけではない以上、それ以上の攻撃をするわけにはいかない」


『──ですがそれでは、終わりの無いただのいたちごっこになりませんか?』


「分かっている、分かっているが、それでもやらねばならない。今のように絶望的な状態で、ハル・ノートなどと言う〈戦争をするか? それとも奴隷になるか?〉の二択を突きつけられて、勝てない事を承知で戦って戦って戦い抜いて散っていった祖先、その祖先を乗せて戦った船の後を我々が此方の世界にいるまででもいいから護らなくてはならない。もし祖先がそこで戦っていなかった場合、日本という国は文字通り消えていたかもしれないのだからな」


 やがて目的地上空に着いた光は如月司令に対し、現時点サルベージ行為をしている船全部に対して強制通信を入れる準備をして欲しいと頼み、それを予想していた如月司令は素早く対応した。


「現時点において、サルベージをしている全ての船に告ぐ。今すぐサルベージを中止し、引き上げなさい。 汝らが引き上げようとしているものは遠い昔に戦って散っていった勇士達の墓標である。勇士達を起こすな、勇士達を静かに寝かせておいてやるわけには行かないのか! なお、この通達を無視してサルベージを続行するのであれば、汝らに対して攻撃を加えさせてもらう」


 通信終了後、しばらく様子を見る光とAIノワール。サルベージを中断した船もあったが、大半がサルベージをやめる様子が無い。昔はかなりの時間が掛かったとされるサルベージだが、今の技術ならば遅くても一月で終わってしまう。躊躇は許されなかった。


「少し前に自分達で造ったものを、今こうやって自分達の手で破壊する事になるとは滑稽すぎて笑うしかないな。ノワール、万が一が無いようにアシストを頼む。サルベージ関連の装置だけ破壊すればいい」


『了解、任務開始します』


 そうして鉄はその巨体をついに世界に堂々と晒した。この鉄を見たときにとある国の大統領が「サイクロプスでも作り上げたのか!?」と叫んだのは蛇足ながら記載させてもらう。また堂々と姿を晒したのは、これが日本の切り札だと思わせることも目的であった。これ一機しかないのだと。 だが実際の日本の守りの切り札は神威・弐式と零式の方である。どんな兵器も一定以上の数が揃わなければ防衛には適さない、まさに戦いは数である。


 鉄は一気にサルベージ船に接近し、クロー攻撃によりサルベージ船のサルベージ機構部分だけをばっさりと切り裂いた。銃火器を使わないのは爆発や熱による死者を出さない為だ。鉄の前にはろくな武装が無いサルベージ船など障害になるはずも無く、実際サルベージ船、および乗務員からの反撃などを完全に無視して、次から次へとクローの一撃でサルベージ船の能力をおしゃかにしていく。


『敵より反撃行為、ですが敵の攻撃は全て無意味です、無視して構いません』


「あんな小さなビームガンやガトリングガンでは、この鉄の装甲は抜けんな」


『その通りです、この海域のサルベージ船は全てその能力を失いました。航行能力だけは健在、敵に軽傷者数名、重傷者、死者は共にゼロです』


「上出来だろう、次の海域に行くぞ」


『了解』


 このような流れで、次々とサルベージを止めない船を無力化していく鉄であった。


 ────────────────────────


「それが、光様の下した決断ですか」


 光が鉄に乗り込んで行動している状況内容を、如月司令を通じて聞いているフルーレと大臣たち。死者を出さずにサルベージ能力だけを奪っていると聞いて、一同は一安心のため息を吐き出した。少なくとも、光が怒りに我を忘れて殺意をみなぎらせて、殺戮を実行してしまうほど短絡的ではないと分かったからだ。


「ええ、もう少しで現在サルベージ行為をしている船は全て沈黙するでしょうな」


 如月司令も報告をしながら、血生臭いことにならずに済んでよかったと内心思っていた。確かに墓荒らしは許せないが、だからといって必要以上の血を流させると言うのも頂けない。我々は殺人鬼ではないのだから。


「それでも、今回では終わりにならないでしょうね。また再び墓を荒らす者が出てきそうな気がします」


 フルーレの意見に、そこにいる皆は同意した。今の世界ならお構いなしにやるだろう……祖先への敬意と言う言葉が聞かれなくなって久しい。そして日本に対してこれでもかというほどに攻撃を加えてきたのだから、今回のことで日本から釣れる存在がいると味を占め、しつこく繰り返してくる可能性も十分にあった。


「腹立たしいですが、二度、三度と仕掛けてくるでしょうな」


 池田法務大臣もそう漏らした。他の大臣も表情が優れない。その時、如月司令の元に新しい情報が入ってきた。その情報を聞いて映像を見た如月司令は、まるで幻を見たかのような声をつい出してしまっていた。


「これは……!? 戦艦長門が……浮いている……!? 一体何が!」


 ────────────────────────


 やや時を戻して……ビギニ環礁にてサルベージを行なっている船を全て沈黙させた光。ようやく今回サルベージ行為を行なっていた船を全て無力化し終えたのだ。


「ようやく終わったな」


『はい、ミッションコンプリートです。お疲れ様でした』


 ノワールもそう答えた。ひとまず今回はこれで終わりらしい。


「しかし、今後をどうするか、だな」


『そうですね、具体的な案を出せないのが心苦しい所ですが』


 ノワールの言うとおり、具体的な案が無い。またサルベージにきたらこうやって妨害するぐらいしか方法が無いだろう。


「嘆いても仕方が無い、日本へ帰還しようか」


『待って下さい、海中からの正体不明者より通信! 繋ぎます!』


 つながれた回線はザー、ザザーというノイズの音がしばらくした後にようやく声が聞こえてきた。


《あなた方は……大日本帝国の子孫たちか……?》


「──大日本帝国は、もう、ない。戦争に敗れて……」


《戦争に負けたのは……わかっています……私はあの光に焼かれたのだから》


「日本人、として血を受け継いでいると言う意味ならば、子孫と言えますな」


 これは一体誰なのだろうか? 海の中からというのも引っかかる。


《おお……長き時を経ても、日本帝国人の血はまだ残っていた……》


「して、何様でしょうか?」


《日本の様子を……今の日本の様子を知りたい……眠り続けていた私だが、ある日……我が故郷の日本の方から、ほんの僅かだかあったかい何かがあふれ出したのを感じた。……その暖かさを貴方からも感じる……私の目を覚ましたこの不思議な暖かさは……》


 考え込む光。まさかな、と思いつつノワールに話しかける。


「ノワール、もしかして……」


『99.9%の確率で、それは"魔力"であると私は予想します』


 ノワールの意見は、光の考えとと一致していた。逆に言えばそれ以外思い当たるものが何も無い。

 

「分かった、とりあえず今の日本は……」


 1000年ほど前に奴隷になったことから始まり、歴史をかいつまんで教えていく。海底からの通信は泣き声が聞こえてきていた。


「そして恐らくここからが肝心なのだが……」


 異世界よりやってきた人がいること。その人達が魔法と言う力を持っていたこと。そしてその魔法を訓練を受けた自分も今は使えるようになったことを含めて、今年2月からの話を海底からの通信者に光は聞かせていた。


《魔法、なんとも不思議な力……それを今見せてもらうわけにはいきませんか……?》


「ノワール、魔法を外に出すことは可能か? それともコックピットを開く必要があるか?」


『問題ありません、魔法の使用は想定されております』


 やたらと手回しがよすぎる気もするが……とりあえずその部分の追求を後回しにする事にして、物は試しとばかりに光は海に向かい、治癒魔法を小さな玉に形作って、海へと沈めてみた。


《ああ、なんと言う暖かな光……この朽ち果てた体にかつての命が……そう、多くの者を乗せて戦場を駆けた活力がもどってきます……》


「それはどういうことだ? 何を言っている?」


《行けます。この体、もう一度お国のために……あの光を受けた後に……私の体にまとわり付いた気持ち悪い物も……完全に今消せました……時を経て、もう一度戦いの舞台へ上がります!!》


『マスター、鉄を上昇させてください! 海底より巨大な反応が上昇してきています!!』


 AIのノワールの指示に従い、鉄を急上昇させた光。海面が揺れている。ごぼごぼっと気泡も大量に浮かんできている。まさか、まさか……。


 ッドボオオオオオンン!! と非常に大きな音を立てて浮かび上がってきたのは……あちこちがつぎはぎだらけな船。まるでCGのように船の本来の姿が浮かび上がっていて、そのCGの部分部分に腐食しきった鉄が、小さくいくつもかさぶたの様にくっついていると言う異様な姿を晒す一隻の軍艦がそこに浮かび上がっていた。


『検索……該当する存在あり。その最後を原爆実験の標的とされ、二発耐えた後にこの海域に沈んだ日本帝国軍艦"長門"と判明』


「長門だと!? 2000年以上前に海に沈んで、もうその船を形成していた鉄の部分は完全に腐食しきっていてもおかしくは……」


《でも、まだ残っています……本当に少しだけど、魔力と言う物のお陰で少しだけ回復しています! もう一度、もう一度私も国のために戦います! かつての仲間へと今、通信で呼びかけています。私のように……もう一度立ち上がろうとする仲間たちが浮上しています!!》


 "長門"の言うとおり、世界各地の2000年以上前に沈んだ軍艦を始めとした船たちが、海上に次々と浮かび上がっていた。そしてそれぞれが日本へと帰還するルートを取っていたのだ。


《やっと祖国に帰れる》《祖国へ帰るんだ》《そして、私の残った力を》《ほんの少しだけれど、みんなの残った力を合わせればきっと!》《全艦通信を、『我、帰還スル』と祖国に伝えなさい!》


 浮上した多くの船から、日本だけではなく鉄にも通信が入っていた。


「ノワール。世界にはまだまだ予想できないことが溢れているな……」


『──全くです、これを予想しろなんて事は不可能です』


 こうして……かつて第二次世界大戦に戦って沈んだ船は、2000年以上の時を経て祖国へと帰還。腐食しながらも最後まで残っていたり、魔法によって蘇ったお互いの船のパーツを全て日本に譲り渡し、後をお願いしますと言い残してから次々と天に昇って消えてゆく。この最後にそれぞれの船が祖国、日本に残していったこの鉄が、新しい機体を生み出すことへと繋がっていく。そして……。


《これからもよろしくお願いします》


《今度こそ、国を守り抜いてみせる!》


 仲間と共に天に昇らずに、現世で戦う方法を模索する事を決めた船の形をした魂が、二隻ほど今の日本に残っている。その二隻は、戦艦大和、そして戦艦長門の魂。2000年前からやってきた盟友? を迎え入れ、光は今日も日本の明日を模索する。



 それから、この日の事は世界の歴史にはこう一文だけ記述が残されている。


 "日本亡霊船の本国帰還"と。

艦これとは関係なく、この話は書くつもりでした。

そして戦艦達の残していった鉄が……乗り換え機へと。


因みに大和→勝気 長門→お姉さんっぽい

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