8月2日
お待たせしております、おっさんの方でも執筆が遅くなっており、
申し訳ございません。
「──これで結界、ならびに治癒の魔法は一通りとなりますね」
「改めて思ったが……魔法とはつくづくとんでもない力だな……貴女達が当初教えるつもりがなかったのが良くわかると言うものだ……」
攻撃魔法に続いて、後日に防御の為の結界魔法、治癒魔法の初歩を学んだ光。だが初歩でありながら、高威力のビームガンの一撃を余裕で弾き、ほぼ枯れ果てている様に見える植物がみずみずしい命を吹き返す。もちろん完全に枯れてしまっている植物の命を戻す事は不可能だったが、それでもすさまじい治癒能力だ。
「初歩の治癒魔法でも、骨折などに対応する事が可能です。中級以上の治癒魔法を学ぶ者は大半が病院、軍医などの医者への道を選ぶ人達ですね」
今までの医療現場が変貌してしまうな、光はそう分析した。だがこちら側の外科手術を始めとした医療技術が失われることも無いだろうが……。なぜなら。
「だが万能ではない、そうだろう?」
魔法だから何でもできる……というわけが無い。何でもできると言うのなら、わざわざ地球にまで子孫繁栄のための遺伝子を、世界の壁を越えてまで探しに来る訳が無い。
「はい……ウィルス系、免疫低下系などの病気には対処が出来ません、なぜならばウィルスにまで治癒の力が働き悪化させてしまうからです。毒を抜くといった事は出来るのですが」
風邪にかかっている人に治癒魔法をかけると余計悪化させる側面があるということか……、やはり大きな力だが万能ではない。大きな建物には大きな影が出来るように、大きな力にはそれなりの不便なものも付いて回るのだ。そう、核の様に……。
「実はあと一人だけ、魔法を教えて差し上げてほしい方がいるのだが……」
光は天皇陛下にも魔法を習得してもらおうと考えていた。攻撃系を一切覚えないにしても、結界系や治癒系の魔法を覚えていてもらえば……だが、フルーレは首を横に振る。
「魔力濃度が十分高まっているのは、まだ光様だけです。私達と多く密接に関わってきた為に魔力濃度の高まりが早かったのでしょう。他の方々はまだ魔法の初期訓練すら無理な状態です……申し訳ありませんがお断りさせて頂く他ありません」
このフルーレの返答に、光も今は諦めざるを得なかった。フルーレ達の世界に転移した後に改めて頼むしかないか、そう考えを纏めて今の所は記憶の戸棚にしまっておくことにした。
「光様、くどいようですがもう一度。今の光様もお分かりのように、魔法の力は非常に強大です。過去に一人の天才魔法使いが大暴れをして……多くの命が奪われた歴史が我々の世界にもあるのです……どうか、心の手綱を決してお放しにならないでください」
「──よく覚えておく。忠告感謝する」
フルーレからのくどい忠告も分かろうというものだ……何も持っていない手から爆殺も凍結も惨殺も……そして逆にボロボロになった命を治癒するという真似まで今の私には可能な事。はっきりと言って良い、知らない人間から見たら私は……藤堂 光という人間は一種の化け物になったのだ、と……。だからこそ心を強くもたねばならぬ、一時の欲に負けるような事があれば……殺されるのも止む無し……この力を振るって暴走すれば、それこそいくつの命を奪うことになるか分かったものではない。
藤堂 光よ、これから先は寿命を迎えるか戦いで散ることになるかは分からないが決して忘れてはいけない。お前は"護る"為の力を欲したのだ、今の海外の連中のような"奪う"為の力ではない……そう自分で自分に言い聞かせる光。いつの世も真の敵は己の中にいる、歴史が教える先人と同じ徹を決して踏んではならない。過去を振り返ってそこから過ちを学び、そして前を向いて明日を求めねばならない。その"明日"にこれから先の日本の将来が懸かっているのだ……我欲に溺れる暇など無い。
「今のお気持ちをお忘れになりませんよう。私達も貴方を殺すような結末は望んでおりません」
逆に言えば、必要となれば容赦せず……である。光は静かに頷いた。そんな──静かな時間は突如破られた。
「総理、光総理! すぐに官邸にお戻りを! 幾つかの国に属している船に妙な動きがあります! 緊急会議を開きたいのでどうかお戻りを!」
顔を見合わせる光とフルーレ。ともかく急いで戻ろうということであわただしく官邸に戻ってゆくことになった。
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「一体何事だ!」
「総理、お戻りになられましたか!」
明らかにほっとした表情を浮かべる大臣たち。一体何があった? と光は首を捻る。まさかどこかの国が進入して来たのか!?
「何が起こったのか説明しろ!」
「は、はい!」
慌ただしく行なわれた説明では、いくつもの船が海上に出て何かの作業をやっている様子である、との事だった。
「船の数が一隻二隻というのであれば、こんな大騒ぎはいたしません。ですがその数が……確認できただけでも二百を超えています」
その船は何所にいるのだ? そう光が聞くと、フィリピン周辺海域、台湾沖、坊の岬沖、ビギニ環礁などなど、世界各地に散っている。 何かを引き上げるつもりなのでしょうか? 展開している船は全てサルベージが可能な船のように見えますが……大臣の誰かが情報を見ながらそう呟いた……その瞬間、光は彼らの狙いがなんであるかを理解した。理解できてしまったが故に思い切り机に自分の右拳を叩きつけてしまった。
「そ、総理!?」
「いかがいたしました、総理!?」
「何か分かったのですか!?」
ガン! という大きい音を立てながら右手の拳を机に叩きつけた、大臣たちは驚きつつもそんな行動を取った光の様子を伺う。 その時光の口から出てきたのはこの一言だった。
「おのれ! 戦って散った誇り高き海の勇士達が静かに眠る墓標を辱めるか!!」
この"墓標"で数人の大臣がハッとした。 そう、多くの船が居る場所は第二次世界大戦前後にて大型戦艦などが戦いを繰り広げ……そして海に散っていった場所ばかりだったからだ。戦艦大和、長門などといえば分かるだろうか?
「鉄が足りないのなら過去の墓標をほじくり返して量を集めようというのだろう! ふざけるな! 多くの者と共に沈んだ船も多い。そんな勇士たちの眠りを自らの欲のために妨げるつもりかっ……!! そこまで堕ちたか! 眠っている勇士の中には、自分達の祖先もいるだろうに!」
机に叩きつけた光の右手から血が僅かに流れだした。しかし憤怒の色に染まっている光は、全く痛みを感じていなかった……。そして光は決心する。
「──今から出撃する! 散っていった勇士達の魂を汚されてたまるか!!」
「総理、出撃と言いましても一体……!?」
「私の専用機『鉄』を出す! こんな行為、見過ごすわけにはいかない!!」
言うが早いか、光は端末を操作し光陵重化学司令室の如月に連絡を取る。
「はい、如月です……総理!?」
「鉄はいつでも出せるか?」
如月司令も今の光が放つ怒気に一瞬気圧される。 その時、鉄専用AI『ノワール』が通信を入れてきた。
『此方ノワールです、既に起動を段階的に行なっております。それから、光様も既にご存知かと思われるかの船団達は、間違いなく過去に沈んだ戦艦などの破片などをサルベージし、自分達の兵器を作る際の材料にするのでしょう。まだ辛うじて製鉄技術を残していた日本以外の国に、サルベージした鉄を持ち込んで鉄鋼にするつもりだろう、と予想いたします』
ノワールの予想を聞いて、ギリ……と光の歯が音を立てた。自分の予想と寸分違わない内容だったからだ。
『鉄の方ですが、後は光様が到着し乗り込めばすぐに出撃可能な状態にしておきます。こちらへのお早いお着きをお待ちしております』
そういい残してノワールの通信が切れた。
「司令、そういう事だ」
「事情は理解しました、お早く」
通信を切り、光は立ち上がる。
「では、行って来る。 墓荒らしは罰せられなければなるまい」
官邸を出る光。鉄の初陣はもうすぐそこである。
鉄、いよいよ出撃です。




