7月28日
久々にのんびり?
やっとですが光が魔法を日本人で初めて習得します。
「光様、いよいよ魔法の伝授を行ないます」
忍耐の一月を超え、光の体内で走る魔力の定着と安定を確認したフルーレはいよいよそう光に告げた。そのため前もって火などを使ってもいい訓練場に移動しており、更にフルーレの結界で一定範囲を保護すると言う風に念を入れている。
「そうか、いよいよか……」
光も内心楽しみな所があった。新しい技術に触れられると言うのは良い物だ。新しい打開策を考え付く良いきっかけになる事も多いからだ。ましてやこんな状況下、使えるカードは増えるほど良いに決まっている。
「それから先に申し上げておきますが……光様の魔力を検査した所、得意なのは回復、結界系統と出ております。攻撃系統もある程度は使えますが、極端な火力は持つことが出来ないと申し上げておきます」
ふむ、と光は少々唸った。
「参考までに、どの程度まで使えると予想されているのかな? 私の魔力の質からすると」
「そうですね、光様の魔力ですと……爆発する火球、此方の世界でもおなじみの"ファイアーボール"を同時に二つ展開するのが限界でしょうか」
それは個人が持てる火力としては十分すぎるのではないか? そうフルーレに返答する光だが……。
「いえ、上級者では此方で言う小規模の核爆発に近いものを放つ事が可能なのです……そういったものと比べますとやはり火力は低いと申し上げるしかありません」
あっさりとそんな事を光に告げるフルーレ、だが。
「それから、此方の世界の空想で書かれている"メテオ"なる魔法だけは私達の魔法の中には存在しておりません」
最後にこう付け足すフルーレ。何か理由があるのだろうか……。
「とりあえず、基礎からお教えします。大丈夫です、忍耐の一月を乗り越えたものにとっては非常にたやすいことですから」
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そうして1時間後。一番簡単とされる魔法、ファイアパウダーという炎の粉を生み出す魔法の発動に成功する光。
「できましたね、これが一回でも発動できれば魔法を発動する感覚はもう掴めているのです。ここから先はしっかりとしたイメージが大切になってきます。ファイアアローやファイアボールなどはその形までをしっかりとイメージして一定の呪文を唱える必要があります。剣を振りながら小さな声でしっかりと詠唱を紡ぐには修練が必要ですけどね」
復習として数回ファイアパウダーを発生させ、魔力の流れを文字通りの体で覚えてゆく光。体の中を一つのエネルギーが走ってゆく感覚が今ははっきりと分かる。少々気持ち悪さを感じるが、それもじきに慣れてゆくことだろう。
「なるほど、一回発動できれば軽く念じつつ詠唱を呟けば簡単に発動できるな。この感覚を今のうちにより確かなものにしてみようか」
訓練所の的を狙って右手に魔力を流す光。そして……"ファイアボール"と呪文を紡ぐ。体の魔力はその声に答え、光の右手の前に一つのバレーボールぐらいの大きさをした燃え盛る球体が生まれていた。
「後はこれを……行け」
的目がけて飛んで行けとファイアボールに念じると、ファイアーボールは光の右手から飛んで行き、見事に的に直撃して爆発、炎上した。
「飲み込みが早いですね、イメージをする事が日本人の方は得意なのかもしれませんね……」
フルーレはそう光に言ってくるが、大体漫画でもアニメでも映画でもそういう感じで扱われている事が多いこちらの世界にある空想の産物である魔法と、偶然扱い方が一致したからすぐに扱い方の感覚が分かっただけである。もっと長い呪文を唱え、独特のパフォーマンスをしないとなるとこんなにすぐには扱えなかったはずである。そういえば、フルーレは魔法はイメージといっているが……。
(そうなると、昔に存在していたライトノベルの方法がこちらでも通じるか?)
光のストレス解消の一つであり、かなり昔に存在していた小説で、ライトノベルと呼ばれ気楽に読む事が出来る娯楽小説があった。 それを見つけ出して僅かな時間を利用して読む事を光は楽しみとしていた……今はライトノベルを書く作者も居ないし、その古さから取り扱っている所も少ない。殆ど過去の作品をサルベージしている状態だ。 とにかく、ライトノベルの世界では魔法を主人公達が科学の知識を用いて強化すると言う話が幾つかあったはずだ。実際に神威や鉄で魔法と科学は両立できる事がここでも判明している以上、それを試す価値はある。
(ガスバーナーのように完全燃焼させた青い炎は一千℃を超えていたはずだ。これを魔法で真似するとなると、体の魔力と外の魔力を……)
体の魔力を燃料と火元、外の魔力を空気扱いと考え、完全燃焼をイメージしながらもう一度ファイアボールを展開すると……黄色い色がかかった白い炎で出来たファイアボールが現われた。
(白か。青には程遠いがとりあえずは間違ってはいないようだ。ファイアボール系統が自分の発動できる限界であるかもしれないが、その発展性までは限界ではない、か)
その黄色い色がかかった白いファイアーボールを的に当たると、最初のファイアーボールよりも派手に爆炎と熱風を撒き散らした。はっきり言って人に当てるだけならオーバーキルもいいところである。こんな感じかと光がフルーレの方向に振り向くと、フルーレはあんぐりと口をあけていた。
「──日本人の皆様はもしかして、すぐにこんな風に魔法の改造をする事が出来るのでしょうか……」
そんな声がフルーレの口から漏れてくる。なかなかに今の光景はショックだったらしい。
「知識も力……だからな」
硬直気味のフルーレを見て、苦笑いする光。軽い気持ちで試してみたらあっさり成功してしまったので、フルーレに掛ける言葉を見出せないのだ。
「た、確かに知恵は力を生み出すものですが、程があります! 先ほどのファイアーボールは二ランク上の爆裂魔法と比べても見劣りしませんよ!?」
掴み掛かりそうな勢いで光に対して詰め寄るフルーレ。
「そういう知識や技術を磨かなければ、我々は生きてこれなかったのだ。悪く思わんでくれ。 だが、この魔法はうかつに使えんな……自分の魔力の消費などの問題以前に、被害の規模があまりに大きくなり過ぎそうだ」
極端な例えだが、今回の光が撃った黄色い色がかかった白いファイアーボールはネズミを殺すのにナパームを撃つようなものだ。そんな事をしたら周りまでが全部が焼けてしまうので、実に間抜けとしか言いようが無い状況になる。
「暴漢などを抑えるのなら、火よりも氷系統の魔法で凍結させる方がまだ被害が少ないか」
そこからはアイスボールの練習に移る光。そうしてフルーレの指示の元、火、氷、風の攻撃魔法を光は習得した。
「攻撃魔法はこれぐらい使えれば十分だろうか……」
「そうですね、これ以上は軍人の領域に足を突っ込みますよ」
そうしてこの日の魔法訓練は終わった。 回復、結界魔法などは後日に回された。
なお、白い炎は赤い炎に比べるとかなりの高温です。
より温度が上がると青みがかかった白になります。
でもそこまで行くと非常に危険ですが。




