7月20日
リアルに比べて遅れまくっております……。
おっさんと比べても遅筆なのが治りません。
ブンブンッ……ガガガガガガガッ……ピピピピピピ……ドドドドドドッ……。
今光は、VRにて『鉄』に乗り込んで行なう戦闘方法の訓練を行なっている。メインウェポンの一つとなる胸部ガトリングガンともう一つのメインウェポン、手持ちのマギ・カノンガンを二丁。背部には、折りたためるが展開して放てば長距離射撃が可能なマギ・ランチャーが2つの砲門をワンセットとして搭載されている。 更に肩部分、バックブースター部分、足部分に仕込まれている思念兵器スレイブ・ボムズ。シミュレーションでの鉄の射撃武装は以上である。近接では肩部分より伸びている補助腕に仕込まれているクローとパイルに加え、大太刀・影柾を一振り所持している。
因みに、鉄に搭載される予定のどの武装も全て現実世界でも完成しており、夏の終わり頃には鉄も本格的に起動する予定になっている。その半月ほど後に神威・弐式が。十月頭には調整を入れた神威・零も正式に起動を始める。そこまでこぎつければ、数字の上ではあるが防衛戦闘ができる所までようやくたどり着ける。後はオプション装備の充実とパイロットの練度を上げるだけだ。
鉄の完成時におけるスペックも、専用パイロットである光には公開されている。
RS-002-鉄
【頭頂高】 16.8m
【本体重量】 32.4t 重力コントロール通常設定値発動にて18.9t
【全備重量】 現時点にて追加オプションは存在せず、本体重量に準拠
【ジェネレーター出力】 メイン6,140kW サブ4.420KW バックアップ2.500KW
【スラスター総推力】 142,700kg 重力コントロール改機能搭載
【センサー有効半径】 17,550m
【装甲材質】 ネオマギ・ゴーレムメタル装甲、内部重力コントロールアーマー
【武装】 背部収納型長距射程マギ・ランチャー1セット、胸部ガトリングガン2×2(交互発射による熱対策)、マギ・カノンガン二丁、思念兵器スレイブ・ボムズ、近接攻撃用補助腕ワンセット(左にクロー、右にパイルを内臓)、鉄専用大太刀影柾、防御専用フィールドマギ・ガーディアン展開可能、専用AIノワールによる特殊行動システム、「鉄の血」搭載、鉄の血開放中限定最終武装、「ラスト・カノン」 以上
【運用】 多数の相手に対する迎撃
【乗員人数】 1 (AIによるバックアップサポート有)
やってくる相手を待ち構え、弾幕とスレイブ・ボムズで蹴散らす動く要塞でもある。 相手が掛かってこないのなら、胸部ガトリングガンをメインにして敵軍の中に突っ込みガトリングガンの弾をばら撒きまくる戦法も可能だ。防御は堅い装甲と新型防御フィールドであるマギ・ガーディアンで耐える。もしくはその鋼鉄の塊とフィールドを生かして敵に対して高速タックルを仕掛けてもいい。
しかし、そんな強力な数々の兵装も"扱いきれなければ意味がない"為、光はVRを生かした衝撃もGも感覚として感じる中、ノワール式スパルタ訓練を受けていた。仮想敵として用意されていたのも最初は各国のデータで分かっている範囲の戦闘機やそれに付随した空母などだったのだが、鉄の性能が高すぎて圧倒してしまう為、今の仮想敵は劣化『鉄』。ただし同時に襲ってくる設定の数が100機以上であるが……。
「ぐおっ、被弾したか!?」
「マスター、フィールドを過信してはいけません、できる限り回避してください」
そもそも耐えるタイプである高装甲機体で回避力を高めろと言うのはかなり厳しい注文なのだが、常にそれぐらいの考えでいた方が間違いない、そうノワールは考えていた。AIである彼女は、マスターこと光の死は自分の死よりも恐ろしい物であると考えている節がある。そのため死ぬ確率を出来るだけ下げる為にも高い回避能力を維持しつつ敵を攻撃して殲滅すると言う要望を光に出し続けた。特殊システムはバックアップジェネレーターをフル稼働して発動させる奥の手なので、無闇に光がそれに頼るような事にならないようにVRの訓練では一切発動させていない。
そんな厳しい内容で行なわれていた1時間の訓練が終わり、VRから解放された光は流石に数分ほど座ったままぐったりとしていた。
「マスター、かなりの回避技術の向上が認められます。大変でしょうが貴方は死んではいけない存在なのです……どうか訓練にご理解を」
ノワールの声に「大丈夫だ、理解している。また次の訓練でな」と光は告げる。「はい、またいらして下さい」とノワールも返答し、VRが終了する。VRが起動していないときは、ノワールは本体である鉄内部にて様々なデータを処理している。
「訓練お疲れ様でした、総理」
如月司令が光に声をかけてくる。
「ああ、いざと言う時に戦えないでは話にならないからな。きつい訓練だが、これぐらいは耐えられる。専用機体も貰っていることだしな」
光はそう如月司令に返す。もはや如月も工場長とは呼ばれずに司令と呼ばれる事が圧倒的に増えた。それから如月の行動に同調した5、6番工場が神威・零の組み立てなどをバックアップする事が決まっている。これにより7番工場は鉄や神威・弐式に専念できるようになり、生産効率は大きく向上している。
「うちの部下にも、『総理だって戦いに行くんだ、お前らも腑抜けてるんじゃない!』と檄を飛ばしていますよ。実に分かりやすい旗頭に総理がなってくださったお陰で、士気は全く落ちておりません。貴方のような方がこの時期に総理になっていた事を天に感謝せねばなりませんな」
俺が前に出る! だからお前達は後から付いて来い! と言う光の行動は理屈を捏ね回すよりも遙かに分かりやすかった為に、様々な場所で働く人達を奮い立たせるのに十分だった。新天地に行けると言うだけではなく、異世界の人々に頼りっぱなしではなく同胞として並び立てると言う事実は、色々と後ろめたい気持ちを払拭するには非常に効果的だった。 異世界から来た人たちのお陰で助かると言う事実は変わらなくとも、異世界の人達におんぶにだっこではなく、自分達の力で一緒に戦えると言う事は自信に繋がる。日本が異世界に行くと言う総理の発表から半年も経過していないのだが、日本国民は失っていた誇りを取り戻し、知らず知らずのうちに砕け散っていた自信を再び己の心の中に蘇らせた。今日を、明日をより頑張って生きようとする活力に満ち溢れているのだ。
「こういう長丁場での士気を維持する事は非常に大事だからな。負けられぬ戦いが年末まで続く以上、総理である今の自分に出来ることなら……全てをやる義務があるし……全てをやれる権利を同時に持つ立場でもあるからな。日本の将来のためにも、これからも協力を願うぞ? 如月司令殿」
光と如月は握手を交わし、光は官邸へ、如月は世界情勢から今後の作戦を弾き出す為にお互いの戦場へと戻ってゆく。一度の敗北で全てが終わる危険な一本道を歩いている今の日本……最後までその一本道を歩ききる為に彼らは今日もそれぞれの戦場へ向かってゆく。
鉄の出陣もそう遠くありません。




