7月8日
異世界組みの様子です。
「これほどとは」
フルーレが真剣な表情を浮かべつつある映像を見ている。 映像の内容は昨日発生したKAMUIの戦闘シーンである。今後共に戦うことになる日本国の主力と言うことで、フルーレ達にも一度は見て欲しいと光から手渡されていた映像データだ。
「でたらめ……と言っても良いかも知れませんね。まさかあの運搬ぐらいにしか使えないと我々が考えていたゴーレムと言う存在を……自らの技術を組み合わせてここまで別の物に仕立て上げるとは」
KAMUIはフルーレ達が来る前に大本が出来上がっていたので、厳密にはゴーレム技術が使われている部分は今後完成してくる鉄やKAMUI弐式よりも遙かに少ないのだが、このような形になると言う意味では十分参考になるだろう。
「確かに予想を遙かに超えてきたな。 まさかここまでの戦闘能力を持たせることが出来るとはな……しかも、俺達にとっては基本でしかないと思っていた簡易の重力操作だが、ここまで破壊能力と言う指向性を持たせる事が出来るとは恐れ入ったぜ。この空を飛んでいるやつが丸く潰れてるのは重力魔法の応用で押しつぶしたんだろ?」
映像を見ている部隊長たちは予想を上回る能力を持ったKAMUIに興味津々である。映像では容赦なくKAMUIが刀を振るい容赦なく切断しているシーンに入ってきている。いろいろなものが吹き飛んでいるが、それから目を背ける者は一人も居ない。戦いではそんな光景は当たり前である。
「こうやって大きい体をしているのに、これだけの近接戦闘も可能ですものね……きっかけを得たこの国は本当に変わってゆきますね」
最初の虐げられていた状態から僅か数ヶ月しか経っていないと言うのに、今はこうやって十二分過ぎるほどの戦いをするようになっている。 どう少なく見積もっても、同胞として頼りに出来るレベルには間違いなく達している。
「しかしこのデカブツ、戦いの時以外に使い道はあるのか?」
尤もな疑問である。 各国専用の防衛能力を持つのは当然であり、それに文句を言うつもりは全く無いとは言え、これだけの存在を武器としか扱えないのは惜しい。そう考えるのが普通である。
「それについては光総理から追加情報を貰っています。『争いがある状態ではこういった戦いに用いるが、争いが無い平時では武具の携帯は最小限に抑え、工事や緊急時の人命救助、物資の運搬などの平和的な使い道をする』そうです」
フルーレがある部隊長が出した疑問に対して光の代わりに返答した。 そもそもそういった平和的な使い道の方が日本人に取ってはありがたい方向である。 戦闘がしたいならVRを用いた模擬戦闘をすれば事足りる。いくら海外に今までの恨みが蓄積していようが、必要以上の流血を望んでいないのはやはり日本人特有の思考なのだろうか? 打って出るのは今回のように攻撃の意思を確認できた時だけに留めるつもりだ。
それから少々話が脱線するが、KAMUI弐式専用のVRをほぼ完成し、開発者たちが模擬戦を繰り返しつつ、詰めの作業に入っていた。パイロット候補が発表される日は近い。
「今後のことも色々考えているわけか……これで口だけじゃなく行動でも我々の部隊と、緊急時には守ってもらうのではなく共に戦うと言う意思をこの国の総理はここに証明したわけだ」
そのある部隊長の声に、フルーレを含む全員が頷く。
「これで各国の代表に、『日本皇国は護衛対象から我々の同胞に代わった』と報告するべきであると私は考えています。こうして共に戦う能力を身に着けた今、皆様も納得すると思われますが、どうでしょうか?」
このフルーレの問いかけは全部隊長の賛成で一致を見た。
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フルーレの直接の通信により、地球から見て異世界側の三国に対し報告が送られた。 現時点では細かい情報を渡すことは出来ないが、日本皇国が自分達と肩を並べて戦う意思を示したこと。そしてそのための新しい『力』を生み出し、現に自分達の目に見える形で見せた事。 そして最後のその力に溺れず、あくまで防衛の為にのみ扱うと言う考えを持つ様子である事、これらの三点の情報を伝えたうえで、『今後日本皇国は庇護を与える護衛対象ではなく、同胞として地球出向部隊は扱いたい』と一文を添えて報告を送った。
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──マルファーレンス帝国
「おい、この報告を見てみな」
マルファーレンスの代表でもあるガリウスが側近を呼び寄せる。
「何か問題が発生いたしましたか?」
側近は地球へ増員希望の報告が来たのかと考えた。今までの報告であちらの世界に居る日本皇国がかなり苦しい立場にあると言う事は理解出来ており、三国連合の会議では追加の魔法部隊を地球に送り、日本皇国の防衛力をより高めた方がいいのではないか、と言う意見もよく出ているからだ。
「問題じゃない。 むしろ喜ばしい展開だぞ?」
そう言って、ガリウスは報告書を側近にも見せる。
「これは……!? 予想外ですな。 ですが確かに喜ばしい事です。少々気になる部分がありますが、これならばこちらに来た後でも彼らは生きて行けるでしょう」
いつまで経っても庇護を求める者はいつの時代にもいるものだ。だが日本皇国は既に自らの足で立ち上がって行動を始めたらしい。これならばいつまで庇護を与えねばならないのだと言う問題は発生しなくて済む。それだけでも彼らはこの世界に来た後も冷たい視線に晒されることなく我々と共に肩を並べて生きて行けるはずだ。 側近であった彼も、この展開には大きく期待を持つことになる。
──フォースハイム連合国
「なるほど、そうなりましたか。 彼らはついに守るだけから攻めを交えた守りに転じましたか……」
フォースハイムの長でもあるフェルミアはそう感じた。 自己の占いで発現した結果である日本人の本質であると表されたタートルドラゴン。 そのタートルドラゴンがいよいよ甲羅から足を出し、手を出し、尻尾と頭を出し、襲い来る相手に向かって戦いの咆哮を上げて襲い掛かったと見た。
「あの温厚なドラゴンは怒った時には一切の容赦がありません……いよいよその牙を敵対者に対して向けますか……」
言い換えれば牙を向ける覚悟をしたとも言えるので、無意識の内に表情がこわばってゆくフェルミア。
「血が……たくさん流れる事になるでしょうね……」
──フリージスティ王国
「そうかそうか。流石は婿殿。(予定) 我々の庇護に甘えることなく立ち上がる道を選んだか、実に良いぞ!」
報告を見た沙耶は、小躍りしそうな勢いである。
「あの方々が自ら立ち上がりましたか……」
側近は沙耶をなだめつつ感想を漏らす。 この側近は、沙耶と一緒に日本を訪れていた一人である。
「出来るだけ日本皇国に死者が出ないと宜しいのですが……」
良くしてくれた思い出が多い日本に対し、側近はそう願う。 あんな暖かい人たちは出来る限り戦なんかで死なないで欲しいと。
「戦となればそれは難しかろう……じゃが、そうじゃな。 せめて武運がある事を我々だけでもここから祈ろうではないか……」
まだ国民に知らせる時期ではない為、自分や側近だけではあるが、沙耶は日本皇国の為と、ついでに個人的に好意を抱く光のために……この日より武運よ日本皇国にあれと祈るようになってゆく。
異世界の代表三名は久々の登場。
まあほんの少しですけど……。




