表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/219

10月13日

 翌日、いつも通りの時間に目を覚まして朝食を取り、食後のお茶を楽しんでいた光は……何気なく見た上位ランキングの表示を見て噴き出した。何と沙耶がトップテンの10位にランキングしているではないか。しかも獲得メダルは524万枚。一体何があった!? と光はついそのランキングを眺めてしまった。


 ちなみに1位は既に1000万枚を突破。2位との差は広がるばかりだ。正直、1位の人は勝つだけの読みと運を持っているのは間違いないが、ちゃんと寝ているのか? などと光は考えてしまっていた。そう考えながら、噴き出したお茶の後片付けをする。


(あくまでここに来たのは、今後の訓練をする前の気晴らしだ。体を壊されると意味が無いんだがなぁ)


 まあ、こちらの世界の住人は魔力の恩恵もあって、体は地球人よりもはるかに丈夫だと言う事はデータで知っている。そうそう壊れる事はないかと、光は思い直す。


(さて、今日は……このエリアかな?)


 光が向かった先は、地球人なら分かりやすいゲームコーナー……古くはゲーセン、あるいはアミューズメントパークと呼ばれた場所。これは地球の文化の影響を受けて新設された場所であり、地球人なら分かる対戦ゲーム、引っ掛けたり持ち上げたりして景品を得るゲーム、シューティングやアクション等の様々なゲームが集まっている。


 ただし、ここはカジノ。当然それらのゲームもただ遊ぶモノではない。一定のメダルをプレイするだけで要求され、勝てば勝つほどリターンも大きくなる。故に、どの台も勝つためにしのぎを削っている結果、すさまじい熱気がこの場を支配している。もちろん換気はされているのだが、それでも追いつかないレベルで熱気が溜まるのだ。


(さて、空いている台は……ああ、あれか。うん、いいだろう)


 光が選んだ台は、ローグというゲームを元にカジノらしい調整が加えられたものとなっている。スタート時キャラクターは何もアイテムを持っておらず、出てくるモンスターを倒したり地面に落ちている物を拾って攻略するのは同じ。ただし、回復アイテムなどの道具を使うたびに一定数のメダルを要求される。


 ただしその道具使用時に使ったメダルは、階層をクリアできれば全額払い戻しとなる。そして5階ごとに脱出エリアが設けられ、進めば進んだだけ最初に賭けたメダルに倍率がかかり大きくリターンが得られる、という調整になっていた。なお最深階は地下100階と明言されており、もしたどり着ければ賭けたメダルの1万倍を払い出すとあった。


 そして最大のベット数は1万枚。もし1万枚かけて地下100階に到達できれば……一気に1億。なので、大勢の人が一攫千金の為にメダルをかけてダンジョンをさまよっていた。ダンジョンを己の判断力と運で乗り越えるというテーマも受けが良かったのもあるが。


 光も挑戦することにしたが、まずは感覚を掴むために最低のベット数である10枚で挑戦、ダンジョンの門を操作キャラクターにくぐらせた。なお、操作キャラクターは男女好きな方を選択できた。能力に違いは一切ないが……光は男を選択している。さて、そんな光のダンジョンアタック1回目だが……これはあまり運が無かった。


 武器がとにかく拾えなかったのである。身を護る鎧や盾はいくつか拾えたものの、攻撃手段が素手一択なのは厳しすぎた。もちろんレベルアップによる能力向上で序盤は何とかなったのだが……20階を超えたあたりで、明確に火力が足りなくなった。それでもアイテムを駆使して進んだが、23階で追いかけられながらも逃げていた所に罠を踏み、眠らされた後に袋叩きにされて倒れた。


(ふむ、今回はちょっとアイテムの偏りがひどかったが……面白いのは間違いないな。もう1回行って見ようか)


 次は50枚ほど賭けて、再チャレンジ。最悪武器が拾えなくても、不運な罠の踏み方などをしなければ20階まではいけると分かった。20階到達で脱出すると、メダル倍率は3倍。とりあえずはここまで安定していけるようにすることを第一目標に据え、再びダンジョンの門をくぐる。


 そして2時間後。光が20階まで到達できた割合は大体7割。メダルは確実に増えている……が、大きく上を狙うならそろそろその先に向かわなければいけない。更に、アイテムを使う時に要求されるメダルの量だが……最初に賭けた枚数に応じて要求数も跳ね上がる事も判明していた。


 例として、HPを多少回復することが出来る下級回復薬を使いたい時をあげよう。最低の10枚を賭けた時だと、要求されるのは1枚だけだ。しかし100枚賭けた時には15枚も要求された。この調子でいくと、1万枚賭けた時はどれだけ要求される事やら……そうそう簡単に高額配当を手にする事は出来ないようになっている訳だ。


 とりあえず賭けるメダルは20枚にして、先を見る事にした光。今回はロングソードを拾うことが出来、鎧も見つけた。盾は見つけられなかったが、HPを対価に魔法弾を放てる杖を見つけたのでそれを左手に持たせている。20階を越え、慎重に進む。モンスターは出来る限り通路に引っ張り1VS1の状況を作る事を忘れない。


 丁寧に進み、最初の挑戦で倒された23階も突破、したところで武器を拾う。鑑定すると、ハイ・ロングソードと出てくる。ロングソードを一回り強化した品で、更に一定確率で威力1.5倍のパワーヒットが出ると説明にあった。


(これは乗り換えだな、いい武器を拾った)


 いいアイテムを見つけて、より自分を強化するのもローグゲームの楽しみの一つ。気を良くした光は25階の脱出口をくぐらず、30階まで挑戦することに決めた。ロングソードのままだったら進まないつもりであったが、ハイ・ロングソードの出会いがもう少し先に進む事を光に決めさせた。


 さて、そのハイ・ロングソードの切れ味の方は……明らかにロングソードとは違った。このエリアに生息するモンスターを相手取った時、ロングソードだと3回攻撃しなければ倒せなかった。一方で今のハイ・ロングソードは確定で2回、パワーヒットが決まれば1撃でモンスターを屠ってゆく。一手少なく相手を倒せる、ローグゲー経験者なら、この差の大きさはよく分かるはずだ。


 更に不運な罠配置で瀕死や即死にに追い込まれる事なく、光の操作するキャラクターはダンジョンを突き進む。27階以降はモンスターの強さがワンランク上がったのだが、複数居ない時は魔法弾を一発撃って多少削り、その後はハイロングソードで斬り捨てれば撃破の速度は落ちずに済んだ。


 その一方で、鎧の方があまり役に立たなくなってきていた。序盤に拾えた鉄の鎧だが、このあたりのモンスターの攻撃を食らうとかなり痛い。もうワンランク、欲を言えばツーランク上のモノが欲しい所。しかし出てくるアイテムは大半が回復アイテムや使い切りの魔法書など。たまに武器も出てくるが、今使っているハイ・ロングソードを上回るものは出てきていない。


 せめて武器に何らかの特殊効果が乗っている物があれば良かったのだが──そういった物は出てくることが無く、もっぱら遠い所にいるモンスターに投げつけてダメージを与え、魔法使用によるHP消費を抑える役割をこなすのがせいぜいな所となっていた、このまま鎧が出ないのであれば、30階以降は無理だなと光は判断していた。


(消費アイテムばかり潤沢でもな……上級者はそれでもホイホイクリアできるんだろうが、経験の少ないこっちには無理な話だ。30階で脱出するのが無難だろう)


 しかし、そんな考えをあざ笑うかのように29階のやや広い部屋に入ったとたん……気味の悪い音と共にモンスターが大勢が一つの部屋の中にひしめき合うというトラップ……モンスターハウスが光のキャラクターに牙をむいた。29階ともなれば当然遠距離攻撃を得意とするもの、キャラクターを混乱させて勝手にアイテムを使わせたりしてくるもの等の厄介な連中がいる。それがこの部屋に大勢現れたのだ。


 なお、入ってきた入り口には落とし戸が降りてきているので、一歩引いて通路で1VS1をして相手の数を削っていくという手段は使えないようにされているのがより悪辣になっている。


(あと1階登ればという所でこれか!!)


 ただ、ローグゲーのお約束として、プレイヤーが行動しなければモンスターも動かない。その次に許される一手をどうするかで生存できるか否かが分かれる。光はとりあえずアイテムを確認した。回復はそれなりに潤沢だが、真っ向から殴り合いはできない。回復に精いっぱいで攻撃できなくなるから、死ぬのが遅くなるだけ。


 ならばと思い、魔法書を再確認──部屋全ての敵に攻撃できる轟雷の書という物が残っていた。しかし、この書物を用いたとしても、この部屋にいるモンスターを確実に倒せる保証はない。ダメージのムラが結構激しいからだ。ただし、4体まではほぼ最大値が出るという保証はあるので、4体は確実に倒せる。


(イチかバチか、これに賭けるか? いや、流石に……しかし、複数を相手に葬れる手持ちは、轟雷の書しかない。しかたがない、か。せめて後ろの通路に戻れれば……)


 追加のメダル30枚を支払い、轟雷の書を使用した光。激しい稲妻が部屋の中を走り回るエフェクトの後にダメージ表記が出る。出来る限り多く殲滅して欲しいと願った光の祈りは──届いたようだ。生き残ったモンスターは3匹のみであり、うち2匹は瀕死状態となっていた。こうなれば、2匹は近寄られる前に魔法弾で倒して残りはハイ・ロングソードで斬り捨てるだけだ。


(ここでツキが回ってきたか。最悪最低保証の4匹だけしか始末できないという結果もあり得たわけだからな。よしよし、このツキを無駄にしないように30階で脱出だ)


 その後は大きなトラップに当たることなく、光の動かすキャラクターは無事ダンジョンから生還した。リターンは5倍+途中で使ったメダルの全額返済。とりあえず、今回は勝ちの範疇で収まった。


(進むか脱出するかの悩みは常にぶつかり続ける厄介な遊びだな。しかも、自分の判断で勝率を上げられるのだからより熱くなる……面白いだけにちょっと怖いな)


 そんな事を考えつつも、どっぷりと沼に浸かったように光は遊び続けてしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ