10月12日
2日目、3日目は特筆するべきことは起きなかった。光は順調? にメダルを減らし、手持ちはすでに600枚を切っていた。その一方でトップはすでにメダル670万枚を突破。2位が600万弱なのでかなりの差が開いている。しかしまだ4日目なので逆転は十分にありうるため、ますます白熱していた──光には一切関係のない世界だが。
4日目、光はレース場にやってきていた。ここではお馬さんによるレースが行われており、競馬をやった経験がある方ならおなじみの単勝複勝3連単などのお馴染みの買い方が出来る。カードゲームでぼっこぼこにされ、スロットもイマイチだった光は、この場に足を運んでいた。レース場は屋外にある為、室内に比べると空気もいい。
さらにこの日は晴天で、心地よい風も吹いている。こんな日には室内で賭け事に興じるより……という考えの人は多かったようで、レース場はかなり大勢の人がやってきていた。それでも十分なスペースがあるため、圧迫感や窮屈さはない。そんな中、レースが滞りなく行われている。
このレース場だけで飼育されている馬は200頭を超えており、一回のレースで10頭が出場しても20レースが開催できる。更に付け加えれば魔法による疲労回復も行えるため、ある程度のインターバルを置けば1日中ずっとレースを開催し続けることが出来るという施設である。
更に、ランダムで馬ではなく様々なモンスターが走る特殊レースが開催される。この特殊レースは配当が最終倍率からさらに5倍にされる為、一発を狙うことが出来る……非常に荒れやすいレース故、予想のしにくさが倍率を上げる理由である。普通の競馬は走行妨害などがあると失格になったりするが、モンスターが走る特別レースでは殺さない限りどんな手段を使って足止めしてもいいルールである。
もちろん足止めしあっているうちに漁夫の利でさっさとゴールするモンスターも当然いる為、とにかく荒れる。過去最高倍率は、1000万倍を超えたとかなんとか……1枚でも賭けていれば、それだけで一気に逆転もありうる。もちろんめったに来るもんじゃないが。
そんなレース場に足を運んだ光は、よさそうだと思える馬に3連複と呼ばれる方法で買う事にしていた。この買い方は1等2等3等に入りそうな馬を予想するという物で、その順番は問わない。適当にパドックで回っている馬を見て、あの子は良さそうだと辺りをつけて購入。その後はレースを観戦する。
一つのチケットに10枚しかかけていない為、レースを5回見終えた後に減ったコインは50枚で済んでいる。一方でここまでのレースで倍率が50万を超える大当たりが一回出ており、的中させた人がメダル500万枚を一気に手に入れていた。当然その人の名前はトップテンの中に入っていた。
『さあ、次はモンスターが走る特別レースです! 配当は5倍増し、一発を狙ってくださいねー!』
司会者の言葉と共に、モンスター達がパドックに入ってくる。1番目、狼型のモンスター。念の為明記するがフェンリルではない。2番目、ウサギを大きくしたかのようなモンスター。しかし角などは生えてないし、やたらと歯が長いと言う事もない。3番目、大きなトカゲ型のモンスター。だが火などは纏っておらず、純粋に巨大化したトカゲと言った感じである。
4番目は亀を大きくしたようなモンスター。しかし足運びは決して遅くはなく、亀だから遅いという考えは通じなさそうである。5番目にはカンガルーっぽいモンスター。特に脚力に優れているこのモンスターは、なかなかの速度を出すとの説明が入る。6番目は地球の虎に酷似したモンスター。だが、性格は温厚で草食らしい。馬鹿な事さえしなければ大人しいとの事。
7番目に登場したのはドラゴン……の小型版。レース中はブレスを吐いたり空を飛んだら失格にするというルールの上で参加しているそうである。8番目に姿を見せるのはサイのようなモンスター。がっちりとした灰色の肌に、力強い足運び。妨害を受けても平然と突き進む重戦車を思わせる存在である。9番目は……でっかいサイコロのような物が転がっている。あれもモンスターと説明が入った。転がるとかなり早いのだとか……
そして最後の10番目に姿を見せたのはスライム……ではなく不定形変化モンスター。要は近くの存在に化けて、動くのだという。今回は近くに居る他の9匹のどれかになるだろう。ただ、どれになるかは本人の気分次第であり、そしてレースがあれる最大の原因がこいつである。早い奴に化ければデットヒートを繰り広げ、妨害が得意なやつに化ければ場を引っ掻き回す。レースが始まる直前まで、どうなるかが読めないのだ。
『以上が今回のモンスター専用レースで走るメンバーの紹介でした。では今からチケットの購入を受け付けます、お早めにどうぞ!』
こんなの分かるわけないだろうが! というのが光の正直な感想だろうか。順に出てきた1番から9番までの面子でも予想が難しすぎるというのに、最後の10番の存在で完全に分からなくなってしまった。ではこのレースをただ観戦だけして終わらせれば良いという考えもあるが、その選択はあまりにもつまらない気がする。
(もう直感で良いか、10番は読めないから無視しよう。なんとなく調子がよさそうなのが3番の大きなトカゲと、5番のカンガルーのような子と、8番のサイのような子だろうか。この3連複に100枚ぐらいかけてみよう)
光だけでなく、他の人もチケットを次々と買って行く。勝った時のリターンが跳ね上がるこのレースで、勝負に出ないという人物は基本的にこの場所にはいない。やがて購入が打ち切られ、倍率がでてくる。光が買った組み合わせは、倍率14倍。それが5倍で70倍。当たれば一気に7000枚の勝ちをたたき出す事になる。
大勢の人の熱気と注目を受ける中、ファンファーレが鳴った。いよいよスタートである。ゲートが開き、真っ先に飛び出したのは2番のモンスター。その直後に1番、7番、8番の順で続く。一方で10番の変身モンスターは……3番のトカゲに変身して動き出していた。
序盤は大差が生まれず、皆が一団となって走る。まだどのモンスターも仕掛けるときではないと判断しており、静かな立ち上がりである。なお血の気が多いモンスターが多数参加した時はこの時点で喧嘩が勃発し、潰し合いが起きる事も珍しい事ではない。今回はそうならなかったので、かなり静かな立ち上がりと表現していいだろう。
しかし中盤、ついに手を出すモンスターが現れる。出したのは3番と10番。長い舌を伸ばし、先頭を行く2番の足に引っ掛けてもつれさせる事で転倒させた。転倒させられて転がる2番の上を跳躍して超えた1番だったが、そこに真後ろの7番からの頭突きを貰ってしまう。そのまま吹っ飛ばされてコースの端に飛ばされ、失神。この時点でリタイヤとなる
お前が手を出すなら俺も出す、という流れになったのだろう。後続も次々と前を走る面子に妨害を遠慮なく仕掛け始めた。8番が加速して7番に後ろから突撃をかける。7番はふらついたが、これに耐えてまた走り出そうとした所に、また3番と10番の舌による妨害を前足にかけられて派手に転ぶ。
派手に7番が転んだことで真後ろにいた8番が巻き込まれてしまう。そのどさくさに紛れてトップに立ったのが5番。その直後に9番が続く。またもや3番が妨害しようとするが、5番は器用に舌を回避しスピードに乗っていく。10番も妨害しようとするが、そこにいい加減にしろとばかりに後ろから10番を吹っ飛ばしたのが4番。
4番はここまで後方にいたが、そろそろ前に出ていこうという感じで動いていた。その走りはなかなか早い。しかも抜かされた3番が舌による妨害を仕掛けても、何かしたか? とばかりに平然と無視しながら5番を追っていく。3番も妨害を諦めて、ここからは速度で勝負だとばかりに足の動きを速めていく。
後半に入ったが、トップは5番で変わらず。そのほとんど真後ろに4番、9番。ちょっと後ろに3番。その後ろからはここまで後ろにいて目立たないようにしていた6番が追い込みをかけて猛追してきた。そのさらに後ろから、2番も必死で追いついてきている。6番と2番の速度と、前の集団の速度と距離を考えると、ほぼ横並びでゴールする形となる。
残りは妨害する事よりも走る事が最優先という考えで一致したようだ。変な事をせずに一番にゴールのラインを通過するべくモンスター達は残り僅かな距離を全力で走る。当然観客は大騒ぎで賭けたモンスターにエールを送りながら観戦する。そして決着、勝者は。
『結果出ました! 1着 9番! 2着 5番! 3着 4番! 繰り返します、1着9番! 2着5番! 3着4番! 以上で確定です!』
倍率174倍。モンスター特別レースの中でもかなりの倍率となった。当然光は外しているが、当てた数名が喜びを隠さずガッツポーズや雄たけびを上げている。無理もないだろう。とてつもないメダルが一回の的中で入ってきたのだから。
その後もレースに興じた光であったが、当てられたのは2回だけであった。それでも勝ったレースの配当がそこそこの倍率であったが故にメダルは増え、最終的なメダルの枚数は1026枚と400枚以上増やす事に成功してこの日の勝負を終えた。十分な勝利に満足した光は、上機嫌で眠りについた。
沙耶「今日はついておるぞ! じゃんじゃん稼ぐのじゃ!」
この日、沙耶はツキまくっていた。すでに手にしたメダルは500万枚を超えている。
あと少しでトップテン入りする直前であった。




