10月9日
翌日。フリージスティのカジノ大会が予定通り開催された。光は普段めったに着ない普段着で参加している──これはルールにも定められており、礼服などでは参加してはいけないからだ。気軽に楽しく、を歌うこの大会で形式ばった物はできうる限り排除しておきたい、という考えが元となっているそうな。
普段はスーツなどで身を固めている事が多い光にとっては、逆に普段着が普段着の仕事をしていない事もあって妙に緊張していた。普段は得意にならざるを得なかったポーカーフェイスも崩れており、落ち着きがない。周囲の人は、そんな光をほほえましく見ていた。大体この大会に参加する事が少ない人はたいていそうなるからだ。
いくら気軽に楽しく、と言ってもやっぱり勝負事は勝ちたくなるもの。そして有名な賭博師よりも勝って名を上げたいと考える者は常にいる。そう言う人はたいていそわそわしている事が多く、光もその一人だと見られていたのである。先にも言った通り、光が落ち着かないのは着慣れない普段着を着ているからなのだが。
『今回の大会も、世界各地から大勢の方が参加してくださいました。参加者の中には、今年の末に星々の世界に戦いに出られる方も大勢いらっしゃると聞いておりますが、今日から10日間だけは戦いを忘れて目いっぱい賭け事に興じてください!』
と、ここで大会開始前の挨拶が始まった。先の一言から始まり、ルールの確認と暴力行為に対するペナルティの確認等(暴力行為は、直接殴るだけでなく暴言も含まれる。他者を一方的に蔑む事は許されない。もちろん、負けてちくしょー! と言ったりくそったれがー! と反射的に叫ぶのは含まれない)が行われた。
『以上となります。熱くなるのは構いませんが、自分だけでなく他者にも十分に配慮をしてくださいね。それでは、フリージスティ主催カジノ大会、これより開幕です!!』
カジノが解放され、参加者は続々と中に入っていく。ただし、走ったりはせず押しのけたりせず、あくまで紳士的に淑女的にきちんと落ち着いての入場である。これが出来ないなら、参加する資格なし。それが、このカジノ大会の裏ルールだったりする。なお、光はそのことを前日カレーを平らげたフリージスティ上層部の面々から教わっていた。
混乱することなくカジノの中に入った光は正直な感想として、凄まじく広いと思わずにはいられなかった。カジノは六階建てだが、中央付近が吹き抜けの様になっておりより高く、広く感じさせる。そこに、あらゆるカジノの要素が詰め込まれているのである。地球の人でもおなじみのポーカーやブラックジャックに似たカードは当然ある。
更にスロットも多種多様。一番でかいスロットは、ワンプレイカジノコイン十万枚を賭ける物となっている。もちろん当たればとんでもないリターンが帰ってくる事となるが……その帰ってくる確率は、言うまでもなく低い。文字通りのイチかバチかである。それ以外にも、小型の競馬場に酷似した施設や、闘技場も完備されている。
大抵の人が思いつく賭け事はすべてある、と言わんばかりのラインナップであった。なお、日本から仕入れたと思われる丁半まで既に取り入れられていたりする。
『では、スタートチップの1000枚を皆様がお持ちである専用カードに入れさせていただきました。ここからはご自由に賭けをお楽しみください!』
光が前もって配布されていた専用のカードを確認すると、チップ残量1000枚の文字がカードの上に浮かび上がる。このカードは個人が持つ魔力で判定しており、偽装は99.9%不可能であるとされている。また、各施設の混雑状況を見る事も可能であり、足を運んだのにすでに満席で無駄足だった、と言う事を防ぐこともできる。
それはさておき、せっかくだから楽しもうと光は適当な空いている所を探す。だが、やはり何回も参加している人に比べると出遅れてしまう。
(ふうむ、カードのテーブルは早々に埋まっていくか……スロットも大勢いるな……意外にも丁半へも大勢行くんだな。日本の賭け事を体験してみたい、と言った感じなのだろう。そうなると……どこが良いかな)
定番の賭け事はすでに席が埋まりだしており、今から向かっても座れない可能性が高い。ルーレットに顔を出してみたかったが、これでは難しい。なので、人が少ないのんびり遊べそうなものを探す事にしたのだが──光の目に留まった物は。
(ああ、昔アミューズメントパークにあったメダルゲームという奴に近い物があるな。人も少ない……ふむ、大きく勝つことはできないお遊び色が強い場所とある。だが、多少は人がいると言う事は根強いファンがいるんだろう。メダルを入れてそれ以上のメダルを得るというシンプルさが良いという感じかな)
何にしろ、こうして立っていてもしょうがない。のんびり楽しめればそれでいい光は、メダルゲームならぬコインプッシュゲームへと足を運んだ。先客は10名ほどだが、皆それぞれのんびりと楽しんでいた。光はルールを確認するが……
(うん、大体同じだな。ただジャックポットした時の額が吹っ飛んでいるのは流石カジノと言った所だが──それでも、カジノ全体からしてみれば小規模だな)
ジャックポットはコイン500万枚。ただしそれが場に落ちる形で支払われるので、全部は回収できない可能性が高い。かなりのメダルが左右にある奈落に落ちて消える事になるだろう。そう言う意味でも、上位に行きたい賭博師たちからしてみれば美味しくない賭け事の一つだった。
適当な席に座った光は、コインを落とし始める。昔は直接コインを持って入れていたらしいが、この場ではそんな面倒な事はなく、カードからコインの枚数と差し引きでカードリッジにコインが流し込まれ、それをトリガーを引くと発射される感じで場に流していく形式を取っている。
次々とコインが場に発射され、落ちて、一定間隔で動作を繰り返す仕組みによって払い出し口に落ちる。もちろん払い出し口に落ちず奈落に落ちていくコインもそれなりにあるが、それに一喜一憂していたら何もできない。最終的に打ち出したコインよりも多くのリターンを取れればいいだけなのだから。
(うーん、シンプルだが落ち着くな。のんびりと興じるにはちょうどいい感じか)
一応ジャックポットは狙っているが、固執はしない。始めた時より1枚でも良いからコインが増えていればいい──そんな気持ちでコインを打ち出していた光だが、特定の場所をコインが一定数通過するという条件を満たしたがためにジャックポットの仕掛けが動き出す。
この仕掛けについても説明しておこう。ファーストステージは25個あるうちの3つの穴が当たりであり、その穴に入ればセカンドステージへ。他の穴に入ればそこに書かれているコインが払い出されてチャンスは終わる。割り振りは25枚が大半で50が3か所、100が2か所である。
セカンドステージに移行すると、50ある穴のうち2個の当たり穴に入ればファイナルステージへ移行する。それ以外の穴に入った場合はファーストステージと同じ仕組みでコインが払い出されて終わる。ただセカンドステージは最低でも100枚、多ければ500枚の払い出しとされている。
ファイナルは100個ある穴のうち当たりは一つだけ、すなわちジャックポットであり500万枚のコインが場にあふれる事となる。ファイナルの他の払い出し額は最低でも500、最高2000枚となっており、ファイナルまで来ればジャックポットは無理でもそれなりのリターンが見込める。
さて、今回の光のチャレンジだが……あっさり25枚の穴に入って終わった。まあ大抵そんなものである。ほいほいジャックポットが引けたら苦労はしない。光も当然そんな事は分かっているので文句など言わずにコインの打ち出しを再開した。お昼までにチャンス自体は4回ほど掴んだのだが、全てがファーストチャレンジで終わった。
今日のお昼はパスタ系が良いかな、と席を立った光。カジノに並列する形である食事を取れるエリアだが、これまた広かった。既に大勢の人々が食事を取っているが、それでもせまっ苦しさは一切ない。装飾も木材を中心とした落ち着きのある感じであり、まぶしいという感じはない。
席に案内され、注文をするとすぐに料理が運ばれてきた。頼んだのはミートソースのスパゲティ。シンプルだが、腕がもろに出るパスタ料理でもある。口に運んだ光の感想は……
(旨い。これは相当いい腕のコックが作っているな。このレベルの食事を10日分無料で出すとなると、相当な資金が必要なはずだが……まあ、他国の財産をあれこれ探るような真似はやめておくべきだな。旨い料理をおいしく味わう事の方が大切だ)
せっかくの美味しい料理を、ちゃんと頂かないのはマナー以前の問題だと光は考え、しっかりと完食するまでその味を堪能した。
(素晴らしい味だった。これは夜の食事も楽しみだ)
カジノで遊んだことよりも、食事の方を楽しんでしまっている光だが……それもありだ。要は10日間仕事を忘れて目いっぱい遊べば、それでいいのだから。食事を堪能して席を立った光がカードで様子を見ると、動きに変化があった。
(スロットにより人が増えているな。一方でカードの方が減っている……よし、じゃあ午後はカードゲームで遊ぶか)
カジノに来てカードゲームをしないのはもったいない、という考えで光はカードゲームのテーブルに足を運んだ。とりあえずポーカーによく似たルールの席に腰を下ろして、今行われているゲームの終了を待つ。ここのカードゲームは地球と同じくチェンジは1回だけ、後はレイズとコール、ドロップで競い合うタイプ。そこに不正が無いか、カジノ側のチェックする人員が配置されている。
前の勝負が終わり、参加料としてチップ10枚を支払う。カードが配られ、ゲームが始まった。さて、光に配られたカードは……
エルデンでリングな世界の取材が大雑把ですが終わりました。
綺麗な物も汚いものも、雄大な物も矮小な物も見てきました。
すごい刺激になりました、やっぱり取材は必要ですかね……




