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6月19日

時間が取れたので更新します。皆様あけましておめでとうございます。

 陛下から招喚を受けてから数日後。光は地上に降りてきたついでに、宇宙に上がりなおす前にやっておきたい政務をこなす日々を送っていた。政務の合間に、VRによる訓練も同時進行させて戦う時の感覚を鈍らせないようにもしていたが。


 そんな光の下に、突如フルーレが訪れてきた。なお、その姿は普段の鎧姿ではなく藍を中心とした色合いのドレス姿であった。


「ヒカル様、本日は光様の様子を窺いにまいりました。幸い、顔色の方も良いようでほっといたしました」


 フルーレの言葉に、光はつい苦笑いを浮かべてしまう。彼女には具合を悪くしていた時の姿をしっかりと見られてしまっているので、何とも微妙な気分になってしまうのである。


「地球にいた時のような無茶な事は控えていますよ。今は大事な時期ですからね、万が一にも体調不良で倒れてしまうような事はしませんよ」


 光の言葉に、フルーレもうなずく。今や世界は日本が打ち出したヒューマントーカー作戦に全額のチップを賭けて行動している。その先導役である光がここで倒れれば、混乱は必至。一回でも成功したという経験と結果を世界が得ていればまた話が変わってくるのだが……


「父であるガリウスから様子を見てこいと言われましたし、私個人としましてもヒカル様の様子を直接見ておきたかったので……元気な顔とお声を通信越しではなくこうして直接見れて安心しました。それで、その、ぶしつけなのは理解しておりますが、本日の夜、お時間の程は──」


 と、ここで光の通信機から通信が来たことを知らせる音が鳴る。光がフルーレの方を見ると、フルーレも静かに頷く。せっかく夜の食事にでも誘おうと思ったところに横やりを入れられた形となったので、その顔には隠したようで隠せていない不機嫌なふくれっ面が浮かんでいた。


 さて、それはともかく光が通信機からの要請を受けると……そこに映ったのは、フリージスティの沙耶の顔であった。沙耶と今日話し合うような予定は一切なかったのだが──と光は首を捻る。何か緊急事態でも起きたのだろうか? と光は内心で気を引き締める。


『光殿。突然済まなかったの。しかし、こちらとしても色々な意味で出遅れたくはないからのう』


 沙耶のこの話し方に光は再び首を傾げた。声の様子から、緊急事態が起きたと言う訳ではなさそうである。しかし、出遅れたくはないという一言に心当たりがない。


「沙耶様、何かこうフリージスティに送ったランチャーがおかしな動きを始めた、などの非常事態と言う訳ではないのですね?」「ああ、その様な物騒な話ではないぞ。貴殿の国が作り出したランチャーなるゴーレムは問題なく動いてくれておる。まあ、別の理由で緊急事態だった訳じゃが……」


 後半は小声だった為、光はよく聞き取れなかった。が、一方でフルーレの方は聞き取っていた。そして、その緊急事態の理由が自分にあると瞬時に理解した。ここは同性だからこそわかるモノがあると言う事なのだろう。ゆえに、フルーレはここで会話に乱入することに決めた。


「沙耶様、フルーレでございます。ヒカル様の健康の方でしたら、私がすでに直接お会いして簡易検査を行わせていただきました。ご心配はいりませんよ」


 フルーレはこれ以上ない笑みを浮かべていた。そして、通信越しとはいえそんなフルーレに対して沙耶もまたこれ以上ない笑みを浮かべた。しかし、かつてある人は言った。笑顔とは攻撃的なものなのだ、と。今、それはまさに事実となって──


『ふふ、そうか。しかし、こうして通信越しで話すのでは味気ないのも事実じゃからのう……ふふふふふふふ、おい、今からわらわは日本皇国に向かう! 政務は終わっておる、問題なかろう! なに、ある? それはなんとかせい! 数日で戻る!』


 そう沙耶が叫ぶと同時に通信が切れて──その直後、政務室のドアをノックする音が聞こえてきた。誰がノックしてきたのかなんて、語るまでもないだろう。こうして、普通に政務をこなしているだけの穏やかな時間は、二人の夜叉が……いや、二人の方向性ほど違えど美人な二人がにらみ合う場と化したのである! 正直、光には同情せざるを得ないだろう。


「このように押しかけてきて、淑女としては失格ではございませんか? 沙耶様?」「ふふ、それはそちらにも言える事ではないかの? そちらも何の事前連絡も入れずに訪れてきたのではないか? しかもそのドレス姿……狙いが見え見えじゃ」


 言葉には棘が無数に生え、二人の間には紫電が走っている。物理的な意味で。既に光の事などそっちのけで、お互いがお互いに牽制という名の戦いの場に身を置いてしまっている。ただでさえ怖いのに、二人の美しい笑顔がそれをさらに怖くする。


(下手なホラー映画の数千倍は怖いな)


 二人に聞かれたら勢いよく叩かれそうなことを心に思いつつ、光は現実逃避をしながら政務の続きを始めた。二人にここから出て行って欲しいとは言わない、どんな犠牲が出来るか分からないので……故に、すでに総理官邸にいる人達には決してここに近づいてはいけないと通信越しに指示を出した。もっとも、受けた側は別の意味に捉えていたが──とにかく、政務室周辺に人気はない。


「私は静かにやってまいりました。まさか、ヒカル様のお仕事の場に直接飛んでくるようなはしたない真似をする方がいらっしゃるとは思いませんでした」「ほう、わらわからすればこの数日は自国で政務に励むと言っておきながら、実際は光殿の所に来るという可愛げのない嘘で立ち回る方がはしたないと思うがのう?」


 ふふふふ、とか、ほほほほ、みたいな明らかに相手に攻撃する気満々の笑い声が間に挟まっている事は容易に想像できるだろう。更に言うなら、二人の間に走るものが紫電だけではなく、熱や冷気も交じりだしたことも補足しておこう。そのうち竜巻も発生するだろう……光は全力で、二人を居ないものとして扱って政務に励んでいる。紙系の物は安全な場所に既に保管している。


「ヒカル殿の所に来るのは、政務の一つでございますので」「ほう? それが今日突然予定にねじ込んだものであってもそう言うのかえ?」「その証拠はどこにありますか?」「ほれ、これが証拠じゃ。フリージスティの情報収集力を侮るでない」


 既に額に血管が浮かび上がっているフルーレの前に、同じく額に血管が浮かび上がった沙耶がある数枚の資料を取り出してフルーレの前につきつけている。それが本物かどうかは──どうでもいい事だったのかもしれない。ぷっつんと何かが切れるような音が二つ、光の耳に聞こえた。


「表に出ていただきましょう! 今日こそ思い知らせます!」「誰がそなたを鍛えたと思っておる……今日も手堅く勝つだけじゃ」「おばあちゃんだからですよね!」「なんじゃと!」


 幸い、ここでいきなりおっぱじめるような事だけは無かった。二人は鼻息荒く政務室を出ていくと、上空3000mほどの高さまで飛び、そこで壮絶な喧嘩を始めた。喧嘩である、剣を振るっていても、魔法が飛び交っていても、殺し合いではないのである。うん。本人たち以外にはどうやっても殺し合いにしか見えない。


 鋭い剣戟が沙耶を襲うが、沙耶はその剣戟を手にまとった魔力を盾の様にしてするりと受け流す。受け流したところで沙耶の拳がフルーレを襲うが、これをフルーレは体をゆらりと傾けて受けながしてほぼ無効化する。彼女達はお飾りの存在ではない、戦おうとすれば十二分に戦えるのである。そんな二人が全力でキレて喧嘩をやらかせば、いやでも派手になる。


 なお、この喧嘩の勃発を知って、ガリウスとマルファーレンスとフリージスティの上層部が揃って頭を抱えたのは皆様も十分に予想がつくだろう。仲良くするために出向いたのに、その仲良くしたい人物の前で喧嘩をやらかしてどうするんだ、と。まあ、どちらかがが悪いのではなくどちらも悪いのだが。


 そんな二人の喧嘩が収まったのは、日も沈みかかって夜のとばりが下りてくるころだった。二人とも肉体の方は軽症だが外見はボロボロで、とてもじゃないがこの後夜の食事を一緒に、と誘えるような状態ではない。少なくとも一回体を清め、服も着替えなければならないだろう。そんな状態でなお打ち合おうとした所に水をぶっかけた人物が現れた。


「二人とも、いったい何をやっているのですか。この有事に、私闘をするなんて情けないとは思わないのですか」


 そう、二人に声をかけたのはフォースハイムの象徴であるフェルミアであった。二人にかけた水が地上にいる人にかからないように完全に消し去った後に、フェルミアは二人を見た後に深いため息をついた。そんなフェルミアの言葉に、二人とも何の反論もできずに押し黙った。


「仕方がありません、やってしまった事はどうしようもありませんから、日を改めて謝罪をしてくださいね。では、私は光様の所に用事がありますから」


 そう告げてこの場から立ち去ろうとしたフェルミアに、二人が同時に反応する。


「どういうことですか!?」「どういう事じゃ!?」


 再びヒートアップした二人に対し、フェルミアはあっさりとこう口にした。


「決まっているではありませんか。同胞が迷惑をかけた事へのお詫びと、謝罪を兼ねて今夜の夜のディナーをヒカル様と一緒にするためですよ」


 フェルミアに言葉に、二人は同時にこう思った。美味しい所を持っていくつもりだな、この女狐は! である。そして気が付いた、彼女の服装もまた、ドレス姿であることに。緑を中心とした色合いの、露出は少ないが美しいドレスである。


「そんなこと許しませんよ!」「フルーレと同意見じゃ! お主にさせる位ならわらわが行くわ!」


 しかし、再びフェルミアはため息をついた後に冷静に二人にこう言い放った。


「なら、その前に自分達の姿を見てみなさい。綺麗だった召し物は二人の血と汗にまみれ、所々破けているではありませんか。それに顔も傷だらけ。そんな女性を連れ立って夜の食事に行くなど、ヒカル様がどんな目で見られるか──少なくても良い印象は絶対に持たれないでしょう。そんな肩身の狭い思いを、あなた方はヒカル様にさせるおつもりですか?」


 フェルミアの言葉に、冷静になった2人は自らの服を見直した。言われた通り、この状態では夜のディナーを一緒したいと誘えるような状態ではない。お互いを行かせまいと牽制したが故に、お互いが行けない状況に追いやってしまったのである。そこに現れた第三者であるフェルミアに、夜のディナーに誘う理由と状況を献上する形になってしまったのだと気が付いた。


「ぐ……」「ぬぅ……」


 そして、全てを理解した二人の口から出てきた精いっぱいは、唸るような短い声。


「ご理解いただけたようで何よりです。正直話を聞いた時は何をやってるんですかあの二人は! と声を荒げた私の気持ちも理解して欲しい所です。とにかく、今日の尻拭いは私がしておきますから、お二人はお帰りになられてたっぷりと叱られてください。尻拭いをした結果、多少の役得が私にあってもいいでしょう? こちらも予定を急遽変更する羽目になったんですから」


 フェルミアを睨む二人だが、反論できる余地は一切ない。しぶしぶと言った形で、二人とも自国へと帰る事になる。一方で残ったフェルミアは光と一緒に夜のディナーを過ごし、かなりのアピールをすることに成功する。もっとも、そのアピールに光はたじたじであったが。こうして、突如勃発した女性同士の戦いはフェルミアの一人勝ちとなった。

勘を取り戻すために、今回はこのような話を上げました。


彼女達もあんまり出てきていませんでしたからね……ただ、ストレートに出すと詰まらないのでこうなりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  明けましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします。 [一言]  さすがは年のk…いや、賢明なる淑女。
[一言] 付き合いはフルーレが一番長いはずなんだけどなぁ。
[一言] 更新お疲れ様です。 & 新年あけましておめでとうございます。 ……『急がば回れ』というか『残り物には福がある』というかw
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