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3月12日

 3月に入り、寒さが和らぐ季節になってきた。そんな中、光は如月指令から上がってきた報告書に目を通していた。更に報告書の補足を行うために、如月指令との通信も繋がっている。


「ふうむ。どの国も新しい発注内容が随分と……偏っているな」『ええ、マルファーレンスは両手剣を。フォースハイムはビット系列武装を。フリージスティはアンチ・マテリアルライフル系……更に一部は肩武装にレールガンを要請してきています。レールガンはまだまだ未完成なんですけどねえ……チャージに時間がかかりますし、1射したら2分は休ませないと装備そのものが持ちませんから』


 各国ともに、そのような武装要請が飛んできていた。特にレールガンは自衛隊員のごく一部が試作品を装備して出撃していたが、その威力に惹かれるフリージスティの銃士が一定数発生し、自分達の機体にも欲しいと言ってきたわけである。


 だが、現状のレールガンはまだ未完成品であり、先に口にしていた如月指令の言葉に加えて、打ち出すために必要なチャージに2分、射撃後に2分休ませると言う事で4分に一発しか打てないと言う回転率の悪さ。更にまだVRではない現実の方だと、10回ほど射撃すると装備そのものが限界を迎えてしまう。そうなったら、一度取り外して修理なり整備なりが必要となる。


 これらの欠点を改善すべくあれこれ技術班が機体生産の合間に考えを出し合っているが、今の所劇的な改善案は出ていない。せめてチャージに必要な時間を10秒前後にし、休息時間も30秒ほど。何より10発で発射機構がヘタってしまう最大の問題をどうにかしないと、試作品の域を出ない。


 これらの問題点を完全に克服した完成品が出来上がるのは、多分200年ほど先なんじゃないか? と言うのが技術者達の現時点での意見である。が、欠点こそあれど10発までは持つこと、弾速の速さと衝撃による破砕力の高さは目を見張るものであること、と言った事を踏まえて試作品を出している。


「まあ、マルファーレンスの両手剣はどうにかなるか。ただ、フォースハイムのビット系列とフリージスティのレールガンはなぁ……」『そうですね、ビット系列はある程度のレベルならともかく、数を増やすとどうしても個人に合わせた調整が必須です。要望を出している数を考えると……時間が明らかに足りませんね。レールガンはもっと無理です。まだ試作品で数も少ないですし……一つ作るだけで結構コストがかかるんですよね、あれ』


 製作にかかる素材の代金が問題と言うのであれば、フォースハイムに出してもらえばある程度何とかなるのだが……問題となるのは製作にかかる時間の方である。現状では1基作るのにかかる時間が約3か月。同時に作れる数が現状では4基まで。正直に言おう、他国に回す余裕が今はない。


「諦めてもらうしかないな。アンチ・マテリアルライフルは何とかある程度まわせるんだろう?」『ええ、今は我慢してもらうというのが現実的でしょう。次回までにはある程度改善もできるでしょうから、今回だけは諦めてもらうしかありません』


 と言う結論しか出てこない。なお、後で理由を聞いたフリージスティの銃士達は仕方がないと渋々ながら諦めた。だがVRならいいだろうと言う事で、自分達の機体に無理やり乗っけて試射しまくる者達が一定数出た。


 そんな無茶をした彼らのおかげで神威弐式だけでなくランチャーでの運用データも集まり、次回のヒューマン・トーカー作戦ではごく一部ながらレールガン搭載型ランチャーが誕生することに繋がっていく。


「今回は以上か? やはり我々と共に訓練をした影響ははっきりと出ているな」『主に総理の神威参特式による影響ですがね……ですが、神威参特式は量産を完全に無視したワンオフの高級機体だから出来る事をつぎ込めるだけつぎ込んだからこそできるという武装で固めていますからね。流石にそれを今すぐ各国量産機体のスペックに落とし込んだ武装は生産できません』


 出来ない物は出来ない。原因は現時点の技術力もそうだが、何より時間が無い。今年の末に決戦の時はやってくる。今が3月なので、9か月しかないのだ。その合間に各国の機体をできるだけ量産して、武器も作って、機体OSをぎりぎりまで更新し続けなければならない。はっきり言えばここでさらに仕事を増やすのはただの鬼だろう。


「無い袖は振れん。特に時間が無い……希望を出されても、今回の決戦にはもう間に合わんな。ある程度なんとかなるマルファーレンスの両手剣で精一杯か」『その両手剣も、神威参特式の振るった一撃を模した物と言う要望ですからねぇ……かなりスペックダウンして、無理に突っ込んで、それで何とか形にするなんていう無茶をやるわけですからね。正直、私も自分で口にして何言っているのだろうと思う所があります』


 草薙の剣に魅せられた戦士達が山ほどいる事が分かる話である。なお、この要望された両手剣も数はあまり作れなかったことで、自分のブレイヴァーの得物とするべく争奪戦が行われた。その戦いはすさまじく、ボロボロになった者も数知れず。しかし勝ち取った者は血まみれの顔で最高の笑顔を浮かべたという。事情を知らなければ、ただの狂人である。


 なお、勝ち取った者達はしっかりと活躍する事となり、事が終わった後にあの剣を私にも! と言う流れが生まれてしまい、日本の技術者たちは長らく休みが少ない日々を送る羽目になってしまうのは未来の話。


「他には……大きな問題はないか」『正直ここで大きな問題が持ち上がるのはやめて欲しいというのが正直な本音ですね。八百万の神々に毎日祈っていますよ』「陛下もより神事に熱心に動いてくださっている。我々は人事を尽くそう、後世の人がどう見てもここまでやったのなら仕方がないと呆れる位にな」


 人事尽くして天命を待つ、である。まあ、こちらの世界の人々に言っても「そもそも攻めてきてるのは神の方だろう?」と言われてしまいかねない言葉だが。神々の試練、と名がついている以上、他の国には通じない言葉である可能性が高い。


「何かあれば、また報告を入れてくれ」『ええ、まあ、何かは今後もあると思いますので……』「ああ、うん。そうだな。ではまたな」


 如月指令との通信を終え、再び報告書に目を落とす光。如月指令に言われたように、間違いなく己がやった神威参特式による戦いの影響が否定できない。正直、失敗したかもしれないとすら思っている。やらかしたとも言う。


(だが、状況を考えるとあれぐらい派手にやらないと盛り上がらないという感じだったから必要な事ではあったはず。活気づける事はなっているのだから間違いではなかったのは自信を持って言えるが)


 その結果がこれである。それだけ影響を多大に与えちゃった、てへ♪ とでも表現するしかないのだ。これから先、各国の戦い方とかに悪い影響が出なければいいがと光は思い悩む。まだ各国の歴史は表面的な部分でしか学べていない為、この影響でねじ曲がったら色々と困る。困るのだが、もう止める手段が、ない。


(なるようになるだろ)


 そうしてとうとう面倒くさくなって色々な物をぶん投げた光。総理大臣がそんなんで良いのかよ!? と思われるだろうが、今大事な事は年末にやってくる神々の試練に打ち勝つこと。その為なら多少の事は、致命的な事ではない限り後に回せばいいと言う事にしないとやってられない側面があるのも事実ではある。


 後の世であれこれ言われようと、それは素直に受け入れようと光が諦めたとも言えるかもしれない。幸い、それらの批判が来るなら自分だろうし、それが来たら責任を取って総理の座を引いた後に首の一つでも差し出せばいいだろうという覚悟を決めた上での諦めであったが。そして時は流れ、ついに砦となる宇宙ステーションに各国の戦いに関する物事に関わっている人々が大勢入る日がやってくる。

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