2月16日
久々の更新となりました。お待たせして申し訳ないです。
数日後、光はフリージスティを訪れていた。目的は先の二国と同じである。
「ようこそおいで下さいました。先の二国ですでに大きな噂になっている神威参特式の雄姿を直接お目にかかれる日を待っていました」
光を出迎えたブリッツからはそんな言葉が飛び出した。彼の言葉は無理もない、既に神威参特式のパワーや戦闘における能力は共に戦ったマルファーレンスやフォースハイムの両国からすさまじき存在であることと、日本とともに訓練をすることで自国の機体の性能がより発揮できるようになるなどの情報から、これ以上ない価値があるモノと分かっていたから。
「ええ、その期待に応えられるように本日は励ませていただきます。既に準備は出来ていますでしょうか?」
光の問いかけに、ブリッツはすぐに頷いた。時が惜しいというのもあるが、何よりも神威参特式の戦う姿を直接この目で見たいという欲望を抑えるのに彼自身が必死になっていたからだ。光が今日やってくることは予定通りだったので、後は光が合流すればすぐに訓練を始められるようにすべての準備を整えて、早く来てくれないかとやきもきしていたのだ。
「分かりました、ではさっそく向かいましょう」「ええ、ではこちらに」
ブリッツ直々の案内で、光はVR機材のある場所へと移動。すぐさま乗り込み、VRを起動。VR世界の神威参特式に乗り込んだ。起動に関するシークスエンス──オールグリーン。そうして三度、神威参特式はVRでの戦いに出撃した。
「皆、聞こえているな? 本日からは日本皇国から直接やってきてくださった自衛隊の皆様と共に戦う事となる! ……そして、日本皇国総理大臣の藤堂 光殿が本日この訓練に参加してくださっている! 既に見えていると思うが、あの特別な機体である神威参特式に乗られている。我々は確かに今までの訓練で不甲斐ない結果を出してきた。しかし、それは今日までの話だ! 日本皇国の皆と共に戦う事で学び、我々は強くならねばならん!」
フリージスティ総指揮官の言葉に、銃士の皆がはっ! と声を揃えて応えた。
「それでは、これより訓練を開始する! 一分一秒を無駄にするな! 本番はすでに今年の末にやってくると言う事を忘れるな! 我々が負ければ、未来はまた暗く閉ざされるのだと言う事を心せよ! そして光様と自衛隊の皆様には申し訳ないのですが、最初は見るにとどめていただきたい。助力を願いたい時に改めてお願いしますので」
そうして光が参加する形での訓練が始まった。序盤の小さな隕石はフリージスティの銃士達が駆るランチャーが難なく撃破を重ねていく。特に射撃を得意とする国民が多い事もあってか、まだかなり遠い位置にある隕石をアンチマテリアルライフル風に設計された銃で的確に破砕する機体の数がかなり多いのが他の二国とは違う所である。やがて中型が混ざり始めるが……
「引き付けろ、焦るなよ」「ああ、もう感覚はつかめている。無駄な弾なんか撃たんさ。銃士としての誇りを失っちまう」
そんなやり取りを交わしつつ、今度は大口径のバズーカやビームランチャーによる破砕が混じる。さすがに射撃距離は短くはなるが、命中率は98%をたたき出す精密さである。流石に全弾命中とはいかないが、十分すぎるレベルだろう。銃の扱いになれているだけあって、長距離攻撃による破砕率が一番高いのは間違いなくこの国、フリージスティである。
そうして中盤までは順調だったのだが……大型の隕石が混じりだすと徐々に押され始めた。弾はきちんと目標に命中しているのだが、破砕が間に合っていない。そしてその大型隕石を盾にするように小型や中型の隕石も押し寄せてくるので、徐々に苦しくなってきている。
「やはりここからが我々の越えなければならぬ壁……光様、自衛隊の皆様、参戦願います! 我々にあなた方の戦い方を見せていただきたい!」「了解、神威参特式、出る!」「こちら自衛隊、応援要請了解。これより支援行動を開始する」
光はさっそく八尺瓊勾玉を起動し、大型隕石に対し攻撃を開始。自衛隊側は、今までのデータをもとに隕石のウィークポイントとでも言うべき脆い場所を割り出してからの射撃攻撃を始めた。まだ格闘攻撃を仕掛ける間合いではないからだ。
「な、あの大型隕石があっさりと!」「何という自立兵器の性能、そして何よりあれだけの数を操る操縦者の技量! あれが神威参特式……」「一方で自衛隊の皆様もすごいぞ、どうやっているんだ?」「我々が破砕するのに何十発と打ち込まなければいけないのに、彼らはこちらの3分の1ぐらいの射撃で破砕している! 何かがやっぱり違うのだ!」
神威参特式による火力と、自衛隊隊員によるウィークポイント狙いの射撃術に、フリージスティ側は射撃をすることを忘れて見とれてしまっていた。自分たちが苦戦を強いられている壁をあっさり超えていくその姿には、何とも言えない頼もしさがある。が、これは訓練であり、いつまでも見とれていては困るのだ。
「お前たち、気持ちはわかるがいつまでも見とれるな! 彼らの動きやねらいを見て学び、試すのだ! まだまだ隕石はやってくる、いくらでも試し放題だぞ! この機会を逃すな!」
総指揮官の激に、見とれていた銃士達は我に返り、攻撃を再開する。日本の動きを見て、どの辺を狙うのか、どの銃器を使っているのかを学びながら今まで自分たちが身に着けてきた銃撃方法と混ぜ合わせながら、ランチャーの動かし方に変化をつけてゆく。もちろんいきなり最適化は出来ないし、その変化も遅々としたものだ。だが、前に進んでいる事もまた事実だ。進めているのなら、いつかは新しい芽が出る日が来る。
「ダメだ、まだわからん!」「それでも見ろ! 学べ! 感じ取れ! 時間は限られているんだぞ!」「少しでもいい、学ぶ姿勢を止めるなよ! 諦めてしまったら、そこでもう何も進まなくなる!」「私はちょっぴり分かってきたわ、狙撃が得意な人なら、徐々に分かってくる事よこれ」
まだ初日だが、僅かながら自衛隊のやり方を見てより効果的な射撃ができる銃士が出てきた。ここは流石銃の扱いになれている国家の兵士と言ったところだろうか? 自衛隊が隕石のどこら辺をよく狙うのか、と言う事を理解し、そして実行する。それらの情報はランチャーのOSに蓄積され、何度も繰り返すうちにOSからのサポートもよくなっていく。
「そう言う事だったのか、彼らの射撃を理解すれば──」「うん、狙撃班の仕事はもっと上手く行くようになる」「まだまだうまくは行かないが、それでもたまになら成功するようになってきたか? あっさり砕けた時は、まさにそれか」
徐々に隕石を押し返し始めていた。破砕速度が上がったことで精神的な余裕も生まれ始め、射撃により集中しやすくなっていった。たまに来る破砕が大変な大型隕石は、神威参特式や自衛隊が駆る神威弐式の大型ランチャー装備タイプが打ち砕く。連携も戦いが続けばある程度形になっていき……順調なままこの日の訓練が終了した。
「これが、神威参特式の本気……か」「草薙の太刀を振るわずしてこれだけの力……日本皇国の切り札なのも納得という物です」「希望はある。ああ、希望はあるのだ。落ち込んでいる時間などない、そう考えられるようになったぞ」「我が国の銃士も、今までより動きが良い。この調子なら、この調子なら……!
訓練を見ていたフリージスティ上層部にも、笑みと手ごたえを感じる空気が流れる。その空気の中、ブリッツは内心で(やはり、来てもらったのは間違いではなかった)と、一人胸をなでおろしていた。神威参特式だけではない日本皇国の戦闘力、そして自国のランチャーと銃士達の動きの改善、それらを見られたからである。
(我々にはまだ運がある。この運を逃すような愚かな真似だけは絶対にしてはいけない。それを全軍に後で念押ししておかなければ)
「本日は、ありがとうございました。我々が得意とする方法でも巨大隕石に立ち向かえる、と言う事を実際に見て、感じて、行動できた今日は大きな支えとなるでしょう」
訓練終了後、フリージスティの総司令官を務めていた男は、光に向かってそう告げた後に頭を深く下げた。彼を始めとしたフリージスティ側は分かっていた、今日、訓練で日本側が行った行動はすべて射撃攻撃だけであった事に。近接攻撃を行わなくても、魔法による攻撃を交えなくても十分にやれると言う事を教えてくれたと言う事に。
「我々もまた、自信を失っていました。しかし、皆様のおかげで我々はカラ元気ではなく本当の意味で立ち直れます。ここまでしてもらった恩は、今年の年末に十分な仕事をすることでお返しさせていただきます」
この総指揮官の言葉通り、翌日以降の訓練でフリージスティの銃士達は成果をより出せるようになり、自衛隊員との連携精度も高まり、ランチャーもその性能をいかんなく発揮できるようになった。こうして、光と自衛隊員達は各国の勇士達に自信と気力を取り戻し、もう一度立ち向かえるようにするというミッションを無事やり遂げた。
後日、このことに対して各国上層部から感謝状と困ったことがあれば遠慮なく相談してほしいという内容を記した書状が日本へと送られて来る事となる。
Twitterなどにて読んでますよと言うお言葉を頂いており、本当にありがとうございます。
更新は相変わらず超スローペースですが、お付き合いくだされば幸いです。




