2月1日、2日
「自衛隊を派遣してほしい?」
翌日、光が朝の政務をしている時に連絡が3つも入った。それぞれ、マルファーレンスのフレグ、フォースハイムのティア、フリージスティのブリッツからであり、3者とも光にコンタクトを取ってきた理由は先の光の言葉の内容であった。
「いったい何があったのですか? 自衛隊が出向かなければならない災害などが発生しましたか?」
地球脱出の時こそ戦ったが、基本的に今の自衛隊の仕事の中で一番要求されるのは災害発生時の救出作戦だ。もちろんより救出に特化したオレンジ色の服を着た特別救助隊は存在しているが、彼らだけでは手が足りなかったり彼らが出向くほどではないレベルの時は自衛隊が動くのが通例となっている。
『いや、そうではない。まず、こちらの画像を見て欲しい。我が国のブレイヴァーによる疑似空間での訓練風景なのだが……とにかく見てもらえば、自衛隊の派遣要望を出した理由を察して頂けると思う』
フレグにしてはあまりにも歯切れが悪い上に声に覇気が無い。なにかブレイヴァーに問題が発生したのだろうか? 送られてきたデータを確認すると、VRでの戦闘データが収められているようだ。どのような戦闘が繰り広げられるのかと光は注目したが……その映像を見て数分で、光の表情は徐々に渋いものに変わっていった。
(なるほど、これではこっちに話を振ってくるわけだ。まさに、環境の変化に振り回されている。宇宙空間なのに、地上で剣を振るような動きをしてしまっている……あれでは、隕石に対してまともにやりあえまい)
宇宙空間と地上では、当然機体の動かし方は変わる。銃撃は変わらない所もあるが、近接攻撃は動きそのものを大きく変えなければ適切に攻撃を加える事は難しくなるだろう。なのに、画像に映るブレイヴァー達は地上で大地を踏みしめているかのような動きで攻撃をしており、有効打を隕石に与えることが出来ていない者が多数いる。
ゆえに途中からサブ武器であるクロスボウ型の射撃攻撃などを中心とした射撃戦がメインとなってしまっており、火力が足りずに多くの隕石を破砕しきれず星に落としてしまっていた。撃破率、なんと20%以下。これではマルファーレンスの首都が壊滅どころか消滅してしまうだろう。はっきり言ってブレイヴァーの性能の大半が死んでいる戦い方だと言って過言ではない。
『──フォースハイムでも撃破率は50%に届けばよい方となっています。最初は良いのですが、中盤からの大きめな隕石が混じりだすとこちらが徐々に押し込まれ始めて……最終的に多くの隕石を破壊できずに自分達の星に落としてしまっています。これでは、自分たちの世界を守れません』
『フリージスティは60%ぐらいでしょうか。ですがこれは私達のランチャーが射撃に優れている事と、星々の世界でも射撃はあまり動きを変えずに済んでいるからと言う事の違いでしかありません。それに、残った40%の大半は射撃が効きにくい大きな隕石でして……あれが落ちれば結局守りたい我々の星を守れない事に変わりはありません。このままでは……実戦でも同じ結果を迎えるだけであると私達は考えています』
残り2つの国はマルファーレンスよりはいいが……落ちれば被害が甚大になる大きめの隕石を破砕できていなかった。このサイズの隕石が存在することは各国から教えてもらった神々の試練に関する歴史書などから判明しており、それらの情報を元にして出来る限り再現している。
『そこで、自衛隊はどのように動く事で隕石の破壊活動を行っているのかを我々としても知っておきたいのだ。今はまだ仮想空間による訓練だから失敗が許されるが、最終的にはこの仮想空間で100回行って100回成功するようにならなければ、実戦に対して不安が大きく残ってしまう。何とか頼めないだろうか?』
フレグの懇願を聞き、光は腕を組んで考える。確かにこのままの状態で事に当たれば、ヒューマン・トーカー作戦は失敗に終わってしまう可能性が高いとみて良いだろう。そうなれば、マルファーレンスの首都は崩壊し大勢の死者が出て、今生まれている希望は一瞬で大きな絶望へと転じるだろう。それは、今後の世界を考えれば許容できる結果ではない。
(自衛隊を派遣するのは良い。自衛隊の皆にとっても、合同訓練をすることで得られるモノは多くあるはずだ。それに加えて、各国の機体と一緒に戦う神威参特式と言うシチュエーションで訓練できる機会を得ることが出来る。話を蹴る理由は無いか)
光は大きくうなずき、通信に映っているフレグの方へと向き直った。
「分かりました、自衛隊を派遣しましょう。自衛隊の皆が駆る神威弐式がどのように戦うのか、どのように近接戦闘を行うのかを合同訓練と言う形で見ていただきます。そして、一つだけ我が儘を言わせていただければ──私が動かす神威参特式も、訓練に参加させていただきたい。ですが、まだ世界は回線がつながっておりません、ゆえに、私が密かにそちらの国に出向く許可を頂きたい」
先の話をすると、各国がネット回線で完全に繋がって気軽に使えるようになるまでにはあと17年ほど先となる。今回は自衛隊が各国に出向いて、各国にあるVRの機材に乗り込まなければならない。だから自衛隊の派遣と言う形を取る事となるし、光も神威参特式を動かすためには現地に行かねばならない。
『ありがたい! またヒカル殿の駆る専用機体であるカムイサントクシキにも興味があるから、こちらとしても願ったりな話です。上層部で話を詰めた後に日程の希望をそちらに送ります。出来るだけ早く、全ての準備を整えます!』
フレグはまさに天の助けと言わんばかりに喜んだ。そして当然、ティアやブリッツも同じように要請し、同じように光は了承する。
「何人ほど派遣してほしいのかの話は、また後程伺います。こちらも今から自衛隊にこの話を通達し、派遣する事が決まったことを連絡しておきますので。それでよろしいでしょうか?」
光の言葉に3人は通信越しに頷き、この日の話し合いは終わった。光は自衛隊にこの話をすぐに伝え、いつ派遣されてもよいように心構えは持っていて欲しいと通達。自衛隊からも防衛力を上げるための派遣なら望むところだという雰囲気であった。そしてさらに翌日の2月2日、フレグからの通信がやってきた。
『こちらが希望する形となります、全員のケツをひっぱたきながらまとめましたよ』
何とフレグが要望書をもう出してきたのである。その内容を大雑把にすると──希望する人数は機材の数も考慮して100名。50人ずつ交代で訓練に参加してほしい、住居、食事などの金銭が絡む面はよほど無茶な使い方をしない限りは全てマルファーレンスで持つ。日程は2月4日以降ならいつでも構わない。こんな感じである。
「まさか翌日にこうして形にしてくるとは……早いですね」『ええ、それだけこちらが危機感を持っていると言う事です。素早く要望を纏めるためにケツをはたいたとはいえ、上層部の皆が一刻も早い合同訓練を望んでいるところは一致していますからね。とにかく、我々にとってはこの大地を離れての戦いにおける経験が無さすぎる。まずは自衛隊の皆様がどうするのかを"見る"事から学びたいのです』
確かに危機感があるからこそ、ここまで早くまとめてきたのだろう。国という物は普通こうも早く動けるものではない、それを早く動かしてきたという時点でマルファーレンス上層部と戦士達がいかにこの状況を脱すべく出来る事は何でもやる、一刻も早く動くという意思表明をした事に他ならない。
「とにかく、話は分かりました。今から自衛隊の方に話をしてみます。通信はそのままで構いません、1日でも早くそちらに向かう為にもこちらの話を聞いていていただきたいので」
フレグにそう告げた光は、すぐに自衛隊の上層部に連絡を取る。自衛隊の上層部も話にすぐに加わり、短い話し合いを経て早ければ早いほどいいと言う結論がでる。結果として、自衛隊の派遣日は最速の2月4日に向かう事が決定。光は1日遅れの2月5日にマルファーレンス入りし、2日ほど訓練に参加することが決まった。
自衛隊の派遣期間はまずは1か月。そして状況によっては延期もありうるが、その時は最初に派遣した自衛隊隊員は帰還させ、新しい隊員を100人送ると言う事も決定した。この素早い決定に、一番喜んでいるのは間違いなくフレグだ。タイムリミットはもう1年もないのだから、1日でも早く要望が通る事は国を守れる可能性をそれだけ高める事に繋がる。
「では、これらの条件でよろしいですね? 移動手段は、今回は魔法による移動と言う事で」『ええ、一瞬で移動できますから今回はそれで行きます。正直、今の我々にとってはこの一瞬すら惜しい。なので縮められるところは極限まで縮めます。2月4日の午前10時にこの場所に集まっていただければ、後は任せてください』
話が纏まり、では2月4日にとお互いが口にして通信が終わった。光のその後は普段通りに政務を進め、2月5日にマルファーレンスに出向くための準備も同時に進める。そしてすぐに2月4日が来て自衛隊の100人がマルファーレンスに出向き、翌日の5日に光がマルファーレンス入りを果たす。この入国はごく一部の者にしか知らされていない。
皆さん、お体は大丈夫でしょうか?
自分は先週休ませてもらいましたが、やはりこの暑さはきついですね。何せ北海道ですら34度になってしまっているほどですから……
水分補給と、長時間日光の元に体を晒さないようにしています。運動も外を自電車で走る事から、室内でエアロバイクを漕ぐ方向に切り替えています。
暑さが和らぐまで、皆様も油断なさらぬようにしてください。本当に年とか関係なく、暑さにやられるときはやられますからね……




