~1月31日
一月は、穏やかに過ぎていった。それはこれからやってくる嵐の前の静けさの様でもあった。それでもトラブルがないのは年末の戦いに向けてあらゆる策や準備を整えねばならない各種関係者にとっては実にありがたい事だった。それぞれがやるべきことをきちんと認識し、お互いに報連相を行い、先を考えた。
一月の末には光や各国の上層部に対する報告も行われたが、その内容を一言で言えば遅延なくすべてが進んでいるので問題なし、である。問題がないのであればこのまま予定通りに事を進めて欲しいと上の者は現場に言うだけである。事実、ブレイヴァー、ソーサラー、ランチャーは各国に次々と配備され、追加アーマーの方も数が揃ってきつつあった。
「このペースなら、10月までかからずに済みそうだな」『ええ、このペースを堅持できれば九月後半で全ての物資が揃います。後は予備パーツをどれだけ作れるかになるでしょうか。何にせよ、全ての国の上層部の皆様のおかげもあってあらゆる協力体制が取りやすくなりましたからね。決戦に間に合わないという心配は無くなったと断言してよいでしょう』
一月の結果を振り返って、光は如月指令と通信を通して話し合いを行っていた。
「一方で隕石の方はどうだ? 明らかに妙な動きをしている存在は確認できたか?」『いえ、そちらはまだこちらが確認できる範囲には存在していません。たまに宇宙ステーション付近に飛んでくる小さなものはありますが、そちらもこれと言ったおかしな点はありません。全て問題なく破砕できておりますし、異常な電波、並びに魔力反応のどちらもありません』
地上、宇宙共に異常なし。それ以外の言葉は出てこない。正直、光や如月指令は何かしらの問題──奇襲じみた隕石襲来が来る可能性を考慮していた。故に、これまた3ヵ国に協力を依頼し、宇宙ステーションにて毎日科学的なチェックと魔術的なチェックの両方を行っていた。その両方共に問題なしと言う結果であったのでひとまず安心していた。
「今後もチェックは欠かさず行ってほしい。万が一、と言うのは大事の前にはよく起こりうることだ。何もないならそれでよいのだから」『ええ、心得ております。我々を受けて入れてくれたこの世界に、万が一があっては困りますからね』
その後、如月指令と多少の確認をしてから通信を終了させた。その後、光は今日の執務に精を出す、と言ってもあと1時間もあればすべて終わるぐらいの仕事量であるが。なので、その後光はVRで神威参特式のトレーニングをする予定を入れている。参特式の実機の方は、大幅なオーバーホールが必要と言う事で、今乗る事は叶わない状態となっている。
予定通りに政務を終わらせ、お昼を食べた後に一息入れてから光はVRの筐体内に体を置く。今日は緊急事態が起きない限りは気が済むまで訓練に充てられる。ここ最近訓練が出来ていなかったので、みっちりとやっておくつもりであった。まずは慣らしの為にほどほどの難易度から始めて、徐々に上げていく。
そうして訓練を始めて1時間半ぐらい過ぎた頃だろうか? 外部回線から連絡が届く。何事かと光は回線を開くと──
『総理、訓練中申し訳ございません。総理が今訓練を行っていることを知った自衛隊の皆から、ともに訓練をしたいとの申し入れがありまして……』
通信を送ってきた主は防衛大臣だった。光はこの話を即座に了承する。やはり大勢で訓練を行った方がより実戦に近づく。むしろ光からしても、この話はありがたいのだ。
『ありがとうございます、総理。では今すぐ総理の筐体と自衛隊の筐体を接続いたします』
防衛大臣の通信が終わってから数秒後、接続完了を伝えるアラームと報告が入る。自衛隊の人々が乗っている神威弐式が一斉に光の乗っている神威参特式に向かって敬礼をする。
「ここからは私も訓練に参加させてもらう、よろしく頼む。難易度設定などはすべてそちらに任せる。実戦時に成果を上げることが出来るよう、皆で励もう」『『『『『はっ!』』』』』
そのようなやり取りを行った後、光と自衛隊による訓練は始まった。この隕石がやってくるパターンは、様々な要素をかみ合わせてランダムで形成されている。なので、最初は小物が来て後から大物がやってくるというパターンは無い。いきなりどでかい破壊するのに苦労する物が飛んでくる事も十分にありうる。
(遅いが大きくて耐久力のある隕石がかなり含まれているな。八尺瓊勾玉でも、単独では破壊に時間がかかるか……2機をワンセットとして当たらせよう。一方で草薙の剣は調子がいい。大きくても小さくても斬り裂ける)
機体性能の高さ故、隕石破砕数は光が一番多い。だが光は一人だけ、機体も一機だけ。一方で自衛隊が駆る神威二式は性能こそ神威参特式には遠く及ばないが数がいる。更に強化パーツで射撃の強化やブレイヴァーが使うような巨剣を振り回す機体も存在し、多くの隕石を破砕している。なので、破砕数は自衛隊側が圧倒的に多い。
『現状では落ちた隕石の数はゼロだ、これを維持しろ! これを訓練だと思うな、一つ落としたら10万の人が死ぬと思え!』『『『了解!』』』
自衛隊の隊長から、隊員たちに激が飛ぶ。VRによる訓練だから、で気が抜けたような動きをしていれば、実戦でも同じような動きしかできなくなる。訓練以上の動きを実戦でできるのは、ほんの一部の天才と呼ばれる人種のみ。そして、自衛隊の隊員たちは己を天才だなど自惚れてはいない。なので、隊長からの激に素直に返答を返す。
そうして1時間ほどの連戦を経て、最初の訓練が終了した。星に落としてしまった隕石の数はゼロ。ただし落ちそうになったシーンは何度もあり、訓練に参加した中で今回の結果に満足している人物はいない。
『実戦ではもっと苦しい展開が多くなると予想される。現時点で危なっかしい結果では思いやられる。今回はたまたま落とさずに済んだが、たまたまではなく実力で落とさずに済むようにしなければならない』
この隊長の言葉に、なぜそうなったのか、どう立ち回るべきだったかの話し合いが始まる。これは誰が失敗したかを問い詰めるためのものではない。まず、落としそうになったという時点で全員の失敗であると考えているからだ。なので、これを繰り返さないためにどういう手段や陣形を取るべきなどの意見の交換場である。当然、これには光も参加する。
『ここで、右側に意識を持っていかれています』『そして反対側からか……実戦でも十分ありうるな』『ですが、ここで右の支援に多く人を割いていなければ、多くの隕石が落下したはずです。なのでこの判断自体は間違っていないでしょう』『ああ、意識を持っていかれすぎたという点以外は良かったと思う』『だが、こうして片方に釣りだして反対側からと言うのは考えられる事態だった。同じ失策を繰り返さぬように隊長も隊員も心すべき点だ』
意見の出し合いは、30分ほど続けられた。そしてその話し合った事を念頭に置いて再びVRによる訓練が再開される。これをワンセットとして、その後2回ほど行われた。終わった後は全員がかなりの疲労を覚えていたが、これはまだ訓練。実戦ではない……それを誰もがかみしめていた。
『総理、今日は訓練にお付き合い下さりありがとうございました!』『『『『『ありがとうございました!』』』』』「私としても、君達とともに訓練をすることが出来たのはとても良かった。また時間が合えばぜひ一緒に訓練をし、話し合いをしたい」
自衛隊の言葉に、光はそう返した。これは世辞でも何でもなく、光にとっても大勢で訓練が出来る事は良い経験なのである。神威参特式の性能をまだまだ引き出しきれていないと光は感じており、大勢の訓練を通じてもっと動かせるようになる事が目標の一つである。草薙の剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉を模した兵装は確かに強いが、使い手がしょぼければその力を発揮できない。
特にビットシステムを用いている守りの八咫鏡、八尺瓊勾玉はとにかく使い込んで経験を積むほかない。使えるのと使いこなせるのあいだにはとてつもない差があるのだから。
(だが、いい訓練だった。かなり勘を取り戻せたし……今後時間が取れれば積極的に参加する方向で進めるべきだな。もっと精度を高めれば厳しい状況も乗り越えられるスペックが、神威参特式にはある。ならば、それを引き出すのはパイロットである自分のすべき仕事。その仕事を怠るわけにはいかない)
一月末に、そう気持ちを新たにする光。だが、翌日の2月1日──さっそく新しい訓練の場を得る事になった。
ちょっと調子が悪いというか、スランプ気味と言うか……
なので今日のは短くなってしまいました。申し訳ありません。病気ではないのですが。




