皇歴2年 1月4日夜
そうして、護衛まで巻き込んだ闘いの日々の中で年が明けた。それは各国の象徴としてどうなんだ? と言う疑問が無いわけではないが、少なくとも各国の交流はたっぷりと行えた。明日は光の仕事始めとなる為、彼らがこうして勝負に興じるのも今夜限りである。
「明日からは光殿が仕事始めか……このような楽しい時間も終わりと言う事じゃな」
ウノのカードを出しながら沙耶が残念そうにつぶやいた。
「本当に、ここまで遊び倒したのは何百年ぶりでしょうか? ヒカル様、あとで相応のお代はお支払いいたしますよ。これは受け取っていただかねばなりません、何せ私達だけではなく護衛もあの様子でしたから……」
フェルミアがちらりと目を護衛達の方に向ける。彼らは今、画面外に相手を追い出せば勝ちになるゲームに熱中している。彼らのゲームに関する技術習得はかなり早く、既にレースゲームやアクションなどの対戦物においてそこそこの腕前になっている。
「年末に向けてのいい気分転換になったな。ヒカル殿には迷惑だっただろうが……フェルミアの言葉ではないが、相応の謝礼は払わせてもらうぞ。もしこの金を受け取りにくいと言うのであれば、我々からの支援金として国庫に納めれば問題ないだろう? そしてウ〇だ」
ガリウスが手持ちのカードラスト一枚を宣言しながらそんな事を喋った。事実、マルファーレンスの首都に神々の試練がやってくると言う情報が入ってからここまでそのことを忘れて気分転換を図れた事は今までになかった。
その重圧を一時とはいえ忘れて遊び、心を休めたのは久しぶりの事である。彼らとて生きている人間である、常に緊張感と絶望感にさらされ続ければ発狂や憔悴もする。
そんな彼らに対して弱いと口にするのであれば、言った人は人ではないだろう。
「ええ、来年また我々が集まっても周囲から見とがめられるような事が無い成果を今年出しましょう。そうすればまたこうやって遊ぶことが出来ますよ。だからこそ、今年が肝心ですね」
カードを出しながら光はそう自分の考えを述べた。確かにどんちゃん騒ぎだったし、唐突だったのも事実。だが、こう言う事で少しでも各国の重鎮の精神的な疲労が和らぐなら構わないと考えるようになっていた。光自身も、リゾート地にて休ませてもらった事もある。ある程度なら持ちつ持たれつで行こう、と。それに、お正月の食費は護衛の人達も自分の分プラスアルファを出してくれているので、そちらも不満は無い。
「おお、また今年の末にこうして遊ぶ場を作ってくれるとなれば頑張れるのう。流石光殿は懐が広い。フェルミアもそう思うじゃろ?」
なんてことを言いつつ、沙耶は一瞬でフェルミアとアイコンタクトを交わしていた。そして出したのは全色対応の相手に4枚カードを強制的に引かせる凶悪カード。
「ええ、ええ。こうして遊ぶ機会という物はなかなか認められませんでしたが……日本皇国との交流を図るためと言うお題目があれば、納得させることは容易いでしょう」
喋りながらフェルミアが場に出したカードも、全く同じカード。それを見たガリウスがじろりとフェルミアと沙耶を見た。
「なんでこんな連携をかましてくるんだよ! お前らなんか仕組んだだろ!?」「知りませんね」「偶然じゃろ」
言うまでもない事だが、偶然なんかではない。ガリウスもそれは気が付いている、いるがそれを証明する手段がない。フェルミアも沙耶も涼しい顔をしており、攻撃を仕組んだわけではなく偶然こうなったのだと言わんばかりに平然としている。
「くっそ、一気に8枚も取らされるのかよ……やっとトップが取れると思ったのに容赦ねえ二人だぜ……」
しぶしぶガリウスは山場からカードを8枚引く。これで彼の勝利は大きく遠のいた。
「まあ、そういう戦略もあるからねえ……ガリウス、カードを出してくれ」
苦笑いを浮かべながらも、光はそうガリウスに話しかけて──ガリウスが出したのは相手にカードを二枚引かせる攻撃カードだった。
「なら俺がこういう攻撃をかけてもいいよな?」「もちろんだ、でも俺もカードは持ってるから逃げさせてもらうよ」「わらわも持ってるから回避できるの」「そして私が6枚ですか!? 酷くないですか!?」「ははは、楽に勝たせるかよ!」
ガリウス、光、沙耶が次々とカードを重ね、持っていなかったフェルミアが割を食う。6枚も引かされたので、フェルミアの勝利もこれでかなり遠のいてしまった。そのタイミングで──
「くそー、まけた! お前あのブーストを使っての体当たり止めろよ!」「ほほほほ、これも一つの勝利するための行動ですよ」「石頭のお前がやると体当たりってより頭突きって表現がぴったりだよな……」
その護衛達の言葉に光達が視線を向けると、護衛達がやっていたレースゲームの決着がついた処であった。いや、あれをレースと呼んでいいのかどうか……大雑把に説明すると、各種攻撃アイテムとブースター系アイテムを生かしてコースを走り、相手をリングアウトさせる、最下位を容赦なくクラッシュさせるか、でかい破砕物に潰させるかを行って最後の一人まで生き残ると言うルールで行われるものである。
「いや、お前も人のこと言えないぞ。よくもまあいやらしいタイミングで鈍足アイテム投げてくるよな」「ミサイルばらまくあんたに言われたくない」
勝負が終わると、こうしてお互いの戦略の汚さを笑いながら言いあい、そしてまた勝負に移るのである。
「向こうも盛り上がってるな」「あれも面白いですからねえ」「しかし、明日からはやれなくなるわけなんじゃが、大丈夫かのう? 禁断症状が出ないと良いのじゃが」
沙耶の言葉も無理もない。それぐらい白熱し、お互いを罵りながらも本気で勝負に興じると言うのは彼らにとってなかなかできない贅沢と言えよう。
「しかし、ゲームの為だけに発電施設を用意したら、他の方々に睨まれますよ? もう少し整備が整うまでは、我慢していただくほかないかなと」
光の言葉ももっともである。ゲーム自体は日本からモニターとゲーム機本体、そして発電施設があればできる。しかし、それをもし本当にやってしまうとそれは完全に特別扱いだ。当然国民からやり玉に挙げられてしまうのは間違いないので、今の状況でそのような事態を引き起こすのはよろしくない。
「そこが実に残念だな。あれだけ様々なゲームを楽しむことが出来るってだけですげえ値打ちがある。しかもあのぐらふぃっくとか言ったか? 絵があのように激しくも美しく動くのは驚きだぜ」
ウ〇も再開され、カードを出し合う中ガリウスがゲームに対する感想を述べる。
「そうですね、絵があのように動き戦いや競技になるとは思いませんでした。しかも、多少練習すればあそこまで動かせるようになる。運動が苦手な人でも、思いっきり遊べそうです」
フェルミアはそう考えた様である。
「何にせよ、各国に渡れば大流行りするであろうよ。じゃが流行り過ぎて、仕事や学業が疎かになりそうじゃなぁ……それぐらいの魅力がアレにはあるからのう」
沙耶は危険性の方を高く見た様だ。これに関しては反論が難しい……と内心で光は思った。
「まあ、これを各国に出すかどうかはよく相談しあったうえで、でしょうかね。確かに熱中どころか熱狂と言う事になりそうですし──彼らのように」
ゲームをやっている護衛の人達はもう何もとりつくろわず、よくもやったなとか、絶対ぶっ飛ばす! のような言葉を吐きながらしのぎを削っている。
そして画面内でもミサイルを食らって派手にぶっ飛ばされてコースアウトさせられたり、後ろから迫ってくる破砕機に動かしているレースカーをスクラップにされたりと派手に爆発が巻き起こっている。
「あー、確かにすげえ熱中してるもんなぁ。あいつらがああやって言葉とか外見を取り繕うことなく遣り合ってるのを見たのは何時ぶりだったかね? あいつらの仮面をはぎ取るぐらい熱中させてるんだからな、他の者に渡せばそりゃ夢中になるだろうよ。俺も人の事は言えねえし、フルーレも絶対にドはまりするぜ」
護衛達の姿をほほえましい笑顔で見ながら、カードを出すガリウス。
「何らかの報酬と言う形でしょうね、今後あのゲーム機という物を我が国の人々に渡すとしたら。流石に現時点で一般に売り出したら、知った人達から口々に伝わって大騒ぎとなりそうです」
その光景を想像したのか、少々顔をゆがめながらフェルミアはカードを置く。
「そうじゃの……じゃがいつかは、気軽に触れられる物になって欲しいのう。当分は無理じゃろうが」
沙耶がそうつぶやいて溜息を吐いた。確かに、一般普及はかなり先の話だろう。電気設備の問題もあるし、夢中になり過ぎて社会現象になるのも目に見えている。
「そうですね、いつかネット対戦が気楽にできるようになると良いんですけどね」
そう光がぽろっとこぼしたことでそれは何だ、とガリウス、フェルミア、沙耶に詰め寄られてしまう光。
なので説明したところ、家に居ながら遠い所にいる人と勝負や協力ができると聞いて、ますますすべての準備が整う未来を得るためにガリウスたちや話が聞こえていたらしい護衛達が発奮したのは光だけが知らない事である。
作中のレースゲームの元ネタはBlaze Rushと言うゲームです。
steamにありまして、すごく激しいレースゲームです。
ニコニコ動画などにプレイ動画がありますので、もし興味を持たれたのであれば。




