表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/219

28日お昼

 なんとか買ってきた物を全て整理し終え、お昼となったので光は4人分のお昼ごはんを作る。作るのはラーメンだ……と言ってももちろん一から作るのではなく市販されているラーメンを手軽に作れるセットを利用してだが。野菜と豚肉を追加で入れる位で、難しい事は無い。なおチャーシューは用意できていないので、豚肉は茹でたシンプルな物止まりだが。


 ある程度ラーメンが作られたところで香りに引き付けられたのであろう3人がキッチンにやってくる。


「ヒカル殿、何やらいい匂いがするのだが」「ああ、昼ご飯を作っているところですよ。あと少しでできるので、待っていてください」


 光の言葉に頷いて、居間に戻ってきた3人であったがそこでまた話し合いが始まる。


「ヒカル殿は国家のトップであるにもかかわらずああやって料理もするんだな……ううむ、我々の常識とはまた違うな」「基本的に私達は自分で料理をすると言う事はありませんからね」「うむ、しかしそれは怠けていると言う訳ではないがの。我々には我々の仕事があり、他の者には他の者がやるべき仕事があって、お互いを補い合っているだけじゃ」


 最後の沙耶が発した言葉通り、3人が怠惰と言う訳ではない。ぶっちゃければ、光の方が異質なのだ。ガリウスたちには立場相応の重要な仕事があり、他の者が料理をする。掃除をする。宮殿の老朽箇所を修繕する。等々、各自の出来る事を分担することで国を回している。それが当然であり、役割分担という物である。


 もちろん光もある程度調理しやすいように整った物を使う事が多いので、特別調理技術が優れていると言う訳ではない。だがそれでも、他の国の首脳陣と比べればやれることが多いほうに入るだろう。まあ、地球にいた頃はもっと忙しくこうした料理をする時間もあまりなかったわけだが……


 出来上がったラーメンを4人で頂く。今回は味噌ラーメン……それを4人で食している訳なのだが、再び食べ物の話が始まる。


「いい味だな……ヒカル殿、これはどうやってこのような味を?」「ああ、これは私が調合した味ではないですよ。手軽に作れるように調整されたタレが同封されているのです」


 食品メーカーの努力は、並大抵ではない。定番の商品であっても過去より少しでもおいしく、素晴らしくすると言う努力をひたすら継続する。もちろん新商品も出していく。どれだけの血が滲むどころか吐くだけの努力を積み重ねてきているのか、常人にはちょっと理解できないかもしれない。しかし、そんな彼らのおかげで、こうして手軽に美味しい食事ができるのだ。


「これ、この味が、秘伝の味ではなく一般販売されている……いえ、そう言えば過去に送っていただいたカレーもそうでしたね……お湯で温めればあのような美味な物を簡単に食せる……あの時は相当な無理をさせたと思っていましたが、あれもそう言う商品の一つだったのですね」


 少々フェルミアの感性的な意味で日本の食品メーカーの狂気じみた努力(食品メーカーの皆様ごめんなさい、皆様の努力を悪く言うつもりはみじんもありません)を知って引きながらも、ラーメンを食べる手は緩まない。むしろこんなおいしい物を食べないという選択肢などありえないとばかりの勢いである。


「旨い食事は、日々の活力じゃ。日本皇国が劣悪な状況下にあってもなお耐え忍んでこれたのは、この食の力があったのが一つの理由やもしれぬのう」


 沙耶の見立ては間違っていない。旨いご飯がもしなければ、日本人がこうして新しい故郷にやってくるまで耐え忍ぶことはかなり難しかった。気合いだ、根性だ、だけでは人は動かない。何か一つだけでもいい、楽しみがある時とない時では明日に向けて頑張ろうとする意欲に大きな差が出るものだ。


「そうですね、私も月に数回だけあった落ち着いて食事が取れるときに美味いものが食える日が待ち遠しかったものです。今は毎日落ち着いて食事がとれるので、毎日が楽しいですが」


 光の発言に食いついたのはガリウスだ。


「その、落ち着いて食事をすることが出来ない時は何を口に入れてたんだ?」「10秒もあれば飲み干せるゼリー飲料ですね。もしそれも試したいと言うのであれば用意できますよ」


 今の光にとっては苦い思い出がある物だが、それでもあれのおかげで今まで命を繋ぐことが出来た事もまた事実。あのゼリーにももちろん感謝はしているが……あればかりを食べる日々が続くと流石に辛かったなと、過去を無意識に振り返る光。


「10秒か……そんな食事しかできないとは、地球にいた時は本当に過酷だったのか。ち、地球の連中をもう少し激しく殴っておけって部下に伝えておくべきだったな」


 言葉は軽いが、その内心では本気でぶち切れているガリウスの姿がそこにはあった。そして、フェルミアや沙耶も同じ感情を抱いたようである。


「もう少し、燃やすなり凍らすなり感電させるなり、させておいた方が良かったですね」「うむ、もう少し風穴を増やしてやってもよかったかのう」「「「「はっはっはっはっはっは」」」」


 光は3人に合わせて笑っているだけに過ぎない。処世術という奴である。でも、流石にこのままの空気は辛いので光は予想できる範囲の地球の今後を口にする。


「まあ、その必要はないと思いますけどね。多分今頃酷い事になっているでしょうから」「ほう? それは興味深いな」


 ガリウスが身を乗り出してきたので、光は今の地球がどうなっているかの予想を口にする。「食糧プラントが停止しているはずなので、食料がまず不足している。更に薬も制作者が居なくなったのでこちらも足りなくなっていることは確実。この二つが足りなくなったことで、治安は急速に悪化しているはずです。食糧不足は何時の時代でも常に動乱の元ですから」


 光の言葉に、聞いている3人はうなずく。そう、いつの時代だって食糧と水を巡った争いは行われてきた。その歴史はこちらでも同じであった。


「なるほどな、生産者がある日ポンと消えたようなもんだからな。そうなればあっちの世界は一気に飢えに苦しむ事になるな」「長く苦しめるのにはいい手段ですね」「うむ、すぐに殺せば苦しむ時間は短くなってしまうからのう」「「「「はっはっはっは」」」」


 くどいようだが、光は合わせているだけである。一つ咳払いをした光が話を続ける。


「そして食料と薬がなくなれば当然争いが起きるのが自然の流れでしょう。彼らは軍備関連以外の生産はすべて日本人任せにしていましたから、新しく生み出すように動くと言う考えは生まれないはず。ならば他の国から奪えばいいという短絡過ぎる考えの元、行動を始めるでしょう。そこから先はただひたすらに勝者が決まらない血みどろの争いが待つだけでしょう。何せ彼らの戦闘力は、我らが地球でやった最後の戦いで軒並み失ったはずですから」


 これは光だけでなく、日本皇国大臣の中で一致している予想だった。あれだけの規模の戦力をかき集めてきて、ぼっこぼこにされた以上、世界に残された戦力は大したことは無いはずだと。もちろん拳銃とかアサルトライフルなんかの歩兵武装はあるだろうが、圧倒は出来ない。つまり、その先にあるのは消耗戦。得たいものが食糧なので、引くこともできない地獄。


「なるほど、それならば今頃彼らは相当苦しんでいるでしょうね」「哀れだとは思わんがな」「うむ、情けをかけようという気すら起きぬわ」


 3人から怒気などが引いていったので光は胸をなでおろした。まあ、今頃地球は一部の人類以外にとって地獄となっている事は間違いないだろう。


「まあ、もう地球の事はどうでも良いのです。それより来年の年末にある一大勝負、これに勝つことの方がずっと大事でしょう。まあ、そちらの方も準備が進んでいますからね……来年の年末もこんな穏やかな時間を過ごせるようにするのが、来年に向けての抱負ですかね」


 もう光にとって、地球の日々を振り返るつもりはない。過去の事は経験として生かす事はするが、いちいち恨みを抱えたままで仕事をしないし未来を見ない。何の役にも立たないからである。日本国のかじ取りをする人間である以上、50年、100年先の未来を見据えての行動の方が大事であり、そこに恨みや終わってしまった事を経験として生かす以外の考えを挟む余地はないのである。


「それは同意だな、そして次はマルファーレンスにある俺の家に来て欲しい。そちらでもてなしをさせてくれ……来年、勝ってな」


 ガリウスの言葉に、他の3人は頷きあった。こうして、物騒な話が飛び交いつつも最後は綺麗に? まとまってお昼が終わったのである。

そろそろおっさんの方の書籍化原稿作業が始まりそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 特定の場所以外ではまともに生活できないというのを聞いて、フリーダムウォーズを思い出したなあ。(あれとは全然違いますけど
[一言] 知人のメーカー開発者曰く、褒め言葉ありがとう、だそうで。(笑)
[気になる点] >どれだけの血が滲むどころか白だけの努力を積み重ねてきているのか、常人にはちょっと理解できないかもしれない。 白だけの努力? [一言] それにしても、日本の食品メーカーの執念には感謝…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ