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5月23日(後半)

「とりあえず、まずは食事をした後に話し合う事といたしましょう」


 三国の象徴である皆様の腹の虫が早く食べさせろと催促してくるので、テーブルに座っていただき、カレーライスを用意させる。 事前に食べられない物についての質問は済ませてあるため問題もない。 特にそういった戒律などは存在せず、あえて言うなら食べ物を粗末にしない、残さない、無駄にしない、そういった方面を重視していると聞いている。


「わが国でも人気の食事、カレーライスと申します。 白いライスと、ルーをスプーンにとり、口に運んでいただければ結構です」


 光の説明が終わるや否や、スプーンを取りライスとルーの境界線に素早く入れて口に運ぶ象徴の三名様。


「これは……ううむ」


「ぴりっときますね」


「むう、こちらではあまり馴染みがない感触じゃな」


 一言ずつ最初の感想を各自が話し合ったかと思うと、二回、三回と口に運んで慎重に食べている。 ──しかし、その様子が徐々に変わってきた。


「美味いな、これ」


「そうですね、最初はびっくりしましたけど、これは美味しいです」


「これはぜひ持ち帰りたいのう!」


 そうなると勢いよく食べ始める御三方。 まるで子供が食べるかのようにスプーンを動かし、口にする。 他の人達はその様子にあっけに取られ、いまだにカレーを一口も食べていない。


「き、気に入っていただけたようで何よりです、では我々も頂きましょう」


 その光の声に他の人も我を取り戻し、スプーンを取り、食べ始める。


「「「おかわり(だ、です、じゃ!)」」」


 先に食べていた象徴の三名様はすでに二杯目に突入していた……。


 ────────────────────────


 それから1時間後。


「あー食った食った! 満足だ!」


「はしたないとは思いましたが、スプーンを止める事が出来ませんでした」


「うむむ、しかしよく出来ている料理じゃの……」


 お代わりにお代わりを重ね、食べまくっていた象徴の三名様が漸くスプーンをおいた。 特にガリウスは10回ほどお代わりをしていた……。 まあそれはともかく、満足している様子。


「それは何よりです」


 ちなみに光はお代わりは一回。 フルーレは四回、男性部隊長は平均六回、女性部隊長は平均三回お代わりしていたりする。


「これだけの料理……最高の材料で、最高のシェフが腕を振るったのでしょうね……」


 エルフ耳をぴくぴく動かしながら、フェルミアがそう感想を漏らす。 そうするとフルーレと数人の部隊長がその声にピクッと反応した。


「今反応した者達は、どうやらこの料理を作ったシェフを知っておるようだの。 毒殺を封じるためにシェフの監視をしておったようじゃな」


 この、沙耶の予想は当たっていた。 反応した部隊長数名は、このカレーライスを作るところの一部始終を知っているのだから。


「こんな美味いメシを作ってくれたシェフには感謝しないといけねえ! ぜひ呼んでくれ!」


 ガリウスがこう言った時、立ち上がったのは光だった。


「そこまで気に入っていただけたのであれば、作った人間としてもうれしいですね」


 そうして光は象徴の三名様に向かって軽く頭を下げた。


 ────────────────────────


 言うまでもないことだが、よほど色々とこだわらなければ、カレーライスは十分一般家庭でも製作できる、制作方法を記すまでもなく。 基本的に、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉か牛肉、あとは好みで各家庭のトッピング、あとはカレールーを入れるだけである。 その製作の手軽さもあって4000年代の日本でも人気のあるメニューであった。 光は一般家庭でも、無理な出費などせずにすむ材料でこのカレーライスを作った。


 その心は『一般家庭でも、これだけの物を気軽に食せる技術がこちらにはある』、そういうことを実際に味わってもらうためだ。 せっかく向こうから来た客人で、なおかつこれから長い付き合いとなるのだから、日本としてはこういう方向でそちらに貢献が出来る事を物理的に証明するために。 そしてその行動によって生まれた効果は絶大であったようだ。


「そ、それは本当ですか、光殿!」


 ガリウスは目を白黒させている。


「これが……このレベルがこの国では一般の方が口にしている食事なのですか!?」


 フェルミアも穏やかな表情が崩れている。


「むう……『技術』で貢献する予定だと、フルーレ将軍から聞いていたが……これほど分かりやすい証明方法はないのう……」


 沙耶は腕組みを始めながら、空になったカレー皿を眺めている。


「まだ終わりではございませんよ、デザートがありますので」


 そう言って光が運ばせたのは杏仁豆腐。 これは一般的に売られているパック詰めにされている商品を器に空けただけのものだ。 具もシンプルに杏仁を模した白いブロック、ミカン、パイナップルだけである。 その運ばれてきたデザートに目を輝かせているのは女性の部隊隊長の皆さん。


「これは甘いデザートですので、辛くなった口に合うと思いますよ」


 女性の部隊長の皆さんは素早く用意されていた小さなスプーンを手に取り、杏仁豆腐を掬う。


「これ、こちらに来てからの私の好物の一つなのよね~」


 そんな声も聞こえてくる。 それに対して、象徴の御三方はどうしたことか一向に口をつけない。


「甘い物はお嫌いでしたか?」


 少々の焦りを含む声が光の口からこぼれ出る。


「いや、甘い物と聞くとな……」


「砂糖たっぷりのくどい甘みばかりが記憶に浮かびまして……」


「しかし、口をつけてみねば分からぬし……はむ」


 沙耶が杏仁豆腐を恐る恐る一口食べてみる。 すると沙耶の表情が、見る見るうちに変わってきた。


「おお!? この甘み、くどくないぞえ!?」


 言うが早いか、一口一口ゆっくりと杏仁豆腐を味わって食べている。


「おいおい、本当かよ沙耶」


「くどくない甘みは、フルーツぐらいだと思うのですが……」


 そう言いつつ、ガリウス、フェルミアも杏仁豆腐を口にする。 口にしたとたん、ゆっくりとではあるが手を止めずにきれいに食べきった。 この様子を見てほっとしたのは光を始めとした日本側。 どうやら、最初の技術『日本の料理』は向こうにも十分に受け入れられると確証を得ることが出来た。


「最後の最後にまた見せ付けられたな」


「このお昼だけで何度も驚かされておりますね」


「うむ、これは日本皇国がこちらに来る日が楽しみじゃな」


 こうして、良好な滑り出しに成功した光を始めとする日本側。 ここからは日本が向こうの世界に移ってからどう動くべきかの会議になる。 さすがに会議に移れば真剣なやり取りが行なわれる。 しかしお昼の料理による影響で、技術の提供という面では疑いの声がかかることは一切なかった。 こうして会談の一日目は終始真剣ではあるものの、穏やかな雰囲気の中成功を収めることになる。


 ちなみに、晩ご飯は各自の部隊長にボディーガードをかねて案内させたところ、ガリウスは居酒屋に、フェルミアは洋食屋に、沙耶は回転寿司に向かい、舌鼓を打ったらしい。 いくばくかのお酒も口に入ったとの事で、翌日に向こうに帰るときにお酒をお土産として持ち帰りたいと、要望を受けてしまうことになる光であった。

前半後半が料理話になってしまいました。

でもシリアスばかりも疲れるので一旦一息です。

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