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27日後半

 そうして始まった厄介で面倒で男にとってはあまり触れたくない戦いは──二人が持ってきていた酒が入ると同時にぐっだぐだな展開を迎えていた。光も少し飲ませてもらったのだが、フェルミアの持ってきたフォースハイムのお酒は地球で言うなら白ワインが一番近い。沙耶の持ってきた酒は、濁り酒が一番近いのではないだろうか。


「──ですからね、500歳なんてとっくに超えた今頃に『そろそろお相手を見繕って結ばれては』なんて言われても困るのよ! こっちだって好きで500年以上独身でやってきたんじゃないってーの! 国が不安定な状況で、国の象徴として働かなきゃいけないことが多かった200歳から350歳の間にいい男はみーんな結婚してたんだっての!」


「分かる、分かるぞフェルミアよ! こちらも似たり寄ったりじゃ! 自分たちがバカなことをして、こっちにいらぬ仕事を増やしたことを綺麗さっぱり忘れておる! わらわだって結婚したいわ! じゃが、それを邪魔したのはお主らじゃろうと何度怒鳴りつけたくなったことか! それを忘れて『沙耶様もそろそろご結婚なさって跡継ぎを』などとよくも言えたものじゃ!!」


 どうやら、この二人は結婚適齢期……と言っていいのかは正直なところ分からないが……とにかく国の象徴としての仕事で結婚のタイミングを失ってしまったと言う事だけは間違いないようだ。二人とも普段の姿からは想像もできないぐらい酔っぱらっており、そこにさらにつまみと一緒に酒が次々と入っていく。


 その姿を見た光とガリウスは、触らぬ神にたたりなしとばかりに部屋の隅っこに移動して酒の勢いであれこれ今まで溜まっていた鬱憤をぶちまけまくる二人を静かに傍観していた。下手に絡まれるとどうなるかわからないという恐怖心も多々含んでいるから、静かにもしている。


「私だって、国の象徴として全てを投げうつつもりで国のために働いてきたわよ! でもそんな私を見て『フェルミア様は国と結婚なさったのだ』と当時は持ち上げておいて、いまさら跡継ぎを作れとか我が儘すぎ! そもそも私の血が絶えたって分家筋は幾つもあるんだから困らないでしょうに! 私にだって意思はあるのよ! 見た目だけきれいなボンボン男に興味はないわ!」


「ああ、ああ、まさにもっともな話じゃ! 見た目だけは良いが、ちょっと調べれば頼りない側面がぼろぼろと出てきおる。血筋が良いからなんじゃ、高貴な身分だから釣り合うじゃと? ふざけるでないわ、わらわの意思は無視か? わらわは確かに象徴じゃが、意思のある一人の人間でもあるのじゃぞ! それを分かっておるのかあのクッソ爺どもは! 老いぼれどもにとって都合の良い名声の道具にされるのは我慢がならぬ!」


 そう吐き捨てると、今度は瓶からお酒を直飲みする二人。とてもじゃないが、フォースハイムやフリージスティの国民の皆様方にはお見せできない姿である。


「ガリウス……あの二人は相当鬱憤が腹の中で煮えくり返っていたようだな……」「ああ、まあ、無理もない話でな。名誉のために詳しくは言わないが、あの二人はそれこそ神々の試練だけでなく、様々な出来事の問題解決に奔走してきた過去があってな……本来それらは国の象徴である彼女達の仕事ではないんだがなぁ……彼女たちがやらなきゃ国がまとまらなかったというのも事実でな」


 ガリウスはビールを口に運んだ後に大きくため息をついていた。そのため息には多大な疲労感も感じられたので、光もこちらが想像できること以上の面倒事があの二人には多くあったのだと予想することは容易かった。


「俺も国のために働いたことは多くあったが、あの二人に比べればはるかにマシでな。もちろんヒカル殿の境遇と比べても俺の方がはるかにマシだった訳だが。まあ、だからこそこういう時にある程度ガス抜きをしてやらないと、あの二人が壊れかねなくてな……こんなことに突然つき合わせてしまったヒカル殿には申し訳ないが」


 ガリウスがそう口にするのも仕方がないぐらい、フェルミアと沙耶の愚痴合戦は終わりが見えなかった。様々な機密に関わる部分も彼女たちは漏らしていたが、それは光、ガリウス共に耳に精神的な蓋をして聞いていないという対応を取っている。


「彼女達も人間ですからねえ……こういう時間も必要であると言う事は理解してますよ。ですができれば事前に教えて頂きたかったのですが……まあ、いいでしょう。幸い今年の仕事はスムーズに進みました。この調子なら来年の秋頃にはすべての準備が整い、星々の世界での戦闘訓練を繰り返して練度を上げていくだけと言う事になるでしょう。ですから、数日ぐらいはこういう時間があっても問題はありません」


 光としても知らない間柄ではないし(無論その規模がちょっとあれだが、ここではそう言う事を考えないことにする)、国益に反する事ではなく総理大臣ではもないただの個人でどうにかできる範疇であれば力を貸すことはやぶさかではない。だから、今回のような場に使われても苦笑いだけで済ませる。


「でも、やっと納得できる人が現れたの! 地位だけじゃなく、困難にあっても必死で挫けずに戦い続けてきたその精神力はとても美しい! そしてこの世界に来てから今まで、本当に精力的に働くその姿にわたちはこの人ならばと思えちゃったのよ! 沙耶の気持ちも分かっているけど、わたちも譲れないの!」


 おっと、フェルミナ様が幼児退行し始めたぞ? と光とガリウスは冷や汗を一滴、お互いの服の中で流した。


「やー! 私のお婿さんになってもらうのー!! フェルミアは大事な友達だけど、今回ばかりは譲れないのー! 私が貰うの、そして子供いっぱい作って幸せになるのー!!」


 沙耶までどうやら幼児退行してしまったらしい。二人はもう服はだらしない格好であり、人によっては扇情的な魅力を感じるだろう。だが、光とガリウスはそんな事を感じる暇はなかった。お互いに目を合わせて『『そろそろお開きにさせないとやべーんじゃないか?』』と言う意思を確認しあう。そして同時に頷くとガリウスが行動に移った。


「そろそろ寝ようぜ、明日もまた飲めるから今日はもうここまでにしとこうぜ? な?」


 そうなだめに入ったガリウスだったが……なぜか同時に立ち上がったフェルミアと沙耶によって、ツープラトンの挟み撃ちラリアートを食らわされた。沈んだガリウスがもだえ苦しんでいたので、慌てて光が何とか魔法でダメージをやわらげる。


 魔法が使えるようになっていてよかったと、本気で思った光。自宅で国家の象徴が他国の象徴を殺す殺人事件を起こしたなんてシャレにならん。


(と言うか、なんでこのお二人は時々プロレス技を繰り出すのだろう? 近い競技が存在するんだろうか?)


 ガリウスを癒しつつ、光はそんなことをふと思ったが考えるのを止めた。考えた所で無駄に終わるだろうと思ったからである。一方でガリウスに容赦ないツープラトンラリアートをくらわせたフェルミアと沙耶は再び座り込むと酒を口に流し込み始めた。


 もう酔いつぶれるまで放っておくしかないだろうと光は諦めた。もちろん、二人のツープラトン技を食らいたくないという考えも諦める事を決めた理由の一つだ。


「ひ、ヒカル殿。マジで助かった……死んだ祖父が遠くに見えたぜ……酒が入っているのに、なんであんな息の合った連携攻撃が出来んだよこの二人は……」


 ガリウスが、フェルミアと沙耶に恨みが籠った視線を向けるのも無理のない話だろう。今回は本当に甚大なダメージを食らったのだ、光が魔法を使えなかった場合最悪死んでいたかもしれない。しかし、それでも視線を向けるだけにとどまったのはもう一回下手に手を出したら本気で殺されるという未来が見えているからかもしれない。


「ガリウス、もう我々は休もう。あの二人に付き合ってたら、潰されるだけじゃすまないだろう」「同感だぜ……ああ、今回は今までの中で一番ひどかったぜ」


 自分でも魔法を使って治癒を施し、立ち直ったガリウスを光は寝床に案内した。全員個室をあてがう事は決めており、フェルミアや沙耶が酒を飲んでいる間に布団などはすでに敷き終えている。


 後は布団に入って寝るだけなのだ……もちろん風呂に入るという選択もあるが、酒が入っている状態での入浴はよろしくない。今日は寝て、明日の朝にシャワーを浴びるなりなんなりした方が無難だろう。


「ガリウスの部屋はここだ。一応喉が渇いた時用に水の入った容器とコップは用意してある」「ああ、酒を飲むと喉が渇くからな。配慮に感謝するぜ。じゃあ、また明日な」


 ガリウスが部屋の中に消えて、光も自分の部屋に引き上げた。もうあの二人は放置しておくほかないだろう……あられもない姿を晒しているし、そこに下手に関われば、既成事実と言う事にされてご結婚と言う方向に進みかねない。


 流石に国の象徴やトップが既成事実作っちゃったから結婚しまーすなんて頭が悪すぎる発表は出来るはずがない。そんな事になったら、どんな騒ぎが起こるか想像するだけで誰もが頭痛を覚える事になるだろう。


(いうなれば、天皇陛下が他国の女性に手を出したから結婚することになりましたと発表するようなものになるからな。それこそどんな騒ぎになるか……)


 想像するだけで頭痛がするのだ。もし万が一にもそんな未来が来てしまった場合は、頭が痛いを通り越して頭痛が痛いという状態になるだろう。日本語的にも表現的にもこの言い方は完全におかしいのだが、それぐらい困ったことになると言う事である。


(寝よう。うん、寝て明日考えよう)


 そうして、布団に入った光はあっさりと己の意識を手放して夢の世界に入り……夢の世界で、右側をフェルミアに、左側を沙耶にがっちりとロックされた状態で無理やり結婚式を行わされている夢にうなされる事となる。


 二人とも方向性は違うが美女であり、普通の男性ならば両手に華で嬉しいシーンなんだろうが……酒が入った痴態と、ガリウスを一発でのしたツープラトンラリアートを見てしまった光にとっては恐怖心の方がはるかに勝る。


「いや、なぜ、どうしてだ!?」


 動けない光がそう口にすると、フェルミアと沙耶はとてもいい笑みを浮かべて──


「「私達が欲しいからですよ」」


 と二人同時に口にした。その光景が光の中でしばしトラウマの様な物となってしまったのは、また別の話と言う事にさせていただく。

主人公にトラウマが出来てしまったが、致し方ない犠牲だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] か、鍵を。 寝室に鍵をかけねば!!(嫌な予感 [一言] 280歳。500歳……。 取り敢えず光総理はかなり年下だから、姐さん女房ですね。
[一言]  各国共通の格闘技があるんですかねぇ?(目逸らし)
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