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12月15日

 この日、ついに札幌雪祭りは1000年以上ぶりに復活した。今後、祭りは日本各地で復活していくことになる──その第一号となる札幌雪祭りは力の入った物となった。神々の試練が迫っているのに祭りを開くとは悠長な、などと言う意見が世界からなかった訳ではないが、それに対して光はこう反論した。


「神々の試練に対する準備は日々順調に進んでいる。むしろ今の日本には祭りを開くだけの余裕があるのだと見てもらいたい」


 その堂々として余裕たっぷりの反論に、相手は反論が出来なくなってしまった。そしてそれだけの強気に出られる姿を世界に見せたことで、各国の国民から光は大きく支持されることとなった。小難しい理屈を並べて険しい顔をしていれば、問題は解決するという物ではないのだ。こうして国のトップが落ち着いている方が安心するのである。


 そんな一幕もあったが、今日は各国首脳陣が日本の札幌に訪れて数々の力作を眺めている。日本の様々な建築物や、各国から許可をもらった物、そして各国専用機体を模した雪像たちが勢ぞろいしている。その雪像の出来栄えに、各国首脳陣は息をのんだ。


「これが、雪ですと……!?」「信じがたい、まさか雪でここまでの像を作り上げてしまうとは」「この出来栄え、素晴らしい……」「我が国の剣や盾を、雪でこうも見事に再現するのか……見事としか言いようがない」


 そして出てくるのは賞賛の言葉の数々。彼らにとっての雪と言う物の固定概念が現在進行形で崩れていっている。雪でこれだけの芸術品を生み出せるというのは、彼らの常識の完全に外にある事である。雪は厄介者で、邪魔者で、何の役にも立たないというのが今までの考えであった。せいぜい子供のおもちゃの代わりになるのが関の山……


 だが、目の前にある見事な作品の数々は、雪でできているのだ。この事実に各国首脳陣が混乱するのも無理はないだろう……そして今回は過去の札幌雪祭りに存在した制作に半年以上かかる大雪像はない。故に雪像一つ一つはそう大きくないのだが……それでも十分すぎるインパクトを彼らに与えていた。


「よくもこんなものを考え付くな、と言えばいいのでしょうか……」「ですが、出来栄えは素晴らしいものばかりですぞ。この芸術性を否定するような真似は、私にはできません」「雪で作るとの事だったから、どんなものが出てくるのかと思っていたが……これほどまでに素晴らしい作品の数々がこうも並ぶとは」


 各国首脳陣は、正直に言えば雪の像と言う事で簡単にできるものからちょっと格好をつけたものが出てくるのが精々だろうと予想していた。これは日本を馬鹿にしていたわけではない、彼らの今までの常識からすればそういう考え方になるのだ。しかし、こうして呼ばれて見せられた雪像はどれもこれも力作ぞろい。予想していたレベルをはるかにぶち抜いていた。


「如何でしょうか、これらの作品の数々は。今後、この雪祭りはよっぽどの事が無い限りは毎年開き、世界各国の芸術家が己を磨き競い合う場としての面も持たせたいと考えております。そうなれば、もっと盛り上がるでしょう」


 光の言葉に、誰もが頷かざるを得なかった。たかが雪、と考えていた数時間前までの考えを木っ端みじんにされた各国上層部は否定するすべを持ち合わせていなかった。それに、この提案は彼らにとっても有益であった。芸術家は各国にいるが、活躍の場が与えられるのは残念ながら本当にごく一部の者だけに限られ、大半の者は一筋の光すら当たらずに消えていくことが多い。


 だが、このような場を日本が提供してくれるのであれば……今までチャンスを与えられなかった人にも日の目を見ることが出来る可能性が生まれる。何せ材料は雪、高価な顔料も素材も必要ない──身につけねばならない技術は山ほどあるだろうが、それでもチャンスが与えられるとなれば日の目が当たらなかった者たちは皆必死で励むだろう。


「それはいい提案ですね、私の国にもいろいろな像を作る芸術家はおります。来年以降に参加させていただけるというのであれば、ぜひ挑戦させてあげたいと考えていました」


 光の言葉に一番最初に返答をしたのは、フォースハイムの上層部の一員である女性であった。彼女は芸術家を保護する政策をよく打ち出し、また発表の場を作る事にも精力的に動いていた。しかし、残念ながらどうしても出てくるのはいつもの有力な者達ばかりになりがちで、彼女が本当に出してあげたいと考えている芸術家の卵達に活躍させてあげることが出来ずにいた。


 だが、こうして日本が新しい活躍の場を設けるのだという。更にメインの材料は雪、これは今世間に名を売っている芸術家であっても未知の素材。つまり、全員がほぼ同じスタートラインに立てるチャンスなのだ。後はそこからいかに抜け出せるか……そこから先は個人の才覚と、それに勝る努力。


「ええ、ぜひ参加していただきたい。今年は復活したてですから会場もそうは広くありませんが、来年以降はもっと大きくスペースを取ります。大勢の芸術家が己の作品を発表できる場として、そして見に来た人々が楽しめる祭りとして盛り上げて頂ければと考えております」


 この後は一通りの雪像を見終わり、各国首脳陣はあてがわれた宿泊施設に。当然そこからは昼間に見た雪像の話がメインになる。まずはマルファーレンスから。



「雪像と言う事で期待していなかったのですが、いい意味で期待を裏切ってきましたな」「日本がやるというのだから、普通の雪像ではないと考えていたが……」「何にせよ、像を作る事が得意な者が活躍できる場が与えられたのは大きいですぞ」


 戦士が多いマルファーレンスだが、芸術を得意とする者もいる。だがどうしても発表場が他の二か国より少ないという実情があった。どうしても戦士の国と言う事で武力を重視する傾向が強く、過去には戦う事しか能がない国だと他国から揶揄されたことも多々あった。


「雪像の作り方は、教えていただけるとの事でしたな」「うむ、細かい資料や動画などを添えて教えてくれるとの事だ」「ならば乗るべきでしょう。我々が戦うだけの人間ではないと世界に知らしめることが出来る場が生まれるのです。この機会を逃がすのは愚かだ」


 確かに戦士の国ではあるが、そこには敬意や美意識はきちんと存在している。無法者や下種ではないのだ。むしろそういった物をマルファーレンスは毛嫌いする。


「では、この後国に帰った後に、像つくりに長けた者を集めると言う事で」「熟練者ばかり集めてはならん。むしろ経験のない者の方が素早く覚えられるかもしれん」「では、そのようにしましょう」


 今後の予定を作るため、夜遅くまで話し合いが行われた……次はフォースハイム。



「あの芸術性は、高く評価せざるを得ません」


 この一言から、彼らフォースハイムの話し合いは始まった。この場にいるフォースハイムの上層部はみなこの言葉に頷いた。


「そして、これはいい機会です。我が国で発表の場を与えられずにただ腐っていく若い芸術家に日の目をあてることが出来る。確かに今活躍している芸術家たちは素晴らしいですが、その素晴らしさゆえにほかの者の活躍の場を奪ってもいる。これは残念ながら事実です」


 この場にいる全員がこの言葉にも頷いた。


「その状況の打開と……参加しなければ他の2国に負ける事になりかねません。誤解されることが多いのですが、マルファーレンスはマルファーレンスで独自の美術が栄えています。戦士が中心の国なので発表の場は非常に少ないですがね。ですが、この雪像と言う場を生かしてそれを大きく打ち出してくるでしょう。フリージスティは言うまでもないでしょう」


 反論はない。そうなることは間違いないだろうと言うのが、この場にいる皆の共通認識であったからだ。参加しないと言う事は、ほかの2国に劣ることになってしまいかねない──と言うのが、彼らの考えになっていた。


「ゆえに来年からは我々も参加する方向で進める、それでいいでしょうか?」「異議なし」「そうすべきだ、我々の芸術品は決して他国に劣るものではない」「そうだとも、しり込みする必要はない」「雪像の作り方はきちんと教えると、ヒカル殿は言っている。ならば若い芸術家たちの為にも参加すべきだ」


 では、どのように自国の芸術家、特に若い芸術家に告知するか。それを考える場となっていった──そして最後にフリージスティ。



「実に面白いものを見せてもらいましたね」「雪であれだけ見事に遊んでみせるとは」「芸術品と遊び心の両方がなければ、生まれないものでしょうね」


 フリージスティにとって、あそこまでの物を雪で作って見せたことに対しての感想はそのような物であった。


「この遊びに乗らないという選択肢は──」「無いだろ」「あり得ないですね」「こんな楽しい遊びに乗らないなんて、つまらないにも程があるだろ?」


 他の2国と違い、彼らにとって邪魔者である雪をあそこまでの芸術品に仕上げたことは最高の遊びであると捉えている。そしてこんな遊びに参加しないなんて、もったいないじゃないかという感じである。


「なら、手先が器用な連中に声をかけるという方向でいいか?」「そうだな、そいつらの好きにやらせれば、面白い雪像が出来るだろう」「作り方の指南書は、光殿が用意してくれると言う事だからな。ここまでお膳立てされてるんだ、乗っからなきゃな」


 と、ここまで話が進んだところで一人が手を挙げた。全員の衆目がその手を挙げた人物に行く。


「1つ思ったんだが。こんな楽しい遊びに沙耶様を参加させないのはまずくないか? 幸い沙耶様は手先が器用だし芸術に関しても一定の知識と創作力がある。沙耶様も光殿に会える口実にもなるし、沙耶様にも参加してみませんかと話を振ってみてはどうだろう?」


 この意見に、数人が手を打った。


「よく気が付いた! その通りだ!」「沙耶様にこんな遊びを教えないまま進めたら怒られることろだった! あっぶねえ!」「よし、では帰国次第沙耶様にも話を振ろう。おそらく嬉々として乗ってくださるだろう」「沙耶様のストレス発散にもなるだろうし、いい案じゃないか」


 手を挙げて発言をした人物に、よく気がついてくれたという賞賛と同時に沙耶にも話を持っていこうという形で話が進む。こうして3国それぞれの受け止め方をされた札幌雪祭りは、時が流れるにつれ血の流れない芸術品の戦場としてその名を広めていくこととなるのであるが……それはもっと先の話である。

毎年雪祭りででてくる雪像の数々、本当にすごいですよね……

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― 新着の感想 ―
[一言]  残念ながら、雪祭りどころか札幌にも行ったことはないけれど、ニュース中継でも迫力が伝わりますからね。そういう意味では、ねぶた祭とかも受けそうですね!
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