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12月3日、6日

 翌日、光陵重化学へと直接やってきた光から話を聞いた如月指令は光の前にある計画書を提出していた。


「今後の前線基地となる宇宙ステーションの解放度合いをどう進めるかはすでに計画に上がっておりまして。とりあえずご覧ください、長くはありませんからすぐに見終わる事と思います」


 確かに如月指令が出してきた計画書はかなり薄い。これならば読み終わるまでにそう時間はかからないだろう。そう考えて光が計画書を読み始めると……1月中に中央施設の完成と居住区の建設を20%まで進める。2月に世界各国の重鎮を呼び、希望が出た時には数日宇宙ステーションにおいて生活をしてもらう事で環境を知ってもらう。


 5月ごろまでには居住区の完成を目指し、それと同時に居住区の外側にさらなる防御設備を組み立てていく。8月後半から9月前半までにすべての工程を終了し、一般の人にも居住区だけは開放する。その後は神々の試練を見据えて行う予行練習をサポートすべく動く。大雑把に言えばこんな予定が組み立てられていた。


「この計画を、来年の1月上旬に総理の元に提出する予定でした。ですので、各国上層部には来年の2月に受け入れる予定で進めているので待っていただくようにお伝えいただけないでしょうか? その代わり、各国が自国専用の宇宙ステーションを作りたいのであればこちらも協力するという話をされてもかまいません」


 宇宙ステーションに関しては、いつかは各国専用の物があってもいいのかもしれない。戦争の為ではなく、防衛の為の砦なのだから。それに今は機体が宇宙ステーション1つで整備関連を賄える数しかいないが、これから先もっと数が増えてくればそうはいかない。ならば各国の機体の整備に特化した個別の宇宙ステーションがあった方が良いかもしれないと光は考えた。


「確かに未来を考えれば、宇宙ステーションを各国が個別に持っていた方が良いかもしれない、か。時が経てばますます各国専用の機体は進化して特化されていくだろう。そうなると各国の機体が整備しやすい環境が整ったステーションを個別に所有した方が、スムーズに事が進むか」


 光の言葉に如月指令は頷く。


「ええ、いつかはそうなるでしょうからね。ならば早めに各国が運営しやすいようにした宇宙ステーションを持った方が良いというのは、こちらとしても同じ意見です。ですので、今回の宇宙ステーションはモデルケースも兼ねています。実際に見て、触って、生活をしてみて。どういった物かを、いつかはこちらが用意した映像ではなく自分自身の体で知ってもらうべきですから」


 如月指令の言葉に光が「百聞は一見に如かず、だな?」と口にすれば、如月指令は「ええ、まさにその言葉の通りです。実際に自分で触れてみるというのは大事です。そう、神威弐式やブレイヴァーの時と同じですよ」と返答した。その後多少今後の話を確認した後に、光は光陵重化学を後にし、その後すぐに各国に宇宙ステーションの今後についての計画があるので、もう一度話し合いの場を設けてもらいたいと伝えておいた。



 各国重鎮のフットワークは軽かった。3日後に再び集まって話し合う場が設けられたのだから、いかに星々の世界の砦となる宇宙ステーションへの注目が高まっているのか分かろうというものだ。各国重鎮が集まった場で、光は今後の予定を如月指令から受け取った計画書の通りに進めると発表した。


「では、来年の春前には受け入れていただけるのですね?」「ええ、予定が多少前後するかもしれませんが、皆様をお招きするという予定は変わりません。皆様には実際に転移陣を用いてステーションの中に入っていただき、見学していただきます。また、希望者が出れば数日中で生活していただく為の手配も整えると現場からの言葉を貰っています」


 光の返答に、各国重鎮からは「ならばそれまで素直に待つべきでしょうな」「ええ、見学どころか宿泊までしていいと言っているのです。実際に使われるときにはどうなるのか、と言う事を知るには十分でしょう」「完成すれば一般にも居住区は開放するとのことですからな。星々の世界を知りたいという学者達も、この話を聞けば非常に喜ぶでしょう」といった感じの話し合いが行われる。


「それと、いつかは我ら各国専用の宇宙ステーションの建設にも力を貸していただけるとのことですが──」「そちらも嘘偽りはありません。今は一つのステーションで機体の整備などが間に合いますが、50年後、100年後にはもっと機体の数が増え、乗り手も増えているでしょう。そうなった時、一つのステーションでは賄いきれません」


 未来の話をする光に、確かにとかいつかはそうなるだろうなという同意の声がいくつも上がる。それらの声が静かになった後に光は更なる言葉を口にする。


「そして各国専用の機体はこれから先、得意な戦い方を引き出せる形へとより特化していくことでしょう。そうなると、各国専用の機体を整備しやすいように設備も特化した場所を用意した方が都合がいい。各国専用の宇宙ステーションの建設を考えているのは、そういった面もあります」


 それに日本皇国だけが持てば、必ずそれを侵略の手段や交渉の手段として用いるだろうという各国要人や国民の疑いの目が生まれたり、そういう風に扱う事を企む人間が日本皇国内に生まれてくる可能性がある。その先に待っている戦争をやってしまえば、全てが滅びの道をたどるという愚かな未来を迎えかねない。そんな未来を迎えるぐらいならば、多少の損をしても各国にも同じ物を持たせておいて戦争の生まれる芽を潰しておく方が良いという打算も日本皇国側にはある。


「なるほど、確かにそうですな」「それに各国が持っていれば、神々の試練に立ち向かえる戦士の数を増やすことに繋がります」「すでに各国専用機体は、持っている色が大幅に違う。専用の整備する設備を各国が持った方が確かに上手く行くだろう」


 と、各国からの反応はおおむね肯定的、好意的であった。まあ、日本皇国が施設を秘密主義にはせず、先の未来には各国専用の物を作るのに協力すると言っているのだ。各国ともに神々の試練に対する対抗手段を得られるのだから、否定的になる理由がない。まあ、地球では交渉事は右手で握手をして左手にはナイフを持つなどという表現があるが、こちらの世界ではそういった物は現時点では存在しない。


 そんなナイフを隠し持つ交渉なんかしていれば、神々の試練を迎えた時に助けてもらえず非常に苦しむ羽目になるという歴史があるからなのだが。あくまで交渉は自国を富ませると同時に護る為にやるもので、滅ぼすような愚行は避けるべきだ何てことは、いちいち口にするまでもない事である。


「ですので、見学を受け入れる為の時間をもう少々いただきたい。現場はすでに皆様を受け入れることが出来るように動いております。ですので、現場に混乱を招くような真似は避けたいのです」


 光のこの言葉に、異議が出ることはなかった。一国のトップが必ず見学を許可すると言っているのだから、下手にせっつくような真似はすまいという意見が各国の上層部全員の間で一致した形である。更には宇宙ステーションを各国が持てるようにも動く、という発言も大きい。ここで変に日本に無理を言ってへそを曲げられたら大損であり、その切っ掛けを作った者は悪役になり下がると言った計算も各国上層部の中で働いていた。


 こうして、各国上層部が2月に宇宙ステーションを見学する方向で事を進めるという日本皇国側の話が全面的に受け入れられる形で無事にこの会議は終わる事となった。各国とも、将来的には自国専用の宇宙ステーションが手に入るという言葉を聞き出せたことは非常に大きく、満足した表情を浮かべつつ自国へと戻っていった。



「そういう訳でな、話し合いはスムーズに済んだよ」「各国共に、自国の宇宙ステーションが手に入るとなれば反対する理由はないはずですからね。不満が出るとは思っていませんでした」


 帰ってきた光は、すぐさま如月指令へと連絡を取り、今回の顛末を話していた。


「現在作っている宇宙ステーションで、こちらの世界でも我々のやり方が通用すると分かりましたからな。各国専用の宇宙ステーションの建設はもう少し楽に、かつ早くなるでしょう。後は各国が運用できるだけの知識を与えて、自分たちで回せるようになれば今後の神々の試練を乗り切ることがより容易になるはずです」


 今後神々の試練が、こちらの世界に残っている今までの記録内容を上回る恐ろしい内容で襲い掛かってこないという保証はどこにもない。だからこそ、そういう時がいつ来てもいいように未来を見据えた行動をしなければならないのが国のトップに立っている者の逃れられない責務なのである。


「とにかく、各国からの了承はとった。後はそちらが計画通りに進めてくれれば上手く行く」「ええ、お任せください。日本皇国が恥をかくような真似はしませんよ。楽しみに2月を待っていてください」


 このやり取りを最後に2人は通信を終了した。そうして彼らはまた己の責務に戻っていく。

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