12月2日、3日
宇宙ステーションの建設状況は、もちろん各国の上層部にも報告が入っていた。中の設備が説明される度に各国上層部は困惑している……今まで自分達が行く事が出来ずにいた星々の世界で、ここまで平時と変わらぬ環境を作り上げることが出来ている場所への理解がなかなか難しいという側面もあって、事実を受け入れる事がスムーズにいかないのである。
「既に日本皇国から報告が来たと思うが、星々の世界で前線の砦となる建築物の状況を受けてどのような考えを持ったのかを伺いたい」
そのため、緊急開催されたのが日本を除いた各国上層部の合同会議。その始まりとして、先の言葉がフリージスティ上層部の一人から出てきたのである。そして、最初に言葉を発したのはマルファーレンスの上層部の一人だった。
「正直に言おう。こちらとしてはいかにも砦といった感じで、戦う事だけに特化した作りになると思っていた。まさかあのような空間に各国の戦闘に対応した訓練場、更には食事処まで取り揃えてくるとは思わなかった。さらにこの後に居住空間を作るのだろう? 正直想像をする事すら馬鹿らしくなってきている。あまりにも我々の今までの常識を逸脱しすぎているからな」
常識を逸脱しすぎている、の所で多くの人が同意見だとばかりに頷いた。そして次の言葉を発したのはフリージスティ上層部の一人。
「確かに、こちらの予想は大きく外れました。しかし、少し考えてみてください。なぜ彼らがあそこまで地上とあまり変わらない環境を整えたのかを。どんな屈強な戦士や魔法使い、銃士であってもやはり慣れない場所に長く居続ければ無視できない精神的な疲労を覚えます。しかも今回は、その場所が大地のない星々の世界なのです。そんな世界に我々が設備のない砦に長居をしてみなさい。上を見上げても空がない、大地がない、風がない。私だったら発狂しますね」
この発言に、皆が黙り込む。そのような環境を想像し、そして発狂する自分の姿をたやすく想像できてしまったからだ。身震いする者もいたが、それを非難するものなど居ようはずがない。次に口を開いたのはフォースハイムの上層部の一人。
「確かに、発狂するでしょうな。すこし真剣にイメージするだけで、ぞっとしましたよ。確かに今我々が居るこの世界とは全く別の環境になるわけです。そこに加えて戦いが迫ってくる緊張、見慣れたものが一切ない環境、そして腹が膨れればいいというだけの食事では兵士の心にどれほどのストレスが膨れ上がるか分かったものではありません。過剰とも思える地上環境にできるだけ近い物を整えたのは、まさにその問題を解決するためなのでしょう」
この発言に、すかさずマルファーレンス側から発言が出てくる。
「我々も、各施設が無駄であるという意見は一切ない。先ほどのフォースハイムの方からの発言にもあった通り、我々が来年の末に出向くのはまさに未知の世界。日本皇国はおそらく地球にいた時に出向いた経験があるからこそああして落ち着いているのだろうが、我々にとってはそうはいかん。そんな我々でも普段と変わらぬ景色が少しでもあるのであれば、確かに戦士達の士気の維持はやりやすくなる」
この発言に頷く者は多数いた。そして次は、フリージスティ側から声が上がる。
「我々には、とにかく星々の世界に関する知識があまりにもなさすぎると言う事も問題です。日本皇国に打診して、一定レベルの知識は持つべきでしょう。知らないから恐れるのです、一定の知識を得て対処を知れば、恐れもある程度収まるでしょう。日本皇国もよっぽどの機密でない限り、情報を出すことを渋るとは思えません。ですから、我々はもっと星々の世界について学ぶべきだと考えます」
学ぶ、という言葉を聞いて一部の者たちが少々面倒だ、と言わんばかりの表情を浮かべる。しかし、その表情を見た発言者のフリージスティ上層部はさらに言葉を続ける。
「では、このまま星々の世界に関することは日本皇国に一任し続けるのですか? 今は我々に知識がありませんし時間も少ないですから仕方がありません。しかし、長期に渡ってその状態が続くというのは好ましい話ではないはずです。何から何まで日本皇国任せにしてしまっては、かつて彼らが住んでいた地球という世界に住んでいた下種連中と同じになってしまいかねません。それを是とするのですか?」
この発言に、気色ばむ者も出た。だが、さすがに声を荒げた発言をするまでには至らず。すこし場が落ち着くのは待ってから、口を開いたのはマルファーレンス側。
「確かにな、彼らに仕事を押し付け続けるような状況を長く続けるのは良くないというのは理解できる。今現時点でも各国は資材の提供や各種技術のやり取りで日本皇国を支援はしているが、今一番仕事量が多いのは確かに日本皇国だ。このままの状況が続くのは良くないというのはどの国でも共通の認識だと考えている。やはり我々も新しいことを学び、これから先に生まれてくる命の為にできる事をより模索する必要がある」
この言葉には、まさにその通りだと同意する声が国を問わず上がった。今は仕方がないが、宇宙に関しての知識を得ていつかはこちらからもやれることを見つけていくべきだという意見でここは一致していた。もっともそれは日本皇国だけに任せておくと、遠い未来に日本皇国の上層部が心変わりをしてこの世界の支配をもくろんだりしたときに、対処ができなくなるからという考えも当然ある。
そこからは、しばしどのように学びの場を設けてもらうべきかの話し合いがかなり長時間にわたって行われた。そして、来年の神々の試練を乗り越えた後に日本皇国に申し込もうと言う事で全会一致する。とにかく、少しでも知らねば何もできない。何もできないというのは国として致命的──という考えに彼らが行きついたのは当然の事だろう。
話し合いが落ち着き、皆が手元にある水分で喉を潤した後、フォースハイムの一人がこんな言葉を口にした。
「これは個人的な話となりますが、ぜひ今の星々の世界にある砦に視察に行きたいと考えて居ます。もちろん日本皇国の報告に嘘があると疑っている訳ではありません。しかし、やはり一度自分の目で見て、自分の足で歩いて確かめたいのです。おそらく、私と同じ考えを持っていらっしゃる方は複数居ると思うのですが、いかがでしょうか?」
シン、と一瞬場が静まり返った後──一斉に私も、私もという声がいくつも上がった。
「ええ、分かりますよ。ぜひ行ってみたいし触れてみたいですからな」「中央部分はほぼ完成したという話ですからね、もし入ることを許可してもらえるなら……」「ははは、同じ考えの同志が予想以上に多いようですなぁ」
そんな話の流れで、当然日本皇国にお願いするという形で各国の上層部を見学させてもらえないか持ちかけるという案も出された。反対するものは出ず、これも可決され──この話し合いによって決まった二つの『星々の世界に関する知識の伝授』『星々の世界にできた砦の見学要望』が日本皇国に三国のサイン入りで日本皇国の光の元に届いた。そして要望が届いた翌日。
「と、いう話が三国のサイン入りで届いている。これに関しての意見を聞きたい」
光は大臣を集めて会議を開いていた。大臣達も要望書を確認した後──
「まず、宇宙の知識については教えてもよいかと。変にここで教えないとすれば彼らにいらぬ疑念を持たせるでしょうし、長い目で見れば一定レベルの知識の共有は世界にとっても我々にとっても有益な方向に働くのではないかと」「ええ、彼らが知識を欲する理由は分かりますし、我が国の国益を犯すものでもないでしょう。一定の知識を教える事は、今後の神々の試練にどう立ち向かうかの話をする上でも必須になるはずです」
といった形で一つ目の要望である星々の世界に関する知識の伝授はすんなりと通った。
「そしてもう一つの方ですが……これはどうなのでしょう?」「我々で決める訳にはいかないでしょう。現場の意見を聞いて、それからではないかと」「そうですね、現場が混乱するようでは困りますし……総理、これは現場に話を聞いてから考えるべき案件でしょう。現場で働く人たちの邪魔となるような行為は避けたいところですから」
などの意見で大体の一致を見たため、二つ目の要望である宇宙ステーションの見学については翌日如月指令を通じて話を持っていき、問題の有無によって決めるとした。
(まさか見学をしたいと言い出すとはな……とにかく、明日如月指令と現場に話を振ってみよう)
明日の予定を追加して、会議は終わった。
モンハン堪能したので、今週からまた更新再開します。




