表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/219

11月30日

 札幌雪祭りの話がひと段落してからしばし、如月司令を通じて宇宙ステーションの建築状況の報告が入ってきた。


「──という形で、建築は問題なく順調に進んでおります。今の状況を維持できれば、来年の夏の終わりごろには宇宙ステーション全ての機能が使えるようになるでしょう」


 如月指令の報告を聞きながら、光は以前渡された計画書を手に持ちながら確認を進める。そして光は己の疑問を口にする。


「計画がやや早めに進んでいるようだが……現場に無理を強いていないか? 確かに前線基地となる宇宙ステーションが早く完成するに越したことはない。しかし、急がせたが故のヒューマンエラーが多発して、いざという時に使えなくなるという事態は何としてでも回避しなければならん。技術者にこんなことを言うのは釈迦に説法かもしれんが、やはり、計画が早く進んでいるとなるとどうしても気になる点でな」


 光の言葉に、如月指令は「先に出した計画書は、あの時点での最善を尽くした物です。ですが今は本当に1日ごとに技術が1歩進むという驚異的な成長期、いや進化を迎えておりまして……実は今宇宙で作業をしている者達との通信がつながっております。進み具合を直接、神威弐式のメインカメラなどを通じてみて頂こうと思います」と話をした後に新しいウィンドウを起動させた。


『司令、見えておりますでしょうか? こちら宇宙ステーション建築現場です』「通信状況は良好ですよ、そのまま報告を続けてください」『了解、では報告を開始します。まずは宇宙ステーションの外見からご覧ください』


 カメラの端に神威弐式の腕が見えることから、この映像は神威弐式のメインカメラを通じて見せている物だと分かる。そして映し出される建築途中の宇宙ステーション。中央部分は計画書通りの姿を見せており、建築は周囲に作る予定の居住区に取り掛かっているように見える。


『御覧の通り中枢となる中央部分の建築は8割程完成し、残りを進めるとともに何かの問題が発生していないかのチェックを同時に行っている状況です。人の手に余裕が生まれておりますので、計画を前倒しして居住区の建築にも取り掛かっております。こうも手早く建築を進められたのは、建築用として運用している神威弐式に様々な作業に使える追加パーツの開発が進んだのが大きいです。細かい所の作業も、専用のアームが多数開発されたおかげで実にスムーズです』


 報告者の声からは、疲労感を無理やり隠している気配を感じない。むしろ精力的に働いている様だと光は感じ取った。


『たまにこちらに向かってくる小さな隕石のような邪魔な存在は、共に宇宙に上がった大和がすべて迎撃してくれておりますので全ての作業員は安心して作業ができていることも大きいです。大和の除去能力は完璧で、宇宙ステーションの防衛機構が完成するまでの間、何一つ通しませんでしたから。今は中央の迎撃システムも稼働しておりますので、大和と協力してたまに流れてくるものを100%の確率で排除できております』


 報告者の言葉は力強く、報告を聞いている如月指令はよくやっているとばかりの表情を浮かべながら何度もうなずいている。


『これらの小さな隕石は、こちらに攻撃を意図したものではないと考えております。攻撃とするには散発的かつ数が少ない……これらは純粋な自然現象だと思われます。地球にいるときに問題になっていたデブリに比べればかわいいものです……事実、中央の迎撃システムの稼働率は5%を越えたことはありません。今後大和が地表に戻って全ての迎撃を宇宙ステーションのみで行うことになっても、平時のシステム稼働率は10%にも満たないでしょうと現場では結論が出ています』


 迎撃システムの方も、問題なく動かせているのは明るい話だと光も笑みを浮かべる。これならば宇宙ステーションで待機する人が増えてもストレスに苦しめられることはないだろう。迎撃がうまく出来ずにしょっちゅう宇宙ステーションに被弾するようでは困るのだ。なぜなら、その被弾一つ一つが大したことがないとしても、何かが当たれば音や振動は少なからず発生する。そんな状態下では、宇宙ステーションの中にいる人は心が休まらない事は容易く予想できる。


「休暇はきちんと取っていますね? 今の建築の進み具合から考えれば荒れる理由は全くありません。それに休まずに働き続ければヒューマンエラーを引き起こす元となるだけです。そうなればかえって建築速度にブレーキがかかります……分かっているとは思いますが」


 如月指令の言葉に、報告者からは『もちろん分かっております』との返答がすぐに帰ってくる。


『今、一人の作業時間は1日で6時間までとしています。残りの時間は趣味をやるもよし、食事をするもよし、寝るもよしの完全な自由時間です。中央施設はほぼ完成しておりますので、遊技場や各種食事処や運動場なども使える状態になっています。そちらはこれから報告担当の者が詳しく説明を行う予定となっております』


 1日6時間ならば、休息も十二分にとれる。無理をしていないと言う事がわかり、光は内心でほっとした。いくら宇宙ステーション建設のノウハウがあるとはいえ、この世界の宇宙は初めての世界。そんな場所で最初の一歩を踏む彼らが疲労困憊で苦しむようなことにはなって欲しくなかった。


『では、そろそろ内部の報告担当に出番を譲ろうと思います。これで私からの報告は終わります』


 そう口にして、神威弐式からの通信が終了する。それから数秒後、再びウィンドウが起動した。映し出されたのは地上の運動場……と見間違いかけるほどの立派な物だった。


『見えておりますでしょうか? こちらは宇宙ステーション内部の施設の一つである運動場から通信をしております』


 如月指令がすかさず「通信状態は良好です、映像も声もはっきりと伝わっていますよ」と報告者に返答した。


『ありがとうございます。この映像を見ていただければ分かると思いますが、ここでは地上にできるだけ近い環境で運動ができるようにしております。土などは転送装置を用いて運び込んでおります。もちろん除菌などは転送時に施しております……この転送すると同時に除菌するという技術はフォースハイムの方々との協力で生まれた技術の一つですね』


 映像には走る人やサッカーをする人、バスケットやテニスなどの様々な運動施設が勢ぞろいしている様子が映し出されていた。十分なスペース、十分な施設。これならば体を動かすことを楽しむ人も満足するだろう。


『さらに、マルファーレンスの方々用の武道場。フォースハイムの方々用の魔術修練所。フリージスティの方々用の射撃修練所も整えており、こちらで滞在する時でも日々の訓練を休まなくてもいいように環境を整えています。こちらの施設は、各国の方々の監修の下に制作しておりますので、問題はないと考えております』


 ちゃんと各国の人に意見を聞きながら作ったのであれば問題はないだろうと光も考えた。こういう物は、きちんと意見や要望を聞きつつ作らないと完成してからこれは違う、これは使いにくいという不満が出てくるものだ。そうなれば結局作り直すことになるため、二度手間三度手間となってしまう。


 そんな無駄なことをするより、きちんと意見や要望を聞いて時間をかけても満足してもらえるものを作った方が結果的には早く完成して、実際に施設を使う人々にも喜んでもらえるものだ。宇宙という特殊な場所であるからこそ、そういった基本的なところを大事にしなければいけない。


『さて、場所を移して食事をする場所です。ある意味ここが一番宇宙らしくない場所かもしれませんね。ほとんど地上の状態を再現し、各国の食事が食べられるように施設を整えております』


 報告者の言葉通り青空が広がるこの場所は、まさに日本の食べ物屋が並ぶ場所そのものだった。並ぶ店は様々な料理を出しており、好きなものを好きな場所で食せるようになっていた。これだけの食事処があれば、日々の食事で飽きることはそうそうないだろう。


『自炊する人のために、各種食材を扱う施設もキチンと別にございます。そちらの方もご覧いただきます』


 報告者が次に向かったのは、例えるならスーパーマーケット。様々な食材が並び、ここもほとんど地上と変わらない。すでに宇宙ステーション内で一定レベル以上の生活環境が回りだしていたのである。このことは、完全に光の予想を上回っていた。


『地上からやってきた技術者の皆様からも、好きな食事ができると非常に好評です。食事は活力を生む大事な行為ですからね、過剰と言われるぐらいに力を入れるぐらいでちょうどいいと考えております。ましてや、ここは宇宙空間です。そのことを一瞬でも忘れてほっとできる時間の有無は非常に大きいですからね』


 できる限りストレスを発散できるようにする為の手段として考えた結果が、このレベルの施設を生み出したと言う事かと光は腕組みをしながらうなった。だが、ここまで拘るだけの意味、そして価値は十分に理解できる。報告の言葉の中にあったように、あそこは宇宙空間。普段と違う環境にいれば、どんな頑強な人間であってもストレスがたまらないと言う事はあり得ない。だが、そこに普段食べているモノがあれば?


(無駄、とは絶対に言えんな。ストレスは多少あるぐらいなら仕事のエネルギーにできる者もいる。だが、溜まり過ぎれば動きは鈍る、判断力は落ちる、冷静さは失われるといった悪循環しか呼び起こさない。そういった悪循環に陥る前に普段と同じ場所で運動をしたり訓練をしたり、食べなれたものを落ち着いて食ったりすれば、ストレスは適度に発散される。確かに、設備は過剰と思えるぐらいでちょうどいい、か)


 今後は、宇宙ステーションに長く勤める者も多くでてくる。そんな彼らの精神の安定にも役立つのだから、前もって作っておいた彼らの判断は正しい。光は一回頷くと口を開く。


「よく分かった、君達の仕事は十分に素晴らしいものであると確信できた。この調子で進めて欲しい。もちろん、休息は十分にとるように。君達が倒れるような事になってしまったら、全てが台無しになってしまうのだからな」


 光の言葉に、報告者は『総理のお言葉を忘れぬようにしながら、今後も建設を進めていきます』と口にした後に報告の終了を告げた。


「総理、いかがでしたか?」「文句を言う処が思い当たらんよ。この調子で宇宙ステーションを完成させられれば、これから先、第二第三のステーション建設を行う必要が出てきた時にもいい経験となってくれるだろう。方向性はこのままで進めてくれ」


 如月指令からの問いかけに、光はこのままの調子でやってくれと告げる。宇宙ステーション建設が順調なことに、光は内心で安堵の笑みを浮かべていた。

来週はたぶんお休みします。


理由は、和風の世界でガンランス担いでモンスターとじゃれあってる可能性が高いからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お休みは理解出来ます。 自分も弓持って走り回ってますw
[一言] 同じく和風の世界でモンスターたちとキャッキャウフフしています。 休憩するときはおもいっきりした方がよろしいかと。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ