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5月23日(前半)

「今日は貴方達の世界の3国の象徴である方々が此方にいらっしゃる日だったな、フルーレ」


「はい、本日の此方の時間で言えば午前11時に到着いたします」


 朝の会議にてのやり取りである。


「しかし、貴方達の国の象徴が此方に出向いても良いのか? 問題が多数あるはずだが」


「問題はありません、此方側の魔力の濃度も一定を満たしつつありますし、向こうの強い要望でもあります」


 そう、日本が今後行く予定になっている世界の各国の象徴……日本で言えば天皇陛下に当たる存在がこちらの世界に遊びに来る事になっている、その当日が今日である。


「しかし、本当に来るとは……」


 話は少々さかのぼる。


 ────────────────────────


 二日前


「光様、お話しておきたいことがございます」


 会議の最中、フルーレにそう言われ、内容を確認すると光は驚いた。


「フルーレ、これは本当か!? てっきり自分は各国の代表の一人と御付の人がくると思っていたのだが、各国の『象徴』を担っている方々が直接来られるというのか!?」


 冷静に考えてみて欲しい。 ある日突然天皇陛下が脈絡もなく他国に訪問に行きますなんて放送を流されたら混乱するだろう、ましてやその先が良くわからない場所だったりしたら。


「周りの方々はお引きとめにならなかったのか……?」


「それが、力尽くで決定されてしまったようで……ご本人に」


 ナニソレ。 光は頭を抱える……今の日本は観光地ではないと言うのに。


「ではせめて、何故直接そのような身分の方々が力尽くで来るようになったのか、その理由だけでも予想できないか……?」


 精神的に痛む頭を抱えつつ光はフルーレに問う。 が、フルーレは何故か目を泳がせる。


「フルーレ……何を隠している?」


「えーっとですね……そのですね……」


 どうにも歯切れが悪い。 こんな彼女を見るのは珍しいが、来るお客人がとんでもない存在なので聞き出さないわけにも行かない。 そう考えを纏めた光に笑い声が聞こえてきた。


「光の旦那、あっしから報告します。 何故うちらの大将自らがこっちに来るつもりになったのか。 その理由は我々が送った日本の食事が理由なんでさあ」


 そう言い出す二番隊長の男性が話した内容を大雑把に纏めると、フルーレ達が見本として送った日本の料理を向こうの国家の象徴三名が皆気に入り、ぜひもっと食べたいと言う要求を出していた。 だが日本の転移はまだまだ先ゆえに当分は我慢をしなければ、そう考えて我慢をしていたらしい。 ところが、だ。 国家の代表を一度日本に送り、視察をしておこうと言う考えが持ち上がり、各国の代表者とお供、各3名を選出し、視察に向かわせる事を決定した。 それを聞きつけた各国の『象徴』の方々は……。


「向こうにいければご飯が食べられる。 だから我々が出向こう、大義名分はでっち上げよう」


 と言う共通の食欲が原動力となった無駄にすごい行動力を発揮してすぐさま合意。 行動に乗り出し、文字通りの『力尽く』にてこちらに来る事になったのだそうだ。


「それで良いのか……? そんな理由で……」


「そんな理由などと言わないでください!」


 突然会議に出席していた部隊隊長、特に女性隊長が次々と立ち上がる。


「こんなおいしいものがたくさん有る世界は誘惑に満ちています!」


「あんな甘くておいしいもの、食べたくなって当然です!」


 そうすると次は男性の部隊隊長達も立ち上がる。


「一枚の肉を焼く、そのことにアレだけ技術をつぎ込めるのはすごい!」


「丼物と言うものも食べてみましたが、アレは美味い! しかも種類も多い!」


「寿司こそ最強だ! 生で食する魚があれほどまでに美味いとは!」


 今会議中だよな……? そんなやや呆然としかかっている光を置き去りにして部隊隊長たちの言い争いはさらにヒートアップする。


「オムライスは素晴らしいわ! あの組み合わせはもはや奇跡よ!」


「甘い! エビフライにタルタルソースの組み合わせこそが最高だ!」


「判ってないわね、てんぷらの揚げたてを熱いうちに食べる、アレこそが最高の一品よ」


「ふふん、そこにセイシュが抜けているぞ! キュッとやると言う言葉の意味が分かって来たわい!」


 やいのやいのと食べ物談義をする部隊隊長たち。 ようやく立ち直った光も理解してきた……あらゆる料理を取り込み、自分達の流派にしてしまうことを繰り返して来た日本。 それに日本が守ってきた味を組み合わせてさらに新しい料理としてきた歴史による成果が、予想以上に向こうの世界の人たちに受けているらしい。 おいしいご飯は文化交流としてもやりやすい。 美味ければ認めてしまうのが人だからだ。


「分かった! よーく分かった! ならば、此方にいらっしゃった時のメニューは『カレーライス』で行こうと思うがどうか!」


 この光の発言に、言い合っていた部隊隊長たちが一瞬沈黙した後に、一斉に拍手をした。 これにより、あちらの『象徴』である3名がいらっしゃった時のお昼ご飯はカレーライスで行く事が決定した。 ちなみに何故カレーライスを光が選んだのかと言うと、明治と呼ばれる過去には、こういった来賓に対して出すもてなしの料理の中にカレーライスが存在していた事、スプーンで食べる為食べにくいと言う事がまずないだろうと言う事、形式ばった料理は食べ飽きているだろうとの3つの理由があったからである。


 ────────────────────────


「あんな会議で決まった事だから、正直に言えばものすごく不安なのだが」


 正直に言えばあんな会議で今回のような来賓を迎える準備を決定したくはなかった。 しかし、既に会議は下流に差し向かってきている空気であり、今更上流どころか中流にすら戻ることはできなかった……。


「問題ありません、『非常に楽しみにしている、お代わりはたくさん用意しておいて貰えると嬉しい』との言伝も受け取っておりますので」


 フルーレは返答する。


「頬が緩みまくっているぞ」


 突っ込む光。 異世界の方々は食いしん坊である。 こんな形で異世界の人との壁が壊れるきっかけが出来るとは、全くもって思っていなかった光であった。



 そうして午前11時を迎え、各自所定について異世界の賓客をお出迎えする。 魔法陣が描かれたかと思うと、その中から9人が姿を現した。


「「「此度の急な訪問を許可していただき、心よりの感謝を」」」


 そう同時に3人が見事にハモって感謝を述べる。


「日本国へようこそ、私が日本国現首相、藤堂 光と申します」


 光が出迎える。 今日、この日が新しい日本の第一歩になる……。


「──はい、おつかれー」


「おつかれー」


「おつかれー」


「「「「「「いきなりだらけないでください!」」」」」」


 いきなりダレた声を上げる中央の男性に、耳の長い女性、色気が漂うウサギ耳の女性が「おつかれー」と返答を返し、御付と思われる6名がその3人に向かって怒っている。


「いや、だってよ、正式な場は向こうでだろ? かたっ苦しいやり取りは今はなしなしでいいだろうが」


「陛下! だからといって突然砕けた話し方をするのは、出迎えて下さった日本国の皆様に無礼になります!」


 中央の男性は、かなりの大柄の体躯を誇っている。 武闘家といわれても納得してしまいそうだ。


「正直、今日が楽しみすぎて昨日からご飯があまり喉を通らなくておなかペコペコなのよ~」


「ですから軽い物だけでも口に入れてくださいと申し上げたではありませんか!」


 光から見て右側の女性は長い耳……エルフ耳といえばイメージしてもらえるだろうか? 長い耳を伸ばし、美しい銀髪をロングヘアーにしている。


「いやいや、分かるぞ分かるぞ。 此方の食事は楽しみだからのう」


「だからといって、礼儀はキチンとなさって下さい!」


 光から見て左側の女性はウサギ耳をピコピコ動かしながら御付の人とやり取りをしている。 だがウサギ耳だからといってかわいいと言う表現は全く似合わない。 むしろ、雌豹と表現した方がしっくり来る。 眼光も鋭い。


「ひ、光様、申し訳ありません。 ですがこんなのでも、各国の象徴でございます……」


 フルーレが申し訳なさそうに事実を伝えてくる。 事実は残酷である、どう残酷であるかは状況によるが。


「こんなのとはねえだろう、フルーレ。 正式な場であればきちんとやるぜ」


「正式な場です! しゃんとして下さい父上! いえ陛下!」


 なんだかとんでもない言葉がぽろっと転げ落ちたようだ、と光は半分現実逃避をしながら思った。


「まあ、今はお忍び扱いと言うことで頼む。 ああ、名乗っていなかったな、俺はガリウス・ド・マルファーレンス27世だ、気軽にガリウスと呼んでくれればいい」


「そして私は、フルーレ・ド・マルファーレンスです。 こんな情けない父親の一応は娘の一人になります」


 そして明かされたフルーレのフルネーム。


「光様、ですが私は娘の中では1番若い存在で、権力もございませんので今までどおりのお付き合いをお願い致します」


 そして重なる無茶なお願い。 王族相手に色々そういう訳には行かないだろうに、と光は一人、頭を悩ませる。


「次は私が。 フェルミア・リィン・フォースハイムと申します。 フェルミア、と気軽にお呼びください」


 そういってエルフ耳の女性は頭を下げる。


「気軽に、と申されましても……」


 気力を振り絞って、何とか光はそれだけを口にする。


「いえ、むしろ特別扱いされすぎる事の方が私は怖いです。 そんなことを良しとしてしまえばいつか孤立してしまいます。 そんな寂しい人生では、生きる価値がございませんので」


 と反論されてしまう。 御付の人も「ぜひ呼んであげてください」と言って来るので光は再び頭を悩ませる。 こんなに軽くていいのだろうか? 大事なコンタクトではないのか?


「出遅れるわけには行かぬな。 わらわが最後じゃな、沙耶サヤロン・フリージスティと言う。 サヤと呼んでもらいたい」


 最後のウサギ耳の女性はそう名乗った。 後ろの御付の人のウサギ耳もぴくぴく揺れている。


「まあ大体予想がついたかもしれないが、俺の国の名がマルファーレンス帝国」


「私の国の名前がフォースハイム連合国」


「わらわの国がフリージスティ王国と言うのじゃ」


 そこにフルーレが入る。


「そして、そこに第4の国として、日本皇国が入ることになります」

ようやく出せた向こうの各国。

各国家の国民の特徴は大体象徴である3人と同じです。


戦士のような強靭な肉体を持つマルファーレンス。

高い智を持ち、魔法の祖国とされるフォースハイム。

しなやかさと柔軟さのフリージスティとなっています。

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