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11月14日

 マルファーレンス帝国に出向いてから数日後。今光は神威参特式のコックピット内に居た。如月司令からの報告で、神威参特式の武装である草薙の剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉を含めた神威参特式の強化が遂に完了したという報告が入った為に、直接テストをする為である。


「鉄も凄かったが、神威参特式のパワーはそれ以上か」『ええ、鉄がその命を張って残してくれた各種データを元に再設計し、神威参特式の能力をより大きく向上させております。その出力で三種の神器を元にした神威参特式専用武装の威力は絶大な物となりました。鉄はその身を失いましたが、魂は神威参特式内で生きております』


 如月司令の言う通り、こちら側に来てから手に入った鉱石と最後の局面でその全てを投げうって地球を守った鉄のデータが融合した姿が、今ここに居る神威参特式の強化型である。外見にこれと言った変更はないが、その中身は完全に別物。そのパワーと出力を持って、巨剣である草薙の剣を軽々と振るい、複数のシールドシステムを展開できる八咫鏡と高出力のレーザーを放つ八尺瓊勾玉を長時間併用してもパワーダウンの心配がない。


 文字通り、日本皇国とこの世界を護る守護者として神威参特式の強化は完成した。さらなる先を見据えた長期の改良プランは存在しているが、現状でできる事はすべてやったと開発者と技術者が胸を張れる機体である。それゆえに悪用された時の危険性は非常に高く、現時点では光の生体データによってのみ起動する光専用機となっている。


『世界各国からいただいた各種データ上の話ではありますが、この神威参特式の性能ならば砕けない隕石は存在しないと宣言してもいいほどです。ですがその分制作にかかったコストが高く、暫くは総理専用機体以外は存在しないでしょう。時が流れ、さらなる技術革新が起きれば、ある程度の能力を抑えてコストを軽減すれば多少量産できるやもしれませんが』


 如月司令の言葉通り、まさに今の神威参特式は生産にかかるコストが途方もなく高くなってしまった。初期の神威参特式であればまだコストダウンさせる為の能力低下を行えば少数の量産なら何とかなる範疇であったが、今の完成した神威参特式の強化版の量産は現実的ではない。それならば初期の神威参特式を量産しやすいように調整して神威参式として運用した方が現実味がある。


 数を揃えられてこその量産機であり、大勢の搭乗者が安定して使えるからこそ量産機の強みが出る。一握りの人間じゃなければ使えない極端すぎる性能を持った機体を量産してはいけないのだ。安定して運用でき、パーツの補充も効きやすいから修理や整備にかかる負担が少ないという強みも量産機の力の一つ。ワンオフの専用機ではそうはいかない。


「そこら辺は分かっている。現状では神威参特式を数機作るよりも神威弐式を量産した方が戦力になる。ただ先を見据えて神威参式という弐式の後継機を考えるのは大事だ……もちろん量産できるという利点も失ってはならない。だが、それはもうしばらく先だろうな。ここまでの機体を作り上げられた事自体、光陵重化学の人々が長い月日をかけて基礎を作ってくれていなければ叶わなかったのだからな」


 光陵重化学上層部の300年に渡る執念が完成させたKAMUIという具体的な例が無ければ、神威弐式もブレイヴァーもソーサラーもランチャーも今ここにこうして存在する事は出来なかった。彼らが先を見てKAMUIを作ってくれていなければ、今回の隕石に対処する事は非常に難しくなっただろう。


『我々の執念がまさかこんな形で役に立つ日が来るとは、地球で耐える日々を送っていた時には思いもしませんでしたよ。ですが、こうして人々の役に立てるのであれば、今までその身を削り命を燃やし魂をすり減らして作り上げてきた先人たちも報われる事でしょう。後は最高の結果を出して、最高の報告を祖先にする事が目標ですね』


 と、二人がそんな会話をしている内に神威参特式は全ての起動シークスエンスを完了した。鬼面武者を思わせるその姿がうなりを上げ始める。整備員たちが全員退去したのを確認してから、光は神威参特式を動かし始める。人と変わらぬスムーズな動きで神威参特式はその歩を試験場に進める。


『総理、今の神威参特式の出力は10%に抑えています。そうしないと、出力が高すぎてテスト用の的などを一瞬で溶かしてしまいかねませんので』


 特に八尺瓊勾玉から放たれる高出力のレーザーがまずい。地上で撃てば様々な要素が絡み合って、大きく威力などが減衰するはずの常識など知った事かとばかりの破壊力を持っている。これも、純粋な化学ではなく魔法が組み合わさったマギ・サイエンスがもたらした新しい力の一つである。


「了解、まあ今日はあくまでテストだ。問題なく使えると分かればそれでいい」


 光も出力にリミッターが付けられている事に文句などない。今日は一種の慣らし運転のようなものだ。過去に乗った事こそあるが、今のこいつと過去のこいつは比べてはいけないという事は、コックピットに座った直後に感じている。そう光は考えていたため、逆に出力のリミッターがない場合は制限をつけてもらおうと思っていたぐらいであった。


 試験場に到着した光は、如月司令の指示通りに草薙の剣を振るい、八咫鏡で防御を行い、八尺瓊勾玉で攻撃を行った。そして光の口から出た感想だが。


「なんだこれは。巨剣であるはずの草薙の剣がまるでナイフの様に軽く、素早く振れる。八咫鏡は一つ一つが異様な防御力を持ち、八尺瓊勾玉から放たれるレーザーの威力が凄まじい。如月司令、これは本当に出力を10%しか出していないのか?」


 動かす事で知った神威参特式のすさまじい性能。それを知った光は、恐る恐ると言った感じで如月司令にそう問いかけた。光の質問に対して如月司令が返した言葉は……


『ええ、間違いありません。今の神威参特式の出力制限は10%で間違いありません。来年の戦いではこの10倍の出力で神々の試練に立ち向かう事となります。正に、神威参特式は我々が今作り出せる決戦兵器と言っていいでしょう。数ではどうしようもない相手に質で立ち向かう、正に作戦の切り札です』


 如月司令の言う通り、もし途方もなく巨大な隕石が襲来した場合各国の機体が協力して攻撃しても砕くことができない可能性がある。もちろん巨大でなくても異様に硬く、潰せない物もあるかもしれない。だが、そこに神威参特式と言う対処できる機体が存在すれば、そう言った危険な隕石が来ても対処できる。


 絶望的な展開がやってこないとは、誰も断言する事は出来ない。ならばその絶望を打ち砕ける可能性を持つ刃を今のうちに手に入れておき、必要な時に振るえる準備を整える他ない。今の如月司令を始めとした開発陣が神威参特式をひたすら狂った様に強化した理由はそこにある。


 三種の神器の名前を武装に与えたのも──人だけではどうしようもない状況下であっても、神剣や神宝がその手にあるのならば切り抜けられる。そういう絶望的な展開を迎えても、諦めずに戦いぬける心の拠り所と言う側面も持っているのである。あの剣があるのなら、きっと大丈夫だと思える戦士達の希望であって欲しい祈りだ。


「そうか。これは確かに、正しく使わねば危険すぎる。誤れば護るべきものをその手で容易く壊してしまう。そうならぬように、しっかりと戒めて運用しなければいけないな」


 光のこの言葉に、如月司令も同意する。


『はい、現時点では総理以外にこの機体を与えるつもりはありません。そのように自分自身を律していくことができる人物以外に、この機体を与えるのは危険すぎますので。陳腐な言い回しかもしれませんが、守護者と破壊者は表裏一体。力があるからと軽々しく振るうような人間は容易く破壊者に成り果てます。そのような未来を、我々は望んでいません』


 今の世界に必要なのは守護者だけ。今の世界に破壊者はいらない。今世界を破壊して回る存在が生まれれば、もう人口が少なくなりすぎている日本皇国を除いた3つの国は立て直す事が絶望的となるだろう。そんな事をするために、神威参特式は生まれたのではない。長年苦しみ続けた日本を救ってくれたこの世界の人々へ恩を返すために存在しているのだ。


「そうだ、子供たちが。そして生まれてくる顔を知らぬ未来の幼子達が明日を夢見て笑顔になれる世界を創る為にこの力はあるのだ。意味もなくただただ破壊に明け暮れるような愚物など、必要ないな」


 光の言葉に如月司令は強くうなずいた。こうして神威参特式は時々光によって動かされて慣らされていき、決戦の日をただひたすらに待つこととなる。

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― 新着の感想 ―
[一言]  総理、いつか英霊化して神威参特式に宿りそうだな。
[一言] 光専用機ならば「鉄」の後継機ということで名前をつけてもいいのでは? 「鋼」とかw
[一言] >『はい、現時点では総理以外にこの機体を与えるつもりはありません。そのように自分自身を律していくことができる人物以外に、この機体を与えるのは危険すぎますので。陳腐な言い回しかもしれませんが、…
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