表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/219

11月3日後半

 3時間も戦闘を続ければ、パイロット達の疲労や判断ミスと言った要因で撃墜判定を貰い退場する機体の数も増える。現在戦闘可能と判断されている機体は、東軍34機。西軍32機。一進一退のまま、両軍ともに数を削られている状態が続いていた。


 このままジリジリと一進一退のまま4時間が経過するのかもしれないと、観戦している人々は思っていた。それぐらい両軍の実力は拮抗し、ギリギリの戦いが繰り広げられていたからである。しかし、数が僅かに劣る展開を迎えてしまい、苦しめられていた西軍はここまでの戦い方を捨てて、一転攻勢にでた。いや、むしろこれは最後の賭けと言うべき特攻と表現すべき行動だろう。


 残存機数ではほぼ拮抗しているが、消耗度合いで考えると西軍の方が東軍よりも全体的に見れば二割ほど消耗が激しかった。このままの一進一退を続ければ、先に力尽きるのは西軍側。故に、生き残っていた全員の意志の統一が行われての一転攻勢だった。もうあとの事は考えていない、この総攻撃が防ぎきられれば自分達が負ける事は覚悟の上だった。


『直接ぶつかり合うのはブレイヴァーと神威に任せろ! ソーサラーとランチャー部隊はとにかく撃ちまくる事だけを考えろ!』『死んでも東軍を後ろには通さぬ! だからひたすらに攻撃に専念せよ!』『了解、魔力の限界まで攻撃します!』『そのまま抑えててくれ! きつい一発を必ず当てて見せるからよ!』


 ラストアタックに出た西軍全員が放つ鬼気迫った気迫に、一瞬だが東軍が押された。それが決定的な隙となってしまった……西軍のブレイヴァーと神威が放つ勢いに押され、東軍側のブレイヴァーの足並みが乱れ、神威の攻撃タイミングが阻害された。そこに突き刺さる西軍のランチャーが狙いすました一撃。シールドを突き破られ、撃墜判定を次々と出してしまう東軍の神威。


『立て直せ! このままでは押しつぶされる!』『駄目だ、機会を逸した! 防御魔法はすでに発動しているが、相手の勢いが止まらん!』『くそ、一進一退の状態から一転して防戦に回らされた! 向こうが最後の猛攻をかけてきているというのは分かる! だが、こちら側が耐えられるか……!?』


 無論、西軍側のブレイヴァーや神威も次々と東軍の反撃を受けて力尽き、撃墜判定を貰っている機体は多数出ている。しかし、それを加味しても東軍側の方が被害が大きい。後方に居たランチャーやソーサラーも次々と撃破されているのだ。ラスト・アタックにすべてを賭けた西軍のタイミングは、ほぼ偶然であるが完ぺきに近いタイミングであった。西軍の勢いを東軍は止められない。そして──


『そこまでだ! 東軍の残存機数が西軍の半分を割った! よって、この模擬戦は西軍の勝ちとする!』


 フレグの声が、闘技場に響き渡った。この時西軍残存数24機。東軍12機。東軍はもちろんだが、西軍側も前衛を務めていたブレイヴァーや神威はほぼ全滅していた。ほぼ、というのは、西軍側にはブレイヴァーが2機、神威が1機残存しているからである。当然、撃墜判定すれすれの状態まで追い詰められているが、彼らは最後まで生き残った。正に、エースパイロットとこの3人を呼んでもいいだろう。


『素晴らしい戦いであった。両軍の猛者達に惜しみない拍手を!』


 フレグの言葉と共に大きな拍手が波のように起きた。こうして、第1回の記念すべき4国合同の模擬戦は幕を下ろした。この時の戦いはもちろん記録されており、後の世では歴史に必ず出てくる有名な話の1つとなる。



「終わりましたな、東軍が勝つ流れでしたが西軍の意地がそれを変えた一戦と言うべきでしょうか」


 光の言葉に、この場にいる各国のトップは大きく息を吐いた。


「凄まじい戦いでした。しかし、西軍の全体が完全に足並みをそろえて行った最後のラストアタックは実に見事でした。いい仕掛けるタイミングでの突撃であったと言うのが正直な感想です」


 ブリッツは、西軍のラストアタックをそう評していた。


「東軍はあのまま確実に削って行けば、僅かな数の優位を最後まで保てるという守りの姿勢に入っていたからな。その考えのどこかに無意識の油断が生まれていたのかもしれん。消耗度合いからして、あのままであれば東軍が勝っていただろうから読みとしては間違っていないが、相手が死に物狂いの一転攻勢を掛けてくる可能性は常に考えに入れておかねばなるまい。そこは失態だな」


 フレグは東軍の事をそう評した。


「双方良く戦いました、これをきっかけに今後はよりレベルの高い模擬戦が行われるでしょう。そして、来年の秋ごろまでには星々の世界でも模擬戦を行えるような練度に届くやもしれません。とにかく、多くの人が未来に希望を持ち続けられる良き戦いであった事は間違いありません」


 ティアは模擬戦全体をそう評価した。


「とにかく、これでブレイヴァー、ソーサラー、ランチャー、そして神威は張りぼてでは無いという事が広まる事でしょう。後はこの空気を神々の試練が来る時まで維持し、そして神々の試練を我々人が乗り越える……そう言うシナリオが成立します。後はこの勝てる、やれるという空気に水を差すような事を起こさずに備えていきましょう」


 光の言葉に、他の3人が頷く。光にとって、今回の模擬戦はかなり派手になったが──それは良い事であると考えていた。4国の国民にこれ以上ないほどのアピールになったからである。神威の力を知っている日本の人々にはほかの国の機体の実力を。3国の疑っていた人々に対しては模擬戦とはいえ実際に動き戦う姿をこれでもかと見せつけることが出来たからである。


 皆が皆、右に倣えで神威やブレイバー、ソーサラーにランチャーの力を信じていたわけではない。所詮外見だけの肝心な時には動かない大きなゴミだという意見が存在する事を、光をはじめ各国の首脳は知っていた。だが、こうして模擬戦の様子をハッキリと隠さずに見せれば、そういった考えを吹き飛ばすことが出来る。


 そう、各国の機体性能を信じていない人の考えを言葉ではなく現実に動かし、戦わせることで変える事もまたこの模擬戦の目的の一つだった。1つの現実は、千……いや万の言葉に勝る。こうして動き、戦う姿を見た彼らは考えを改めるはずだ。もし、この現実を見てもなお考えを改めない者は愚か者と成り果てて、自分の立場を無くす事となる。


「ふふ、光殿。我が国の国民達は今大騒ぎですよ。やはり戦う姿を長時間に渡ってたっぷりと見る事が出来たという事実が衝撃だったんでしょう。部下からひっきりなしにいろんな報告が耳に届いています。半信半疑だったり信じていなかった者ほど、ショックが大きかったようですね」


 いつの間にか小さなヘッドフォンのような物を耳に当てていたブリッツがそう口にした。狙っていた効果はさっそく出ている様だ……まあ、この模擬戦はある意味劇薬だ。だからこそ効くときは強烈な効果をもたらす。


「わが国では、皆がもうブレイヴァーという存在に縋る気持ちだったからな。この戦いを見てやはり神々の試練に立ち向かえる戦士なのだと再確認するぐらいだろう」


 フレグは椅子に腰を深く落として目を閉じながら国の様子を予想していた。実際はどうだったのかというと、予想以上の戦いができる事を知ってもっと日本皇国にブレイヴァーの発注を働きかけてくれと大騒ぎになり、ガリウスとフルーレはなだめるのに大忙しとなっているのであるが──


「私の部下からも報告が届きました。ええ、これで反対派達も神々の試練を迎えても戦える事と国を護れる事を知って皆が考えを変えたそうです。これで当面の憂いは消えましたね、後は来年の年末に向けてできる限りの備えをしていく事に集中できるでしょう」


 ティアにも、部下からテレパシーという方法で報告が入った。ソーサラーに懐疑的だった一団もこの模擬戦を見て、ソーサラーを作る事に対する異議を撤回。今後は協力していくという話を取り付けることが出来たという報告であった。実はもう1つ、この模擬戦を見ていたフェルミアがかなり興奮し、そしてガリウスと同じように戦いに出れない己の立場故の悔しさを口にしたという報告も届いていた。


(フェルミア様、気持ちはお察しします。私も、もしフェルミア様と同じ立場であったのなら──ソーサラーに乗って神々の試練に立ち向かう皆を見ている事しかできない己を恨んだでしょうから)


 国の象徴であるフェルミアに対して、ティアは口にできぬ同情を心の内で思った。国家の象徴……その責務は重く、苦しく、多忙である。そして何より自由がない。その体は国の為に、その命は歴史の為に。そう定められた命なのだ。だが、この同情の心を表に出す事は許されない。


 ともかく、各国首脳の狙い通り以上の成果を出す事になったこの模擬戦。今後も定期的に行われ、4国の連帯感を高めるのに一役も二役も買う事となる。そして未来のパイロットが増える切っ掛けともなっていく。


当分の間、この作品はなろうの検索にかからないように設定を変更いたしました。

お気に入りに入れて下さった方は今まで通り閲覧できます。


なお、レビューを一件消させていただきました。

間違った作品の説明を行った事と、読者を攻撃する言葉を使い始めたためです、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 突然ホーム画面のお気に入りユーザーの新着更新通知からこの作品のタイトルが消えてしまったので、一瞬削除されてしまったのかと心配しましたがお気に入りから読めることが分かったので安心しました。 …
[一言] あらまぁ、対応お疲れ様です作者さま。 なろうのレビューはよそのレビューと同義ではないことを未だに理解してない人はいますからね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ