10月1日~20日の間
マルファーレンスでの模擬戦からしばらく。順調に生産が進むソーサラーやランチャーも100機を超えた。これに伴ってフォースハイムやフリージスティでも模擬戦が開催された。両方ともにマルファーレンスの時と同じように盛り上がり、成功を収めた。そして今、光は3国から打診を受けている……4国連合での模擬戦をやらないか、と言う話だ。
「私はこれを受けようと考えている。もし、懸念なり反対意見なりがあれば遠慮なく言って欲しい」
大臣達を集めて、光は会議を開いて打診された内容について協議を行っていた。
「受けるべきではないでしょうか? 神々の試練に立ち向かう時は4国全部で事に当たるのです。なら早いうちから各国の機体の特性を言葉や数字ではなく体験で知っておくべきかと」「反対する理由が見つかりませんな、連携を図るためにも模擬戦をくり返して全体の経験を積ませていくべきでしょう」「同じく、賛成です。ここで変に反対して模擬戦をしないとなれば、現場に要らぬ溝を生む可能性もありましょう」
反対する意見は一切出なかった。なので話は模擬戦の規模について移っていく。
「各国25機ずつ出せばよいのではないでしょうか? いきなり多すぎる数の演習では特徴を掴む前に乱戦になってしまって持ち味が生かせないのでは?」「それならば10機ずつでも良いのでは?」「10機では逆に少なすぎるでしょう。自分は各国20機ずつが妥当ではないかと考えます」「いや、40機ずつ出してもいいだろう。乱戦になってもそこからどう乗り切るかを知るのも経験だろう」
話し合いで、最小10機。最大では40機と言う意見が出る。ここはなかなかまとまらなかった。数が少ないのも多いのもそれなりの意味があるので、簡単に切り捨てることが出来る意見という物がない。話し合いはさらに続き、25機案が採用される事となる。
「とりあえず25機でどうか、という事を各国上層部に打診する。その返答次第ではまた話し合う必要があるが、とりあえずこれで行く事とする」
25機ずつ4国が出せば100機。それが双方に並ぶから合計200機が一堂に揃って戦う事となる。3国での演習では50:50の100機による模擬戦だったので一気に倍の数になる訳だが……とりあえず3国の上層部に話を持って行って、反応を見てからまた考えようという事となる。
「あとは武装だな。3国とも最初の模擬戦は慣らしと言う意味もあったから追加アーマーはなしでやったが……神々の試練では当然ありで戦う事となる。この模擬戦から、アーマーの慣らしの為にもありでやりたいという話が上がっている。この点はどう思う?」
光のこの話には、ぜひやるべきだという意見で一致する。
「アーマーも、付随している武装も使いこなせなければ意味がありません」「うむ、各国の模擬戦を見ても、フォースハイムの魔法使いが張るシールドは信用していいでしょう」「ええ、魔法に疎い我々でも、火力のある攻撃をきちんと数回は耐え抜く時点で相当の防御力を持つ盾であることは疑いようがありませんね」「万が一を起こさないための手段を講じられているのです、ならばどんどんやらせて経験を積んでもらいましょう」
と、こんな感じである。
「よし、では我々はそう考えているという事も各国に伝えておこう。反対意見はどこからも上がるまい、むしろ待ってましたという感じで受け入れられるだろう」
光は持っていたメモにチェックを入れて、3国の上層部に伝える内容をまた一つ確定させた。
「追加武装は、ソーサラーには防御的な物が……そしてランチャーには手数を増やす方向性が多かった筈ですな?」
大臣の一人が言ったように、ソーサラーは得意の魔法が使えるようにする為自力で自分を防衛する手段……ビット型シールドなどを搭載する物が追加アーマーの特徴となりつつあった。もちろんより火力を上げるアーマーや、以前あった他機を応急処置できる素材を運用できるリペアアーマーも存在している。
ランチャーもビット型シールドを備えるアーマーがあるが、ほとんどはさらなる火器を積んだりビットを搭載して射撃の数を増やしたりするアーマーの方が人気がある。
ただ全体を見れば人気があるのが火力系と言うだけで、スナイパーライフルを愛用するランチャー搭乗者はビット型シールドを展開できるアーマーを好む傾向が高いので需要がないということはない。
「正式に案が固まって、初めての公式な運用となる場となりますな。ある意味武装の展覧会ですな」
この大臣の言葉に、頷く他の面子。各国の機体がどういう拡張アーマーを装備して新しい武器を使えるのかと言うのを、すべての人が見れる初めての機会となる。そういう意味では展覧会とか発表会とかの表現をしてもおかしくはない。
「まあ発表方法自体はなかなか物騒ですがな」
そんなまた別の大臣の発言に、ははは、と笑い声が起こる。まあ、武装を実際に使って発表するのだから物騒なのも間違いではない。だが今必要なのは力だから致し方ない。もちろんただ力があればいいというモノではない。ちゃんと使うべき時に必要なだけ使える力でなければ無用な悲しみと恨みを作るだけだ。
「よし、大体こんな所か? なお、今回の演習には私やフレグ殿、ティア殿、ブリッツ殿の専用機は出ない。私の乗る神威・参特式だけでも、かなりの戦力になってしまうからな。バランスが取れん」
神威・参特式の武装はほぼ完成した。特に遠距離攻撃を担う八尺瓊勾玉を模したビットシステムによる攻撃力はかつて鉄のAI、ノワールが全てを賭して放ったあの一撃をすでに軽く上回っている。近接では草薙剣を模した斬撃と同時に出る広範囲攻撃で薙ぎ払えるし、八咫鏡を模したビット型シールドは防御どころか魔法攻撃などを弾き返せる。
神威・参特式はすでに地球に存在していた時とは完全なる別物に進化していたりする。新技術を確立させたらデータを取って、使えるとなったらガンガン積み込むという──現在の技術で最高峰の物を作ったらどうなるのだろうという、技術者にとっての玩具箱になっている状態である。
その為スペックが馬鹿上がりしており、正式なスペックが常時ころころ変わっている。もちろん出撃する必要があった場合すぐに対応できるようにする為に神威・参特式は秘かに1機追加で作られて合計2機存在しており、交互に改装が行われている。これなら片方をいじっていてももう片方ですぐに光が出撃できる。
光はこの事を知らない。『忍』は把握しているが、光が出撃したときの死亡率を下げる事に繋がっているし悪意もない事も確認済みなので見逃している。なので、ここで光が演習に出ないと言ったのはとてもいい判断であった。バランスが取れないどころか、一方的な戦いになってしまい戦った相手の心をぽっきりと折る事になりかねなかった。
まあ、それはさておき。話し合いによって3国にどう伝えるかが固まった為、光はさっそく3国に4国演習を開催する案を受ける事、各国50機ずつ出して両陣営に均等に分ける事、追加アーマーを今回から使用する事を決めた事などを各国上層部に通達。
これを受けて、4国のトップが模擬戦を行うための場所の選定や開催日の決定などで顔を突き合わせること数日。全ての話が本決まりとなって正式に動き出した。
場所は海の上に新しく建造する専用の場所で行う事となった。これはフォースハイムが建設。各国国民への告知はフリージスティが担う事となった。映像などを届けるのは日本皇国が担当。マルファーレンスは模擬戦当日の雑用を一手に担う事で決定。
こうして、初の4国の機体を集めた大きな模擬戦の記念すべき1回目が開催される事となった。




