9月28日
一般市民は知らないガリウスとのすったもんだがあってから暫く。ついにマルファーレンスに納入されたブレイヴァーの数が100機を超えた。これを記念するという名目で、実機を使った演習がマルファーレンスで行われる事となった。また、サポート役として、神威・弐式、ソーサラー、ランチャーもゲストとして参加。ただし戦闘には加わらず、周囲の問題や資材の運搬などを行うだけに留まるが。
ランチャーが花火弾を空中に打ち出して場を盛り上げたり、ソーサラーがブレイヴァーにシールド魔法をかけたり、神威・弐式が最終整備の手伝いをしたりと各自があれこれ動いて準備が整ってゆく。マルファーレンスの国民はもちろん、フォースハイムやフリージスティ、日本皇国からも見学者が来ている。
光はもちろん招待されているが、今彼が居る場所は神威・参特式のコックピットの中である。これは光に限った話ではなく、フレグはブレイヴァー、ティアはソーサラー、ブリッツはランチャーのコックピットに搭乗している。そして、彼らの乗った機体は一列に並んでいるという状態だ。
『各自、準備は良いか?』
フレグの言葉に、最終整備を手伝っていた神威・弐式の皆からOKのサインである親指を立てるモーションが出る。シールド魔法をかけていたソーサラーが場から立ち去っていく。急遽作られた競技場に残されたのは、100機のブレイバーと光達が乗る4機の機体だけだ。
『よし、では確認を兼ねて今回の演習のルールを発表する。まず、決着法はハーフダウンエンド。自軍が敵軍の半数まで落ち込んだ時点で決着とする。ダウンしたと判断するのは、先程ソーサラーに乗ったフォースハイムの方々が掛けてくれたシールド魔法の消失だ。実機を使うとはいえ大事な機体を壊すわけにはいかん。よって、シールドが解けた時点で今回はダウンしたとみなす!』
会場に集まった人向けに、フレグがコックピット内から今回の演習ルールを口にする。先んじてルールは公表されているのだが、彼の言葉通り、これは確認の為である。
『今回は追加装備のついた鎧はなしで勝負してもらう。使える武器も剣、盾、槍、大剣、斧、大斧、弓の代わりのボウガン、以上だ。まずは基礎の動きを我々に見せて欲しい』
フレグの言葉に、100機のブレイヴァーに乗った戦士達から『『『『『『応!』』』』』』と声が上がる。
『なお、シールドが解けたらそこからは機体が自分で動き競技場から出ていく事になっている。出ていく機体に対しての追撃は厳禁だ。一発だけなら誤射かもしれんが、明らかに出ていく機体に対して執拗な追撃を行う者からはブレイヴァーに搭乗する権利を永久に剥奪する。そのような事は決してしないように!』
戦士的にも褒められた行為ではないし、ブレイヴァーが大破してしまったら目も当てられない。もちろん良いのを数発食らったからってあっさり壊れるような脆い感じに作ってはいないが、フレグとしては避けたい事態である。故に罰則も非常に重くなっていた。
『また、演習時間は3時間とする! 3時間で決着がつかなかった場合は、一番活躍した戦士同士の一騎打ちにて決着をつける。以上だ、問題はないな!』
フレグの確認に、戦士達からまた大きな声が上がって同意した事を伝えてくる。
『なお、ここからは完全に初めての通達となるが……勝った側には日本皇国のヒカル殿より、ちょっとした褒賞が出るという事だ。ヒカル殿発表の方をお願いします』
フレグの言葉を引き継いで、光が喋り始める。
『えー、皆さま。それでは発表いたします。この演習に勝った50名には、わが国で定番かつ人気のある寿司、すき焼き、天ぷらの3点をお腹いっぱい食べられる晩餐を用意しております。なお、負けた方には何もございません。フレグ殿からも負けた奴には何もやるなが勝負の掟だと伺っております。ですので、勝った側だけの特権とさせていただきます』
戦士達が吠えた。美味いメシと言うのは実に分かりやすい褒賞ゆえに、絶対に勝つ! と両陣営から気勢を上げる声がいくつも木霊した。
『そういう事だ、食いたかったら勝て! 戦士の誇りを汚さぬようにしながらな! では、各自準備はできているな? 全機体セーフティを解除しろ!』
フレグの言葉とほぼ同時に、セーフティ状態から戦闘状態に入る100機のブレイヴァー。その起動音はさながら猛獣が吠えるが如く轟いた。当然、この模擬戦を見られるように作られた会場の観客席に集った人々からも歓声が沸く。
『総員構え! それでは演習……開始だ!』
開始を伝えるフレグの声と同時にドラっぽい音が派手に鳴り響く。そこから前に前進する多くのブレイヴァー。前進しないのはボウガンを構えているブレイヴァーだけだ。射程に入り次第、双方の陣営から矢が発射される。矢と言っても、実際は銃弾に限りなく近いのだが。
放たれた矢を防ぐ盾を構えたブレイヴァー達。だがさすがに前進速度が鈍る。双方共にじりじりと近づく形になり……そしてお互いの武器の間合いに入ると……一気に激突した。矢を撃っていたブレイヴァー達もボウガンを仕舞い、もう一つの持っていた武器で前線の戦闘に参加する。
そこからはラインが形成され、激しい火花があちらこちらで無数に舞う。どちらも一歩も引かない──引けばそこからひびが入って一気に崩壊する建物の如く、大勢が決してしまう可能性があるからだというのがマルファーレンスの戦士達の中では基本的な認識である。
この状況を見ている人々は、その迫力に圧倒されている。それと同時に戦士達の動きを限りなく再現し、巨体でありながらかなり俊敏に動くブレイヴァーを見て興奮もしていた。凄まじい力が、こんなに激しくぶつかり合っている事で覚える衝撃が、様々な感情を引き起こしているのである。
「すげえ、ただただすげえ!」「やっぱり実際に本物を使ってやる演習ってのは迫力が違う!」「本番じゃもっと多くのブレイヴァーが戦うんだろ? 来年に対して恐怖を覚えないとは言えないが、それでも見てみたいって感想も持ったぜ」「動きもすげえ、あんな鈍重なゴーレムがここまで」
様々な声が飛び交いつつ、応援する声も多数飛ぶ。機体の動かし方でパイロットに当たりが付いたのか、個人名を出して負けるなとかつき進めー! 等の応援合戦が熱を帯びてきた。その応援の声を集音マイクで拾ったブレイヴァー達はますます激しくぶつかり合った。
そうなれば当然、1機、また1機とシールドを失ってオートパイロットで強制退場させられる機体も出始める。だが味方がやられればより奮起するのがマルファーレンスの戦士達だ。双方引かずに戦い続け、脱落者を出しつつも戦闘ラインを下げずに3時間戦い抜いた。
『そこまで! 3時間経っても決着はつかず。故に最初に伝えておいた通り一騎打ちによる決着とする! 10分後に代表者をこちらが選出し、その5分後に開始する!』
フレグの言葉に従って、双方のブレイヴァーが刃を下ろして引き上げる。最終的に残存ブレイヴァーは14機VS18機となっており、多少差が出た感じだ。だが双方共に活躍した機体が数機おり、生存機の中に残っていた。その彼らの中から代表が出ると、ブレイヴァーに乗って戦った戦士達は予想した。そして、その予想は当たる。
『これより、一騎打ちの代表者を発表する。ロイザンと、セレルの二人による一騎打ちとする! 双方、準備を整えて5分後を待て!』
双方の陣営から、1機ずつ機体が進み出る。機体のシールドは最初に張られたシールドの耐久を半分にした物が張り直された。ロイザン機は槍をメインに片手剣を腰に、セレル機は斧を2本かつ大斧を背中に背負っている。
『双方、準備は良いな? では一騎打ち始め! 決着がつくまで終わりはない!』
フレグの宣言と共にぶつかりあう2機のブレイヴァー。ロイザン機が槍のリーチを生かして素早く無数の突きを放つ。セレル機は両手に持った斧で防いだり回避したりと直撃は貰っていないが、完全に回避も出来ていない。人なら数か所切り傷が出来ているだろう。セレル機は何とか手斧の間合いに持ち込もうとするが、絶妙の距離感をロイザン機が保ち続ける。
仕方なく、セレル機が状況を打開するために斧の一本をロイザン機の足元めがけて投擲する。これで少し体勢を崩せれば背中の大斧で一撃と行くつもりだったセレル機だが……ロイザン機は何と投げられた手斧を穂先で上に弾き、そこから突いて手斧をセレル機にぶつけ返してきたのである。
完全に予定が狂ったセレル機は、飛んできた手斧をもう一本の手斧で何とか叩き落したが──そんな姿を曝してしまえば当然ロイザン機の槍がセレル機を突く。轟音と共に、セレル機はロイザン機の強烈な突き攻撃を食らって宙に浮き、そして地面に倒れこんだ。そこにすかさずロイザン機の追い打ちが飛んでくる。
セレル機はこの追い打ちを回避できなかった。叩きつけるように打ち下ろされた槍の一撃はとても重く、セレル機のシールドを容赦なくたたき割った。これにて決着、である。結果として、セレル機が下手を打ったと評される事になるのだろう。投げた斧を、何らかの手段で返される事を計算に入れなかったのはよろしくない、と。
『勝負ありだ、ロイザン機の勝利!』
フレグの決着を告げる声に、歓声が沸く。こうして第1回となる実機を使った模擬戦は幕を下ろした。非常に大盛況で、ソーサラーとランチャーの数も揃ったら4つの全ての国家による合同演習も行おうという話も出てくるほどであった。
──そしてその日の夜。勝者と敗者の状態は本当にクッキリと明白に分かれていた。日本の提供した料理を楽しむ勝者側と、酒を片手に反省をする敗者側。言うまでもないが敗者側は殺気立っている、その殺気はセレルに……ではなく自分自身に向けられている。今日の戦いでセレルは間違いなく活躍している。そのような活躍が出来なかった自分達が、セレルの事を責められるわけがないという思考故にセレルに矛先が向かう事は無い。
むろん、セレルはセレルで悔しい思いを抱えていた。ロイザンが槍の名手だという事はもちろん知っていた。しかし、どこかブレイヴァーではそこまではやれないだろうと驕っていた。結局、その考えが命取りとなった。
(最初の突きの連打で、もっと考えを改めていれば……己はまだまだ未熟という事を今日は思い知らされた)
だが、自分は生きている。故に今日は負けたが一生の負けではない。故に今日の事を糧にして、より斧の腕を磨く。こうして勝者は再び美味い思いをするために、敗者は次の機会を逃さぬためにお互いに牙を研ぐ。それこそが、フレグが望む事であった。
 




